ラブライブ!DM   作:レモンジュース

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 挿入投稿という形になりますが、ようやく穂乃果のデュエルとなります。
 穂乃果、というか原作における主人公のデュエルがここまで遅くなるのは特定の作品を題材とした架空デュエルでは非常に珍しい、はず。
 これも全部アテムさんのせい。

 それでは、どうぞ!



何! カードを書き換えただと!?

●家族だからね!

 

 

 

「ふぅ、酷い目に遭ったぜ」

「ことりちゃんのお母さんに怒られた後で、今度はお巡りさんに通報されるとは思わなかったよ……」

 

 海未とことりと別れ、高坂家へと歩を進めていたアテムと穂乃果。理事長からの説教を受け、これ以上疲れることはないだろうと高を括っていた彼らであったが、そうは問屋が卸さなかった。

 半裸に近い衣服を纏ったアテムは、その格好のせいで近隣住民に通報され、つい先程まで交番で厳重注意を受けていたのだ。一緒にいた穂乃果のおかげか、15分で解放されたものの警察官からの説教を受けるというのは中々に堪えたらしい。交番を出た彼らの足取りはいつになく重い。

 

 ――グゥ~

 

「……腹減ったな、高坂」

「私だってお腹ペコペコだよぉ~」

 

 現在時刻は18時53分。穂乃果にとっては普段なら夕飯を食べている時間であり、腹の虫も鳴りっぱなしである。

 また、アテムは武藤遊戯とのデュエルの直後にこの世界へと転移。そのまま試験、更には海未とのデュエルまで行なったのだ。その疲労と空腹はかなりのものであろう。

 

「家まであと少し…………あ、そうだ!」

「? どうした、高坂」

 

 何かを思いついたのか、穂乃果は急に立ち止まった。そして彼女は――

 

「ねぇ、アテムくん。これからは私の事、名前で呼んで欲しいな」

「……それは別に構わないが。どうしたんだ、急に」

「だって、アテムくんはこれから暫くの間は一緒に暮らす家族になるんでしょ? 妹の雪穂や、お母さんだっているんだし、苗字よりも穂乃果って呼ぶべき…………って、なんで泣いてるの!?」

 

 またもや突然泣き出すアテムに、穂乃果は戸惑いを隠せない。

 何故? 彼のメンタルが弱いのはこの数時間で把握済みだが、今の台詞の中にショックを受ける要素は無かったはずだ。

 

「出会ったばかりの俺を家族と呼んでくれるのか……! 高坂……、いや、穂乃果! お前はなんていい奴なんだ……!」

 

 穂乃果は、薄暗い住宅地ですすり泣く不審な男子、アテムをあやしながら改めて思う。彼はただ泣き虫なだけではなく、感受性が豊かすぎるだけなのかもしれないと。

 デュエルの時は頼りになる兄のような存在、しかし普段は手のかかる弟。その二面性が少し面白かった。

 

(お兄ちゃんと弟が一緒にやってきたみたいで嬉しいな…………でも、)

 

 いくつもの窓が開け放たれ、人々の声が聞こえてくる。

 

 

 

 ――おいおい、こんな時間に誰だ。 どっかの男が振られたのかぁ?

 

 ――怪しい奴め。このオレが見つけて腹パンしてやる!

 

 ――警察に通報して、デュエルで拘束しないと!

 

 

 

 この短時間で2度も警察のお世話になるのは、正直勘弁願いたい。

 

(さっさと帰ろう……!)

 

 未だ泣き続けるアテムを引き摺りながら、家路を急ぐ穂乃果であった。

 

 

 

●世話になるぜ!

 

 

 

 穂乃果がアテムを引き摺っているのと同じ頃。

 高坂家では、穂乃果の父母が忙しなく動き回っていた。

 

「まさか穂乃果が彼氏を連れてくるなんてねぇ。万が一別れたりしないようにちゃんとおもてなししないと!」

「……」

 

 普段よりも手の込んだ夕飯を作る母と、無言ではあるものの口元を緩めて饅頭(まんじゅう)を作る父。

 

「まったく……。2人とも、お姉ちゃんが男の人を連れてくるだけなのに大げさだなぁ」

 

