ラブライブ!DM   作:レモンジュース

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 遅くなりましたが、ようやく新たな章の始まりです。
 DM関連新規の情報が公開される度に、ワクワクが止まりません。
 まさか《エルフの剣士》に新規が出るとは思いませんでした。……ムービーパック、出るよね?

 それでは、どうぞ。



サレンダーは許されんだー

●ラブライブドラゴンではない

 

 

 

 リーダー騒動、そして優木あんじゅとの激闘から数日後。制服も夏服へと変わり、いよいよ本格的な夏が始まるかという頃。

 台風よりも早く、『アイドル研究部』に新たな嵐が訪れていた。

 

「た、大変ですっ! ラブラ――」

【どうした、小泉花陽。喧しいぞ】

「!?!?」

 

 部室のドアを、『バンッ!』と勢い良く開いて飛び込んできたのは、意外にも花陽だ。普段の大人しい姿からは想像もつかない慌て方である。

 だが、開け放ったドアの先に佇む毛むくじゃらを見た瞬間、口を開けたまま固まってしまった。より正確に言えば、立ったまま気絶していた。

 

「かよちぃいいいいん!?」

 

 凛の悲痛な叫びが木霊し、

 

【ところで、『ラブラ』とはいったい何のことだ?】

「きっと、チューナーモンスター《ラブラドライドラゴン》のことだぜ!」

「お帰りくださいませ、白パカさん」

「アテムさんも暫く黙っていてください」

 

 帰りを促すことりの仕草は、妙に手馴れていたという。

 

 

 

 花陽が意識を取り戻したのは、白パカを『ロボット研究部』へと送り返してから10分後のことだった。隣室からは『飼育小屋に帰りなさいよッ!』と叫ぶ部長の声が聞こえるが、今は花陽の話を聞く方が重要だ。

 ミネラルウォーターを飲んで息を整えながら、ようやく彼女は口を開く。

 

「なんとっ! 『ラブライブ』が開催されることになったんです!」

 

 これ以上ない喜びを露わにしているものの、残るメンバーの反応は薄い。

 

「『ラブライブ』……って、何?」

 

 首を傾げる穂乃果の仕草からもわかるように、誰一人として『ラブライブ』というものを知らなかったのである。全く知らないものに対して反応することは流石に難しいだろう。

 花陽はPCの前に陣取ると、件のホームページを開いて説明を始めた。

 

「例えるならば、『ラブライブ』とはスクールアイドルの甲子園! エントリーしたグループの中から上位20組が本戦に出場することが許され、そこで真のスクールアイドルの頂点を決定する大会です!」

 

 年々、全国的に有名になっているスクールアイドル。これまではランキングのみで競い合っていたが、大会を開催することで各グループの向上心を促すと同時に、より注目を集めようということか。

 彼女が言うには、インターネット上ではかなりの噂になっていたらしい。

 

「今のアイドルランキングから上位20位となると、1位の『A-RISE』は当然出場として、2位の『Butterfly(バタフライ) Dolce(ドルチェ)』、3位の『リスとバンド』! チケット発売日は、初日特典は……! 今から楽しみで仕方ありません!」

「3位のグループ名、おかしくないですか? バンドって……」

「む、侮ってはいけませんよ海未センパイ! 『リスとバンド』は数百種類ものリストバンドを所持していて、ファッション雑誌の仕事も受けているというスクールアイドルで――」

 

 触れてはいけない部分に触れてしまった海未に対して、花陽は機関銃の如き勢いで解説を始めた。先程気絶した時に比べて随分とキャラが変わってしまっているが凛曰く、

 

 ――かよちんがアイドルを語る時はこんな感じだけど、こっちも大好きだにゃー。

 

 とのことである。

 

「スクールアイドルの大会かぁ。せっかくだし出場してみたいよね」

「ああ、穂乃果の言う通りだ。俺たちのカッコいいところを見せてやろうぜ!」

「私も、目指してみるのも悪く無いと思うな。アテムくんは当然除外するけどね」

「ゑ?」

 

 その一方で、穂乃果やことりは出場する気満々だ。興味本位という気持ちもあるのだろうが、出場することができれば音ノ木坂学院の知名度は当然上がる。これにより、入学希望者の増加も見込めるのではないだろうか。

