やはり雪風の幸運は間違っていない。   作:Rapter

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第四話 夕食及外泊

 雪ノ下家の夕食は非常に豪華なものだった。見栄えが派手ということではない。使っている食材が我が家のもとはけた違いに高いのである。

 金持ちというならお前も同じだろうと思うかもしれないが島村家の食事というのはかなり質素である。もともと島村家自体はあまりお金を持っていない。あくまでもお金持ちなのは私なのである。そして私はそのお金を全て政治関係に使っている。お金は兵器や武器の次に秀でた能力を持つ武力である。それを日常生活で浪費するのは間違っている。それが自身のお金を島村家自体に一切使っていない理由である。

 雪ノ下君はどうやら私と同じ考えではないようだ。でなければ、日常生活にここまでお金を使うことはないだろう。

 それにしても雪ノ下家の食事はすさまじくおいしい物だった。肉は桁が一つ違うと全く別の食べ物になるとはいうが、それは本当のようである。私は箸で主菜の肉をつつきつつ思った。

 私の横からはなぜかすすり泣く声が聞こえていた。理由を聞くのも面倒なのでここまで放置していたが、さすがに雪ノ下家一同が困惑しているため、聞かざるをえなかった。

 

「時雨、なんで泣いてるの」

 

時雨は涙をボロボロこぼしながら食べていた。特に肉を。

 

「だって、だって、このお肉……美味しすぎて……私……こんなに美味しいもの……食べたの……生まれて……初めてで……」

 

肉を口いっぱいに頬張りつつ、泣きながら言葉にならない言葉を紡ぐ時雨。

 

「あなた達、普段何を食べているのかしら」

 

雪ノ下さんがそんな疑問を口にした。

 

「そうだね。まあ、我が家の財政事情に鑑み、ここに出ている食事よりは大幅に劣化したものが供給されていると思うけど」

 

「けど?」

 

「さすがに泣くほどのことはないと思うよ」

 

私は時雨の頭を撫でながら言った。時雨の主菜の皿からはすでに肉は消えていた。

 

「すみません。おかわり、貰えます」

 

「はい、お待ちください」

 

給仕をしていた人に時雨の皿を渡す。その間にも時雨は副菜や汁物に手を出していた。

 

「お口に合って何よりです」

 

そう言ったのは今まで私と時雨に対して沈黙を保ってきた雪ノ下夫人であった。私は夫人の方を向く。夫人は穏やかな表情をしていた。しかし、その表情にはある種の敵意が混ざっていた。

 

「そう言えば、ご夫人にお会いするのは初めてですね」

 

雪ノ下夫人の威圧を受けつつ、それに対して一定の余裕を見せながら私は答えた。

 

「そうなりますね。いつも主人がお世話になっております」

 

雪ノ下夫人の言葉には尚も敵意を感じた。

 

「まあ、不本意ながらだけど」

 

「……不本意ですか」

 

「ええ、不本意ですよ。興味もなければさして意味もない地方政治に貴重な資金を投入しているんだからね」

 

雪ノ下夫人から穏やかな表情が消え、その視線は鋭くなってくる。自分の夫の仕事を意味がないと否定されたのだから普通の反応である。私もそれに負けることなく雪ノ下夫人を睨む。私と雪ノ下夫人の間で視線が交錯し火花が散る。

 

「おい、止めないか」

 

雪ノ下君は雪ノ下夫人を止めた。雪ノ下夫人はその制止に従う。

 

「家内が失礼を」

 

雪ノ下君は頭を下げた。

 

「別にかまわないよ。ところで」

 

私は雪ノ下君を睨む。

 

「雪ノ下君。次の統一地方選、勝てよな」

 

声を低くして言った。

 

「地方政治に興味もないのに谷垣君から頼まれてお金流してあげてるんだからさ」

 

はい、と雪ノ下君は下を向く。

 

「まあ、君は優秀だから心配はしてないけど」

 

「ありがとうございます」

 

そのとき、頼んでいた肉のおかわりが出てきた。この部屋に充満している重苦しい雰囲気をものともせず、時雨はそれを頬張った。

 

 

 

 

 

 結局、時雨はその後もごはん二杯、お肉3皿を平らげた。その食欲にさすがに雪ノ下家一同も引いていた。そして、現在時雨は私の肩に頭を乗せ、絶賛爆睡中である。満腹になったため、睡魔に負けてしまったようである。起こそうとしても起きず、強引な手段で起こそうとすれば抵抗される。帰宅するためには当然徒歩になるわけだが、時雨が起きない限りは私が時雨を負っていくことになる。既に時刻は2100時、外はすっかり真っ暗である。この状況で時雨を負って帰る自信は私にはなかった。ではどうして、帰ろうかと考えていると

 

「明日、学校の方はお休みですし、泊まっていかれてはいかかですが」

 

