ラブライブ!DM   作:レモンジュース

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 『VS絵里』第2回、現実では再現不可能なデュエルを書くのは中々楽しいです。
 やりたいことが多すぎて、デッキ枚数を上限無しにしたいと本気で思います。

 それでは、どうぞ!



絢瀬ジャッジメント

●光の軍勢VS闇の魔術師

 

 

 

 ドローしたカードを手札へと加え、アテムはその5枚に目を通す。このままでは絵里の場に浮遊する光り輝く2体の龍を超えることは不可能。しかし、まだ手はある。

 

「俺は手札から魔法カード《儀式の下準備》を発動! その効果で《カオスの儀式》と《カオス・ソルジャー》を手札に加える!」

「亜里沙とのデュエルで使ったカードね。また《カオス・ソルジャー》を降臨させるつもりかしら?」

 

 たった1枚で儀式召喚に必要な準備をほぼ整えることのできる便利なカードだが、《カオス・ソルジャー》は効果を持たない儀式モンスター。そのまま召喚されたところで、やはり巨神竜(フェルグラント)たちには及ばない。

 

「いいや、今の俺の手札にあるカードだけでは《カオス・ソルジャー》を降臨させてもお前のモンスターを倒せない。だから今回は、このカードの効力を高めるために発動させて貰ったぜ。

 魔法発動、《手札抹殺》!」

「ここで《手札抹殺》ですって!?」

 

 儀式召喚のサポートカードを他の用途で使うことなど普通は考えられない。だが、今のままでは召喚する意味が無いと結論付けるやいなや《手札抹殺》でドローする枚数を増やすために使用した。

 随分と思い切りの良いプレイングだが、絵里が狼狽したのはそれだけが理由ではない。

 

「アテムさん、相当意地が悪いですね。せっかく手札に加えた《裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン)》を墓地送りにするとは。

 適切なタイミングであることはわかりますが……」

「エリちにとって、これはかなりのダメージになりそうやね。あのカードは自身の効果でしか特殊召喚できないモンスター。2枚目以降を引き当てるか何らかの効果で手札やデッキに戻さんと、もう出すこともでけへん。それに、アテムくんが墓地に送ったカードも中々えげつないで」

 

 海未たちは《手札抹殺》の効果で墓地へ送られたアテムのカードを、各々のデュエルディスクを用いて確認する。5枚中3枚は《混沌の場(カオス・フィールド)》と《儀式の下準備》の効果で手札へと加わったカード。

 そして残る2枚は、墓地から除外することでモンスターを戦闘による破壊から守る《サクリボー》と、同じく墓地から除外したターンの間だけ相手の直接攻撃を封じる《光の護封霊剣》だった。

 ちなみに、絵里の墓地へと送られたのは《裁きの龍》と《キラー・スネーク》の2枚だ。

 

「ついでに、先輩と生徒会長の手札から墓地送りになったモンスターは合計4体。よって《混沌の場》に乗る「魔力カウンター」の数も4つ」

 

 《混沌の場》

 魔力カウンター 1→5

 

「要するに、アテムは墓地肥やし・デッキ圧縮・魔力カウンター精製・戦術妨害を同時にやってのけたってわけね。しかもアイツの引きは常に最善。ここから一気に動くわよ」

 

 にこの発言を裏付けるようにアテムは不敵に微笑むと、1枚の魔法カードを繰り出した。

 

「俺もこのカードを使わせて貰う、魔法カード《死者蘇生》を発動! 絢瀬の墓地から《ライトロード・アサシン ライデン》を俺のフィールドに特殊召喚するぜ!

 そのままライデンの効果発動! 俺のデッキトップから――」

「何でもかんでも思い通りにはさせないわよ! 私は、手札から《幽鬼(ゆき)うさぎ》のモンスター効果発動! フィールド上のモンスター効果が発動した時、このカードを手札から墓地に送ることでそのカードを破壊する!」

 

 《混沌の場》

 魔力カウンター 5→6

 

 絵里の墓地から奪った暗殺者はレベル4のチューナーモンスター。アテムの場にレベル4の《翻弄するエルフの剣士》が存在し、《混沌の場》には5つもの「魔力カウンター」が充填されている。

 このまま放置しては危険だと判断し、彼女は《手札抹殺》によって手札へと加えられたモンスターで対抗した。

 雪のように白い肌と髪、真紅の角と瞳、そして兎の霊を従えた中性的な容姿の不気味なモンスターが、右手に持った鎌を暗殺者へと振り下ろし、命を刈り取る。

 

「破壊されたか、しかしそのモンスターは効果を無効にしたわけじゃないため効果は有効! 俺のデッキトップから2枚のカードが墓地へと送られるぜ」

 

 《ブラック・マジシャン・ガール》

 《ダメージ・ダイエット》

 

 アテムにとって、自身の愛用するカードを手札へ加えることなく墓地送りにしてしまったことは少々心苦しいが、片方は墓地でも効力を発揮するカード。成果はまずまずといったところか。

 

「少し予定は狂ったが、このままでは終わらせないぜ。続いて魔法カード《闇の誘惑》を発動! 新たに2枚のカードを引き、手札から闇属性モンスター《破壊剣-ウィザードバスターブレード》をゲームから除外する!」

 

 《破壊剣-ウィザードバスターブレード》

 ☆3 闇属性 魔法使い族 ATK1200 / DEF900

 

 除外されたのは、両手に1本ずつ短剣を携えた4本足の小柄な龍。見た目からは想像できないが、その種族は『魔法使い族』であり、花陽とことりはやはりといった反応を示した。

 

「今のは惜しかったですね。生徒会長が《幽鬼うさぎ》を引いていなければ、ウィザードバスターブレードとライデンで《アーカナイト・マジシャン》をシンクロ召喚できたのですが」