 

「そうは言っても、現実は厳しいわよ。というか、花陽は少し落ち着きなさいよ」

 

 いつの間にか花陽は他のスクールアイドルについても語り続けていたようで、正面に立つ海未の瞳からは生気が薄らいでいた。今この時、事ある毎にことりによって吹き飛ばされているアテムの心境がほんの少しだけ理解できたのだとか。

 

「諦めるなんて、らしくないぜ西木野! お前はそれでもスクールアイドルか!」

現実主義者(リアリスト)よ」

「まぁまぁ、アテムくんも真姫ちゃんも落ち着いて。とりあえず、今の順位を確認してみようよ。ね、海未ちゃん」

「……そうですね。先週見た時は、とてもそんな大会に出られるような順位ではありませんでしたが」

 

 じゃれ付く2人を宥めつつ、ことりと海未はサイト内に存在する自分たちのページを開く。

 確かに『μ’s』は結成から3ヶ月にも満たない駆け出しのグループ。その一方で現在上位に君臨するグループは、いずれも1~2年の間研鑽を積んできた猛者。大会が始まるまでに20位以内のグループと入れ替わるのは『μ’s』でなくとも至難の業であり、10組にも満たない可能性が高い。そのため、真姫の言うことも一理ある。

 

 しかし、海未が言った『先週』というのは、新曲『これからのSomeday』をアップロードする前のこと。

 

「ッ! これは……!」

「凄い……!」

「一気にランクアップしてる!」

 

 驚くべきことに、『μ’s』の順位は一気に10位以上伸びていたのだ。出場可能な順位には程遠いが、前述した『駆け出し』としては異例の順位。それを裏付けるかのように、急上昇のピックアップスクールアイドルにも選ばれている。

 コメント欄にも、誰かが新入生歓迎会の時のライブを投稿した時よりも多くの感想が載せられており――

 

『新しい曲、カッコ良かったです!』

『7人に増えたんですね!』

『衣装も良いけど、舞台装飾も凄い凝ってますね!』

 

 などと絶賛の嵐。中には各メンバーの歌唱やダンスについて指摘するコメントもあったが、言われてみれば納得できるものばかり。つまり、詳しい人が見てくれている証拠だ。

 ちなみに、校舎全体を使った舞台装飾は『ロボット研究部』が協力してくれたおかげである。唐沢は最初に頼んだ時は渋っていたのだが、とある条件を提示したところ快く了承してくれた。

 その内容というのは1週間の間、『にこが弁当を提供する』などといった家事全般の援助。どうやら彼女は一人暮らしをしているらしいのだが、なんと本人は生活能力がほぼ皆無らしい。先日唐沢の家を訪れたにこが『部室よりも荒れている』と評したことからも、相当酷かったのだろう。

 ともあれ、今回投稿したPVの反響は唐沢の協力があってこそ。

 

「唐沢先輩には、本当に感謝しなければいけませんね」

「そうだね、今度ウチの和菓子をご馳走してあげよっかなぁ」

 

 彼女も、今や『μ’s』の裏メンバーと言える。海未たちは、改めて感謝したいと思うと同時に、先程白パカを押し付けたのは申し訳ないとも感じていた。

 

「うわぁ~。こんなにたくさんの人が見てくれるなんて、もしかして凛たちって人気者!?」

「か、可愛いだなんて書かれたら照れちゃいます……」

「……そのせいね。この間のアレは」

 

 皆が画面に見入っている中、真姫は何かを思い出したかのように呟いた。

 なんと彼女は『出待ち』というものを体験し、ファンの女子中学生と一緒に写真を撮ったのだと言う。

 『出待ち』とは、読んで字の如く出入口でファンが芸能人や有名スポーツ選手が出てくるのを待つことを言い、人気のある者にのみ許される特権。

 

「私、全然ない……」

「穂乃果先輩。随分と差がついて悔しいという気持ちはわかりますが、そういうこともあります。

 アイドルというのは、残酷な格差社会でもありますから」

 

 以前実施した歌とダンスの得点はほぼ同じ。眼前のコメント欄にも名前が出ているというのに、『出待ち』という明確な差。穂乃果はその場に崩れ落ちてしまった。

 