 そんな両親にちょっぴり呆れながら、穂乃果の妹・雪穂は1人きりの店のカウンターで、頬杖をついて呟いた。

 現在、彼女は店番を任されている状態だ。店内に客がいないとはいえ、だらしのない格好をするのはよろしくない。

 しかし、もうすぐ19時になろうという時間に来店する客は滅多になく、平日のこの時間にやってくるのは大抵がご近所さん。それ程気にする必要はない(良くないことに変わりはないが)。

 それに両親は、まだ4月とはいえ仮にも受験生である女子中学生に3時間以上店番を任せているのだ。直接言わないまでも、多少の愚痴は大目に見て貰いたい。

 

 

 

 中学生の娘1人に長時間店を任せている両親。彼女たちがそうなってしまうことには、訳がある。

 

 話題の中心となっている穂乃果は、これまでの人生で男っ気が全くと言っていい程無かった。

 念の為に断っておくが、これまで男性から好意を持たれなかったというわけではない。いや、むしろ逆だ。

 彼女は小学校でも中学校でも、生来持っている天真爛漫さによって、多くの男子生徒から人気があり、何度か告白されたこともある。

 しかし、

 

 

 

 ――こ、高坂さん! 俺、高坂さんのこと、好きです!

 

 ――うん! 私も好きだよ!

 

 ――本当!? それじゃあ……!

 

 ――これからも、ずっと『と も だ ち』でいようね♪

 

 

 

 この有様である。

 告白してきた相手に嫌悪感を抱いているわけでもなく、かといって男女としての告白を受けたという自覚もない。

 ある意味では『嫌い』と言われるよりも残酷な失恋を経験した男子は暫くの間、茫然自失状態になったという話だ。

 

(そんなお姉ちゃんが会ったばかりの男子を連れてくる、これは一大事だよねぇ)

 

 穂乃果にとっては、他に行く場所のない『友達』を助けてあげようという親切心なのかもしれない。それでも、女子校通いの彼女が滅多に出会うことのない男子と交流を持つことには大きな意味がある。

 出会ったばかりで居候を許してしまう程だ。この機会に、その『アテム』という男子をキープしておくのは、悪い選択ではないだろう。

 

 

 

 ――ガラッ

 

 

 

「ただいま雪穂。アテムくん連れてきたよ!」

 

 連絡を受けてから随分と時間が経過していたが、ようやく帰ってきたようだ。

 しかし、両親は未だ歓迎の準備が整っていないらしい。家の奥からバタバタと動き回る音が続いている。

 

「お帰り、お姉ちゃん。……あれ? 例のアテムさんって人は?」

 

 戸の前に立っているのは穂乃果1人だけ。肝心の『アテム』という人物の姿はない。

 いや、姿は見えないが男性がすすり泣く声だけは聞こえてくる。

 

(この声の主がアテムって人? なんで泣いてるんだろう……)

 

「とりあえずもう遅い時間なんだし、早く家に入れてあげれば?」

 

 実を言うと、先程から腹の虫が鳴っているのだ。店もそろそろ閉める時間だし、やることはさっさと終わらせてしまいたい。

 

「う~ん、それもそうだね。アテムくん、いい加減泣き止んで入って入って!」

 

 ――ああ、そうだな。涙を流すダサい姿を晒すわけにはいかないからな!

 

(……泣き声を人に聞かせる時点で、もう手遅れな気がするんだけど)

 

 初対面の相手に格好つけたいようだが、泣き声を聞いてしまっているため、既に『ちょっとダサい人』という印象を持ってしまっていた。

 

(まぁ、いいか。声を聞く限り悪い人じゃなさそうだし。私も第一印象を良くするために元気な挨拶をしないとね)

 

「いらっしゃ…………い?」

 

 

 

 だが、その姿を見た瞬間。語尾は上擦り、表情は笑顔のまま固まってしまった。

 

 

 

 ……まさか、こんな人を居候させようと言うのか。

 

「お前が穂乃果の妹、雪穂か。

 我が名はアテム! ATMと書いてアテム! KKA、かしこいかっこいいアテムだ!

 これから世話になるぜ! Yeah!」

 

 赤、黒、黄。3色がキレイな配分と交じり合ったヒトデ頭。

 日本では見かけることのないであろう、露出の多い異国の衣装。

 更に、意味不明の言動。

 

 

 

 不審者としか形容できない人物が、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

(なんだろう、この空気。おかしいのは私だけなの?)