「アーカナイトは、フィールド上の「魔力カウンター」を1つ使うことで相手フィールドのカードを1枚破壊する効果を持っている。《混沌の場》と組み合わせればループコンボが完成して、絵里先輩のフィールドを破壊し尽くした上で大ダメージを与えられたんだけど……」

 

 そうそう上手くはいかないということか。しかし、手札を入れ替えたアテムの表情はむしろ明るい。不利な状況を一変させる新たな一手を見せるために彼は次なる行動へと移る。

 

「《混沌の場》の効果を再び発動! デッキから更なる儀式魔法《カオス・フォーム》を手札に加える!」

 

 《混沌の場》

 魔力カウンター 6→3

 

 3枚目の儀式魔法は、「カオス」の名を持つ儀式モンスター用のカード。《手札抹殺》で墓地へと送られた《カオス・ソルジャー》を降臨させることもできるが、先も述べたように単体では2体のドラゴンには通用しないはずだ。

 

「更に伏せ(リバース)カードを1枚セットして、魔法カード《一騎加勢》を発動! 対象とするのは、《巨神竜フェルグラント》だ!」

 

『なっ……!?』

 

 アテムの行動に、誰もが驚きを隠せない。《一騎加勢》は、対象モンスターの攻撃力をターンの終わりまで1500ポイント上昇させるカード。彼の場に唯一存在するモンスター《翻弄するエルフの剣士》を強化したところで攻撃力は2900ポイントまでしか上がらない。

 単に発動しただけでも意味が無いことは確かだが、自分ではなく相手のモンスターを強化するなど普通は考えられない。

 

「チェーンするカードが無いのなら、俺は速攻魔法《非常食》をチェーン発動させて貰う! 俺のフィールドから《一騎加勢》《混沌の場》、そして今伏せた《カオス・フォーム》を墓地に送ることで、ライフを3000ポイント回復する。

 このまま逆順処理に移るが、問題ないか?」

「……ええ、構わないわ」

 

アテム LP700 → LP3700

 

 《巨神竜フェルグラント》

 ATK3200 → ATK4700

 

 なるほど、発動する旨味のない《カオス・フォーム》と《一騎加勢》は《非常食》の回復量を増やすために用いたということか。しかし、それでも巨神竜を強化したプレイングには疑問は残ることだろう。

 

「絢瀬たちは、俺がなぜフェルグラントの攻撃力を上げたのか不思議に思っているだろうな。その答えを今見せてやる!

 バトルフェイズに入り、俺は手札から速攻魔法《造反劇》を発動! このカードの効果により、バトルの間だけ相手モンスター1体のコントロールを得る。対象とするのは当然フェルグラントだ!」

「ッ! そういうことね……!」

 

 巨神竜の眼がギラリと輝き、本来の主へと牙を剥く。ここまで来れば、絵里もアテムの狙いに気付かざるを得ない。

 

「行け、《巨神竜フェルグラント》! 《ライトロード・アーク ミカエル》を攻撃!」

「罠カード《ダメージ・ダイエット》を発動! このターン私が受ける戦闘ダメージを半分にする!」

 

絵里 LP4100 → LP3350

 

 巨神竜が放つ爆炎が、大天使と白龍を焼き尽くす。カード効果を発動するためにライフコストが必要となる絵里にとって1000ポイント以上のダメージは出来る限り避けたい。現在墓地に存在する「ライトロード」の数も多くないためダメージを半減させたのだが、これがその場凌ぎであることは『本来の持ち主』である彼女だからこそわかる。

 

「相手モンスターを戦闘破壊したことで、フェルグラントの効果発動! 自分か相手の墓地からレベル7か8のドラゴン族モンスター1体を対象として、俺のフィールドに特殊召喚する! 来い、ミカエル!」

 

 《ライトロード・アーク ミカエル》

 ☆7 光属性 ドラゴン族 ATK2600 → ATK3200

 

 剣士がいることを除けば、前のターンの絵里とほぼ同様の布陣。光の騎士を導くミカエルが光の王国と対峙するとは、なんと皮肉な光景だろうか。

 

「《造反劇》の発動後、俺は対象となったフェルグラント以外のモンスターで攻撃することはできない。よって俺はバトルフェイズを終了し、同時にフェルグラントはお前のフィールドに戻る。

 だが、ミカエルは別だ。俺のライフを1000ポイント支払うことで、ミカエルの効果発動! フェルグラントをゲームから除外する!」

 

アテム:LP3700 → LP2700

 

 大天使が繰り出す眩い斬撃が、今度は寸分違わず巨神竜を斬り裂き、次元の彼方へと葬り去った。これで再び巨神竜が復活することはない。

 

「そして俺は《翻弄するエルフの剣士》を守備表示に変更。伏せ(リバース)カードを1枚セットし、エンドフェイズに移行。ミカエルの強制効果により、デッキトップから3枚のカードを墓地に送るぜ」

 

 デッキトップに手をかけ、3枚のカードを墓地へと移す。

 

 《ブラック・マジシャン》

 《スキル・サクセサー》

 《マジシャンズ・ナビゲート》

 

 うち1枚は、アテムにとって魂の切り札。本人は申し訳なさ気にしていたが、対する絵里は動揺せずにはいられなかった。

 《アーカナイト・マジシャン》のシンクロ召喚を阻止したと思いきや、再び自分のモンスターを奪ったばかりか効果を利用し、除去と墓地肥やしまでやってのけるとは。

 

(くっ、彼のエースモンスターが墓地に送られたわね。通常モンスターはサポートカードも多く、《死者蘇生》以外にも蘇生手段は豊富。あの永続魔法とのコンボを使われる前に勝つしかないわね)

 

