Fate/InterlaceStory -剣製の魔術師-   作:那由多20

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プロローグ〜異世界〜

I am the bone of my sword(体は剣で出来ている)

 

 

 

 

 

Steel is my body, and fire is my blood(血潮は鉄で心は硝子)

 

 

 

 

 

I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を越えて不敗)

 

 

 

 

 

Unknown to Death.(ただの一度も敗走がなく)

 

 

 

 

 

Nor known to Career.(ただの一度も理解得られずとも)

 

 

 

 

 

Have withstood pain to harbor many weapons.(彼の者は常に折れず、剣の丘まで信念を貫く)

 

 

 

 

Yet, those hands will never hold anything.(故に、生涯に意味はなく)――

 

 

 

 

 

So as I pray, unlimited blade works.(その体は、無限の剣で出来ていた)ーー

 

 

 

 

 

――:――:――:――:――

 

 

 

 

 

 ――目指すべき理想があって、そして辿り着きたい背中があって、ただただ愚直に走り続けた。

 その道程には共に歩んでくれる仲間もいたが、……いつしか彼女達を巻き込む事は、己が信念に反してる事に気づかされ、それからは彼女達を振り切って…ただ独りで歩み続けた。

 理想を追い縋るのは自分一人だけでいい。

 その道程で大切な人達が傷つく事は自分の本望ではない。

 彼――衛宮士郎はその大切な人達を守るため、独りになることを望んだのだから。

 

 氷点下渦巻く砂漠――月光に照らされ白銀に煌めく筈の砂一面は、周囲に数多の剣群によって息絶えた人間から流れる血に紅く染められている。

 その様は正しく戦場のよう。

 中心の赤い丘に一人佇むその姿は誰から見ても満身創痍。

 普通であれば死に繋がる程のそれであるのに、こうして存命し続けていられるのは、己の中にある特殊な力故によるもの。

 それを理解しているのか、薄く笑みを浮かべながら見渡すのは周囲の有り様。

 赤い地に無数の剣が突き立っているその光景――それはまるであの赤き弓兵の心象風景と同じだなと彼は自嘲した。

 一通り記憶に焼き付けたのか、これまでかと悟ったその体躯が地に倒れる。

 

 全てを救う正義の味方――それは養父が目指してきたものであり自分が受け継いだもの。それは成長してからも変わらず、実現させるべく走り続けた。

 

 ――だが何時からだろうか。ある事がきっかけでその理想を諦めたのは。

 それはある女性との出逢い。絶対的な力を持つが故に、常に孤独の中で生きてきた彼女を知ったとき、その理想は彼女を守るための正義の味方へと形を変えた。

 

「――ああ、これじゃあ志貴さんの事を笑えないな」

 

 苦笑まじった呟きが漏れる。

 それはまだ理想が変わってない頃のこと、士郎は人類全ての脅威となりうる真祖の姫を排除しようとした時があった。

 無論星の抑止力と言える程の彼女を相手に勝てる勝算など皆無に等しかったが、それは彼女が真に力を取り戻した場合での話。

 その当時では士郎でも勝算があるほどに彼女は弱かった。

 ――そんなときだ。

 彼女だけの騎士とも言える殺人貴――遠野志貴が士郎の前に立ちはだかったのは。

 

 始めのうちは士郎は志貴のことはどうしても好きになれず、出会う度に殺し合っていた。

 当然だろう。

 志貴の抱く真祖だけの正義の味方とは、彼女が魔王に堕ち、人類を滅ぼす要因であったとしても最後まで守り抜くこと。それは全てを救う正義の味方を貫いてきた士郎とは真逆の理だったからだ。

 

 だがそれも長くは続かなかった。衛宮士郎にとっての最愛の人が出来てからというもの、二人の絆が確実なものになってきたからだ。

 ――世界の見方が変われば、その価値観も変わるとはよく言ったものだ……。

 そんなことを思いながら瞳を閉じる。

 もう視界が霞み、焦点が合わなくなってきたからだ。

 

 瞼の裏に浮かぶはこれまでの生涯の数々。

 

 遠坂の倫敦への誘いを蹴って、フリーランスの魔術師として世界へ渡ってから、気が遠くなる程長く旅してきた。

 その中で大切な出会いがあり、そして悲しい別れもあった。

 誰にも感謝されなくとも人々を救い、その報酬が罵倒であったとしても前に進み続ける。

 このような悲惨な終わりかたが来ることは、あの弓兵に会ったときから分かっていたことだからだ。

 流れる血液が凍り始めていることを感じると同時に、倒れた身体から感覚が失われていく。

 

「――全く。なんとも情けない様だ」

 