 

 それから十数分。穂乃果の両親へ一通りの挨拶を終えたアテムは、早速夕飯をご馳走になっていた。

 穂乃果たちは知らないが、アテムは前の世界ではデュエルモンスターズを始めとしたゲームをする場合を除いて滅多に表に出ることが無かったため、食事をした回数は極端に少ない。

 武藤遊戯の母が作る食事も、満腹感を得ることはあっても具体的な匂いや味を感じることはできなかったのだ。

 そのためか、穂乃果の母が作った料理、いわゆる『お袋の味』は彼を感動させるには十分であった。

 

「中々に美味い飯だったぜ。ありがとう、お袋! それに、この饅頭もな。いい腕してるぜ、オヤジ!」

「こちらこそ、お粗末さまでした。アテムくんも本当にいい食べっぷりだし、作ってる側としてとても嬉しかったわ。お父さんもそう思うでしょ?」

「……」

 

 言葉を発することなく、1度だけ首肯する穂乃果の父。これまで一言も喋っていないが、脇に置いてある和菓子を次々とアテムへ差し出す様子から、その喜びようが伺える。

 

「アテムくん、見ていて面白いよね。雪穂もそう思うでしょ?」

「う、うん……」

 

 確かに、豪快な食べっぷりや、感情を素直に表現する姿は見ている分には少し面白いし、父母の受けはいいのかもしれない。また、挨拶の時も敬語で接しようとした雪穂に対して『敬語なんて使わず、気楽に接してくれていいぜ!』と言っていたことからも、普通にしていれば気さくな好青年なのかもしれない。

 だが、いくらなんでも元気すぎやしないだろうか。

 雪穂としては、ただでさえ騒がしい姉に加えて、更にテンションの高い男性と1つ屋根の下で暮らすのは精神的に疲れるのではないかという懸念があった。

 

(お父さんもお母さんも、もうお姉ちゃんの彼氏とか関係なしに気に入ったみたいだし、余所に行って貰うっていう選択肢はないんだろうなぁ)

 

 

 

 ――アテムくん、まだたくさん余っているのだから遠慮無く食べて大丈夫よ。

 

 ――そうか!感謝するぜ、お袋! この美味さなら幾つでも食べられ…………んぐっ!?

 

 ――だ、大丈夫!? もう、一気食べるからそうなるの! ほら、お水飲んで!

 

 

 

「あ、そうだ雪穂。私、大事なこと言うの忘れてた!」

「……たった今目の前で1つの命が危険な目に遭っているけど、何?」

「私ね、海未ちゃんとことりちゃんと一緒にスクールアイドル始めたんだよっ!」

「へぇ、そうなんだ」

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

「ハァ!?」

 

 目の前でほむまんを一気食いして喉を詰まらせるお馬鹿なヒトデ頭。そんな状況でとんでもないことを言い出す姉。

 これからの生活に不安を感じずにはいられない雪穂であった。

 

 

 

●友情の証

 

 

 

「ここが私の部屋だよ、どうぞ!」

「へぇ、中々キレイな部屋じゃないか」

 

 命の危機を乗り越え、入浴を終えたアテムは穂乃果の自室へと案内された。

 なお、今の彼の服装はラフなパジャマ姿。元々は穂乃果の父が着ていたものだが、アテムの身長は160cmにも満たないため、袖や裾がかなり余っている。そのため、今は穂乃果の母が、明日以降にアテムが着るための服を仕立て直しているところだ。

 

 堂々と女子の部屋に入っていくアテムの非常識さと、出会ったばかりの男子を躊躇なく部屋に招き入れる穂乃果。その様子を見る限り、異性として意識している様子は全く見られない。

 仲睦まじく会話を進める様子を見て、改めて雪穂は彼らが本当にただの友達なのだと把握した。

 それと同時に、このヒトデ頭の男性が姉にいかがわしいことをしないという安心感と、1つ屋根の下にあっても異性を意識しない姉の鈍感さに対する不安も一緒に感じられた。

 

 そんな雪穂の心境など知らず、アテムと穂乃果はテーブルの上にカードを広げ始めていた。

 

「俺が知らないカードがこんなにもあるとはな。これ全部、本当に貰ってもいいのか?

