比企谷八幡の異世界漂流記。   作:Lチキ

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彼は再び春を感じる。

春、桜が舞い落ち真新しい制服を着た新入生達が期待と少しの不安を顔に浮かばせるそんな季節。

 

 

高校一年の春なんて言うのは学校生活において重要な意味を持つ。

 

クラストップカーストになるような連中はこの時からすでに取り巻きを数人作り、中にはキープの数が2桁をこえる奴すら存在する。

 

その中から自分のカーストにいれるだけの価値があるかを見極めるため積極的に話しかけたり話題を振ったりする。

逆にここで予選落ちしてしまったキープは、初めの頃は良く話しかけれらたが途中から全く相手にされなかった、という感じになったりする。

 

それとなく身に覚えがあるだろ?

 

始めはクラスの中心で話していた集団のメンバーがいつの間にか入れ替わっていたりする。そういうのだ。

 

仲良しこよしのように笑い合う彼、彼女達はその実で相手の値ふみを行い、厳選なるふるいにかけているのだ。

 

ふるいに残った者はそのままトップカーストとして笑い合い、ふるいから落ちた者は即座に違うコミュニティーに同盟または結成し、笑い合う。

 

皆仲良くだのクラス一丸になってだのと言う言葉が好きなリア充達は、本当の所では誰よりもこの言葉の真逆をいっている。何とも皮肉がきいている。

 

皮肉、というより嘘が効いていると言ったほうが正しいのかもしれない。

 

笑顔の裏に思惑があり、みんなという言葉は自分の事をさし、わたしらマジでズッ友じゃん!とか言う奴に限ってクラスが変わったりするとあっという間に疎遠になったりする。

 

リア充に必要なファクターとして嘘はデフォルトなのであり、嘘をつき相手を騙し自分をも騙す詐欺師という職業はリア充の究極系とさえいえる。

 

ボッチを極めたつもりがリア充を極めてしまったとは、俺も立派な嘘つきなのかもしれない。

なんてな。

 

まあ、俺はこの時期、病室で足をつりながら過ごしていたのでそんなリア充共の生態なんてよく知りもしないし、知りたいとも思わないのだけれどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺と一夏は現在、IS学園1年1組のクラスで何をするでもなく大人しく自身に当てられた席に座っている。

 

席順は一夏の後ろが俺で、席の場所は最前列の教壇の前。クラスの問題児が座らせられる場所だ。

 

しかし、目の前にいる一夏は背後からでも分かるほどに動揺をしている。

 

 

「・・・八兄・・・これ、なんか気分が悪くなってくるんだけど」

 

 

「人の視線は人体に有害なんだよ。それも好意と悪意とただの興味なら興味が一番有毒だ。直射日光並みにな」

 

 

「そんな話初めて聞いたよ・・・ていうか普通なら悪意とかが一番駄目なんじゃないの?」

 

 

ふ、甘いな。いや、青いな。

 

人の視線には種類の他にも質量が存在する。その中で一番重いのが興味である。

 

興味のある相手を見る時人は、そいつの全体や挙動の隅々までを凝視し観察する。すると必然的に視線を向ける時間が増し圧迫感も増える。

何より感情の籠らない無機質な視線を向けられると人は不愉快であり不快であり不安になる。

 

そういうのが重さとして加算され、毒性をも増す結果になるのである。

 

 

時間でいうなら好意、悪意にも該当しそうだがそれは違う。

 

相手に好意を持つと人は極端に自分の事を意識しだす。好きな相手には少しでも良く思われたい、自分の-になる評価を相手に悟られないよう自分を偽る努力をしだす。甘酸っぱい青春の代表例として何とも微笑ましい事で反吐が出る、吐き気を催す。

 

なので好意の視線は、凝視して相手にキモがられたくない、変な奴だと思われたくないという心理が発動し長時間見る事を抑制する。

 

それに、人ってやつは好意的な視線を、熱のこもった視線を向けられることを基本的に良しとする生き物だ。まあ、その視線が失望と幻滅の色に染まり熱が冷めあがる瞬間を見てしまうと精神的に結構くるのでこれも十分毒と言えるがな。

 

 

ちなみにこの3つの中で一番ましなのは悪意である。

一見悪意を向けられるという事は嫌悪することであると思われるがそれは逆だ。

 

目に見えて向けられる悪意は鋭利な刃物のように鋭いが、鋭利な分、傷の治りも早く、治った後も後遺症が残りにくい。

 

何より相手の感情が分かりやすいのであまり恐怖を感じない。

 

人が一番恐れる物は理解不能で分からないという事だ。

自分の過ごす世界が、周囲が、環境が信用に足り安心できるものだと信じたい。

 