「ドンマイだぜ、穂乃果!」

「……アテムくんは私たちみたいに『出待ち』とは無縁だからそんなことが言えるんだよ」

 

 

 

 

 

「いや、俺もこの前『出待ち』されたぜ!」

 

 

 

 

 

『えっ』

「ゑ?」

 

 部室内が、一瞬にして静まり返った。

 

「アテムくん、嘘は良くないと思うよ」

「先輩、頭大丈夫?」

「信じられないにゃー」

「私、『ラブライブ』の開催が嬉しすぎて幻聴を聞いているのかもしれません」

「もしかして、アテムさんは今朝吹き跳んだ時に頭を強く打ってしまったのではないでしょうか」

「ど、どうしよう。私取り返しの付かないことを……」

 

 満場一致で全否定。ここに唐沢がいたら、『アンタたち、相変わらず容赦無いわね』などと華麗にツッコミを入れてくれていたに違いない。

 

「信じてくれ、本当のことなんだぜ! 先週の放課後――」

 

 アテムの言い分は、こうだ。

 

 

 

 ――あ、出てきたよ! ヒトデ頭の男子!

 

 ――噂には聞いてたけど、本当に3色なんだ!

 

 ――この距離なら、撮影しても気付かれないよね!

 

 ――きゃ、目が合ったかも!

 

 

 

 他校の女子生徒が数名、校門から10m以上離れた場所で待ち構えてアテムを撮影していたのだとか。彼女たちは気付かれていないと思っていたようだが、歴戦の決闘者にかかれば自身に向けられる気配は簡単に察知できるのである。

 

「あいつらは、きっと恥ずかしかったに違いないぜ!」

 

 瞳を輝かせながら得意気に語るアテムを見て、穂乃果たちは思う。

 それは、珍獣を遠くから眺めているようなものではないかと。

 

 

 

「でも、写真なんて真姫ちゃんって意外とノリノリだにゃぁ!」

「わ、私は別に……! あの娘たちを悲しませたくなかっただけよ!」

「あー、赤くなったにゃ~!」

 

 入学当初の真姫を知る者から見れば、彼女が写真撮影を快く受ける姿など想像もできないだろう。事実、『μ’s』結成直後にアテムを除く4人でサイトに掲載するための写真を撮影する時ですら海未と揃って最後まで渋っていたくらいなのだから。

 

「……ていっ!」

「あ痛っ!?」

 

 しかし、だからと言って完全に恥じらいが無くなったわけではない。照れ隠しに額へと手刀を振り下ろしたくもなる。

 

「暴力反対だよ~っ!」

「ふんっ。凛がいけないのよ。だいたい――」

 

 

 

「みんな、聞きなさい! 重大ニュースよっ!」

 

 

 

「師匠、いなかったのか!」

「悪かったわね! 最上級生は補習で忙しいの!」

 

 2人がちょっとした言い合いを繰り広げていると、部室のドアが荒々しく開け放たれ、ようやくにこが入ってきた。以前の部活動紹介の撮影の時といい、どうも彼女は重要な時に遅れてやってくることが多い。本人が言うように最上級生だからというのも原因の1つなのだろうが、実際は飼育小屋の前で白パカとデュエルをしているからというのが4割を占めていた。

 

「とにかく、聞いて驚くんじゃないわよ! 今年の夏、ついにスクールアイドルの祭典『ラブライブ』が開催されることになったのよ!

 チューナーモンスター《ラブラドライドラゴン》は関係ないからね! …………え、何その反応の薄さは。もしかして、もう知ってんの?」

 

 両手を広げてドヤ顔を決めるにこであったが、彼女が来る直前まで『ラブライブ』について盛り上がっていたのだから当然驚くことはない。それに――

 

「にこ先輩、《ラブラドライドラゴン》のネタはさっきアテム先輩がやったから」

「……うわ、なんか納得いかないわ」

「そりゃないぜ、師匠!」

 

 同じ発想に至る程に仲が良いとも言えるが、内容が残念だった。

 

 

 

●例外はない

 

 

 

 その後、8人は揃って生徒会室へと赴いた。目的はもちろん、『ラブライブ』出場への許可を得るためである。

 これまではサイトに活動報告を載せ、動画をアップロードするだけだった。そのためある程度は自由に行動することができたのだが、大会に出るとなると話は別だ。音ノ木坂学院の代表として公の場に出るのだから、学校側の許可を得る必要がある。

 

「どう考えても、答えは見えていると思うんだけど」

「大会ぃ? 学校の許可ぁ? 何それ、認められないわぁ。鈍いわね、生徒会が許可するはずないでしょぉ?