 オヤジから譲り受けたカードとデュエルディスクだけでも、俺は十分なんだが」

「気にしないでいいってば。カード(この子)たちも、箱やファイルに入ってるくらいなら誰かに使って貰ったほうが絶対に喜んでくれるしね」

「……そうか、ならばありがたく使わせて貰うぜ!」

 

 アテムの腕には、数十枚のカードとともに、塗装が剥がれ気味のデュエルディスクが抱えられている。彼が言うように、これらは穂乃果の父がアテムへと無償で渡したものである。

 

 

 

 穂乃果の父もかつては自分でデュエルディスクを作製し、信じるデッキとともにプロリーグで活躍した過去を持つ。

 しかし結婚してからというもの、勝敗によって収入が大きく変動するデュエルモンスターズで家族を養っていくことに限界を感じたのか、穂乃果が生まれる時期を境に現役引退を宣言。それ以来は元々副業であった和菓子屋に専念し、現在に至る。

 そして引退から十数年たった今では、デュエルは時々家族と行なう程度である。

 

 彼がアテムに渡したデュエルディスクも少々型が古いが、しっかりメンテナンスをすればまだまだ現役で使用可能だ。

 

 

 

「あと、このカードもあげる! アテムくんのデッキにピッタリのレアカードだよっ!」

 

 続いて穂乃果がファイルから取り出したのは、市場ではそれなりの値段がつけられているレアカード。あまり使用されていなかったのか、どの面を見ても傷ひとつ見当たらない。

 

「お姉ちゃん、それ譲っちゃうの? パックで当てた時に大喜びしてたのに」

「そうなのか? それ程大切なカードをどうして俺に?」

「いやぁ、私のデッキに相性が良いと思って当たった時は大喜びしたんだけど、上手く使いこなせなかったから結局抜いちゃったんだ。

 でも、アテムくんならきっと使いこなしてくれるだろうし、貰ってくれないかな?」

「穂乃果……」

 

 程度の差はあれど、全てのカードにはそれぞれ決闘者の魂が宿る。使用頻度が少なかろうとそれは変わらない。

 すなわち、カードを売却・トレード・譲渡するという行為は、自らの魂の一部を他者へ分け与えることに等しい。その中でも、譲渡は他の2つと違い渡す側には一切のリターンがない以上、より信頼している相手でなければ行なわれない。

 

(それを平然とやっちゃうなんて、お姉ちゃんはよっぽどアテムさんのことを信頼しているんだね)

 

「感謝するぜ、このカードはお前自身だと思って大切に使わせて貰う! よし、早速こいつとオヤジから貰ったカードをデッキに入れてデュエルだ!」

「いいよ! 海未ちゃんに勝ったアテムくんに勝てば私が1番強いことになるからね! 受けて立つよ!」

 

(……でも、このノリに慣れるのはまだ暫くかかりそうだなぁ)

 

 数枚のカードをそのまま投入したデッキをデュエルディスクに差し込み、アテムは準備を整える。穂乃果の方も、カバンからデュエルディスクを取り出し、自らのデッキを差し込んだ。

 双方のデュエルディスクがオートシャッフル機能を起動させ、デッキは入念に混ぜられていく。最後に初期手札5枚をドローして、準備は完了だ。

 

『デュエル開始の宣言を! 雪穂!!』

 

「……はいはい。お姉ちゃんもアテムさんも、近所迷惑にならない程度にお願いね」

 

 

 

 ――デュエル開始!

 

 

 

『デュエル!!』

 

アテム:LP4000

穂乃果:LP4000

 

 

 

●アテムVS穂乃果 ①

 

 

 

「私の先攻! この手札なら……!」

 

 デュエルディスクの機能により、先攻と後攻が決定される。先攻は穂乃果だ。

 先攻の最初のターンは通常のドローを行なえないため、ハンド・アドバンテージで後攻に劣る。しかし彼女の喜びようから、初手で良いカードを引くことができたようだ。

 

「早速行くよ! 私は魔法カード《ジェムナイト・フュージョン》を発動! 手札の《ジェムナイト・サフィア》と《ジェムナイト・エメラル》を素材として、「ジェムナイト」と名のついた融合モンスターを融合召喚するよっ!」

「カテゴリ専用の《融合》……。穂乃果は融合召喚がメインのデッキを使うのか」

 

 穂乃果の背後に現れる神秘の渦へと、新たな力を生み出すために2体の宝石騎士が吸い込まれていく。

 宝石、そして融合召喚特有の眩き光。狭い室内であるためか、その輝きは一際激しい。

 

「堅牢なる蒼き意志よ! 幸運を呼ぶ緑の輝きよ! 光渦巻きて新たな輝きと共に1つとならん! 融合召喚! 来て、勇敢なる防壁!」

 

 

 

 ――レベル6! 《ジェムナイト・アクアマリナ》!

