比企谷八幡日常生活   作:狂笑

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やっと書きあがりました。


第七話 こうして由比ヶ浜結衣は奉仕部を訪れる。

「し、失礼しまーす」

 

オドオドとした、そんな声と共に入ってきたのは、いかにも今時のジョシコウセイといった感じの生徒だった。

つまり、青春を謳歌していそうな派手めな女子。短めのスカートに、ボタンが三つほど開けられたブラウス、覗いた胸元に光るネックレス、ハートのチャーム、明るめに脱色された茶髪。少し緩くなったとはいえ、そのどれもが校則を完全に無視した出で立ちだった。

俺にその手の女子との交流はない。元々女子との交流自体、ほとんどないのだが。

故に、お互い知らない相手。

のハズなのだが――

 

「な、なんでヒッキーがここにいるんだし!?」

 

「……いや、俺ここの部員だし。一応」

 

如何やら向こうは知っているようだ。

っつーかヒッキーて俺のこと?その前にコイツ誰?少なくとも、高校生になってから俺をあだ名で呼ぶ奴に会ったことないんですけど……

いや、詮索は後にしよう。

 

「まあ、とにかく座って」

 

「う、うん……」

 

訪れた女子生徒は用意されてあった椅子の所、すなわち俺と雪ノ下の真正面に来ると、戸惑った様子ながらも勧められるがままに椅子に座る。

 

「由比ヶ浜結衣さん、ね」

 

「あ、あたしのこと知ってるんだ」

 

訪れた女子生徒、由比ヶ浜結衣は名前を呼ばれてパッと表情を明るくする。

如何やら彼女にとって、雪ノ下に知られているというのは一種のステータスのようだ。

 

「よく知っているな、お前。全校生徒の半分以上覚えているんじゃねえか?」

 

「流石にそれは無理ね。関わった人物と耳に入ってくる一部の生徒を覚えているだけよ。それ以上は覚えるメリットがないもの。そんなことよりも彼女、F組のハズよ。確か、あなたもF組よね?クラスメイトくらい覚えているわよね」

 

「え、マジで?同じクラスなの?」

 

知らんかった。

ハッキリ言って、俺はクラスメイトとの交流は皆無だ。連絡事項のような必要なことがなければ話すことなどない。

それどころか、顔と名前が一致するのは出席番号が俺に近い生徒数名だけ。後はせいぜい『見た事あるかもしれない奴』か『聞いたことあるかもしれない奴』のどちらかだ。

なるほど訪れた女子生徒――由比ヶ浜結衣の名前は知らないが、よく見れば見覚えがある。

確か教室の後方でよくサッカー部なんかとよくつるんでいる集団の中の一人によく似ている。恐らくそれが彼女なのだろう。

 

「え、あたしのこと知らないの?」

何故か不安そうな口調と眼で問い掛けてくる由比ヶ浜。

仮に俺が知らなかったとしても、彼女自身に何のデメリットもないと思うのだが。

 

「まあ、そうだな。普段教室の後方でサッカー部?あたりの7人組で駄弁っている集団の一員、という認識でしかないのだが……合っているか?」

 

我ながら少々雑な言い方になってしまったが、まあ、アレだ。気にしたら負けだ。

 

「う、うん、まあそうだけど……印象、悪いのかなぁ」

 

由比ヶ浜が小声でつぶやくと同時に、雪ノ下は指でこめかみを抑える。

 

「はあ、あなたのその何とも言えない認識は何なのかしら……その件は置いておくとして、由比ヶ浜さん、ここに来た要件を言ってもらえるかしら」

 

「あ、そうだった……あのさ、平塚先生から聞いたんだけど、ここって生徒のお願いを叶えてくれるんだよね」

 

かすかな沈黙の後、由比ヶ浜はそう切り出した。

 

「少し違うわ。あくまで奉仕部は手助けをするだけ。願いが叶うかどうかはあなた次第」

 

雪ノ下の返答はいささか冷たく突き放したかのようだった。

だが、間違ってはいない。本人が努力しなければ何もできない。

言ってしまえば、塾と同じだ。

塾の講師たちは塾生の成績や偏差値をあげるために会社や自身によって培ったノウハウを使って様々な授業や講習、的確なアドバイスなどを行う。

だが当の本人がサボるなど、努力することを怠れば伸びることはない。

かつて俺が中学時代に通っていた塾の講師は、俺達にむかってこんなことを言った。

 

『先生たちはね、例えるなら自転車屋さんみたいなものさ。性能のいい自転車や君たちに、合う自転車を提供することはできるけど、それまでしかできない。後は君たち自身がその自転車を漕いで進まなければ、志望校合格というゴールにはたどり着けないんだ』

 

ちなみにその講師の下の名前は“一人”。読みは“かずと”だ。決して“ひとり”ではない。いまだに独身だけど。

 

「え、えーと、どう違うの?」

 

「飢えた人に魚を与えるか、魚の取り方を教えるかの違いよ」

 

「え、でもそれ途中で死んじゃったりしないの?」

 

雪ノ下はため息をつくと、一拍明けてから再び口を開く

 

「なら、こう言えば伝わるかしら。宿題の問題集が解けなくて困っている人に答えをそのまま教えるのか、それとも答えの導き方を教えるのかの違いということよ」

 

「なるほど、そういうことかー。答えをそのまま教えても本人の為にならないってヤツだねー」

 

如何やら由比ヶ浜は理解したようだが、小学生相手に教えるような状態にまでかみ砕かれていたのは気のせいだろうか。

 

「まあ、そういうことね。必ずしもあなたのお願いが叶うわけではないのだけれど、できる限りの手助けはするわ」

その言葉で本題を思い出したのか、由比ヶ浜はあっと声をあげる。

 

「あのあの、あのね、クッキーを……」

 

言いかけて俺の方をチラッと見て、俯く。

だがすぐに顔をあげ、意を決した顔をして俺たちの方を向いた。

 

「た、助けてもらったお礼に、手作りクッキー、渡したいの。その人に、食べて欲しい」

 

由比ヶ浜は若干片言になりながらも、その決意を伝えた。

なら、俺たちのすることは決まっていた。

 

「由比ヶ浜さん、奉仕部はあなたの依頼を受けるわ。比企谷君、由比ヶ浜さん、家庭科室に行くわよ」

 

「了解」

 

「はい!」

 

こうして俺の初仕事が決まった。

 

この時、まだ誰も知らなかった。

 

かの悲惨な『クッキー事件』を起こすことになることを――

 




こちら側の諸事情とはいえ、4か月近く更新を止めてしまったことを深くお詫び申し上げます。

誠に申し訳ございませんでした。


次回は年末にあげられるよう、努力します。

次回『木炭?鉄鉱石?いいえクッキーです』

 気絶できるだけ、幸せだよな。
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