 ……こんな感じかな」

「中々『ふいんき』出てるぜ星空! なぁ、園田!」

「間違いなく喧嘩売ってますよね、それ。あと『ふいんき』ではなく『雰囲気』です」

 

 緊張感のない凛とアテムの発言は置いておいても、あの生徒会長がそう簡単に許可を出すとは思えないということは、ドアの前に立つ穂乃果も理解している。

 

「『ラブライブ』に出場できれば絶対に生徒を集められると思うんだけどなぁ」

「そんなことはあの生徒会長には関係ないでしょ。私たちのことを目の敵にしてるもの」

「俺も、今朝あった時になぜか睨まれたぜ」

 

 彼が原因の1つであることは間違いないが、何もそれだけということはないだろう。では、なぜ?

 

「もしかして学校内での人気を!」

「俺に!」

「私に!」

 

『奪われるのが怖くて!』

 

「それはないわね、2人とも引っ込んでて。

 もう許可なんて取らずに、勝手にエントリーすればいいと思うわよ」

 

 空き教室に師弟を押し込んだ真姫は、至極強引なことを言い出した。しかし、彼女の意見に花陽は異を唱える。

 

「ダメだよ、真姫ちゃん。エントリーの条件に『学校側の許可を得ること』って書いてあるもん」

 

 スクールアイドルは、一般のアイドルと違って部活動の延長に近い。であれば当然、学校側の許可を得ない訳にはいかない。

 しかも、顔・個人名・学校名といった多くの個人情報までもインターネット上に公開しているのだ。先の話で出た『出待ち』程度ならば良いが、何らかのトラブルが発生してからでは遅いのだ。

 

「じゃあ、直接理事長に頼んでみるっていうのは? 親族っていう権力もあることだし、なんとかなると思うわよ」

 

 真姫が左に視線を移すと、全員の視線が1つに集中する。理事長の娘でもある、ことりだ。

 

「確かに、直接理事長のところへ行くことは禁止されてはいませんが……」

「だ、大丈夫でしょうか……」

 

 禁止されていないからという屁理屈だが、最初から望みが薄い生徒会長を相手にするよりも、話がしやすい理事長に話を通そうということである。

 僅かな希望を胸に、穂乃果たちは理事長室へと場所を移した。

 

 

 

 

 

「どうしよう……」

 

 意気込んではいたものの、改めて訪れた場所はドアの造りからして荘厳の気配を放つ理事長室。

 例えるならば、伏せ(リバース)カードを5枚セットしている状況で、『攻撃・カードの発動をしてもいいけど、これ罠ですよ』と宣言するようなもの。

 

「さ、さらに入りにくい緊張感が……!」

「そんなこと言ってる場合? いつもガン伏せしてる状況で突っ込んでるじゃない」

「しかも、結果としてミラフォ踏んで全滅してるわよね」

「それとこれとは話が別だよ! あと、にこ先輩もさり気なく失敗フラグ立てるのやめて! ……とにかく、入るよ」

 

 真姫たちに茶化されて少々落ち着いたのか、穂乃果は1度だけ息を呑んで右手を上げる。だが、それと同時にドアが開かれ、中から2人の生徒が顔を出す。

 

「皆、お揃いでどうしたん?」

「貴女たち、何をしに来たんですか」

 

 生徒会長と副会長、できれば会わずに事を済ませようと思っていた人物だ。希は普段通りの反応だが、一方の絵里は歓迎ムードとは程遠い表情を見せる。特に、アテムに対してはよりキツい視線を向けていた。

 

「理事長にお話があって来ました」

「話? 各部から学院への申請は、生徒会を通す決まりよ」

「『申請』とは言ってないわ! ただ話があるの!」

「同じことよ。規則は規則、守っていただかないと困ります」

 