 ふと……ここにいる筈のない、それでいて聞き慣れた声に朧気になっていく意識を引き留める。

 それが誰かなんて考えるまでもない。

 例え二百年近く聞いていなくとも、これほどの威圧感を含む声を忘れる筈がないからだ――。

 フリーランスとして駆け回っている中、唐突に現れ自分を弟子にとった傲慢な、それでいて憎めない師父――キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。そう、遠坂の家系において大師父に当たる本人そのもの。

 

 

「死徒になって三百年余り。――世界を敵に回しながらということを考えると及第点ではある。よくもったとは言っておこう。そうであろう?姫君よ――」

「――ええ、そうね。士郎、貴方はよく戦ったわ。もうこれ以上その身を傷つけなくていい」

 

 ああ、この声はよく知っている。

 ――それは衛宮士郎が生きている証の声。

 ――それは衛宮士郎にとって最愛の声。

 

「――いるのか?アルト」

「そうよ、士郎。私の愛しき人」

 

 自分を抱きしめている彼女から魔力が供給され始めたのだろう。もはや枯渇寸前であった士郎の魔力は、再び満ち始め、それを受け取った彼の中にある聖剣の鞘が、微々たるものだが治癒を開始したのだ。

 視力が僅かながら回復した事を悟った士郎は瞳を開ける。

 懐かしい人達がいた。

 遠野志貴がいた。アルクェイド・ブリュンスタッドがいた。蒼崎青子がいた。ガイアの魔犬がいた。黒と白の二人の騎士がいた。

 ――そして血のような紅色の瞳を持ち、漆黒のドレスを身に纏った最愛の女性、アルトルージュ・ブリュンスタッドがいた。

 

「――万華鏡よ、宜しく頼む」

 

 最期の最後に彼女達に会えただけでも十分だ。

 師父が宝石剣を手にここに来たということはつまりそういうことだろう。

 アルトとはこの温もりだけで別れを済ませた。 志貴さん達や先生に至っては言うまでもないだろう。

 そんな事を考えながら、士郎は霞んでいく瞳を再び閉じる。

 

「何時しか私も貴方のいる世界へ向かいます。だから士郎、貴方はもう休みなさい」

 

 

 それを肯定と受け取ったのか笑みを浮かべ、数百年にも渡り戦い抜いた衛宮士郎は、暗くなっていく意識のなかで世界に別れを告げた。

 

 

 

-Interlude-

 

 

 

 月明かりが照らす森林の中、鍛練の一貫として小太刀を振るいながら彼――高町士郎は深く溜め息を吐いた。

 自分の半身ともいえる得物を手にしてからもう数十年が経っているのだろうか。彼は淡々と振るいながらも自身の腕が徐々に鈍りを見せ始めていることに気づいていたのだ。

 現在でさえ、今の自身は全盛期の頃と比べれば一回りほど劣っている事が確認できるからだ。

 

「――どれだけ鍛えようが……老いには抗えないってことだね」

 

 老いというにはまだ若すぎる年齢であろうが、身体能力が低下の兆しを見せる程までには年をとっていることに変わりはない。

 だがこのままいけば美由紀はともかく、恭也が自身を追い抜く日もそう遠くはない。

 ――恐らくは一族が継承してきた体術が原因と言えるかもしれない。

 そもそも士郎達が継承している流派は、世間一般には知られていない裏側によるもの。

 日々の鍛練の成果があってこそその武術が大幅に扱える域にまで達してはいるが、あれは人の身には負荷が掛かりすぎる代物なのだろう。

 現に士郎の身体にはもう淀みのような違和感が感じられてきている程だ。

 

「――そろそろ引退して若い世代に任せろ……って事かな?」

 

 寂しさにもにた苦笑が彼から漏れるが、それに反して後悔はしていないようにも見える。

 ――これで良い、と。

 彼の頭に浮かぶは妻である桃子の悲しげな顔と、娘であるなのはの寂しげな表情。

 二人にこのような顔をさせてしまった原因は紛れもなくこの流派によるものだった。

 ある事がきっかけで士郎は重傷を負って病院に運ばれたことがある。

 桃子や恭也達は顔を蒼白にさせながらも父の看病をし、その間――まだ幼いなのはを家に一人残してしまった。

 退院して帰宅してからというもの、出会った娘の表情がどんなに寂しげであったことか今でも想像に難くない。

 

「――問題は私が引退してから、どんな事態が起きるかということだけど……」

 

 そこまで口にした士郎はやれやれと首を横に振り、その先を続ける事はしなかった。

 ――何を馬鹿な心配をしてるんだ私は。これから何が起こるか……そんなものは魔法使いでも分かる筈もないことなのに――そんな自嘲の笑みを浮かべて。

 これ以上はどう鍛えようが身体に負荷がかかるだけだと悟り、一先ずは家に帰ろうと小太刀を鞘に納めたその時――森自体を震動させるほどの爆音と共に、閃光が一辺を白く染め上げた。

 その事態に士郎は驚きながらも冷静を取り戻し再び小太刀を抜き放つ。

 ―― が、光が収まり視界を取り戻すと同時にそれを放り投げていた。

 

