やはり雪風の幸運は間違っていない。   作:Rapter

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第拾五話 家族会議 

 昼食をとる場所までの移動を開始した私と時雨に雪ノ下さんが近づいてきた。

 

「貴方達、お爺様とも何か繋がりがあるの?」

 

どうやら、先ほど、私と時雨が雪ノ下さんのお祖父さんと会話しているところを見てそう考えたのだろう。

 

「我々自身と親交があったわけではないよ。我々の曽祖父と面識があったんだって」

 

私はそのまま事実を答えた。

 

「面識?」

 

「ああ、君のお祖父さんは海軍の元軍人でしょ」

 

雪ノ下さんは首を捻った。

 

「そう……なの?」

 

私はその言葉にあきれ果てた。

 

「自分のお祖父さんがお国のためにその命を賭して戦っていたというのに、それを孫の君が認識していないなんて、君のお祖父さんも浮かばれないね」

 

私の言葉が少し嫌味に聞こえたのか、雪ノ下さんの表情が強張った。

 

「……お爺様は私に自分が海軍の軍人だったなんて話、聞かせてくれなかったわ」

 

「それは聞かなかったからでしょ」

 

私の切り替えしに雪ノ下さんは答えられない。

 

「そして聞かなかったのは興味がなかったからだ」

 

違う?私はそういう意味で雪ノ下さんを見た。雪ノ下さんは俯いた。

 

「まあまあ、兄様もその辺で」

 

時雨が私と雪ノ下さんの間に入り仲裁をした。

 

「ま、これ以上言っても仕方がないから何も言わないけど、お祖父さんがご存命の内に話は聞いておくべきだよ」

 

わたしはそう言って一応、矛を収めた。私は話を戻した。

 

「私の曽祖父も海軍の元軍人だったんだよ」

 

「では、貴方の曾お爺様を話題にして会話をしていたのかしら」

 

「そうだよ」

 

「……」

 

雪ノ下さんは何かを考えるような仕草をした。

 

「何か引っかかる点でも?」

 

「そうね。お爺様が笑っているところ見たことがあまり、というより全くないから……」

 

なるほど、雪ノ下さんのお祖父さんは普段は寡黙な人らしい。雪ノ下さんはそのお祖父さんが笑っていたことに引っ掛かっているのだろう。だが、その理由は極めて簡単である。

 

「それは私と時雨に昔の話をできたからだと思うよ」

 

ようは、雪ノ下さんのお祖父さんもやはり昔のことを話たいという思いがあるのだろう。そう考えて雪ノ下さんのお祖父さんを見ると、なぜかその背中は少し寂しそうに見えた。

 

 

 昼食は和食の会席であった。料理は給仕が運んでくる形式で当然のことながら、バイキング形式のように食べ放題ではない。その点に時雨は少々不満だったようだ。しかし、会席である以上、出てくる料理は非常に高価なものである。時雨は量の不足を質で我慢するようにしたようであった。

 ところで、昼食を食べている部屋は和室であった。そして私が座っている場所は床の間の前、すなわち、上座である。時雨は私に左横に座っていた。右横には雪ノ下さんのお祖父さんが座っている。しかし、どうして私が上座に座っているのだろうか。雪ノ下さんのお祖父さんに誘導されたため、マナー上断るわけにもいかず、そのまま座ってしまったが。

 そもそも、この集まりは雪ノ下家親戚一同という内輪の集まりのはずである。ということは上座に座るべきは雪ノ下さんのお祖父さんということになるが、席に座っている人の並びを見る限り、いつの間にか私と時雨を接待するというように集まりの意味が変化したようである。

 

「そう言えば、昨日、娘がご忠言をいただいたようで」

 

雪ノ下さんのお祖父さんはそう言った。それは昨日の夫人への叱責のことを言っているのだろう。

 

「忠言というよりは、周辺曰く殆ど怒鳴っていたらしいですが、申し訳ありません。ご息女の体調を悪化させてしましました」

 

私は素直に頭を下げた。

 

「いえいえ、普段私が自分たちのことだけでなく、お国のためになるようにせよと口が酸っぱくなるほど言っているのですが、古いだのなんだのと聞き入れてくれません。全く、誰に似たのか」

