「いらっしゃいませ!」
鈴の音を聞いて、いつものように彼女は愛想良く客を迎えた。
「予約していた鞄を受け取りに来たのだが」
「鞄ですか?…ただいま確認いたしますので少々お待ちください」
直近のやり取りで鞄を注文された記憶がなかった為、彼女は内心焦りつつ注文票に手を伸ばした。
「引き換え票がある」
無愛想に渡された紙を見て、彼女は納得したようにポンと手をうつ。
「ああ、モンペシリーズ春限定商品、『うちの子は天使ランドcell』でございましたか。」
ランドセルは用途から言えば鞄なのかもしれないが、鞄と言われるだけではピンと来なかったのだ。
背後の棚から箱を取り出し、カウンターに置く。
箱から取り出されたのは一見見た目は普通の黒いランドセルだった。
「傷、汚れ等のご確認をお願いします」
黙ってランドセルを受け取り、中を確かめたり肩掛け部分をいじる男の横で、彼女は受け取り受理の手続きを行った。
背中にあたる部分から、一瞬触手のようなものが延びたのを手刀で切る。
「…問題ない」
「使用者登録後の返品は原則受け付けていませんのでご了承ください。領収書は必要ですか?」
「いらん」
「では取り扱い説明書のみお付けしますね。」
再びランドセルを箱に詰め、更に包装紙で包んでいく彼女に、男はまるで独り言の様な声音で話しかけた。
「何か新しく入荷したものはあるか」
「新商品ですか?そうですねぇ…前回予約いただいた時には入荷していなかったものですと…ああ、丁度良いものがいくつか。新学期特設ブースに置いてあるのでちょっと待ってくださいね」
カウンターの板をあげ、小走りでいくつかの防犯ブザーを取ってきた。
「ランドセルといえば防犯ブザー、ですよね!まずはこちら、純粋に防犯ブザーとしての機能を高めたもので、『天まで響け!防犯ブザー!』でございます。こちらの紐を引くことで使用者以外の聴覚を一時的に麻痺させる騒音が発生します。ただし、使い捨てなのですが…」
ぴくりと眉が動く。興味を持っていただけたようだと彼女は口元を緩ませ続けた。
「おっ興味がおありですか?音量にしてなんと300デシベル!一般的な防犯ブザーが100デシベル程度なので、その数百万倍です!誤作動を防ぐ為に、紐は最後まで引き抜けないようになっておりますので小さなお子様でも安心ですよ!この大きさでこの音量を出せるのは世界でもうちだけです!!お買い得ですよ〜今ならブラック、ホワイト、ピンク、ブルーの4色からお選びいただけます、いかがですか?」
「確実に聴覚を麻痺させられるのか?」
「そうですねぇ、鼓膜が破れると言われているのが130デシベルですので、ほぼ間違いないですね。耳を塞ぐと言っても限度がありますし、それに両手が塞がっている間にお子様が不審者から逃げることも可能ですしね。」
「幾らだ」
「ご購入をご検討ですか!10万ジェニーで提供しております」
「黒を一つ買おう」
「ありがとうございます!」
顔をほころばせる彼女に、男は黙ってカードを差し出した。
「またのご来店をお待ちしてますー…ってあ、即決するから『うちの子に手を出すやつは去勢ベル』も『レーザー光線付き防犯ブザー』も紹介しそこねた」
彼女は少し寂しそうな表情で商品を陳列し直した。
読了ありがとうございました。
小学校の頃配られた防犯ブザーにライト機能がついていましたが、当時もすごく無駄な機能だと思っていました。