 噛み付くような真姫の態度に対しても、絵里は冷淡な表情を緩めない。

 

「真姫ちゃん、上級生だよ」

「エリちも、頭ごなしに怒るのは良くないんやない?」

 

 一触即発な2人の間に穂乃果と希が介入するが、両者の相性はあまり良くないらしい。一瞬引き下がったものの、冷たい空気が辺りを包み込む。

 

 

 

 ――コンコンッ

 

 

 

「どうしたの? 何か話があるなら、中でどうぞ」

 

 しかし、部屋の主でもある理事長がドアを叩くと、その空気は霧散した。確かに理事長室の前で言い争いをしていても、迷惑をかけてしまうだけだ。絵里たちを含む10人は、揃って入室することとなった。

 中に入ると、穂乃果たちはすぐに『ラブライブ』に関するページを理事長へと見せる。一通り閲覧した彼女の反応は、概ね好意的だ。

 

「アテムくんは絶対に踊らせたりしないから安心していいよ、お母さん」

「あら、そうなの」

「……理事長は、学校のために学校生活を疎かにすべきではないと仰っていました。であれば、彼女たちの活動も良くないのではないでしょうか」

 

 それでも、やはり絵里は逆の反応を見せる。穂乃果たちと理事長の間に立つ彼女は、真姫と対峙した時以上に機嫌を悪くしていた。

 

「確かに言ったわね。でも、いいんじゃないかしら。エントリーするくらいなら」

「本当ですかっ!?」

「なっ……! ちょっと待ってください! どうして彼女たちの肩を持つんですか!」

 

 絵里の反対意見を流しつつ出場許可を出す理事長に対し穂乃果たちは笑顔を見せ、反対に絵里は声を荒げる。目の前で自分が出したものとは逆の意見が採用されれば、納得できないと思うのは当然のことだろう。

 

「別にそんなつもりはないわよ。スクールアイドルの数は1000組以上。その中で上位20組に入るために精一杯努力するのは、悪くないはずよ」

「だ、だったら生徒会も学校を存続させるために活動しても良いのでは!?」

「……それはダメね」

「意味が、わかりません……ッ!」

「そう? 簡単なことよ」

 

 これまで幾度と無く『生徒会として活動をしたい』と申し出ても却下していたにも関わらず、『μ’s』の活動については否定どころか全肯定。あまりにも理不尽な差に、絵里は『失礼します』とだけ告げると、足早に退室してしまった。

 やや気まずい空気に包まれる中、理事長は『ただし、条件があります』と話を続ける。

 

「絢瀬さんが言っていましたが、学生である以上は学校生活を疎かにしてはいけません。今度の期末試験で1人でも赤点を取るようなことがあったら、『ラブライブ』へのエントリーは認めません。いいですね?」

 

 ビデオ撮影の際に希がナレーションで述べていたが、スクールアイドルは学生であることが大前提。プロのアイドルのように授業を休むことは許されず、日々の授業をしっかり受けなければならない。

 特に『μ’s』は音ノ木坂学院を廃校させないために結成されたグループ。そんな彼女たちの中から赤点を取る者が現れれば、説得力を持たせることができなくなってしまう。

 もっとも、授業中に何度も居眠りをしている穂乃果は言うまでもなく……。凛、そしてにこを含めた3人はその場に崩れ落ちた。

 

「皆、頑張れよ!」

「アテムくん、貴方もです」

「……ゑ?」

 

 その瞬間、2年生全員の表情が凍り付く。それこそ、絵里が放った冷淡な空気とは比べ物にならない程に。

 

「お、お母さん? アテムくんの成績は編入前のテストで大体わかってるんだよね?」

「そうですよ、理事長! アテムさんは私たちのように踊るわけではないのですから――」

「例外はありません。舞台に上がらずとも、アテムくんも音ノ木坂学院の生徒であると同時に、『μ’s』のメンバー。1人だけ特別扱いすることは断じて認めません」

 

 ……。

 

 打ちひしがれる者、1人追加。やがて8人は一斉に問う。

 

『サレンダーは?』

 

「許されへんよ。ですよね、理事長」

「はい、皆さん頑張ってくださいね」

 

 現実は非情だった。

 

 

 

●「選択して」と「選んで」は同じではない

 

