やはり雪風の幸運は間違っていない。   作:Rapter

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文語体は適当です。


第六話 雪雪同盟成ル

 翌日の朝、いつも通り〇五〇〇時に大音量の起床ラッパでたたき起こされる。すぐに私はベッドを出て窓に手をかける。

 

「島村家一同!!起床ッッッ!!!」

 

全く持って華奢な体のどこからそんな声を出しているのかと思うほどの大声で時雨が起床の号令をかけた。時雨は雪ノ下邸に併設されている大きな庭から起床の号令をかけているようだ。私は窓を勢いよく開け放ち時雨の大声に負けないくらいの大声で言った。

 

「おはようぉぉぉ!!!」

 

それを言ったあと、すぐに着替えを始める。衣服は制服しか持参していないが、昨日お風呂から戻った後、部屋を見てみるとトレーニングウェアが常備されているのを発見していた。私はそれに着替える。駆け足で部屋を出るとそのまま玄関までいく。時雨はすでに玄関前で待機していた。島村家朝の恒例行事。軍事教練(仮)の始まりである。

 軍事教練。日本では青少年を対象とした軍事予備教育のうち,特に歩兵操典に基づく訓練をさす。第一次世界大戦後,戦時動員力の強化,在営期間の短縮との関係から次第に重視された。学校教練のみでなく,一九二六年青年訓練所設立後は,一般青年に対しても実施された。とはいうもののそれをそのまますることはできない。なぜなら武器を持つことは銃刀法違反で捕まるし、私戦力準備ということでも捕まる。できることといえば駆け足と徒手格闘の訓練などということになる。よって島村家では本来の軍事教練と区別するため軍事教練(仮)と呼称していた。

 私と時雨はそれらのメニューを二時間でこなし、シャワーを浴び、〇七三〇時となった。部屋に戻ると丁度いい時間に使用人が朝食の準備ができた旨を伝えに来た。私は時雨を伴ってダイニングルームに移動する。食卓にいたのは雪ノ下さんと雪ノ下(姉)さんだった。

 

「あれ?後の二人は?」

 

私は雪ノ下君と夫人がいないことを聞いた。

 

「今日は二人とも仕事。貴方たちがいない間に出発したわ」

 

「そうかい。大変だね」

 

「それにしても、五時頃から大声出さないでもらえるかしら。はっきり言って近所迷惑よ。あれ」

 

雪ノ下さんはどうやら朝方の軍事教練(仮)のことを言っているらしい。近所迷惑になるほどうるさかったかな?島村家近所からは苦情はでていないため同じぐらいの声でやったのだが。

 

「そんなにうるさかった?」

 

「うるさかったわ」

 

私は雪ノ下(姉)さんの方を向いて質問する。

 

「うるさかった?」

 

「う~ん。大声を出してるなとは思ったけど、うるさいって思うほどではなかったかな」

 

「それは姉さんの部屋が音源から離れていたからよ」

 

「たしかに、それはあるかもね」

 

この邸宅の間取を考えれば雪ノ下さんが言っていることは的を射ていた。

 

「では次からは気を付けないといけませんね。兄様」

 

時雨がそんなことを言った。

 

「次があるかは分からないけどね」

 

そこまで話した時、朝食が給仕の手によって運ばれてきた。その食事も例によって大変豪華なものであった。

 

 

 

 

 

 朝食後、雪ノ下(姉)さんは登校した。残った私と時雨、雪ノ下さんでさっそく協定について話し合いが開始された。とは言っても既に大部分では合意に達しているためあとは詰めの協議だけである。協議開始から二時間後の一〇〇〇時には協定の草案が起草された。

 

 

(以下縦書き)

 

『五・一七事件処理行動連携協定』

 

試案ニシテ拘束力ナシ

 