 

 

 

 《ジェムナイト・アクアマリナ》

 ☆6 地属性 水族 DEF2600

 

「どう? これが私のデッキ。キラキラ輝く【ジェムナイト】だよっ!」

「ふっ。確かにそのモンスターも、素材としたモンスターも、穂乃果の笑顔のように眩しいぜ。

 しかも守備力2600……。1ターン目から随分と強力なモンスターを呼んできたじゃないか」

 

 渦の中から現れたのは、蒼き鎧を纏った宝石騎士。右腕に携えられた、幅広の刃が取り付けられた盾が示す通り、その守備力もかなり高い。

 

 しかし、その勇敢な姿とは逆にデュエルディスクが映し出す姿はあまり大きくない。身長もコントローラーである穂乃果の半分程である。

 それも当然だ。元々の大きさを再現してしまえば、狭い室内からはみ出してしまう。そうならないよう、デュエルディスクが調整を施しているのだ。

 ちなみに、ソリッド・ヴィジョンの規模が小さくなることに伴い、モンスターの破壊やダメージによるプレイヤーへの衝撃も、通常より控えめになるよう調整されている。

 

「ふふん。凄いのは守備力だけじゃないよ。アクアマリナはフィールドから墓地に送られた場合、相手フィールドのカード1枚を手札に戻せるんだよっ。

 私は伏せ(リバース)カードを1枚セットしてターンエンド!」

「高い守備力に加えて、除去能力まで持っているのか……、厄介だな。

 だが、どんなモンスターが相手だろうと俺は怯まないぜ!

 俺のターン、ドローッ!!」

 

 

 

(それにしても、アテムさんってどんなデッキを使うんだろう。海未さんに勝ったってことはそれなりの実力はあるんだろうけど……)

 

 雪穂が知る限り、海未のデッキはロック&ビートバーン。

 具体的には、《グラヴィティ・バインド-超重力の網-》で高レベルモンスターの攻撃を抑制し、《ブリザード・ファルコン》の1500バーンと《忘却の都レミューリア》のレベル上昇を用いて高ランクのエクシーズモンスターを繰り出す戦術である。

 初期ライフが4000ポイントであるため、あっという間に勝負がつくことが多いのだが、そんな海未の猛攻を受けきったうえで勝利したというのだから、攻防ともに優れたデッキを使うのだろうと彼女は予想を立てた。

 

 

 

「いきなりで悪いが、アクアマリナには退場して貰うぜ! 速攻魔法発動! 《融合解除》!!」

 

『!?』

 

 アテムがドローと同時に発動した速攻魔法。その効果を受けたアクアマリナは渦の中へと消えていく。

 

(へぇ。《融合解除》を採用しているってことは、アテムさんのデッキはお姉ちゃんと同じ融合召喚を主体とするデッキか。しかも、墓地に送らずエクストラデッキに戻せばバウンス効果を使えないし、蘇生して効果を再利用することもできない。

 なるほど、アテムさんは中々のデュエルタクティクスを――)

 

 

 

 

 

「さあ、素材となった2体のモンスターを呼び戻しな!」

 

 

 

 

 

『えっ』

「ゑ?」

 

 しかし、アテムの次の台詞を聞いた瞬間、2人の口から間の抜けた声が漏れてしまった。

 

「おかしいな。デュエルディスクの故障か? 《融合解除》を使ったというのに、素材のモンスターが戻らない…………どうした、2人とも」

 

 アテムの方は、なぜ穂乃果たちがきょとんとしているのか理解できていないようだ。

 