 《ブラック・マジシャン》はアテムのみが所持するカード。そのため、絵里は以前見た亜里沙のデュエルまでサポートカードを含めて存在を知らなかった。だからこそ、余計に当時使用した戦術が脳裏にこびりついているのだ。

 

「私のターン、ドロー! ……ッ!」

 

 焦燥感を抱きつつカードを引いた絵里の表情が変わる。この逆境を覆すため、自らのデュエルディスクに手をかざす。

 

「スタンバイフェイズ時、《手札抹殺》の効果で捨てられた《キラー・スネーク》の効果を発動。自身を手札に戻すわ。

 更にそのままメインフェイズに入り、手札から魔法カード《死者転生》を発動! 今戻した《キラー・スネーク》を墓地に捨てることで、墓地に存在するモンスター《裁きの龍》を手札に戻す!」

 

 彼女の手札に舞い戻り、そのままコストとなった《キラー・スネーク》は、レベル能力値(ステータス)も低いモンスター。しかし、他のカードとともに使用することで今のような芸当も可能となるのだ。

 そして今、絵里の墓地には4種類以上の「ライトロード」モンスターが揃っている。

 

「ミカエルを返して貰うわよ! 私の墓地には、

 

 《ライトロード・ウォリアー ガロス》

 《ライトロード・サモナー ルミナス》

 《ライトロード・アサシン ライデン》

 《ライトロード・エンジェル ケルビム》

 《ライトロード・ハンター ライコウ》

 

 合計5種類の「ライトロード」が集結している! よって、手札から《裁きの龍》を特殊召喚!!」

 

 《裁きの龍》

 ☆8 光属性 ドラゴン族 ATK3000

 

 神々しき輝きを放つ、巨大な白龍が光の王国へと飛来する。鮮血の如き紅き眼光は、アテムの場へ映った大天使の威光すらも霞むほど。

 初めて相対する彼も、単に高い攻撃力を持つだけでは終わらないと無意識に感じ取っていた。

 

「《裁きの龍》の効果発動! 自らのライフ1000ポイントを糧として、フィールド上に存在する自身以外のカードを全て破壊する!」

 

 

 

 ――ジャッジメント・ブレス!!

 

 

 

絵里 LP3350 → 2350

 

「全体破壊能力だと!?」

 

 墓地に特定のモンスターを揃えなければならないとはいえ、特殊召喚時には一切のコストを必要としない攻撃力3000のドラゴン。これだけでも強力だというのに、わずか1000ポイントのライフを支払うだけで全てのカードを破壊してしまうとは、なんと恐ろしい能力であろうか。

 

「ならば破壊される前に使わせて貰う! 罠カード発動、《貪欲な瓶》! 俺の墓地から《貪欲な瓶》を除く5枚のカードをデッキに戻し、カードを1枚ドローする。

 俺が対象とするのは、

 

 《死者蘇生》

 《一騎加勢》

 《ワンダー・ワンド》

 《馬の骨の対価》

 《造反劇》

 

 この5枚のカードだ!」

 

 伏せられていたのは、特にタイミングを選ばずに発動可能なフリーチェーンのカード。先ほど無効化した《聖なるバリア -ミラーフォース-》のような超強力カードではなかったものの、元より彼女の目的はミカエルの破壊。これくらいは必要経費だ。

 白龍が放つ光の息吹が全てを包み込み、破壊の限りを尽くす。高い攻撃力を持つ大天使も、強大なモンスターの攻撃にも耐える妖精剣士でさえも例外はない。光の王国にも一瞬だけヒビが入るが、瞬く間に修復されていった。

 

 《ジャスティス・ワールド》

 シャインカウンター 6→4

 

「《ジャスティス・ワールド》は破壊される場合、「シャインカウンター」を2つ取り除くことで破壊を免れる。《貪欲な瓶》の効果で手札は増えたけど、これで貴方の場はがら空き。

 バトルよ! 《裁きの龍》でプレイヤーに直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

 

 

 

 ――断罪のジャッジメント・ストリーム!!

 

 

 

 場を荒らし尽くす息吹とは異なる、光の奔流。残りライフ2700のアテムがこの攻撃をまともに受ければ敗北は免れない。しかし、互いにこの攻撃で決着がつかないことは既に把握済み。

 アテムへと向かっていたはずの攻撃は、無数の光剣に進行を阻まれた。

 

「俺は墓地から《光の護封霊剣》の効果を発動させて貰った。相手ターンに墓地からこいつを除外することで、このターンの直接攻撃(ダイレクトアタック)を封じるぜ」

「当然使ってくるわよね。でも、次のターンで終わらせる。

 私は伏せ(リバース)カードを1枚セットして、エンドフェイズに移行。《裁きの龍》の効果で、デッキトップから4枚のカードを墓地に送るわ」

 

 「ライトロード」の名は持たないが、彼等と同じ能力を持つ白龍の効果によってカードが墓地へと送られる。同時に、《ジャスティス・ワールド》には再び「シャインカウンター」が乗る。

 

 《スキル・プリズナー》

 《オネスト》

 《ハーピィの羽根帚》

 《霊廟の守護者》

 

 《ジャスティス・ワールド》

 シャインカウンター 4→5

 

「……ターンエンド」

 

 極端に悪いとは言えないが、最高とも言えないラインナップ。絵里からすれば『微妙』といったところか。

 離れた場所から観戦しているにこたちも、反応に困っているようだ。

 

「【ライトロード】の宿命だけど、《オネスト》と《ハーピィの羽根帚》が墓地に行ったのは大きいわね」

「せやねぇ。《光の封札剣》を使われた時のエリちの反応からして、あの《オネスト》は2枚目。ついでに羽根帚も落ちた今、アテムくんは攻撃・防御ともにある程度精神的な余裕を持つことができたはずや」

 

 墓地にカードを溜めて多様な戦術を繰り出すといっても、手札とは異なりどのようなカードが存在するかは相手に筒抜けであり、戦術も立てやすくなるというもの。

 希の言う通り、ピンチでありながらも多少の安心感を得たアテムは、新たなカードを掴み取る。

 

「俺のターン、ドロー! ……さて、お前のデッキのエースを見せてくれた礼だ。俺もエースを召喚させて貰おうか!