だから理解できない異物を排除しようとする、分からない事を知ろうとする。

 

よくホラー映画なんかでそっちに行ったら間違いなく死ぬのに物音がする方に行ったりするアレと同じだ。

 

逆説的に、正体が分かっている脅威なんて本当の脅威にはなりえない。

対抗策も打てるし、危険なら近づかないように注意もできる。そんなものは何も怖くない、慣れてしまえばただの日常だ。

 

 

こういった理由があるのだが、これをこいつ(一夏)にわざわざ説明してやるのもめんどくさい。

 

何より勿体ない。

 

 

「何でも間でも人に聞くな。少しは自分で考えて答えを導き出す努力をしろ」

 

 

「うぅ・・・正論だ・・・でも俺が考えても多分分からないよそれ」

 

 

「考えた上でどうしても分からないならググれ、今度俺に聞いてきたらぶん殴るぞ」

 

 

「ひどッ!?」

 

 

「そもそも別に気にしなきゃいいだろ。こんなの動物園のパンダと同じだ、いや金がとれない分パンダ以下だな」

 

 

「そんな風に割り切れたら苦労しないし、途中から話変わってるだろそれ・・・はあ・・・なんでこうなったんだよ・・・」

 

 

「お前のせいだろ」

 

 

「うっ・・・ごめん、なさい」

 

 

 

 

 

俺のじっとりとした眼差しが向けられた一夏は、申し訳なさそうに肩を落とす。先ほどから顔色が悪かったのも合わさり本当の病人のようだ。

 

 

だからどうしたという話だがな。

 

俺らがIS学園に入学した原因は一夏であり、それに巻き込まれたのは俺である。今回に限り、珍しい事に俺は完全なる被害者なのだ。

 

 

 

「で、でもさあ!まさか俺だって、試験会場を間違えてIS学園の試験場に迷い込んで、そこにたまたまあったISに触れたら起動するなんて予想できなかったし!」

 

 

「・・・で?」

 

 

いい訳がましくその時の様子を口にする一夏。しかし、俺の態度は相変わらず冷たいものだ。

 

 

「だ、だから、これは不可抗力というか・・・不慮の事故というか・・・」

 

 

「‥で?」

 

 

事故と言えば事故だろうが、これは交通事故とかの事故ではなくテレビ番組などで使われる事故のほうだろう。

 

もしくは自己責任のじこの事か?

 

 

「俺も被害者であった・・・それで・・・その・・・」

 

 

「で?」

 

 

「‥‥すいませんでした、全部俺の不注意が悪いです!!」

 

 

素直に自分の非を認め謝罪をする一夏。

 

素直ってやつは好感がもてる。素直な奴を相手にすると俺は楽で得をする。

 

 

「人間なんて生きてりゃ失敗の一つや二つは絶対するものだ。だから、俺だってやっちまったもんを今更とやかく言うつもりはない」

 

 

「えっと・・・許してくれるの?」

 

 

俺の口調は先ほどまでの冷たい物から、平常時のそれに戻っていた。それを察した一夏もおずおずといった風に顔を上げ、こちらを見る。

 

爽やか系のイケメンは、メンタル的にかなり脆いという傾向がある。少しの事で折れるし曲がる。

 

お得意のイケメンフェイスでそれを覆い隠し周囲に悟られないようにするので勘違いされやすい。彼らの内面はかなり黒いか貧弱だ。

 

何より周りの空気を調和する爽やか系は、こういう事態にあまり遭遇しないので耐性がないのだろう。

 

一夏もそれだ。人の怒りという感情に抗えない様子だ。

 

そんな一夏に俺は語りかける。諭すように嗜めるように一言一言正確に。

 

 

「重要なのはその後どうするかって事だと俺は思う。反省するのも迷惑かけた相手に謝罪するのも言い訳するのもいいだろう。でもな、そうする前にしなきゃいけない事があるだろ」

 

 

「しなきゃいけない事・・・?」

 

 

「謝罪なんてびた一文にならん事する前に、慰謝料払えよ」

 

 

「駄目だッ全然許してくれてなかった!?」

 

 

当り前だ。

 

弱った相手が目の前にいたら弱みに付け込み、謝罪を受け入れるなら金を受け取る。それが世の中の、社会の常識だ。

 

某会長さんも言ってるだろ

 

「謝罪の意があるならば、例え焼けた鉄板の上でも土下座できるはず」

 

ざわ・・・ざわ・・・

 

てな、謝罪一つにしてもただでできる事なんてありはしない。世の中金で解消できない事がないように金がなくて解消できることもない。

 

