部室。俺は椅子に座り、机の上に足を乗せて、片手でファンタ、そしてもう片方の手でポテチを食べ、パソコンでアダルトサイトを見ていた。ここなら「部活の様子を見る」の大義名分の元、堂々とサボれる。
「うおお……うわっ、そんな所まで……うへえ……」
あっやべっ。鼻血が……慌ててティッシュを摘んで鼻の穴に詰めた時だ。
「ふひぃ〜楽しかったぁ……」
えっ。振り返ると高坂やら南やらが戻って来ていた。
「やべっ」
俺は急いでパソコンをシャットダウしようとしたが、椅子から転げ落ちる。
「あだっ!」
「あ、先生何してんの?………って」
やべっ、見られた。
「なんの騒ぎですか。穂乃果?って……」
その後に園田が入ってくる。俺の世界が終わる音、確かに聞こえた。
*
30分後、全員分のアイスと飲み物で許してもらった。
「ありがとね先生」
無邪気にお礼を言ってくる高坂。やめてくれ。その無邪気さが辛い。
「本来なら警察沙汰になってもおかしくない事をアイスと飲み物だけで済ませてるんですからね。反省してください」
プンプン怒ってる園田。ちなみに西木野や矢澤に至っては俺を存在してないものと判断してる。いや、本当に油断した。もう全員帰ったかと思ってた。
「そんな事より、リーダーは結局どうするのよ」
矢澤が切り出す。
「結局みんな同じじゃない」
「そうですね。ダンスの点数が悪い花陽は歌の点数が良くて、カラオケの点数が悪かったことりは、チラシ配りの点数が良かったですし……」
「結局、みんな同じって事だね」
「にこ先輩も流石です。みんなより、全然練習してないのに同じ点数なんて」
「あ、あははっ。当たり前でしょ……」
なんで青ざめてるのか知らないけど、俺には関係ない。
「で、何。お前ら何してたの?」
「変態は黙ってなさい」
「おーいコラ、エセ16歳。健全な男ならエロ本の10冊や20冊、AVの10本や20本持ってるもんだぞコラ」
「アイドル研究部の部室でエロサイト見てる教師に人権なんて必要ないわよ」
「すごいやこの子。顧問の人権拒否っちゃったよ」
「私はそもそも顧問なんて認めてないんだからね」
「とにかく!」
俺と西木野のバトルを園田が遮った。
「どうするんですか?このままじゃ決まりませんよ?」
「うーん、やっぱりリーダーは上級生の方が……」
小泉が言う。
「仕方ないわね……」
「そうだにゃあ」
「私はそもそもやる気ないし」
「あんた達ブレないわね……」
なんて話してるのを聞いてから、俺は言った。
「つーかお前ら、なんでリーダーなんて欲してるわけ?」
「「はぁ?」」
バカにし腐ったよう西木野と矢澤が言った。
「や、だからリーダーがなんで必要かって話」
「そんなんアイドルなんだから当たり前じゃん」
「アイドルだからリーダーが必要って事はないだろ。いいか?俺が思うにリーダーという立場ほど揉め事の原因となるものはないんだよ」
「どういう意味ですか?」
俺に対する態度とは思えないほど真面目に聞いてきたのは園田だ。なにそれ俺悲しい。
「園田、さっきの会話を聞いた以上だと、何かしら競ったんだろ?その結果を見せてみろ」
俺が言うと、黙って紙を差し出した。
「………やっぱりな。この結果を見るとやはり必要無いな」
「いいから説明しなさいよ」
「わーってるよクソガキ。いいか?普通リーダーってのは三年生がなるもんだろ。だけどこの結果を見る限りだと、そこの小学三年生は上手いことは上手くてもどれも一番ってわけじゃない。それが一番上手い奴にとっては『なんで私より下手くその癖に威張ってんだよ』みたいになる」
「ならないわよ」
「なる。現に、昨日の練習の時、園田の指摘を受けた面子の中で、矢澤だけ素直に返事できてなかっただろ。でも、これは意識的なものじゃないし、人の本質的な所だから仕方ない事なんだよ。逆にそれ以外がリーダーになると、『歳下が私より威張るな』ってなる。その、小さな拗れが組織を大きく崩すこともあるんだよ」
言うと、周りは「珍しくマトモな事言ってる……」みたいな空気になった。
「まぁそんなわけで、お前らにリーダーはいらない。むしろリーダーなんていないで全員平等な方がお互いに意見も出しやすいだろ。はい、以上唐沢先生からのありがたいお言葉でした」
「で、でも!リーダーのいないアイドルグループなんて聞いたことないわよ!」
と、反論する矢澤。こいつ、話聞いてたのか。言い返してやろうと俺が口を開きかけた時だ。
「や、いいんじゃないかな。それで」
「え?」
高坂が言った。
「みんな、それで練習してきて、歌ってきたんだし」
「な、なら!センターはどうするのよ!」
「それなら、みんなで歌うってどうかな?」
「みんな?」
「家でアイドルの動画とか見ながら思ったんだ。なんかね、みんなで順番に歌えたら、素敵だなぁって。そんな曲、作れないかなぁって」
「順番に?」
「そう!無理かなぁ?」
その問いに、周りは少し考えるような仕草を取る。やがて、園田が口を開いた。
「真姫はどう?」
「そういう曲、なくはないわね」
「ダンスは?」
「ううん。今の7人なら出来ると思うけど」
「じゃあ、それがいいよ!みんなが歌って、みんながセンター!」
そう高坂が決定すると、まず南が言った。
「私、賛成」
「好きにすれば」
続く西木野。
「凛もソロで歌うんだー!」
「わ、私も?」
「やるのは大変そうですけどね」
「仕方ないわねぇ……ただし、私のパートはカッコ良くしなさいよ」
さらに凛、小泉、園田、矢澤と続いた。
「了解しましたぁ!」
「よーし、そうと決まったら、さっそく練習しよう!」
ギュッと手を握り締め、会議を始める7人を背にして俺は部室を出た。今後の練習とやらはこいつらの役割だ。俺の出番はない。欠伸混じりに廊下を歩いてると、後ろから声がした。
「先生!」
振り返ると、高坂が立っている。
「あー?」
「ありがとね!」
言われて、俺は再び背を向ける。テキトーに片腕上げて返事しといた。さて、帰るか。