 手札から魔法カード発動、《黒魔術のヴェール》!」

「ッ!」

 

 ドローカードがそのまま発動された瞬間彼の周囲を覆う空気がより一層引き締められ、思わず身構えてしまう。

 

「1000ポイントのライフを糧として、効果発動!」

 

アテム LP2700 → LP1700

 

 カード名、発動時のコスト、墓地に存在するカード。それを目にする機会が少なく、知識がうろ覚えの絵里でさえ、カード効果は予測できてしまう。

 

「俺の手札または墓地から、魔法使い族・闇属性モンスター1体を呼び出す!

 墓地より現れよ、我が最強の切り札!」

 

 

 

 ――《ブラック・マジシャン》!!

 

 

 

 《ブラック・マジシャン》

 ☆7 闇属性 魔法使い族 ATK2500

 

 ミカエルの効果で墓地へと送られていた、彼のデッキのエース。

 相対する白龍と比べれば強力な効果も持たない、何の変哲も無い通常モンスターのはずだというのに、この魔術師は亜里沙とのデュエルでは勝負の決め手となった実力を誇る。

 仮にまた《バスター・ブレイダー》と融合されては厄介だと結論付けた絵里は、すぐさまデュエルディスクを操作した。

 

「そのモンスターには、早速ご退場願いましょうか! 罠発動、《奈落の落とし穴》!

 攻撃力1500以上のモンスターが場に出た時、そのモンスターを破壊してゲームから除外する!」

 

 青緑色の肌をした人型モンスターが、黒魔術師を引きずり込まんと仄昏い奈落より手を伸ばす。どれほど強力なモンスターも、除外してしまえば怖くはない。

 だが、それは成功すればの話。

 

「甘いぜ絢瀬! 俺はミカエルの効果で墓地に送った罠カード、《マジシャンズ・ナビゲート》を除外して効果発動!

 俺のフィールドに《ブラック・マジシャン》がいる時、相手フィールドに表側表示で存在する魔法・罠の効果をターン終了時まで無効にする! これで《奈落の落とし穴》の効果は無効だ!」

「《ブラック・マジシャン》専用のトゥーム・シールド!?」

 

 迫り来る魔の手を、黒魔術師は難無く躱してみせた。それどころかソリッド・ヴィジョンが映し出すモンスターであるにも関わらず、これ見よがしに左手の人差し指を左右に振って挑発してくる。まるで、アテムのミラーフォースを無力化した絵里への意趣返しのようだ。

 

「続いて、俺は墓地から《スキル・サクセサー》の効果発動! 《ブラック・マジシャン》の攻撃力をターン終了時まで800ポイントアップさせる!」

 

 《ブラック・マジシャン》

 ATK2500 → ATK3300

 

 墓地に存在すれば、自身のターンで除外することで自軍のモンスター1体を強化できる罠カード。これもまたミカエルの効果で墓地へ送られていたもの。

 他人のカードをこれでもかと利用するアテムのプレイングと運に、絵里は少々苛立ち、他の者は驚きを通り越して感心すら覚えた。

 

「これでお前のモンスターの攻撃力を上回ったぜ! 行け、《ブラック・マジシャン》! 《裁きの龍》を攻撃!」

 

 

 

 ――黒・魔・導(ブラック・マジック)!!

 

 

 

「くっ、《裁きの龍》をこんなにもあっさり……!」

 

絵里 LP2350 → LP2050

 

 先ほど放たれた光とは正反対の、黒き奔流が白龍を覆い尽くし消滅させる。「ライトロード」の決戦兵器をあっさりと破られた絵里は苦々しげに黒魔術師を睨みつけるが、ただで倒されるつもりはない。

 

「私は、《裁きの龍》の効果で墓地に送った《霊廟の守護者》のモンスター効果発動! 自分フィールドのドラゴン族モンスターが戦闘または効果で墓地に送られた場合、手札か墓地に存在するこのカードを特殊召喚できる!」

 

 《霊廟の守護者》

 ☆4 闇属性 ドラゴン族 DEF2100

 

 竜の霊廟を守りし、老齢の竜人。下級モンスター程度の攻撃ならば受け止めきれる守備力は、まさしく守護者に相応しい。

 

「俺はバトルを終了し、メインフェイズ2へ移行。伏せ(リバース)カードを1枚セットして、ターンエンドだ。

 そしてこのタイミングで、絢瀬の墓地に存在する《キラー・スネーク》は除外されるんだったよな」

「……ええ、その通りよ」

 

 《キラー・スネーク》は、かつて無限に自己回収が可能な能力が評価され、禁止カードに指定された過去を持つ。しかし、自身の効果を発動した次の相手ターンにゲームから除外されるというデメリットを負うように調整されたことにより、今では制限を解除されているのである。

 

「もうお前の墓地に《キラー・スネーク》が存在しない以上、壁となるモンスターは《霊廟の守護者》のみ。それだけじゃ《ブラック・マジシャン》を倒すことはできないぜ?」

「貴方に言われなくてもわかっているわよ! 私のターン、ドローッ!」

 

 確かにアテムの言う通り、並以上の守備力を持っていたところで最上級モンスターの攻撃は受け切れない。

 だが、たった今引き当てたカードを使えば攻撃に転じることができる。

 

「私は《ライトロード・マジシャン ライラ》を通常召喚して、そのまま効果発動! 自身を守備表示に変更することで、相手の魔法・罠カードを1枚破壊する!」

 

 《ライトロード・マジシャン ライラ》

 ☆4 光属性 魔法使い族 ATK1700 → ATK2200

 

 純白の外套(マント)を纏う女性魔術師が杖を振るうと、1つの光弾がアテムの伏せ(リバース)カードを目掛けて疾駆する。

 もっとも、これは所詮相手の出方を伺う牽制に過ぎない。

 

「使うしかないようだな。俺は墓地から《スキル・プリズナー》を除外して効果発動! 俺の伏せ(リバース)カードを対象とするライラの効果を無効にする!