 

一夏がショックを受けている中、前方の扉が開きスーツを着た先生らしき人がやってきた。

 

白いスカートに、ほんわかした印象を受ける明るい服装。そこから絶対的な自己主張を繰り出す豊満な胸。

 

まだ、幼さが残る童顔であまり高くない身長も合わさり生徒と言っても何ら不思議ではない。

 

しかし、その胸は生徒や学生と呼ぶにはあまりにも目に余る。むしろ手に余りそうである。

 

緑色の髪に赤い縁のメガネ、おっとりとした目と巨乳が特徴な女性が教壇に立つ。

 

 

 

「皆さん、入学おめでとうございます」

 

 

「「「「‥‥‥」」」」

 

 

凶悪的な見た目に(胸)そぐわぬまったりとした声で定例文を読み上げるが、クラスから帰ってくるのは無言。

 

 

「わ、私はこのクラスの副担任を務める山田 麻耶です」

 

 

「「「「‥‥‥」」」」

 

 

若干ひよりはしたが、先ほどまでと変わらない明るい笑顔で話を進める山田先生。しかし、クラスから帰ってくるのは無言。

 

 

「こ、これから1年間よろ・・・しくお願い・・・します・・・」

 

 

「「「「‥‥‥」」」」

 

 

流石に心が折れかかり後半になるにつれ誤記が下がるが何とか言い終える。しかし、クラスから言葉は帰ってくるのは無言。

 

 

「今日から、皆さんはIS学園の生徒です・・・この学園は全寮制なので、学校でも放課後も皆さん一緒です・・・だから‥その・・・仲良く助け合って楽しい3年間にしましょうね!」

 

 

「「「「‥‥‥」」」」

 

 

瞳を潤まし最後まで挨拶を終えクラスの反応を伺う。

しかし、クラスから帰ってくるのは無言。

 

返事はないただの屍のようだ・・・

 

 

普通の学校等ならばここでお調子者か空気の読めるリーダー的存在が率先して舵取りを行い、空気の入れ替えを測る物だが、どうやらこのクラスにはそういう系の奴らはいないようだ。

 

実際には空気の読める生徒もお調子者もいるのだろうが、IS学園という特殊な環境の中、世にも珍しい男性操縦者が2人も在籍するクラスという事もあり出方を伺い、不用意な行動を牽制し合っているのだろう。

 

女子の互いを牽制し合うこの行為は、今でなおよく分からない。

 

分からないので気味が悪い。俺はこういう女子の牽制し合いは嫌いだ。

 

だからと言って俺が何か行動を起こすかというとそれはない。そもそも俺にこの状況を打破する力はなく、力があったとしても何の利益にもならない事をするわけもないのである。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

織斑一夏は現在、声には出さないがすべてを吐き出したいほどの感情が渦巻いている。

 

 

 

 

(これは・・・思った以上につらいッ!)

 

 

あたりを見渡してもいるのは全員見知らぬ女子、唯一いる男子は後ろの席に自身の兄がいるが、その兄が精神的に一番の負荷をかけてくる。というより確実に怒っている。

 

 

(味方が・・・味方が一人もいない・・・)

 

 

ここに来る前に一夏の友人である紅い髪にバンダナの少年が、彼ら兄弟を物凄く羨ましいと恨みがましい声で言っていたが、実際に今一夏が感じている視線を受ければその考えも変わるだろう。

 

 

『女子に視姦されるとかただのご褒美じゃんか!』

 

 

一瞬、友人の姿が頭をよぎったが恐らく気のせいだと、思う事にして頭を左右に振る一夏。

 

幸か不幸か一夏にはそんなポジティブ・・・というより変態チックな性癖は存在していない。

 

そうこうしてる間に担任の先生らしき人が来た。内心自分に向けられる視線が先生の方に向き一息ついたが、それもつかの間の休息であった。

 

 

 

(どうして誰も何も言わなんだよ!)

 

 

さっきから山田先生が自分や学園の紹介をしていたがクラスには何も反応がない。

先ほどまでと同様、皆無言なのだ。

 

本人は意識してないが一夏はリア充である。そもそも本当のリア充は自分たちがリア充という分類になっている事も知らないだろうけど。

 

そして、リア充とは理由はどうあれ静寂や無言という物を嫌う。それは自分がつまらない奴だと思われる、とか関係なく純粋に苦手なのだ。

 

いつもウェイウェイやっている反動か、静かな雰囲気は合わないらしく、それは多少自分がいじられようとも無言でいるよりはマシという考えすら持ち始めるほどに。

 

特に一夏は、どちらかというと気きかせでお人よしであり尚更こういう空気は苦手なのである。

 