「ねぇ、アテムさん。《融合解除》を使って素材モンスターが特殊召喚されるのは、自分のモンスターに使った場合だけだよ?」

「何!? 今までは《融合解除》の効果を受けたモンスターは素材となったモンスターが戻ってきたぜ!?」

「いやいや、それってアテムさん達のディスクが故障してたんじゃない? カードテキストをよく見てよ」

 

 まだ納得できていないためか、渋々といった様子でアテムは改めてカードテキストを確認している。それを読み終えた瞬間、彼の大きな瞳が一層見開かれた。

 

「『自分の墓地に揃っていれば』だと!? ということは……!」

「気付いた? 相手の融合モンスターに使用した場合、素材モンスターは相手の墓地にあるから、エクストラデッキに戻す処理だけが行なわれるってこと。

 というか、融合召喚を使う決闘者ならそれくらい知っておくべき…………なんで泣いてるの!?」

 

 説明を終えた直後に、大粒の涙をアテムは流していた。しかし、自らの言動を思い返してみても、それ程酷いことは言っていないはずだ。

 その一方で穂乃果は「またか……」と呆れ顔で呟いた。

 

「雪穂、これから何度も見ることになるから慣れておいたほうがいいよ。さっきの夕飯の時も大げさに喜んでいたけど、アテムくんは感情が表に出やすいんだ。

 特に、悲しいことがあるとすぐに泣き出しちゃうの。今は叫んでいないだけマシだけどね」

 

(出会って1日にも満たないお姉ちゃんに認められる程って、どんだけ……)

 

「くっ……! 《冥府の使者ゴーズ》の効果もそうだったが、この世界では多くのカード効果が書き換えられているのか!

 絶対に許さねぇ、冥界の扉!!」

 

 2人の呆れ顔を気にも留めず、よくわからないものに怒りをぶつけるアテムの様子を見て、雪穂は彼がまぐれで海未に勝ったのではないかと思い始めていた。

 

 

 

 5分後。

 

 

 

「取り乱してしまって悪かったな、穂乃果。かしこいかっこいいアテムさんとしたことが、うっかりだぜっ!」

「大丈夫だよ、私も最初は同じ間違いをしてたんだし。それより、まだアテムくんのターンだよ?」

 

 ドン引きするほどのアテムの奇行を『大丈夫だよ』と返せる穂乃果に対し、雪穂は複雑な心境であった。

 

 彼の奇行を許容できる程に姉の器は大きいのだな、とか。

 短期間で慣れてしまう位に道中で泣き叫んでいたのか、とか。

 

(私も慣れなきゃいけないんだろうなぁ……)

 

 と、そのようなことを考えている間にアテムは手札から3枚のカードを抜き出した。

 

「気を取り直して、行くぜ! 俺は魔法カード《融合》を発動! 俺が素材とするのはこの2体!」

 

(おっと。今度はお姉ちゃんと同じく手札融合か。どんなモンスターを出すんだろ)

 

 昨今ではシンクロ召喚やエクシーズ召喚の影に隠れがちな融合召喚。それも、カード消費の激しい手札融合であるならば尚更だ。

 しかし、中にはカード消費に負けない程のアドバンテージを取っていく融合主体のカテゴリも存在する。

 

(いきなり手札を3枚も使うんだし、きっと「サイバー・ドラゴン」や「シャドール」みたいに強力な――)

 

 

 

「《幻獣王ガゼル》と《バフォメット》だ!」

 

 

 

「…………は?」

 

 雪穂のちょっとした期待とは裏腹に、アテムが素材として選んだのは効果を持たない下級モンスター《幻獣王ガゼル》と、レベル5の上級モンスターでありながら攻撃力が1400しかない《バフォメット》。

 今ではまず見かけることのないカードの登場に、再び間抜けな声が出てしまった。

 

(しかも、その素材で出されるモンスターといったら……)

 

「神速で疾走(はし)る獣王よ! 山羊(やぎ)の悪魔よ! 神秘の渦で1つとなりて、異形の獣へと生まれ変わらん! 融合召喚!」

 

 

 

 ――来い、レベル6! 《有翼幻獣キマイラ》!!

