やはり雪風の幸運は間違っていない。   作:Rapter

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第拾弐話 『マリコ』

 雪ノ下さん達の相手をしてくれる米海軍の女性大佐の名前はアリス・ホワイトという名前だった。若干三十歳で大佐であるのだから相当優秀なのだろう。私はそう思いつつ、別室に移動した。

 そこには三人の米国人がいた。彼らが今日、ふと情報を交換しようと思った相手であった。一人目の名前はジョセフ・グル―君。若干三十八歳の在日本大使館の外交官であり、一等書記官として働いている。二人目の名前はフレデリック・モアー君。彼は私が個人的に雇っている人間で『白いオーケストラ』が行う対米工作の顧問をしてもらっている。六十過ぎのジジイではあるものの、この中で唯一私に敬語ではない。三人目の名前はジョン・フロスト君。御年五十過ぎで、現在の米空軍第五空軍の司令官であり階級は中将、在日米軍の司令官でもある。

 私はまず、三人と握手をし、再会を喜んだ。この三人が揃うのは実は一年ぶりであった。各々が各々に多種多様な任務に就いており、モアー君とはよく会うが、一同に会するのはかなり稀なのである。そして全員が腰を下ろした。

 

「さて、まずは『マリコ』の容態から聞こうかな?」

 

私はグル―君とモアー君に向けて言った。

 

「では、まず私から」

 

最初に言ったのはグルー君であった。

 

「私の見解から言えば、『マリコ』は後6か月程で退院できるでしょう」

 

その言葉に私は自然と笑みを浮かべていた。

 

「つまり『マリコ』は回復傾向にあると」

 

「はい。一年前とは比べ物にならない程の回復をしました」

 

「そうかい。すばらしい」

 

グルー君の報告に満足した私は次にモアー君に視線を向けた。

 

「……私もグルーの意見に賛成だ」

 

モアー君は視線を落し、頭をかくような仕草をして言った。

 

「だが……」

 

「だが?」

 

モアー君はそこで非常に気になる逆接の接続詞を言った。

 

「このままだと『障害』が残る可能性がある」

 

障害が残るね……

 

「具体的にどこが原因かな?」

 

「『左脳』だな」

 

モアー君は即答した。左脳ね……

 

「あと、『右半身』も悪くなる可能性がある」

 

私はゲンドウポーズになりながら考え始めた。『左脳』だけならまだしも、『右半身』まで悪くなるとまずい。

 

「『左脳』に『オーケストラ』を聞かせるべきだな。『Ⅹ-day』に万全を期すなら」

 

モアー君はそう言った。彼がそこまで言うということは『障害』が残る可能性が相当あるということだろう。

 

「分かったよ。『オーケストラ』の準備をする。手伝ってね」

 

私はそう言いながらモアー君にウィンクをした。モアー君はやれやれという感じではあるが手伝ってくれるようである。

 

「それで『左脳』に『オーケストラ』を聞かせるとして、『マリコ』が退院できるのはいつになるかな?」

 

私の質問にモアー君は考える仕草を見せた。

 

「そうだな……遅くて12ヶ月、早くて8ヶ月くらいだな」

 

12ヶ月!?それでは『Ⅹ-day』に間に合わない。

 

「8ヶ月でどうにかできない?」

 

「だったらもっとリソースがいるな。そう言えば、『楽団員』を日本国内でくだらない事に使っていると聞いたが?」

 

モアー君は暗にそこに使っているリソースをこちらに回せと言っているようだ。くだらない事というのは『五・一七事件』に対応するために使ったリソースのことである。『五・一七事件』と『Ⅹ-day』を比べたら、当然のことながら後者の方が重要なわけである。

 

「分かったよ。そっちにリソースを回そう。うまく使ってね」

 

「ああ、任された」

 

モアー君はそう言った。

 次に私はフロスト君の方を向いた。

 

「『マリコの服』の準備はどうかな?」

 

「準備の進捗は順調です」

 

フロスト君は言った。

 

「ただ……」

 

「ただ?」

 

「どうやら『カンパニー』が感づき始めたようです」

 