本当なら何でもいいから先生に返事をしてやりたいと考えているが、彼はリア充であり空気を読むことにも長けている。

 

なので、この雰囲気は一人だけが発言するべきではないという事も重々理解している。さらに味方不在で自分一人女子の大群の中に突っ込む度胸も持ち合わせていない。

 

よって彼は無言を貫く。

 

 

 

場の空気に若干の息苦しさを感じながらふと窓際に目を移す一夏。するとそこには見覚えのあるリボンとポニーテールがあった。

 

 

(あれって・・・箒だよな?色々と大きくなってるけど、なんとなく本人だと分かる)

 

 

何処が?という問いは不要だろう。

全く違うが彼と彼は間違いなく兄弟なのだろう。

 

 

ここで見知った顔に出会えるというのはなんとも奇跡的な偶然で、6年ぶりの再開だが幼馴染という事もあり箒の姿を見ると安心感を覚える一夏。

 

あたりから突き刺さる視線を紛らわす様に箒へと視線を移すのだが、等の相手は一夏の視線に気が付くや否やぶっちょう顔でそっぽを向いてしまう。

 

 

(あれー・・・?)

 

 

期待と希望を込めた一夏の見つめる攻撃!

 

箒はM・U・S・Iを使った。攻撃は外れた!

 

 

(ちょ、箒お前、それが6年ぶりに再会した幼馴染に対する態度かよ!・・・もしかして俺の事に気が付いてないとか忘れてるとか・・・?)

 

 

幼馴染の態度にそんな可能性を覚えるが、視線を上にあげると彼女の長い黒髪をまとめてるリボンに目をつける。

 

 

(やっぱ覚えてるよな多分、あのリボン俺が誕生日にあげた奴だし)

 

 

 

織斑一夏は女心が分からない天然タラシとして名を馳せている存在だが、昔あげたもはや色あせているプレゼントを現在でも使い続けてる少女が、相手を忘れる事はないというくらいは女心を理解している。

 

ただし、それが恋愛感情によるものという発想はない。

 

なので、頭によぎった疑問もすぐに否定した。

 

 

(え?じゃあ、なんで無視なんだよ・・・あの頃は、お互い不器用なりに仲良くやってたつもりだけど・・・

 

もしかして俺って嫌われてる・・・?)

 

 

もちろん、6年前に送られたプレゼントをいまだに使い続けている少女が彼を嫌っている事などありはしない。

 

むしろ、好きすぎて素直に反応できないというツンデレみたいな心境なのである。それと、もしかしたら一夏が自分の事を忘れているのではないか?という不安もあり素直な反応ができないのだ。

 

自分はこんなに好いており思い続けてるのに、相手は自分の事を忘れている。

 

そんな事になったら女子としての尊厳とプライドは完膚なきまでに破壊されるだろう。故にこれも一種の自己防衛と言える。

 

 

「織斑君?織斑君!」

 

 

「え・・・?は、はい!」

 

 

幼馴染の事を悶々と考えていた一夏の意識が次に戻ったのは、自身の名を呼ぶ巨に・・・ゲフンッゲフンッ

 

自身の名を呼ぶ、山田先生の声だった。

 

考え事をしていたせいで俯いており、顔を上げれば教壇で前かがみ気味に話しかける山田先生。

 

その体制だと一夏の座っている位置から、まず目に入るのは豊満な胸部。一番前の席という事も合わさり胸しか見えない。

 

本人は気が付いていないようだが、一夏は頬を若干赤らめている。

 

男子高校生の前に胸元が開いた格好をするのはいささか配慮に欠けるが、それも元々女子校であったための弊害と言える。

 

ついでに山田先生の無防備さが原因か・・・

 

 

「えーと、大声出しちゃってごめんなさい。でもね、今自己紹介であ~始まって、今”お”の織斑君なんだよね。自己紹介してくれるかな?・・・駄目かな?」

 

 

「あ、はい。分かりました・・・その、こっちこそすいません。だからそんなに謝らないでください・・・」

 

 

山田先生に一言あやまり、一夏は席を立ち後ろを振り向く。

 

一夏の席は教壇の真ん前で振り向けば、クラス全員を見渡すことができる。でも、逆にそれはクラス全員からの視線を集めるというのと同義であり、現に一夏は先ほど以上の視線を受ける。

 

その視線に先ほど以上の圧迫感を感じ顔を引き攣らせるが、クラスの女生徒達はそんな一夏にお構いなく興味深々といった風に食い入るように一夏を見る。

 

 

 

(あ・・・やばい、なんか泣きそうだ・・・)

 

 

 

 

 

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