「いらっしゃいませ!……ってあれ、まだご予約の品は入荷していないのですが……」
見覚えのあるメイド服の女性の来店に、彼女は首を傾げた。
個人的な来店かとも思ったが、メイドの持つ銀色のアタッシュケースには大金が入っていることが予想された。
「ああ、別件です。」
メイドは短く告げると迷う事無く幾つかの瓦礫や木片を手に取って会計へと持ってきた。
どれもよくよく見れば戦闘痕が残っている。
なるほどそういうところから情報を得ることもできよう。目敏いものだ、と彼女は思った。
「合計で50万でどうでしょう。」
「いいえ、会計はまだです。」
メイドはピシャリと言い切る。
「こちらの……無限に遊びたいシリーズ、ございましたよね?」
「はい、ございますが」
「場所はどこでしょう」
「でしたら、現在は特設コーナーに一通り用意がございますので案内しますね」
彼女は店内の一角へとメイドを連れて行った。
「なるほど、これがそういう扱いなのですね。」
メイドはそう言ってから、商品を物色しだす。
「では、また何かありましたらお呼びください。」
随分とこちらに切り込んだ発言をするものだ、と思いつつ、メイドがあまり声をかけることを好まない客である為に彼女は視界の端でメイドを意識しながら店内のディスプレイをいじることにした。
「あの」
「はい、なんでしょう?」
「土砂降りで雷が落ちるような悪天候でも遊べる携帯ゲーム機のカバー、はお作りできますでしょうか?」
普段は崩れることのない来客用の笑みが少し引き攣る。
一方のメイドは淡い笑みをたたえていた。
「…で、可能ですよね?」
「まぁ、可能ですが…」
「では、早期納入、新規依頼費用含め、1000万ジェニーを先にお渡ししようかと。ああご安心ください、当家に有益である限り胸の内に秘めておきます。」
煮え切らない彼女にメイドは言葉を重ねながら、アタッシュケースを音も無く彼女に差し出す。
商品は見ていたけれど、最初から新規で依頼するつもりでこの金額を持って来ていたのだろうか、と彼女は恐らく当たっているであろう自分の予想に辟易した。
作れることが可能だと、彼女の念能力の一端を理解して、断られることを視野にいれず…本当に面倒な客である。
「それはどうも。ええと、早期納入と言いますとどのくらいでしょう…?」
「あなたが作れる最短の期間…というと意地が悪いですね、私どももこちらと長く付き合いたいと考えているので、いつでも構いませんよ。」
「…それは喜ばしい限りです」
「この程度のことを知られても、大した痛手ではないでしょうに。まぁ予約品が納入される頃で構いませんよ。受け取りに二度も来るのは手間ですし。」
予約品がいつこの店に入ったかなんて、彼らには調べれば分かることだ。予約品が届くまでに作るか、それか誤摩化しが効くように相当の期間をあけて納入の連絡を入れる必要がある。煩わせることが良い結果に繋がるとは思えない。勿論選ぶことができるのは前者のみ。
つくづく厄介だ。
「…では、予約品が届く頃に同時に納入いたします。」
「それでお願いします…ああ、そうだ。ご迷惑をおかけするお詫びに一つ」
と、メイドはスッと指を一本立てた。
「はい?」
「こちらの目薬の効果を利用した、偽物の緋の目が出回っているようですよ」
「申し訳ないのですが…お客様がどのような用途で使ったかまで当方で責任は負えません」
「いえ、非難するつもりで言ったのではなく…本物を売った側としては少々腹が立つ行為だろうな、と思いまして。」
「なるほど、ご忠告ありがとうございます…ですが、既にご来店ですね」
なるほど、あの人物の行動はそういう訳だったのかと彼女は益々苦い気持ちになった。
「おや、顧客情報を言っても良いのですか?」
「貸しが多いままだと不安になるんですよ、商人としては」
すると、メイドは妖艶な笑みを浮かべた。
「なるほど。それは良いことを聞きました」
「勘弁してくださいよ…とにかく!1000万と…ああ瓦礫代はおまけします、お預かりしますね。毎度有り難うございます」
投げやり気味に告げて大金を受け取る。
「くれぐれも、よろしくお願いしますね」
「承りますよ、では、またのご来店をお待ちしております」
スッ(指を1本たてて
「弱火でじっくり」