 

 

「真に!」

「申し訳!」

「ありません!」

 

 部室に戻るやいなや、アテム、穂乃果、凛の3人は机に指をついて謝罪した。やはりアテムの頭髪の長さは迷惑であり、対面のことりはイス1つ分左に移動する。

 

「穂乃果の成績が芳しくないのは、小学生の頃から知っていましたが……」

「数学だけだよ! ほら、小学校の頃から算数苦手だったでしょ?」

「……ええ、そうでしたね。7×4(しちし)?」

「えっと……、26?」

 

 正しくは28である。

 

「それでは、これは解けますか?」

 

 海未はデュエルディスクを起動して、数枚のカード情報を唸る穂乃果の前に提示する。

 

 

 

 《マハー・ヴァイロ》ATK1550(モンスター)

 《スケープ・ゴート》(速攻魔法)

 《団結の力》(装備魔法)

 《魔導師の力》(装備魔法)

 

 

 

「今、穂乃果のモンスターゾーンには《マハー・ヴァイロ》と速攻魔法《スケープ・ゴート》の効果で特殊召喚した「羊トークン」が4体フィールドに並んでいます。

 攻撃力1550の《マハー・ヴァイロ》には2枚の装備魔法《団結の力》と《魔導師の力》が装備されていて、《マハー・ヴァイロ》は自身に装備された装備カード1枚につき攻撃力が500ポイントアップ。

 《団結の力》は、自分フィールド上のモンスター1体につき攻撃力と守備力が800ポイントアップ。

 《魔導師の力》は、自分フィールド上の魔法・罠1枚につき、攻撃力と守備力が500ポイントアップ。

 穂乃果のフィールドに他のカードが無いとき、《マハー・ヴァイロ》の攻撃力はいくつになりますか?」

「え、海未センパイ?」

 

 然程複雑ではないとはいえ、九九すら怪しい穂乃果に対してその問題が正しく解けるのか。そんな心配をする花陽であったが……。

 

「7550!」

「…………正解です」

「えー……」

 

 それが解けて、なぜ九九でつまずくのか。

 

「り、凛ちゃんは英語が苦手なんだよね?」

「そうなんだよぉ、英語だけは肌に合わなくて。大体、凛たちは日本人なのにどうして外国の言葉を勉強しなくちゃいけないの!?」

「えっと、じゃあ……」

 

 姑息な言い訳をする凛に対して、ふと花陽は今の穂乃果と海未のやり取りに似た問題を出してみた。

 

「モンスターカード《ハーピィ・レディ・SB(サイバー・ボンテージ)》のカード名は、本来のカード名としてはおかしいんだけど、どうしてかわかる?」

「もちろん! 『サイバー』を英語で書くと『Cyber』になるから、『S』じゃなくて『C』なんだよね!」

「…………正解」

「なんでそれがわかるのよ」

 

 単純な英単語だからといって、英語が大の苦手と豪語する者が即答できるのは、おかしくはないだろうか。

 

「ちなみに、アテム先輩の成績ってどんだけ酷いの?」

「中間試験は散々だったぜ!」

「自慢気に言うことじゃないでしょ、それ。……ちなみに、これは解ける? 簡単なものだけど」

 

 穂乃果、そして凛という例があったためか、真姫は試しに問題をいくつか出してみる。

 

 

 

「カウンター罠《神の宣告》によって無効にできるのは、《カオス・ソルジャー-開闢の使者-》自身の効果による特殊召喚と、《ダーク・シムルグ》自身の効果による特殊召喚のどっち?」

「開闢の使者だぜ! 《ダーク・シムルグ》の特殊召喚方法は開闢の使者と似ているが、『墓地の闇属性と風属性を除外して発動(・・)する』ため、チェーンに乗る! 《神の宣告》は、『モンスター効果の発動』による特殊召喚を無効にはできない!」

 

「次。通常召喚できない《カオス・ソルジャー-開闢の使者-》を自身の効果で特殊召喚する時、《神の宣告》によって無効にされた。その場合、《死者蘇生》で特殊召喚することはできる?」

「《神の宣告》などで特殊召喚を無効にされた『このカードは通常召喚できない』と記されたモンスターは、蘇生制限を満たしていない。よって、他のカードで特殊召喚することはできないぜ!」