雪ノ下君はそんな提案をしてくれた。夕食だけでも厚かましいにも関わらず、泊まるまでになるとさすがにどうかと思った。私は車を出してもらえないかと雪ノ下君に頼んだがすでに運転手が帰宅しているため今から呼び出していると時間がかかり過ぎるということだった。

 

「厚かましいけど、一泊させてもらっていいかな」

 

私は雪ノ下君の提案を受けることにした。

 

「分かりました。部屋を用意させますのでここでお待ちください」

 

雪ノ下君はそのまま応接室を出て行った。私はさすがに肩が痛くなってきたので時雨をソファーに寝かす。

 応接室には色々な模型が置かれていた。私は時雨を寝かせたソファーを離れ、それらを見る。最初に目に入ったのは『ゼロ戦』の模型であった。

 零式艦上戦闘機。大日本帝国海軍が運用した艦上戦闘機である。皇紀二六〇〇年、すなわち西暦一九四〇年に制式採用された。そのために零式艦上戦闘機なのである。長大な航続距離、二十ミリ機関砲などの重武装、優れた近接格闘戦能力で支那事変から大東亜戦争初期にかけて米英航空機に対して優勢に戦った。『ゼロ戦』の模型は緑色に塗装されている。つまりこれは五ニ型の模型ということだ。

 私が『ゼロ戦』の模型を見ていると応接室の扉が開いた。

 

「あら、まだいたのね」

 

入ってきたのは雪ノ下さんだった。

 

「ええ、今日は一泊させていただくことになったよ」

 

「そう」

 

雪ノ下さんはソファーに寝かせている時雨に近づいた。

 

「まだ、あなたの妹さんは起きないのかしら」

 

「そうだね。たぶん、起きないと思うよ。お風呂にでも放り込めば起きるとは思うけど」

 

「そう」

 

雪ノ下さんは模型を見ている私を見た。

 

「あなた、そういうのに興味あるの」

 

「うん、というかこの模型は誰のものなのかな」

 

「父よ」

 

「そうですか。どうやら、貴方のお父さんとは趣味の話が合いそうだ」

 

雪ノ下さんはソファーから離れると私の横にきた。

 

「このプロペラが二つついている飛行機の名前も分かるの」

 

私は雪ノ下さんが指した模型を見る。翼には日の丸。機首から機尾までほぼ同じ太さのずんぐりした外見と機尾の対空砲座。これに合致する航空機は一つしかなかった。

 

「一式陸上攻撃機だね」

 

「どういう飛行機なの」

 

「話し出すと止まりませんよ」

 

私は雪ノ下さんを見て言った。

 

「かまわないわ。どうせ暇なのだし」

 

「そうですか。じゃあ、説明するね。まずはワシントン海軍軍縮会議とロンドン海軍軍縮会議って知ってる?」

 

「……まあ、名前だけなら」

 

「結構。それで帝国海軍は両方の軍縮条約で海上戦力において対米劣勢を余儀なくされたわけだよ。ところで、その頃、帝国海軍が仮想敵国を米国にしてたことは知ってるかな?」

 

「……」

 

どうやらそこまでは知らなかったようである。そもそも、義務教育の段階、というか日本の教育では戦前のこと、特に軍事関係のことはほとんど教えない。

 

「まあ、いいや。制限されたのは主力艦と随伴艦だったわけだけど、帝国海軍はその補填として陸上から発進して敵艦を攻撃する長距離攻撃機を開発したわけだよ」

 

「つまり、それがこの飛行機というわけね」

 

「……まあ、その前に九五式陸上攻撃機とか九六式陸上攻撃機とかがあるわけだけど、その認識でいいよ」

 

「それで性能はどうだったの」

 

「大東亜戦争開戦劈頭には台湾からフィリピンのアメリカ軍の航空基地を爆撃したり、九六式陸攻と協同して、マレー沖でイギリス海軍の戦艦『プリンス・オブ・ウェールズ』と巡洋戦艦『レパルス』を撃沈するなどの戦果を出しているよ。性能自体は機体規模にしては良い高高度性能と防御火力が挙げられるかな。でも」

 

「でも?」

 

「被弾性能が悪いんだよ」

 

「被弾性能?」

 

「要は弾が当たったらすぐにやられちゃうってことだよ。それで付いたあだ名が『ワンショットライター』と『フライング・ジッポー』」

 

「燃えやすそうね」

 

「現によく燃えたらしいよ。主翼の燃料タンクの容積が大きくて、さらに防弾タンクの採用が進まなかった関係でね」

 

雪ノ下さんは『一式陸攻』の模型を手に取る。

 

「この飛行機一つとっても様々な事情があるのね」

 

「それはそうだよ。兵器っていうのは開発するにもお金がかかるからね。当時の世界情勢やその国の軍事戦略、他にもいろいろなことが吟味されるわけ。まあ、学校では教えないけどね」

 