 さぁ、次の手を見せてみな!」

 

 大天使の光刃を放った時と同じく、光弾はカードを貫くことなく消失する。破壊には失敗したものの、使わせた(使わされた)と言った方が正しいだろう。

 ともかく、これで絵里の場には2体のレベル4モンスターが並んだ。

 

「私はレベル4の《ライトロード・マジシャン ライラ》と、《霊廟の守護者》でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

 女性魔術師と竜人がそれぞれ黄と紫の球体へと姿を変えて飛び上がり、光の渦を形成していく。

 

「光の神域にて託宣を受け、神聖なる守護天使となりて光臨せよ! エクシーズ召喚!」

 

 

 

 ――ランク4! 《ライトロード・セイント ミネルバ》!!

 

 

 

 《ライトロード・セイント ミネルバ》

 ★4 光属性 天使族 ATK2000 → ATK2500 ORU 2

 

 無垢な乙女(メイデン)から、より美しき女神へ。右手に持つ杖と長大になった純白の翼は、守護天使として成長した証だ。

 その攻撃力は《ジャスティス・ワールド》の効果で上昇しているものの、元々は2000ポイント。決して高いとは言えない。だが、絵里の眼光が鋭く輝いていることから、大天使や白龍に匹敵する能力を持つことを感じさせる。

 

「ミネルバの効果発動! オーバーレイ・ユニットを1つ使うことで、デッキトップから3枚のカードを『効果』によって墓地へ送る!

 その中に「ライトロード」カードが含まれていれば、墓地へ送った枚数分だけドローする!」

 

 《ライトロード・セイント ミネルバ》

 ORU 2 → 1

 

 守護天使が杖を振るうと、光の王国に新たな力が施される。

 

 《ライトロード・メイデン ミネルバ》

 《ライトロード・ビースト ウォルフ》

 《月光紅狐(ムーンライト・クリムゾン・フォックス)

 

 《ジャスティス・ワールド》

 シャインカウンター 5→6

 

 《ライトロード・セイント ミネルバ》

 ATK2500 → ATK2600

 

 墓地へと送られたのは、3体のモンスター。それを見た穂乃果や凛たちは、驚きのあまり目を見開き、口を大きく開けてしまった。

 

「2枚の「ライトロード」カードってことは、2枚のドロー!?」

「いや、それだけじゃないよ! 今のカードは全部墓地発動のカード!」

 

 誰もが、何という強運であろうかと思わずにはいられない。新たに2枚のカードを引きつつ、絵里は叫んだ。

 

「《ライトロード・メイデン ミネルバ》と《ライトロード・ビースト ウォルフ》、そして《月光紅狐》の効果発動!

 チェーン1のメイデンは、手札かデッキから墓地に送られた時にデッキトップのカードを墓地に送る。

 チェーン2のウォルフは、デッキから墓地に送られた時に自身を特殊召喚する。

 チェーン3の紅狐(クリムゾン・フォックス)は、カード効果で墓地に送られた『場合』相手モンスター1体を対象として、攻撃力を0にする。対象は当然《ブラック・マジシャン》!」

 

 守護天使のドロー効果は、デッキからカードが墓地に送られた後に処理するため、カード効果によってはタイミングを逃すことがある。しかし最初の2つは強制的に発動し、紅狐は墓地に送られた『場合』に発動する効果であるため、タイミングを逃さずに発動可能だ。

 

「1度に3体のモンスター効果を発動するとは、流石だな」

「そんなこと言っている場合かしら? これで引導を渡して上げるわ!」

 

 顔の右半分を鉄製の仮面で隠した紅い毛皮の狐が、黒魔術師へと迫る。攻撃力を0にしてしまえば、先の2つの効果なしでも決着をつけることは容易だろう。

 

「そう簡単にはいかないぜ! チェーン4、永続罠《永遠の魂》を発動! このカードが存在する限り、俺の《ブラック・マジシャン》は相手のカード効果を一切受け付けない!

 フィールドを離れた瞬間に、俺のフィールドに存在するモンスターを全て破壊してしまうデメリットがあるがな」

「《ブラック・マジシャン》への完全耐性!?」

 

 《スキル・プリズナー》によって破壊を免れていたカードが発動され、不可視の壁が紅狐を弾き返す。絵里は右の拳を握り締めながら、効果処理を続行する。

 

「でも、まだチェーン処理は続いているわ! ウォルフを墓地から特殊召喚して、メイデンの効果でデッキトップのカードを墓地に送る!」

 

 《ライトロード・ビースト ウォルフ》

 ☆4 光属性 獣戦士族 ATK2100 → ATK2800

 

 《ライトロード・セイント ミネルバ》

 ATK2600 → ATK2700

 

 《ジャスティス・ワールド》

 シャインカウンター 6→7

 

 右手に鋭い鉤爪を嵌め、左手には身の丈以上の長さの槍を構える筋骨隆々な狼の戦士が光の王国によって、最上級モンスターにも匹敵する力を得る。それは守護天使も同様だ。

 また、新たに墓地へと送られたカードは装備魔法《ライトロード・レイピア》。

 

「この瞬間、《ライトロード・レイピア》の効果発動! このカードがデッキから墓地に送られた時、私のフィールドに存在する「ライトロード」モンスターに装備できる!