 

「次。裏側守備表示で存在する《引きガエル》が戦闘破壊された時、『フィールド上に表側表示で存在するこのカードが墓地へ送られた時』の効果は発動する?」

「昔はできなかったが、今は発動するぜ!」

 

「次。裏側守備表示で存在する《ハウスダストン》が戦闘破壊された時、『フィールド上に表側表示で存在するこのカードが相手によって破壊され墓地へ送られた時』の効果は発動する?」

「テキストは似ているが、なぜか発動しないぜ!」

 

「次。《破壊剣士の宿命》の効果を発動する時、相手の墓地に存在する魔法使い族モンスター3体を対象とした。その発動にチェーンして相手が《リビングデッドの呼び声》を発動することで、内1体が特殊召喚された場合、効果は有効?」

「有効だぜ! 《貪欲な瓶》は効果解決時に『そのカード5体(・・)をデッキに加えて』と数が指定されているため、1体でも対象が消失したら不発に終わる。

 だが、《破壊剣士の宿命》は発動時に『3枚まで(・・)』対象として、効果解決時に『そのモンスターを除外し』と書かれているため、最終的に除外する数を指定していない。よって、1体が墓地から消失しても残りのモンスターは除外されるぜ!」

 

「最後。今、罠カード《あまのじゃくの呪い》の効果によって、攻撃力・守備力のアップ・ダウンは逆に作用しているわ。

 フィールドには罠カードの効果を受けない《天下人 紫炎》が存在していて、攻撃力は1500。これに攻撃力を800ポイント上昇させる《融合武器ムラサメブレード》を装備すると、攻撃力はどうなる?」

「《あまのじゃくの呪い》は、『モンスター』ではなく『ルール』に干渉する。言い方を変えれば、《融合武器ムラサメブレード》のテキストを『アップ』から『ダウン』に書き換えるようなもの。よって、攻撃力は800ポイントダウンして、700になる!」

 

 

 

「…………全問正解」

「ふっ、決闘者なら当然だぜ!」

「その努力を勉強に回しなさいよッ!!」

 

 急上昇のピックアップスクールアイドルに選ばれたグループが期末試験で赤点を取ったせいで出場許可すら得られなかったなどと知られれば、いい反面教師である。

 

「ま、まったく! アンタたちはホント仕方ないわねぇ! あ、あああ赤点なんて絶対取っちゃダメよ!」

「にこ先輩、動揺しすぎです」

 

 皆に背を向け、数学の教科書を逆さに持つにこの声と手は、明らかに震えていた。

 

「それはともかく、このままでは『ラブライブ』に出場することは到底不可能。試験までに4人の勉強を見て、弱点克服に努めなければなりません」

「でも、どうするの? 私と花陽が凛を見るとしても、にこ先輩は3年生。穂乃果先輩とアテム先輩も、1人ずつ見ていたんじゃ、とてもじゃないけど間に合わないと思うわよ」

「そうだよねぇ……」

 

 真姫の指摘に、ことりはどうすべきかと考えを巡らせる。期末試験まで残り1週間程度しかない。これまで海未とことりが穂乃果の勉強を手伝った時は、2人がかりでようやく形になったのだ。

 そこに、アテムという一層赤点を取りかねない人物の勉強を見るとなると、なんとかなるとは思えない。

 

「それは、ウチらが担当するわ」

「なんで私が……」

【我もいるぞ!】

 

 すると部室のドアをゆっくりと開かれ、入室して来た2人の生徒とアルパカ。

 

「希に、唐沢」

「白パカまで、どうしたんだ?」

 

 唐沢の方は渋々といった様子だが、2人とも『μ’s』のために協力してくれるようだ。ちなみに、白パカはノリノリである。

 

「にこっちはウチが、アテムくんはリコちゃんと白パカくんが見てあげれば、穂乃果ちゃんを海未ちゃんとことりちゃんの2人で見れるやろ?」

「確かにそうですが……。アテムさんを1週間で赤点が回避できるまでの成績にするというのは、かなりの難題ですよ?」

 

 海未の脳裏によぎるのは、中間試験の答案が返って来た時のアテムの表情。まるで、この世の終わりを体験したかのような姿は今でも忘れることができない。

 

