比企谷八幡日常生活   作:狂笑

7 / 10
なんというか、コレジャナイ感が……


第六話 雪ノ下雪乃は軟化する

雪ノ下雪乃が俺の幼少期と事故の関係者らしい。

そのことが俺にのしかかる。

だが今日の態度を見る限りだと、あくまでも初対面の人として扱っているように思える。

ならなぜ、今日が初対面ではないことを告げたのか。

それがどう考えてもわからなかった。

だが一つわかっているのは。雪ノ下は俺が記憶の一部が欠落していること、というか雪ノ下のことを覚えていないことを知っている、ということだ。

一体どこで知ったのだろうか。

可能性が高いのは病院だろう。事故の加害者側の人間ならお見舞いに来てもおかしくない。

だが俺は来た人全員を覚えている。色々と疲れてはいたが。

小町、里奈、山北、親父、母ちゃん、祖父ちゃん祖母ちゃん×2、加害者側の弁護士。

これが俺の覚えているかぎりだ。見たこともない黒髪の美少女は含まれない。

なら、どうやって知ったのだろうか。

流石の俺も、こればっかりはお手上げ状態だった。

 

 

 

 

 

 

 

合成音声っぽいメロディが流れる。

時は流れ、はや放課後。

外からは既に運動部の喧騒が流れ込み、音楽室近辺は吹奏楽部の奏でる音色が響きわたる。

今までならもう帰っていただろうが、奉仕部に入部させられた以上、行かなくてはならない。

はぁ、メンドくせえ。

 

ふと前方を見ると、見知った人間が見える。

身長が百六十に満たない小柄。

適当に伸ばした短髪。

縁が細めの、黒の眼鏡。

薄っすらと伸びた口髭

ブレザーの前のボタンをあけ、両手をポケットに突っ込んだ男。

中学時代のあだ名、《小さいおっさん》こと数少ない我が友人、山北知和だ。

山北も俺に気付いたのか、近寄ってくる。

 

「よお、珍しいな、比企谷がこの時間に学校にいるのは。何かあったのか?」

 

「いや、部活に入れられただけだ。あと、今日は周りに五忠臣はいないんだな」

 

「なんだよその状態……あとアイツらは部活の系統上は部下かもしれんが、あくまでも友人だ。勝手に部下扱いすな。ま、将来率先して部下になりそうな奴らではあるけど」

 

軽く流されたが、五忠臣とはよく山北の周囲にいる五人の生徒である。

メンバーは岩崎正自、庄司也丸、立石麗美、間瀬あかね、湯本真親。

このうち俺が話したことがあるのは岩崎と庄司、立石の三人だ。

別に悪い奴ではない。特に岩崎とはジャンルによっては話が合いすぎて一時間くらい長電話して親に怒られたくらいだ。同じ中学だし。

それは置いておくとして、将来山北の部下というならどんな職業だ?

祖父が国会議員で、本人も継ぐつもりらしいから議員秘書か?

 

「友人を秘書にする議員って、どんな心境なんだろうな」

 

「オイこら、人の心を読むな」

 

「読んでいねーよ、顔の筋肉の僅かな変化と目の濁り具合から判断しただけだ」

 

「なにそれ怖いよお前」

 

「何言ってんだ、人間観察を比企谷にやってきた長年の成果だ」

 

ったく、ホントコイツは……俺のこと好きすぎでしょ、ここまでくると流石に怖いよ。ホモじゃないかって疑うよ。

 

「お前絶対失礼なこと考えただろ……まあいいか。俺も部活あるし、じゃ、またな」

 

「おう」

 

「帰り事故るなよー」

 

事故らねえよ。いつまで使うつもりだよ。アイツなりの心配なんだろうけど。

 

 

 

 

奉仕部の部室前に到着し、扉を開ける。

中にいた雪ノ下は昨日と寸分違わぬ姿勢で本を読んでいたが、俺に気付いたのか顔をあげる。

 

「あら、遅かったわね。今日は来ないのかと思ったわ」

 

「ちょいと山北と話をしていただけだ」

 

「そう、あなたに話し相手がいたのね」

 

「当たり前だ。お前何気に失礼だな」

 

