ある寝るのが大好きなメイジがいた。面倒臭がりな怠け者なのに、眼は狼や鋭い刃のような輝きが見えた。
そのメイジは変わっていた。
そのメイジが生まれてから、2年後に変わった剣が現れた。
片刃で少し反り返った刀身だ。
しかも、ありえない強度だった。
これは一体、何人もの土や他のスクウェアメイジが何度も硬化と固定化を掛ければ、ここまでも強度になるのか?美術的価値を見ても数千エキューは下らないだろう。いや、もしかしたら城を売っても買えないかもしれない。国でも売ればと・・・。妄想を掻きたてる剣だった。
そのメイジが5歳になり、その子の貴族の親が魔法の手解きをしてやると、コモンに関しては一度から三度見れば、完璧で、系統に関しても7歳までには全て修得した。たいした訓練はしていない。ただ見て模倣しただけが9割だった。残りは実戦いや実演だけだ。火・土・水・風の複合を含めて全種類の魔法が使えた。精神力も規格外なものだ。偏在を一度に千体出しても平気だ。精神力を大きく消費する魔法を一日中使い続けても息切れを起こさない。底なしの精神力だ。
そこまでなら、化け物で済んだが、そのメイジはスクウェアどころかペンタゴンやヘクサゴン、オクタゴンも偏在も使わず、一人で無理なくこなした。そして、魔力を飛ばすマジック・アローを、ヘクサゴン級エア・ハンマーの威力だったりした。ブレイドも他のメイジとは比較にならない高密度な魔力の刃だった。
当然、親・兄弟、周りも彼を最初は恐れたが、彼の怠け癖ややる気のなさ、平等に争わず・無下にせずを繰り返しみているとそんなことは忘れられていった。
魔法を念力くらいしか使わなくなり、その姿を何も知らない者が見続けていると当然嘗められ始めた。
皆、彼のことを無能・落ちこぼれ・ヒモ・怠け者・ぼっち・眠そうな奴・昼寝男・やる気なさ男・マダオと呼び始めた。そして、あだ名は2つ名扱いで「怠惰」のスロウス・メルクと呼ばれた。
そんな彼が16歳となり、トリステインの魔法学院に入学した。
最初の一年間は、自分の噂を鵜呑みにしたお頭の弱い連中がで「この「怠惰」が!」「無能が!」と罵って来た。彼はまともに相手をしなかった。ついでに自分以外に「ゼロ」と蔑まれている小娘までストレス発散で自分を怠惰と無能で罵倒してきた。平民の彼らも彼をそのように呼んだ。彼の実力を知るものはもう恐れはしなくなったが、彼がかわいそうに思えた。せっかく優れた頭脳と魔法を持つのに。彼は怠惰というより「孤独」というのが合っていると親と兄弟・家庭教師など彼の修行時代を知るものたちは思った。彼は「孤独」という言葉を嫌っているのだが・・・。どうしても孤独になる。強さを見せても弱く見せても人付き合いが下手も入るのだが・・・。授業も最低限こなした、座学はゼロと呼ばれる少女ルイズ以上の成績で魔法は最低ランクドット未満扱いだった。
そして、一年が過ぎて2年生に進学する試験。使い魔召喚の儀式をすることになった。彼はこの試験に関しては珍しく真面目だった。コルベールも他の生徒も明日はマジック・アローの雨が降るのではないのかと不安がった。
それを聞いたスロウスは珍しく傷ついたが・・・、
使い魔を召喚の魔法を必死に頭の中で復讐した。
珍しき真剣なのは、彼の孤独を埋めてくれる存在が誕生する可能性が大きいからだ。出来れば、あの少女が召喚されて欲しいと強く願った。見た目性格も子どもだが、自分でもあった者だ。
そう考えているうちに、ルイズが何度も爆発させて、ようやく使い魔が召喚された。人間だった。しかも自分と同じ黒髪黒目のまるで前世の「現世」にいた人間だった。ルイズは皆に平民を召喚したと馬鹿にされている。この光景を見てこいつらは馬鹿かとスロウスは思った。使い魔召喚で別の生物が召喚されるのが普通なのに同じ存在の人間を召喚したのは異常だということに。これをきっかけに、スロウスは覚悟を決めた。
「ようやく、使い魔の契約が完了しましたね。え~と、次は最後ですね。Mr.スロウス・メルクの番です!」
とコルベールに呼ばれ、スロウスは
「ああ、わかりました。」
とだけいい召喚の儀式に入った。
周りはどうせたいしたものはしょうかんされねえよと笑っていた。
彼は、魔杖(刀)を振り、唱えた。
「我に相応しき、我が死後まで、どこまでも歩んでいく者よ召喚に応じよ。」
と唱えて群青色に光る楕円の鏡が空間に出現した。そして、出てきたのは十代前半か後半の女の子だった。少女は白い服と身の丈ほどの剣を所持していた。彼女だった。かつて自分でもあった互いに支えあい孤独ではなくした彼女だった。
それをみた周りの貴族たちはルイズ同様笑った。しかし、スロウスはルイズとは違い反論しなかった。喚起した。彼女が帰ってきたからだ。
そして、彼は彼女に話しかけた。
「おまえ、名前あるのか?」
それを聞いた彼女は、微笑んで答えた。
「リリネット、リリネット・ジンジャーバック!」
「あんたはあるの?あたしだったくせに?」
この答えを聞いて彼は、ああ、やはりこいつで間違いない。
「俺は、スターク・・・、コヨーテ・スタークだ」