前文

島村雪風及雪ノ下雪乃ハ共ニ不当ナル心理的圧迫及物理的損害ヲ被リ両者ハ現状ヲ鑑ミ事態打開ノ為ニ連携スルニ如カサルコトヲ確信シ協定ヲ締結スル事ニ意見一致シ協議ノ上左諸条ヲ協定セリ

 

第一条

島村雪風及雪ノ下雪乃ハ『五・一七事件』ニ関スル情報ヲ共ニ開示シ敵ノ特定及事件処理ヲ協力シテ遂行ス

 

第二条

敵ノ選定ニ関シテハ両者ノ協議二於イテ決定ス

 

第三条

敵ニ非ズト判断セシ者トノ敵対ハ之ヲ厳ニ禁ズ

 

第四条

実力行使ハ之ヲ厳ニ禁ズ

但シ生命及貞操ノ侵害並ニ其ト同等ナル侵害ニ対スル自衛権行使ノ場合ハ此ノ限リニ非ズ

 

第五条

右諸条ハ『五・一七事件』ガ処理完了ト島村雪風及雪ノ下雪乃ガ了解セシ場合其ノ時刻ヨリ二十四時間以内ニ失効ス

右諸条ニヨリ獲得セシメタ情報ハ両者共失効迄ニ完全破棄ス

 

 

「こんな感じでどうでしょうか」

 

時雨は雪ノ下さんから借りたノートパソコンを使用して協定草案を書いて私と雪ノ下さんに見せた。

 

「いいんじゃないかな」

 

不備はないので私は了解した。

 

「……」

 

しかし、雪ノ下さんはなぜか渋い顔をしている。

 

「どうかしましたか」

 

時雨が質問する。

 

「……そうね。一言でいえば、あなた達いつの時代の人間なの?」

 

「え?」

 

私と時雨は顔を見合わせる。

 

「いつの時代というと私の生年月日は平成六年十二月八日なんで平成生まれの人間だね。時雨は平成九年十二月二日だからこれも平成生まれの人間だね」

 

私は自分と時雨の生年月日を言った。雪ノ下さんは頭痛でもするかのようにこめかみを抑えている。

 

「質問を変えるわ。どうして文語体で書いてあるの」

 

私と時雨は再度顔を見合わせる。

 

「特に理由はないけど……くせみたいなものかな」

 

「書く文章が全て文語体になるなんて、特殊なくせね」

 

「そうだけど、こっちの方がなんだが格式が高いような気がするし」

 

「それは否定しないけれど」

 

「読みにくいと言うなら口語体のも一応作っておこうか。できるよね。時雨」

 

「はい。兄様」

 

時雨はすぐさま口語文の協定草案を作り始めた。

 

 

『五・一七事件処理行動連携協定』

 

試案であり拘束力はない。

 

前文

島村雪風及び雪ノ下雪乃は共に集団からの不当な心理的圧迫及び物理的損害を被った。両者は現状を鑑みて事態打開の為に連携することが最善である確信し、協定を締結する事に意見一致した。よって両者は協議の上、以下にように協定した。

 

第一条

島村雪風及び雪ノ下雪乃は『五・一七事件』に関する情報を共に開示して敵の特定及び事件処理を協力して遂行する。

 

第二条

敵の選定に関しては両者の協議に於いて決定する

 

第三条

敵ではないと判断した者との敵対は之を厳に禁じる

 

第四条

実力行使は之を厳に禁じる

但し生命及び貞操の侵害並に其と同等なる侵害に対する自衛権行使の場合は此の限りではない

 

第五条

以上の協定は『五・一七事件』が処理完了したと島村雪風及び雪ノ下雪乃が了解した場合、其の時刻より二十四時間以内に失効する

以上の協定により獲得した情報は両者共、失効迄に完全破棄する

 

「こんな感じでどうですか」

 

時雨は口語文の協定草案を雪ノ下さんに見せた。

 

「そうね。異論はないわ」

 

「大変結構。では、正式な協定を作りましょうか」

 