 

雪ノ下さんのお祖父さんの話からすれば、雪ノ下家への統率力、特に夫人に対する統率力が低下しているようだ。

 

「そうなのですか。私の叱責が良い影響を与えられればいいのですが」

 

私がそう口にした時、不意に携帯電話が鳴った。私は失礼、と言って席を立った。発信元を見てみると、それは与党の国政選挙対策委員会の議員からだった。何かと思って電話に出てみると、内容は千葉一区の国会議員が急死したため欠員ができ、その補填のためにだれかよい候補を見繕ってくれというものだった。欠員補填の人材くらい自分たちでなんとかしろと言いたいが、それができないから私に縋ってきているわけで。仕方がないので、欠員補充の人材の選定に入った。選定とは言っても、もう目ぼしい人間はいた。それは雪ノ下君である。昼食の場に戻ると、私はそのことを雪ノ下君に通知した。

 

「雪ノ下君、国政に参入しないかい?」

 

私は単刀直入に聞いた。私の発言にその場にいた全員が私に注目した。

 

「……」

 

言われた雪ノ下君は呆然としていた。

 

「もういい加減、県政なんかには飽きてきたでしょ?そろそろ国会議員になったら?」

 

「……なれるのですか?」

 

雪ノ下君はやっと口を開いた。

 

「多少語弊があるね。君がなるんじゃなくて、私が君をならせてあげると言ってるんだよ」

 

私のこの発言には極めて重大な事が含まれていた。つまり、雪ノ下君が主導的に国政に進出するわけではないということ。そして、私の政治力を使用して、雪ノ下君が国政に進出するこということ。すなわち、現状よりさらに強い私の影響下に置かれると言うことになる。それは私の言葉で雪ノ下君も理解しているはずである。

 

「考える時間をもらえませんか?」

 

「だめだ。即決しろ」

 

私は態度を硬化させて言った。それは当然、ここで雪ノ下君に了承してもらうためである。ここで、話を持ちかえられると、おそらく夫人がこの話に絡んでくるだろう。そうなると、この話は御破算になる可能性が高い。御破算になっても別の人間を持ってこればいいではないかと思うかもしれないが、雪ノ下君は結構有能である。そして、私自身、雪ノ下君に国政に進出してほしいと思っていた。

 現在、国政上に私の意思で動いてくれる議員は与党内にたくさんいる。しかし、私の傀儡議員はいないのである。私はその役目を雪ノ下君にやってほしかったのだ。今回の欠員がなくとも次々回の選挙では雪ノ下君を国政に進出させる腹積もりだったのである。

 だからこそ、この話は御破算になってほしくないのである。夫人は見た限り、自身で何でも決めたがる人間である。自分の夫が他人の傀儡議員になるのに反発するのは想像に難くない。しかし、今、夫人は床に臥せっている。この機に乗じて速やかに体制を整えてしまい、夫人が復帰した時には既成事実にしてしまった方が良い。

 雪ノ下君は沈黙のまま考えている。このままでは埒が明かない。

 

「お義父さんはどう思いますか?」

 

自分では決めかけたのか雪ノ下君は雪ノ下さんのお祖父さんに意見を求めた。

 

「……そうだな。妹さんの話では島村さんは皇室とも親交があり、天皇陛下の信頼も厚いと聞く」

 

『皇室』と『天皇陛下』という単語に全員がえ!?というような顔をした。というか、時雨よ、極めて重大なことをぺらぺらと喋らないでほしい。

 

「であれば、島村さんの助力をするということは大業を翼賛するということになる。非常に意義のあることではないか?」

 

雪ノ下さんのお祖父さんは雪ノ下君の国政進出に賛成の考えのようだ。そして、

 

「分かりました。島村さん、よろしくお願いします」

 

雪ノ下君は国政参入の件を承諾したのだった。

 

 

雪ノ下君は国政参入の件を承諾した。しかし、当然のことながら、その準備を何もされていない。現在の政情を鑑みればおそらく次の衆議員選挙は今夏になるだろう。それまでに雪ノ下家の体制を改変して、無駄を極力削減して、総力を選挙に、そして政治に傾注しなければならない。しかし、雪ノ下家独力ではそこまでの劇的な改変はできないだろう。そして、そこには島村家が、私が、手を貸すしかないだろう。

