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第1話
7月中旬。
オールスター直前、最後の試合。
甲子園球場は熱気に包まれていた。
4-1で迎えた9回の裏、最後の京都シャークスの攻撃。
東京ガリバーズはそれまで先発で好投していたエース・髙野雄大を降板。
速球派ストッパーのトルヴィン・ゴンザレスをマウンドに送る。
しかし疲労からか球威はあるが制球が定まらない。
連続フォアボールの後SHARKSの1番・筒井章に走者一掃のタイムリーツーベース。
更に2番門倉健にセカンド内野安打を許しワンナウト1,3塁のピンチ。
ここでガリバーズはゴンザレスを諦めた。
ブルペンを担当する宮永ピッチングコーチはため息をついた。
やっぱりそうなるか。
既に4連投のゴンザレスに今日のマウンドは酷だったのだ。
エース高野とて怪我から復帰したばかりで本来8回まで引っ張ったのも問題ではあるのだが。
他の中継ぎがアテになればなあ、とどうにもならないと思いつつも愚痴りたくなった。
予想通りブルペンの電話が鳴った。長栄監督だろう。
いつも通り興奮した口調でまくし立てる。「渡瀬はいけるか」。
準備してるに決まってるだろ。内心そう毒づきながらもいけます、と答えた。
「渡瀬、出番だ」
いつものことながら返事はない。
既に投球の仕上げに入っていた渡瀬は軽く頷いただけだ。
切れ長の目に若き日の高倉健を思わせる容貌は微動だにしない。
その顔に、いつもどれだけ安心させられることか。
リリーフカーに乗る渡瀬の背中で甲子園のアナウンスが鳴り響く。
「東京ガリバーズ、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、ゴンザレスに代わりまして、渡瀬。
9番、ピッチャー、渡瀬。背番号63」
甲子園球場に張り裂けんばかりのブーイングと怒号、そして僅かな悲鳴が木霊した。