「……」

 

雪ノ下さんは『一式陸攻』を見つめている。

 

「少しは興味が湧いたかな?」

 

「……そうね。湧いたわ」

 

「大変結構。じゃあ、調べてみるといいよ。飛行機でも船でも戦車でも銃でも世界情勢でも、もちろん当時の日本のことでも」

 

「当時の日本……」

 

「そうだよ。特に満州事変から敗戦に至るまでの歴史は日本という国にとって重要な歴史なのにちゃんとした形でおしえられてないから」

 

「そうなの?」

 

「そうだよ。教科書を開けば『日本が悪い』としか書いてないからね。でも、それじゃだめなんだ。重要なのは『どうして負けたか』とか『そもそもどうして戦ったか』だよ」

 

雪ノ下さんは『一式陸攻』から目を離し、私を見た。

 

「今の人達は『日本は負けた』『日本は悪い』で終わらせてしまっている。そんなのは思考停止。それじゃあ先の大戦での何千万の死が無駄になっちゃう。私達がすべきなのはその死から意味を汲み出すこと、その歴史から学ぶべき教訓を見つけ出すことなんだよ」

 

雪ノ下さんと視線を合わせる。そして私は静かに言った。

 

「時が、熱狂と、偏見をやわらげた暁には、また理性が、虚偽からその仮面を剥ぎとった暁には、そのときこそ、正義の女神はその秤を平衡に保ちながら過去の賞罰の多くに、その所を変えることを要求するであろう」

 

「……その言葉は?」

 

「それも調べてみるといいよ」

 

雪ノ下さんは『一式陸攻』を置く。

 

「あがとう。今の話、ためになったわ」

 

「そうかい。それは良かった」

 

「それじゃあ、おやすみなさい」

 

そうして雪ノ下さんは部屋を出て行った。

 この一連の会話は後の彼女に大きな影響を及ぼすことになった。

 

 

 

 

 

 雪ノ下さんとの会話のすぐ後に雪ノ下君が部屋の準備ができたことを伝えに来た。そして、時雨をその部屋までの担いでいき、とりあえずベッドに放り投げ、部屋に用意されていた着替えを持って、私はお風呂に直行した。

 脱衣所において私はバスタオルを一枚と普通のサイズのタオルをニ枚取った。バスタオルは当然お風呂から上がった時にから拭くために、普通のサイズのタオル二枚のうち一枚は体を洗うため、もう一枚は風呂から上がるときに浴室ないで体を拭くときに使う。それらを持って私は浴室に入った。

 入った瞬間、私は間違いに気付いた。浴室というのは間違いだった。正しくは大浴場と表現すべきかもしれない。一瞬、雪ノ下家は副業で銭湯をやっているのだろうかと思うほどであった。気になったので少し見てみると、驚くべきことにサウナも併設されていた。

 後で入ってみようと思いつつ、まずは頭からお湯を被る。一回では髪の毛がすべて濡れない。私の髪は長い。これには色々とわけがあるわけだが、普通に自分の身長くらいある。私の身長は男としては低い方、同年齢の女子と、近いところで言えば雪ノ下さんと同じ程度の身長である。身長のことは置いといて髪のことだがもう一回頭からお湯を被る。今度は髪を完全に濡らすために念入りに髪をほぐしながらお湯を被った。髪が完全に濡れたので次はシャンプーで髪を洗いに入る。手でシャンプーを泡立ててから髪につける。あまり力を入れてはせず、程よい加減で地肌を傷つけにように洗う。髪を洗い終わり次は体を洗う。持って入ったタオルの一枚にボディーソープをつけて泡立てる。そして、念入りに体を洗った。

 体を洗い終わった私は湯船につかる。浴槽にはってあるお湯は入浴剤が入っているらしく白く濁っていた。

 

「ああ、にしても、これはいいなぁー。体の芯から温まる~」

 

浴槽が大きいと体も良く温まる。なぜかと言われれば、体が伸ばせる分、お湯と接する体の面積が大きくなることと、単純に浴槽が大きければそこに入っている水の量も多くなり、量が多くなれば熱容量も大きくなるからだと私は考えている。より効果が大きいのは前者の方だと思われる。

 浴槽が大きいとやってみたくなることがある。急速~潜航~。私は潜水をしてみた。お湯が先ほどとは違い、体と頭まで包み込む。万遍なくお湯の温度が体に染みわたる。私は息が続く限り潜水を続行した。

 幾分かして息が苦しくなり、私は浮上する。顔に張り付く髪をどかし、手で顔を拭い、目を開いた。そして自分の目を疑う。なぜなら……

 

 

そこに一糸まとわぬ姿の雪ノ下さんがいたからである。

 




HOI的人物紹介

雪ノ下君
企業の重役 全資金+10%

雪ノ下夫人
冷酷非道  脅威による影響+5%
      与党の支持+10%
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