私はそう言った。そしてそれから十五分後、正文二通が提示された。私は筆記具を出し一通に署名する。雪ノ下さんはもう一通に筆記具で署名する。そして両者の正文を交換してさらに署名をする。

 

 

(以下縦書き)

 

『五・一七事件処理行動連携協定』

 

前文

島村雪風及雪ノ下雪乃ハ共ニ不当ナル心理的圧迫及物理的損害ヲ被リ両者ハ現状ヲ鑑ミ事態打開ノ為ニ連携スルニ如カサルコトヲ確信シ協定ヲ締結スル事ニ意見一致シ協議ノ上左諸条ヲ協定セリ

 

第一条

島村雪風及雪ノ下雪乃ハ『五・一七事件』ニ関スル情報ヲ共ニ開示シ敵ノ特定及事件処理ヲ協力シテ遂行ス

 

第二条

敵ノ選定ニ関シテハ両者ノ協議二於イテ決定ス

 

第三条

敵ニ非ズト判断セシ者トノ敵対ハ之ヲ厳ニ禁ズ

 

第四条

実力行使ハ之ヲ厳ニ禁ズ

但シ生命及貞操ノ侵害並ニ其ト同等ナル侵害ニ対スル自衛権行使ノ場合ハ此ノ限リニ非ズ

 

第五条

右諸条ハ『五・一七事件』ガ処理完了ト島村雪風及雪ノ下雪乃ガ了解セシ場合其ノ時刻ヨリ二十四時間以内ニ失効ス

右諸条ニヨリ獲得セシメタ情報ハ両者共失効迄ニ完全破棄ス

 

右證據トシテ両者ハ等シク正文ナル本書二通ニ記名調印スルモノナリ

 

平成二十一年五月二十日

 

                                   島村雪風

 

                                   雪ノ下雪乃

 

 

二通目の署名が終わり、再度交換する。そして交換と同時に握手した。

 

「雪ノ下さん、兄様、こっち向いて。はい、チーズ」

 

時雨は私と雪ノ下さんが握手しているところをすかさず写真に撮った。こうして協定の調印は完了した。そして、後に私と雪ノ下さんのこの協力関係は両者の名前、()風、()乃から『雪雪同盟』と呼ばれることになる。

 

 

 

 

 

 協定調印後、昼食の時間となった。これもまた例の如く非常に豪華な昼食であった。昼食を食べ終え、我々は明日より実施する施策の協議を始めた。

 

「では、まず、情報の共有から始めようか。時雨」

 

「はい、兄様」

 

時雨は持参していた封筒から資料を出し、私と雪ノ下さんに提示した。

 

「まずは雪ノ下さんの敵対者を憎悪値(ヘイト)降順で整理してみました」

 

「質問いいかしら」

 

「どうぞ雪ノ下さん」

 

「『へいと』って何かしら」

 

「雪ノ下さんをどれだけ憎んでいるかを疑似的に数値化したってところかな」

 

「なるほど」

 

雪ノ下さんが納得したので時雨に説明の続きをするようにと目で合図を送る。

 

「この値は私が集めた情報を元に作成しましたので、実際と異なる可能性があるということを承知してください」

 

私はその紙を見た。

 

「傾向としては憎悪値(ヘイト)が高い女子は三年生に集中しています。さらに三年生の中でも兄様と雪ノ下さんの所属しているクラスの女子の数値が非常に高いという傾向が見られます。したがって雪ノ下さんと物理的に接触する機会が多い女子が憎悪値(ヘイト)が高いと考えられます」

 

妥当な考察である。

 

「他のクラスでそれに匹敵するほどの憎悪値(ヘイト)が出ているのはどういうことかしら」

 

雪ノ下さんは時雨に質問をした。確かに他のクラス、さらに他の学年にも高い値を示している人物がいる。

 

「それは意中の男子が雪ノ下さんに告白したからであると考えられます」

 