 ウォルフに装備することで、攻撃力を700ポイントアップさせるわ!」

 

 《ライトロード・ビースト ウォルフ》

 ATK2800 → ATK3500

 

 狼戦士は右手の鉤爪を取り外すと、細剣(レイピア)を装備し直した。握り締める武器の外見がややアンバランスだが、その攻撃力は並のモンスターでは太刀打ち出来ないほどにまで上がっている。

 

「バトルよ! 私は、ウォルフで《ブラック・マジシャン》を攻撃!」

「ぐぅっ……!」

 

アテム LP1700 → LP700

 

 細剣と剛槍による刺突が黒魔術師を貫き、一気に回復したアテムのライフポイントも再び3桁に戻される。

 彼の身体も僅かに揺れるが、その瞳は真っ直ぐに絵里を見据えていた。何も言わずとも、もっと攻めてみろと誘っているかのようだ。

 

「これで終わらせる! 私は、《ライトロード・セイント ミネルバ》で直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

「そうはさせない! 俺は《永遠の魂》の更なる効果発動! 1ターンに1度、手札か墓地から《ブラック・マジシャン》を特殊召喚する!」

 

 《ブラック・マジシャン》

 ☆7 闇属性 魔法使い族 DEF2100

 

 主を守る盾として、黒魔術師が復活する。守備表示ゆえにダメージは与えられないが、攻撃を止めるという選択肢は元よりない。

 

「攻撃続行よ、ミネルバで《ブラック・マジシャン》を攻撃!」

「ミネルバの攻撃力は《ブラック・マジシャン》よりも上だが、破壊はさせない! 俺は墓地から《サクリボー》の永続効果を使用することで、戦闘による破壊を無効にする!」

 

 巨大な眼が1つ背中に張り付いた小さな悪魔が黒魔術師の盾となり、守護天使が振るう杖より放たれる光弾による衝撃を緩和する。

 

「私は、これでターンエンド」

「どうやら防御に回す魔法・罠を引くことはできなかったようだな。ならば、このまま押し切らせて貰う!

 俺のターン、ドロー!」

 

 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべてターンを明け渡した絵里に対し、アテムは再度反撃のためにカードをドローする。

 彼女に場には攻撃力2700の守護天使と攻撃力3500の狼戦士が並んでおり、彼の黒魔術師を上回っている。しかし、嫌な予感は拭えないでいた。

 

「ここで俺は《永遠の魂》の更なる効果を発動! デッキから魔法カード《千本(サウザンド)ナイフ》を手札に加える!

 そして、そのまま発動だ!」

 

 サーチしたカードをデュエルディスクへと挿入した瞬間、黒魔術師の周囲に無数の短剣が現出する。これもまた絵里が初めて見るカードだが、どのような効果を秘めているかは容易に想像できた。

 

「こいつは俺のフィールドに《ブラック・マジシャン》が存在する場合のみ発動でき、相手フィールド上のモンスター1体を破壊するカード!

 対象とするのは、《ライトロード・ビースト ウォルフ》だ!」

 

 狼戦士は屈強な肉体と武器を用いて半分近くを弾き飛ばすが、その名の通り『千本』を受け切ることなど不可能。600本を超えた辺りで武器が折られると、自らの牙と爪以外に防ぐ手段はなく、700を超えると皮膚を浅く裂いていく。そして800を過ぎれば次々と手足を貫いた。そうなればもう抵抗することもできず、彼はその場に倒れ伏した。

 

(完全耐性付与、蘇生、オマケに除去カードのサーチ。専用サポートだからといってなんて効果なのよ!)

 

 その上、カードテキストに《ブラック・マジシャン》を含むということは、亜里沙とのデュエルで使用した《黒の魔導陣》で手札に加える事も可能。まさに反則級(インチキ)なカードといえよう。

 

「バトルだ! 俺は《ブラック・マジシャン》で、ミネルバを攻撃!」

「ッ! 迎え討ちなさい、ミネルバ!」

 

 絵里の手札に《オネスト》が存在しないことがわかっているためか、彼は一切の躊躇もなく黒魔術師へと攻撃命令を下す。数瞬遅れて絵里が反撃の指示を出すと、闇と光の奔流が激突し、拮抗する。

 光は徐々に闇を押し返していくが、攻撃力の劣るモンスターが攻撃を仕掛けてきた以上、ドローしたカードは間違いなく――。

 

「ダメージステップ開始時、俺は手札から速攻魔法《黒魔導強化(マジック・エクスパンド)》を発動!

 フィールド・墓地に《ブラック・マジシャン》か《ブラック・マジシャン・ガール》が存在する場合、魔法使い族・闇属性モンスターの攻撃力を1000ポイントアップさせる!」

「やはり、攻撃力変化(コンバットトリック)のカード……!」

 

 《ブラック・マジシャン》

 ATK2500 → ATK3500

 

 黒魔術師の足元に魔導陣が現れ、漆黒の闇が力を文字通り増幅させる。やがて闇と光は逆転し、守護天使を飲み込んでいった。

 

「くっ! でも……、まだよ!」

 

絵里 LP2050 → LP1250

 

 まさか2体とも倒されるとは想定していなかった。しかし、神託を受けた女神にはまだやるべきことが残されている。

 

「ミネルバの効果発動! このモンスターが戦闘または相手のカード効果で破壊された『場合』、デッキトップから3枚のカードを墓地に送ることが『できる』!