フロスト君は表情を曇らせながら言った。自分の行動が不適切だったのではないかと思っているようだ。だが、それは彼が気に病むようなことではない。

 

「まあ、こちらから散々ラブコールを送ってたんだ。これで感づいてくれないのでは何のための『カンパニー』か分からん」

 

モアーは言った。つまり、『カンパニー』に感づかれたのはフロスト君のミスではなく、こちらから感づかれるように動いたということである。当然のことながら『X-day』はその多くを『マリコ』の助力の下に行うわけだから、『カンパニー』にもある程度手伝ってもらう必要がある。たが、わざわざ『カンパニー』に手伝ってとお願いに行くと足元を見られる可能性がある。だからこそ、こちらに手伝わせろと言ってくるようにわざと情報をリークしたのである。

 だが、モアー君が指示した情報のリークの仕方がかなりシビアなものであり、私としては『カンパニー』が気付いてくれるか心配していた。ここで感づいてくれて正直ほっとしている。

 

「『カンパニー』の件は私とモアー君で対処するから、フロスト君は引き続き『マリコの服』の準備を進めてくれるかい」

 

「了解しました」

 

これで一応、彼らからもらう情報はすべて貰った。次は『マリコの服』の準備に感づいた『カンパニー』への対処である。

 

「とりあえずは向こうからの接触を待とうと思うんだけど」

 

私はモアー君に対して言った。

 

「まあ、妥当な線だな。どうせこの会話も盗聴されているだろうしな」

 

それを承知していたからこそさっきから『コードネーム』を使って他人が聞いたら何の話をしているか分からないような会話を繰り広げていたのである。

 

「ちゃんと盗聴してくれてればすぐに接触してくるはずだけど」

 

先ほどの会話には8ヶ月以内という具体的な数字が入っていた。そこから『X-day』と呼ばれる何かが8ヶ月以降に起こるということである。あまり時間がない以上『カンパニー』は速やかに我々接触してくるはずだ。

 

「じゃあ、『マリコのボーイフレンド』の容態についてだけど」

 

三人が私に注目した。

 

「もう退院間近という感じだね」

 

「さすがというべきか、準備が早いな」

 

モアー君はそう言った。

 

「あたりまえでしょ。私を誰だと思ってるんだい?」

 

私はえっへんと胸を張った。

 

「では逆に、今、『マリコのボーインフレンド』が回復できていないところはどこなんですか?」

 

グルー君は質問してきた。

 

「そうだね。『赤い服』かな」

 

なるほど、グルー君は納得した。米国ならすぐに揃いそうだが、日本では揃えようとするとかなり面倒なルートを使わなければならない。『マリコのボーイフレンドの服』を揃えるなら私のルートを使えるため簡単と言えば簡単なのだが、『赤い服』となると話は別だ。

 

「宛はあるのですか?」

 

フロスト君が言った。

 

「ないことはないよ。『修羅の国』にいけばなんとかなるしね」

 

「こちらで用意できないこともありませんが」

 

「できるのかい?『マリコの服』じゃない『赤い服』が必要なんだよ?」

 

「大丈夫です。中央軍に口をきけば、そこから鹵獲した『赤い服』を調達できると思います」

 

これはいい情報を聞けたね。

 

「分かった。じゃあ、お願いできる?」

 

「お任せください」

 

『マリコのボーイフレンド』の容態を伝えたことで一応、今回の議題は全て終わったことになる。

 

「よし、じゃあ、各々『X-day』まで一年を切ったけど、締まっていこう」

 

各々が静かに決意を新たにして頷いた。

 

 

 

 




HOI的人物紹介

ジョセフ・グルー
参謀タイプ 平時情報力+10%

フレデリック・モアー
政治分析の専門家 政治情報力+20%

ジョン・フロスト
エア・シーバトル 陸軍戦闘効率  +10%
         海軍戦闘効率  +10%
         空軍戦闘効率  +10%
         宇宙戦力効率  +10%
         サイバー戦効率 +10%

補足
『マリコ』というのは人物のことではありません。
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