 

 

 

 《有翼幻獣キマイラ》

 ☆6 風属性 獣族 ATK2100

 

「うわぁ……」

 

 危惧した通り、現れたのは2体のモンスターの頭部が無理矢理取り付けられた、4足歩行の合成獣(キマイラ)。その獰猛な姿から強力なモンスターに感じられるが、雪穂の反応が示す通り全くの逆である。

 手札を3枚消費したにも関わらず、一部の下級モンスターにすら倒される攻撃力。

 なぜそのようなモンスターを使うのか、雪穂には理解できない。

 いや、その使いづらいモンスターで勝利を収めることができる程のプレイングセンスを持っているということだろうか。

 

 

 

「バトルフェイズ! 行け、キマイラ! 穂乃果に直接攻撃(ダイレクトアタック)だ!」

 

 既に手札を4枚も消費しているためか、アテムの手札には通常召喚可能なモンスターは残されていないらしい。フィールドががら空きの穂乃果にキツい一撃を与えるため、アテムは配下の合成獣(キマイラ)へと攻撃命令を下した。

 

「そう簡単に大ダメージは受けないよ! 速攻魔法《収縮》を発動! フィールド上のモンスター1体の元々の攻撃力を、ターンの終わりまで半分にするよっ! 対象はもちろん《有翼幻獣キマイラ》!」

 

 《有翼幻獣キマイラ》

 ATK2100 → ATK1050

 

 その名の通り、対象モンスターの力を弱める速攻魔法。狭い室内でただでさえ縮小されていたキマイラが、更に小さくなっていく。その大きさはサッカーボール程であり、弱体化した攻撃力も相まって元々の迫力はほとんど無い。

 

「くっ! だが攻撃が無効になったわけじゃない! ダメージは受けて貰うぜ!」

 

 

 

 ――幻獣衝撃粉砕(キマイラ・インパクト・ダッシュ)!!

 

 

 

「きゃっ!?」

 

穂乃果 LP4000 → LP2950

 

 やや大げさな声を出す穂乃果だが、前述したように狭い室内で衝撃が緩和されている上に、合成獣(キマイラ)は《収縮》の効果を受けていたのだ。実際に受けた衝撃は大きくない。例えるならば、丸めた新聞紙で叩かれたようなものか。

 

「俺はこれでターン終了だ。キマイラの攻撃力があれば、大抵のモンスターは敵じゃないぜ!」

 

 モンスターの除去、そして先制攻撃を与えたアテムの表情はどこか得意気だ。伏せ(リバース)カードも無しでターンを終えたノーガードであっても余裕そうで、単純にデュエルを楽しんでいるようにも見える。

 

(攻撃力が2100しかないのに『大抵のモンスターは敵じゃない』だなんて……。この人、本当に強いのかなぁ)

 

 この2ターンを見る限りアテムのデッキのカードは古いものばかりで、カードに対する知識もあまりない。

 最初は穂乃果の実力では彼に敵わないだろうと思っていたが、これなら手札事故を起こさない限り姉の勝利は磐石だろう。

 

「先制攻撃は受けたけど、私だってそう簡単に負けないよっ! 私のターン、ドロー!」

 

 穂乃果は元気一杯に、やや大げさな仕草でカードをドローした。

 ドローカードを確認した彼女の緩んだ表情から、合成獣(キマイラ)を倒すためのカードを引き当てたことが察せられた。

 

「このターンで、キマイラを倒すよ! 私は《ジェムナイト・アレキサンド》を召喚っ!」

 

 《ジェムナイト・アレキサンド》

 ☆4 地属性 岩石族 ATK1800

 

 新たに穂乃果が呼び出したのは、見る時間によって異なる輝きを放つと言われる石と同じ名を持つ宝石騎士。その攻撃力は1800。下級モンスターとしては中々の数値だが、合成獣(キマイラ)を倒すには至らない。

 

「更に私は、アレキサンド自身をリリースして効果発動! デッキから「ジェムナイト」と名のついた通常モンスターを特殊召喚するよ! おいで、「ジェムナイト」の仲間を束ねる上級戦士!」

 

 

 

 ――レベル7! 《ジェムナイト・クリスタ》!!