 そしてその中に「ライトロード」カードが含まれていれば、その数までフィールド上のカードを『選んで』破壊できる!」

 

 《ADチェンジャー》

 《裁きの龍》

 《ライトロード・モンク エイリン》

 

 再度墓地へと溜められたのは3体のモンスター、そのうち1枚は「ライトロード」の名を冠していた。

 

「確か言ったわよね。《永遠の魂》が破壊されれば自分フィールド上のモンスターを全て破壊してしまうと。

 今度こそ貴方の切り札を倒させて貰うわ!」

 

 墓地より放たれた光弾が巨大な石版に衝突し、爆音とともに閃光が辺りを包み込む。彼の手札はなく、ライフポイントもたったの700。墓地にも攻撃を防ぐ手段がないため、次のターン直接攻撃を加えれば絵里の勝利は確実。

 

 

 

 ――そのはずだった。

 

 

 

「なっ……!?」

 

 しかし結果はどうだろうか。光が晴れた先に存在しないはずの黒魔術師と石版は未だ顕在。よく見ると、黒魔術師を強化したものと同じ魔導陣が石版の下にもあるではないか。

 

「教えてやるぜ、絢瀬」

 

 何が起きたのか困惑する彼女へと、アテムは不敵な笑みを浮かべながら種明かしを始める。

 

「《黒魔導強化》は《ブラック・マジシャン》か《ブラック・マジシャン・ガール》がフィールド・墓地に存在することを発動条件としているが、その数によって効果は追加されていくのさ。

 1体だけであれば、魔法使い族・闇属性モンスターの攻撃力を1000ポイントアップさせる効果しか適用されない。だが――」

「貴方の墓地には《ブラック・マジシャン・ガール》が存在するから、更なる効果が付与されるということ? まさか……」

 

 ライデンの効果で墓地に送っていた、可愛らしい魔法少女。《永遠の魂》を破壊できなかったということは、その効果は想像に難くない。

 

「察しがいいな。そう、2体以上存在することにより俺のフィールドに存在する全ての魔法・罠は相手のカード効果では破壊されなくなるのさ。

 さらに言えば、俺が発動する魔法・罠の効果に対してチェーンを封じる効果もあるが、今はあまり意味が無いな」

 

 《永遠の魂》への耐性付与とは、つまりどちらも破壊できないということ。1ターン限りとはいえまさに鉄壁の布陣ではないか。

 

(私の手札は、どちらも最上級モンスター。このままでは、勝てない……!)

 

 絵里は、自身の心から戦いの炎が消えていくのを感じ始めていた。

 

 

 

●勇気のドロー

 

 

 

「俺はこれでターンエンド。同時に《ブラック・マジシャン》の攻撃力は元に戻り、《永遠の魂》が受けていた破壊耐性は消滅する。

 さぁ、お前のターンだぜ。…………どうした?」

 

 ターンの終了を宣言したアテムの言葉は、もはや絵里の耳にはほとんど入らない。

 残る2枚の手札は、どちらもこの状況では何の役にも立たない最上級モンスター。次のドローで逆転のカードを引かなければ負けだ。

 だが、しかし。

 

(私のデッキに《裁きの龍》は2枚しか入っていない。どちらも墓地にあるから、回収用のカードを引き当てなければもう使えない。

 それ以外で使えそうなのは『あのモンスター』しかいないけど、確率は7分の1……)

 

 手札の《オネスト》を見透かされ、自らのカードを利用され、繰り出したモンスターはいとも簡単に倒され、逆転する方法がほぼ全て無くなった。

 どれだけ力を尽くしても、圧倒的な力の前では全てが無に帰す。『あの時』と同じことを、また自分は繰り返して――

 

 

 

 

 

「諦めないでください、絵里先輩っ!!」

 

 

 

 

 

 何処かへ飛びそうになっていた意識が、突如引き戻される。声が聞こえた方向へ顔を向けると、穂乃果が一歩前に飛び出し、絵里を睨みつけていた。

 

「……貴女たちは私に対して良い感情を持っていないのでしょう。それなのに『諦めないで』だなんて、どういうつもりかしら」

 

 これ以上、無様な姿を晒せとでも言うつもりだろうか。

 

「何を言ってるんですか! 絵里先輩は忙しい時間を割いて、私たちのために指導をしてくれました。それにファーストライブの動画だって、理由はどうあれ先輩が公開してくれたおかげで『μ’s』のことを知って貰うことができたんです。嫌いになる理由なんてありません!」

「高坂、さん……」

 

 穂乃果が優しげな笑みを浮かべると、周りの少女たちも同じようだった。

 そこでふと思い出す。屋上に来る直前に希が言っていた、『穂乃果たちは絵里を受け入れる』ということを。

 

「エリち、何も恐れる必要なんてあらへん。ほんの少し勇気を出せば、カードは必ず応えてくれる。万が一、億が一失敗したとしても、それを咎める無粋な決闘者はこの場に1人もいないよ」

 

 彼女もまた、『怖いんやったら、手を握ってあげてもええよ?』とニヤつきながらドローを促してくる。気をほぐそうとしているのだろうか、しかしそれは流石に恥ずかしい。

 頬を染めながら顔を逸らしてアテムの方へと向き直ると、彼は何も言わずジッと絵里を見つめ続けていた。

 

「ねぇ、1つだけ聞かせて。貴方は亜里沙とのデュエルも、今のデュエルも常に引きたいカードをドローしていた。私のモンスターを利用した墓地肥やしだって、ハズレは一切なかった。

 細工されていたかのような芸当が、どうしてできるの?」

 

 聞いたところで、意味のないはずの行為だとは自覚している。だが、類稀なる強運という言葉だけでは説明のつかない戦術を成し遂げられる理由が、どうしても知りたくなったのだ。

 

「明確な理由なんて、説明することはできないさ。だが、強いて言えば『自分とカードを信じている』からだ!

 手札とデッキには、いつだって無限の可能性が眠っている。敗北への恐怖を乗り越え、『デッキを組み上げた時の自分自身』と『数千枚の中から選び抜いたカード』を信じれば、東條の言う通りカードは必ずお前の思いに応えてくれる!