 私は早速行動を開始した。

 

「時雨」

 

「はい」

 

「雪ノ下家の体制改変に私が関われるようにするための協定案を起草してくれるかい」

 

私は時雨にそう命じた。

 

「それは兄様個人と雪ノ下家の間でですか?それとも島村家と雪ノ下家間でですか?」

 

それは重要な事である。

 

「さすがにこの件は大きい。報告をせずにすることは難しいね」

 

「では、後者の方で協定案を?」

 

「ああ、そうしてくれ」

 

「分かりました」

 

時雨は昼食をとっていた部屋から出て行った。私もしなければならないことがあった。私は携帯電話を取り出すと、ある人に電話かけた。電話は三コールの後に通話状態になった。

 

「私だよ。臨時の家族会議を招集するよ」

 

私は電話口でいきなり主題に入った。

 さて、ここで私が電話口で言った家族会議という言葉。家族会議と言えば、各々の家族に関しての重要事項を話し合う場である。とはいうものの、それ自体は別に規則や規定があるわけでもなく、仰々しいものではない。もちろん、これは一般論の話である。そして、わざわざ一般論の話を出したと言うことは、島村家の家族会議は一般論の家族会議とはかなりかけ離れたものであるということだ。

 島村家家族会議。その名の通り、島村家の家族会議である。これだけであれば、一般的な家族会議とは変わらない。しかし、その内容は隔絶している。島村家家族会議は毎年一月に召集される通常会議と島村家当主の要請によって招集される臨時会議がある。なんだか国会の常会と臨時会の説明のように聞こえるかもしれないが、それを元にしているためである。

 毎年一月に召集される通常会議では島村家の予算案を決める。一年間の収支を一度の会議で決めるわけであり、一般の家庭からすればかなり異質である。というより、予算をわざわざ、完全に決めてから執行するということ自体が異質である。それに、島村家構成員の各々には予算の範囲内でしか支出が許されず、極めて硬直的な経済活動しかできない。しかし、島村家では、このような形態で経済活動が行われている。そして、それに対する反発は大いにある。

 島村家当主の要請によって招集される臨時会議は、その名の通りである。招集理由は様々だが、最も多いのが追加予算の審議のためである。追加予算とは言ってもそれが認められる要件は厳しいもので、そう簡単には認められない。

 そして、今回の招集理由は雪ノ下君を国政に進出させるために必要な措置を、島村家を通して、私が実施するための協定案の審議ということである。私はそれを島村家本家の先代当主、島村神風に通知した。島村神風は私の祖母に当たる。臨時会議招集に係る一切の事務事項は先代当主が行うことが会則によって規定されているのだ。

 

「では、そういうことで、よろしく」

 

私は電話を切った。これで家族会議を招集する準備は整った。

 家族会議での審議はすぐに終了し、全会一致で協定案は議決されるだろうと私は予測していた。夫人が回復する前に協定を締結してしまいたい私は、雪ノ下家側との協定案修正の交渉と家族会議での修正案の審議及議決を今日中に終わらせたいと考えた。であれば、雪ノ下家首脳部を島村家家族会議が行われる島村家本家にいてもらった方が良い。私はそれを雪ノ下君と雪ノ下さんのお祖父さん、他雪ノ下家関係者に通知した。

 

「確かにそれが良いと思います。以降の予定はキャンセルして島村家本家の方に伺います」

 

雪ノ下さんのお祖父さんのその言葉で島村家本家への移動が決定された。加えて、大勢で行っても移動が大変であるから本家に行く人を数名に限定するようにと、私は注文を付けた。雪ノ下さんのお祖父さんは本家に行く人の選定をすぐに終わらせた。選定されてのはまず、雪ノ下さんのお祖父さんご自身、雪ノ下君、雪ノ下さんの計三名であった。

 一時間後、私はその三名を引き連れて、移動のために雪ノ下家が用意した自動車に乗り込み、移動を開始した。

 

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