「……何でこんな所に人が倒れているんだ?というよりいつの間に……いや、そんなことを暢気に考えてる場合じゃない!」

 

 動揺から立ち直ると直ぐ様、その少年を抱き上げる。

 見れば恭也と同じくらいの歳かそれより一つか二つほど下のくらい。髪は赤銅色で反射具合では銀色のようにも見えるが、問題はそんなことではなく彼の状態だ。

 全身至る所に刺し傷や切り傷が見られ、こうしている今もそこから血液が流れ続けている。

 呼吸も浅く、こうして生きていること自体が不可思議に思える程の致命傷だった。

 

「――何が起こってるかさっぱりだけど手当てをしないと……!」

 

 普通ならこの判断は間違いなくおかしい事は士郎にも分かっていた。

 状況からしてこの少年は確実に裏の世界に関わっている。

 だが、それを理解した上で助けようとするのは――彼がこのような状態になったときの桃子の顔が脳裏に浮かんだからだ

 士郎は腕に抱えている少年を落とさないようにしっかりと抱え直すと、自分に出せる限りのスピードで山道を駆け下りていった。

 

 

 

-Interlude-

 

 

 

 頬にひんやりとした感触が伝わり、薄く瞳を開ける。目には入るは自分の知らない天井。

 

「――ここは……どこだ?」

 

 未だに朧気な意識の中で、首だけを動かし自分の寝かされているらしい部屋を見渡す。

 するとその途中で栗色の髪をした女性が視界に入り、視界の動きもそこで止める。

 その女性は自身を見つめる士郎に気付き呆然としていたが、我に帰ったのか慌てた様子で部屋を出て夫と思えるような男性を連れて来た。

 

「具合はどうだい?凄い傷だったからここで治療させてもらってたんだけど――」

 

 ――傷?

 彼から聞いた言葉に朧気だった意識が覚醒する。奔流のように脳に流れていく光景……それは鮮血によって紅く染まった砂丘の赤い丘。

 至る所に数多の刀剣が突き刺さっていて、そしてその中心に血を流しながら立っているのは自分の――。

 

「――生きて……いるのか?」

「え?」

 

 消え入りそうな呟きに、側から困惑したような声が聞こえた。

 見れば先ほどの女性が濡れた手拭いを手に、こちらを不安そうな瞳で見つめている。

 その瞳の下に明確に隈がうつっていることからつきっきりで看病してくれていたのだと悟った士郎は後悔した。

 ――そこまでしてくれた人に今の言葉は失礼極まりない。

 

「――いや、何でもない。もしや貴方が手当てを?……そうか、ありがとう。お陰で助けられた」

 

 礼を言おうと上半身を起こそうとするが、全身を走る痛みに顔を歪める。それにかなりの倦怠感に包まれているようだ。

 先ほど生きていることに疑問を抱いたような言葉を口にしたが、それは士郎が自殺願望者だから……というわけではない。

 治癒能力が極めて高い士郎だが、あの状態から生き延びたことに純粋に驚いていたのだ。

 

「ダメよ!……まだ傷は癒えきってないのだから安静にしないと」

「大丈夫だ。こう見えても頑丈な方なのでな。――それに寝たまま礼をするなど失礼極まりないだろう?」

 

 痛む身体に叱咤をかけ、表情に出さずに立ち上がると二人に向かい合って頭を下げる。

 

「改めて礼を言わせてくれ。俺の名は衛宮士郎……失う筈だった命を拾ってくれて、本当に…ありがとう」

 

 そんな士郎を見て二人はしばらく唖然としていたが、立ち直ると優しく微笑んだ。

 それから三人はそれぞれ軽い自己紹介を済ませた。その中でも驚かされたのは高町士郎の隣にいる女性――桃子には二人の娘と一人の息子がいるらしい。初見では結婚してまだ間もない妻のようにしか見えない。

 

「――年齢不相応な人ね。雰囲気もそうだけど私達よりも年長者に感じてしまうわ。まあそれはともかくどうして士郎……夫と重なってややこしいからシロくんでいくわね。それでシロくんはどうして怪我をしていたの?夫が言うには何もないところから急に現れたって話なんだけど」

 

 その呼び方に違和感を感じた士郎は、その問いに一瞬悩むそぶりを見せたが、意を決したように真剣な表情をすると話を切り出した。

 

「……ああ。その事なんだが、その前に一つだけ言っておかないといけないことがある。これから話すことはそれを前提としての事だからな」

 

 今までの中でも一層際立って見える真剣味を帯びた彼の雰囲気に二人は気を引き締める。

 何かを思い出すように、そして何かを覚悟したかのように閉じていた瞳を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

「俺は魔術師――いや……裏の世界に身を置いてきた魔術使いなんだ――――」

 

 

 

 

 

 

 

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