「なるほど」

 

雪ノ下さんは時雨の説明に納得する。しかしながら私は目をみはった。その数が多いからである。

 

「いったい何人が告白したらこんなことになるのかな」

 

「そうですね。完全に告白した男子を数えれば二十五人、内訳は三年生が二十人、二年生が四人、一年生が一人ですね」

 

「その一人の一年生、バカだとは思うが勇敢であったと記憶しておこう」

 

「はい」

 

私と時雨はその一年生のことを考えながら遠い目をした。

 

「告白されるこちらの身にもなってほしいわね」

 

そんな私と時雨に雪ノ下さんが言葉とともに冷たい視線を送る。それに引き戻され私と時雨は次の話に移った。

 

「それで、雪ノ下さんの上靴の盗難を五月十六日に行おうとしていたのがこちらの方々です」

 

時雨は資料を雪ノ下さんに渡した。その資料は前日に教室で見ていた資料だった。

 

「主犯格は田中さんと島村さんね」

 

「はい」

 

「分かりました。情報提供ありがとう」

 

「いえいえ。では雪ノ下さんから情報提供をいただきたいのですが」

 

時雨は言った。

 

「どんな情報かしら」

 

「五月十七日、雪ノ下さんが登校した時に貴方の上靴はあったのかな」

 

すかさず私は質問した。

 

「あったわ」

 

雪ノ下さんは即答した。

 さて、これにより新たな疑問が発生した。

 

「では、田中・島村一派により奪取されたのはいったい誰の上靴なのかということですね」

 

時雨が言った。

 

「そのとおり。時雨の情報から言えば田中・島村一派が上靴を奪取したのは確実なんだよね」

 

「はい」

 

「だけど、それは彼女らの目標であった雪ノ下さんの上靴ではなかった」

 

「そして、同じ日に貴方の上靴がなくなった。予定調和的に考えれば奪取された上靴は貴方のものなのではないかしら」

 

そうするとさらに疑問が湧いてくる。

 

「どうして目標を変更したのかな。それにどうして私を目標にしたのかな」

 

「……気まぐれですかね」

 

「あれだけ悪名が広がっている彼に対してわざわざ争いを吹っかけたりするかしら」

 

各々が考える。そこで私は一つの可能性に行きついた。

 

「……誤爆」

 

私は呟いた。

 

「え、誤爆」

 

雪ノ下さんは何を言ってるんだみたいな表情でこちらを見る。確かに突拍子もない考えだが一応筋は通る。

 

「どういうことですか。兄様」

 

「雪ノ下さんの靴箱と私の靴箱は隣接しているんだよ」

 

「だから間違えたと。さすがに彼女達そこまでバカではないと思うわよ」

 

「それは普通の状態ならだよ。悪事を働こうとしている時は焦ってるはず、それで一列ずれて上靴を持っていくことは十分に考えられる」

 

「それでも、靴箱には名前が書いてあるわ。間違えようがないと思うのだけれど」

 

「それも焦っていたというのと、雪ノ下さんと私の名前に類似するところがあったことも考えれば」

 

「私と貴方の名前の類似する点?名前の最初の雪しか合っていないのだけれど」

 

「それで充分だよ。そもそも、名前に雪が入っているのは我々のクラスでは雪ノ下さんと私だけだから」

 

「雪という文字が強く印象に残っていればそれも考えられますね」

 

時雨は私の意見に同調した。しかし、雪ノ下さんはまだ納得がいかないようである。

 

「とはいっても、そもそも本当に私の上靴を奪取したかどうかについては状況証拠しかないからどうにもならないんだけどね」

 

物的証拠がなければ相手を問い詰めることはできない。

 

「事態が進展するにしても明日、揺さぶりをかけてからになりますね」

 

時雨はそう言った。

 

「揺さ振り。何をするつもりかしら」

 

私と時雨は揺さぶりの中身を説明した。

 

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