それ以降、雪ノ下は読書に戻り、俺はタブレットで最新のニュースと株価を読み始めた。

 

 

この部屋に静寂が流れて十分経過したかどうかくらいで、雪ノ下が唐突に、だが少し話しずらそうに話しかけてきた。

 

「ねえ、比企谷くん、本当に何も思い出せない?」

 

やはり、雪ノ下は俺の記憶の一部が欠落していることを知っているようだ。

 

「一体、どこで知ったんだ?」

 

昨日の夜から気になっていたことだ。これだけは知っておきたい。

 

「病院で、あなたがお年寄りの方と話している時、『雪ノ下の嬢ちゃんも来てたぞ』『雪ノ下って誰だ』という会話が聞こえたからよ。いくら私が加害者側にいるとはいえ、あの時ショックで動けなくなったわ。持ってきたお見舞いの品と花はあなたが寝ている時に置いてきたわ」

 

ああ、そういえば起きたら知らない間に花が活けてあったことがあったな。

その時は特に気にしてはいなかったが、それが雪ノ下が来た証だったわけか。

 

「昨日あなたが平塚先生に連れて来られたとき、できるだけ初対面を装うと同時に、昔よくやっていたやり取りに近いことをしたのだけれど……ダメだったのね」

 

昨日のやり取り、ただの罵倒の応酬だと思っていたのだが、まさかそういう意図があったとはな。気付かなかった。

いや待て、さっきアイツは昔よくやっていたやり取りに近いことって言ったよな。

それ昔から罵倒の応酬してたってことじゃね?

一体何だったんだ、俺等の関係性って……

だが、雪ノ下が気に病む必要はない。元々俺が飛び出したようなものだ。

 

「まあその……悪かったな。元々俺が(犬助けのために)飛び出したことが原因だからな。俺から消しちまったようなモンだし……」

 

大抵は俺が悪いことにしておけば相手の罪悪感は軽減される。

だが雪ノ下の方を見ると、全くもって納得していない表情だった。

 

「そんな事ないわ。あの時、すぐに急ブレーキをかければ間に合ったはずよ。なのに運転していた緑氷取はアクセルを踏んだのよ。使用人の罪は家の罪、ひいては乗っていた私の罪よ」

 

おい、その運転手絶対ボケ入っていただろ。たまにニュースでやっているお爺さんがアクセルとブレーキを踏み間違えて店に突入しちゃう奴じゃねえか。

それはさておき、この話はもう終了すべき時だろう。

 

「なあ、もうこの話はやめようぜ。誰も得しない」

 

「そうね……あと一つ、お願いしてもいいかしら」

 

お願い?何をするつもりだ?

 

「実現可能な範囲ならな」

 

「もしあなたが昔の記憶を思い出したら、何を思い出したか教えてくれないかしら」

 

『思い出したらでいい。思い出したら、あの時の約束を実行してくれ。俺は実行して待っているから』

 

雪ノ下の言葉が引き金となり、去年山北とした約束を思い出す。

どのみち、思い出す必要があったし、別に構わないか。

ああ、でも内容によるかもな。

だから、俺の答えは決まっていた。

 

「前向きに検討しておく」

 

……これ実行しないパターンじゃん。

 

「そう。あなた、変わったのね。昔から」

 

「そりゃ人間だしな。知らずしらずの内に変わることもあるだろ」

 

「それもそうね。昔のあなたを知っているけど、今のあなたは知らない。だから――」

 

雪ノ下はとても綺麗な笑みを浮かべた。

 

「今のあなたを、教えてね」

 

「お、おう……」

 

危ない危ない、危うくときめいちゃうところだった。あの笑顔であのセリフは反則だろ。昨日とは別人に見えるまである。

だけどまあ、この部活に入れられたのも、悪くはないな、多分。

 

お互いの間によくわからない空気が流れる。

だがそれもすぐ消えた。いや、消されたというべきだろう。

 

 

コンコン

「どうぞ」

 

「し、失礼しまーす」

 

一人の来訪者によって――

 




次回、やっと由比ヶ浜がでてくるよ……
あと雪ノ下軟化させすぎたかも。だがまだ堕ちてはいない。
あとこれからどうやって一色と里奈の出番増やそうか……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。