 

 

 

 《ジェムナイト・クリスタ》

 ☆7 地属性 岩石族 ATK2450

 

 三原色の輝きと入れ替わるように現れた、新たな宝石騎士。

 幾つもの水晶を白銀の鎧に身につけたその輝く姿、そして攻撃力は、穂乃果が述べたように仲間たち(「ジェムナイト」)を束ねる上級戦士に相応しい。

 

「デッキから最上級モンスターを召喚だと!? なんという効果だ……!」

「まだまだ! 私は手札からフィールド魔法《ガイアパワー》を発動! フィールド上の全ての地属性モンスターの守備力を400ポイント下げる代わりに、攻撃力を500ポイントアップさせるよっ!」

 

 穂乃果がフィールド魔法を発動させた瞬間、室内に変化が訪れる。

 2人を取り囲むように次々と樹木が伸び、青々とした葉を茂らせていく。

 草木は二酸化炭素を吸い込み、酸素を放出する。すなわち、大地に生きる全ての生き物へと力を分け与えるのだ。

 《ジェムナイト・クリスタ》もまた同じ。大地の女神(ガイア)(パワー)の力を受けたことで元より高い攻撃力をより上昇させていく。

 

 《ジェムナイト・クリスタ》

 ATK2450 → ATK2950

 DEF1950 → DEF1550

 

「攻撃力、2950……!?」

 

 アテムが元いた世界では3000ポイント前後の攻撃力を持つモンスターを出すことは非常に難しく、相手にした場合は倒すことも困難であった。

 それを2枚の手札で、特殊な召喚方法も使わずに呼び出したのだから、彼が驚愕したのも当然と言えるのかもしれない。

 

伏せ(リバース)カードも無いし、一気に行くよっ!

 《ジェムナイト・クリスタ》で、《有翼幻獣キマイラ》を攻撃!」

 

 

 

 ――クリスタル・シュートッ!

 

 

 

 右拳を振り上げた穂乃果の叫びと共に繰り出されるのは、技名そのままの攻撃。

 クリスタの両肩より放たれる光線(レーザー)は、合成獣(キマイラ)の身体を貫き、四散させる。

 

アテム LP4000 → LP3150

 

「だが、キマイラが破壊されたことで効果発動! 俺の墓地から《幻獣王ガゼル》か《バフォメット》を復活させる! 戻って来い、《バフォメット》!!」

 

 《バフォメット》

 ☆5 闇属性 悪魔族 DEF1800

 

 合成させられた2体のモンスターのうちの片割れ、山羊の頭持つ悪魔が墓地より舞い戻る。倒されても素材を残す生命力の強さは流石だが、その能力値は当然合成獣(キマイラ)に劣る。攻撃力2950のクリスタを前にしては、不利であることに変わりはない。

 

「モンスターを残しちゃったか……。でも、他に攻撃できるモンスターもいないし、手札も無いから私はこれでターン終了だよっ!」

 

 追撃が不可能な状況ではあるものの、相手フィールドにモンスターを残したままターンを終えるのは、穂乃果にとって本意ではないだろう。

 しかし、彼女のフィールドには魔法カードで強化された《ジェムナイト・クリスタ》がいる。

 

(お姉ちゃんのフィールドには伏せ(リバース)カードが無いけど、単純な攻撃力で今のクリスタを倒すのは難しい。アテムさんはどうするのかな……?)

 

 

 

 雪穂の視線の先、クリスタが放つ輝きをその身にうけたアテムの額からは、一筋の汗が流れ落ちていた――。

 

 

 

●次回予告という名のネタバレ

 

 

 

 穂乃果のお父さんから譲り受けたカードを使って、なんとか穂乃果に大ダメージを与えることに成功したアテム。行ける! このまま押し切っちゃって!

 そう思ったのも束の間。穂乃果が発動した魔法カードは、恐るべき効果を持っていた! 何なのあのカード! インチキ効果もいい加減にしなさいよ!

 

 次回、『輝きの淑女』

 

 デュエルスタンバイ!

 




Q.どうして警察官をデュエルで倒さないんだ?
A.彼らは決闘者である以前にリアリストなので、デュエルでは倒せません。

 穂乃果が【ジェムナイト】を使う理由ですが、
 クリスタのフレーバーテキスト内にある、『仲間たちとの結束』が彼女にピッタリだと考えたのですが、どうでしょうか?
 他にももう1つ理由があるのですが、それは後編で。
 
 一応、HEROやホープも考えていましたが、それはもう様々な場所で使われてしまっているので、見送りということになりました。

 後編、そしてキャラ紹介もある程度完成しているので、それほど日を置かずに投稿できると思います。
 それでは、次回もよろしくお願いします。
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