「なんとかなるんじゃないかしら。私、これでも学年トップよ」

 

『ゑ?』

 

「……揃ってその反応は傷つくんだけど」

「驚くのもわかるけど、ホントのことやで。それに、リコちゃんは教えるのもけっこう上手いんよ。ウチもたまに質問しとるし」

「ああ、そう言えばそうだったわね」

 

 確かに彼女は、アルパカにデュエルと会話ができるようにする装置を発明した人物だ。勉学に秀でているということは十分に考えられる。しかも他人に教えることもできるということは、内容をよく理解できているということだ。

 

【我も唐沢のおかげで高卒程度の学力なら持ち合わせている。2学年1学期の期末試験なら余裕だ。貴様たちには日々世話になっているからな、ここで少しでも恩を返させて貰おう】

「おお、それは心強いぜ!」

「アテムさん、貴方という人は……」

 

 アルパカに勉強を教わる人間、なんとシュールな光景であろうか。一同、想像するだけで目眩がした。だが、これまでの付き合いで白パカの人(?)となりはある程度理解している。唐沢が発明した装置を用いているだけあって、通常のアルパカよりも発達した頭脳を持っているのかもしれない。

 

「よ~し、これで準備は整ったね! 明日から頑張ろう!」

「おー!」

「Yeah!」

「さぁ、練習よ!」

 

「今日からですっ!」

「ふざけてる人は、ブレイブクロー・レヴォリューション(物理)だからね♪」

 

 

 

『真面目に勉強させて頂きますッ!!』

 

 

 

【前途多難だな、唐沢】

「……本当に大丈夫かしら」

 

 後に、唐沢久里子は語る。

 この日から1週間は、勉強を教えるという行為がどれ程困難なことであるかを改めて認識する日々であったと。

 

 

 

●オマケ

 

 

 

 期末試験、それはどの高校でも行なわれる。

 

「ツバサちゃん、試験勉強は順調?」

「もっちろん! 今の調子なら全教科90点以上は余裕よ」

 

 UTX学院もその例に漏れず、『A-RISE』の3人はカフェスペースで勉学に励んでいた。

 

「ところで、あんじゅは知ってる? 『μ’s』がピックアップスクールアイドルに選ばれたらしいわよ」

「ええ。歌・ダンスともに多少は伸びていたし、衣装や舞台装飾も中々良くできていたわね。私たちにも協力して欲しいくらい」

「彼女たちの成長速度は、結成から3ヶ月程度のグループの中では間違いなくトップクラス。今のダンスでは到底『ラブライブ』出場は見込めないでしょうけど、もしもダンスを指導できる人物が現れれば、上位20組に食い込む可能性は大いに考えられるわ」

 

 ツバサの表情からは、焦燥感に駆られる様子は一切見られない。瞳は爛々と輝き、いつか訪れる好敵手(ライバル)との戦いを心待ちにしていた。

 

「2人とも、そこまでにしておいた方がいい。私たちは、今も貴重な練習時間を削って勉強しているんだ。雑談に興じる暇などないはずだ」

「はーい、英玲奈ちゃんは相変わらず厳しいわねぇ。でも、全教科80点以上取らないと練習時間を減らされちゃうし、私たちも頑張らないと」

「成績落とした結果、万が一にも『ラブライブ』出場を許可されない、なんてことになったら赤っ恥じゃ済まないものね。今頃はアテムくんや高坂さんたちも頑張って勉強しているはずだし、1つ気合を入れるとしましょうか」

 

(もっとも、《サクリボー》と《一族の掟》のコンボを考えるような決闘者が、赤点なんて取るとは思えないけどね)

 

 それから最終下校時刻になるまで、3人の間に雑談は一切無かった。

 

 

 

 世の中には、知らなくて良いことがあるのかもしれない。

 





 アテム(遊戯)って一応決闘王の称号を持っている人物ですし、原作では作中で描写されていないだけで、近所の子供が寄って来るということが頻繁にあってもおかしくはない気がする。

 次回もよろしくお願いします。

 《補足》
 Butterfly = 蝶 → 蝶野さなぎ
 Dolce = マドルチェ → さなぎのWDCでの使用デッキ
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