 さぁ、『恐れ』という名の鎧を脱ぎ捨てろ! 絢瀬絵里!!」

「恐れを、捨てる……」

 

 気がつけば、右手はデッキへと伸びていた。サレンダーを宣言するためではなく、次のカードをドローするために。

 

(そうよ、私は彼に勝つだめここにやって来た。恐怖に竦んでたった1度でもデュエルを諦めてしまったら、もう前には進めない。

 大好きな音ノ木坂学院を守ることもできるはずがない)

 

 デッキの残りは7枚。冷静になって考えれば、決して引き当てられない確率ではないはずだ。

 たとえあの時のように敗北するとしても、後悔するのは全ての力を出し尽くした後ですればいい!

 

「私のターン、ドローッ!!」

 

 一筋の軌跡を描いて引き当てた運命のカード。それは絵里に『敗北』を与えるものか、それとも『奇跡』を掴ませるものか。答えは、確かめるまでもない。

 

 

 

 幼い頃に見せたもの以上に輝く笑顔が、全てを物語っていたのだから。

 

 

 

「私は、墓地から光属性モンスター《ライトロード・ビースト ウォルフ》と、闇属性モンスター《月光紅狐》をゲームから除外する!」

「何ッ!? その召喚条件は……!」

 

 敗北への恐怖を抱いていた自分に終わりを告げる。このカードこそ、今の状況を打ち破るために最適なはずだ。

 

「混沌の世を統べる破滅の龍! 封じられし力を解き放ち、終焉の時を告げよ!」

 

 

 

 ――レベル8! 《混沌帝龍(カオス・エンペラー・ドラゴン) -終焉の使者-》!!

 

 

 

 《混沌帝龍 -終焉の使者-》

 ☆8 闇属性 ドラゴン族 ATK3000

 

「この局面で混沌帝龍(カオス・エンペラー)を引き当ててきたか。まさか、こんなモンスターを隠し持っていたとはな」

 

 開闢の使者と双璧をなし、かつてデュエルモンスターズを暗黒の世へと変えたと言われる究極の殺戮兵器(モンスター)

 今でこそ全盛期の力は失われているが、容易な召喚条件と高い攻撃力が脅威であることは変わりない。

 

「バトルよ! 混沌帝龍(カオス・エンペラー)で、《ブラック・マジシャン》を攻撃!」

 

 

 

 ――終焉のカオス・ストリーム!!

 

 

 

「ぐぁあああっ!?」

 

アテム LP700 → LP200

 

 先と同じく、効果を受けずとも戦闘破壊は可能。終焉の使者が放つ爆炎が黒魔術師を飲み込み、熱風を巻き起こす。

 ダメージ量はこれまで彼が受けたものの中では最も軽いはずが、その衝撃はむしろ最大。絵里の思いが反映されているかのようだ。

 

「バトルを終え、メインフェイズ2! 私は、ライフを1000ポイント支払うことで混沌帝龍(カオス・エンペラー)のモンスター効果発動!

 互いの手札・フィールド上のカードを全て墓地に送り、『相手の墓地に送られた』カード1枚につき、300ポイントのダメージを相手プレイヤーに与える!」

「何ッ!?」

 

絵里 LP1250 → LP250

 

 狼狽の声はアテムからだけではなく、デュエルを見守る希たちからも挙がった。現在彼の手札はなく、場に発動中の《永遠の魂》があるのみ。一方絵里は2枚の手札を持ち、場には終焉の使者とフィールド魔法が1枚ずつ。かつての力であれば、1500ポイントのダメージが発生していた。しかし、それも過去の話。禁止カードから復帰する際にエラッタされたことで、ダメージを与える際に参照する数が相手のカードのみとなった。そのため、発生するダメージは300ポイント。

 ダメージ効率は大幅に落ちたものの、通常ならばギリギリでアテムのライフを削り切ることはできただろう。

 

「俺は墓地から、ライデンの効果で墓地に送った《ダメージ・ダイエット》の効果発動! 俺が受けるダメージを半減する!」

「構わないわ! 全てを消し去りなさい、混沌帝龍(カオス・エンペラー)!」

 

 

 

 ――獄炎葬送(セメタリー・オブ・ファイヤー)!!

 

 

 

 終焉へと誘う業火が、自らを含めたカードたちを包み込む。『破壊』というプロセスを無視して葬る力の前では、光の王国が持つ修復能力も意味を成さず、互いの場・手札から全てのカードが消え去った。

 

アテム LP250 → LP50

 

「くっ、《永遠の魂》が……! だが、なぜこんなことを?」

 

 疑問を抱くのも無理はない。アテムが《ダメージ・ダイエット》の効果を使用して踏みとどまることはわかっていたはずだ。しかも効果を発動したことで絵里のライフも残り僅か。誰がどう見ても、アドバンテージの大損失ではないか。

 

「貴方の《ブラック・マジシャン》は、《永遠の魂》の効果で何度でも蘇る。仮に貴方が次のドローで《黒の魔導陣》や適当な攻撃力変動のカードを引かれでもしたらどの道私の負け。

 だから賭けに出させて貰ったわ。私はこれでターンエンド!」

 

 絵里の瞳に灯る闘志は、夏の太陽よりも熱く輝いていた。分の悪い賭けに出てなお、自身の可能性と勝利を信じているかのように。

 たった1枚のドローが、全てを変えた。彼女はもう何も恐れることはないだろう。

 

「俺のターン、ドローッ! 手札から――」

 

 

 

 ――私はこのスタンバイフェイズ、墓地からモンスター効果発動!

 

 

 

「このタイミングでモンスター効果だと!?」

 

 アテムが手札のカードを繰り出す前に、絵里の声が被せられる。だが、彼女の墓地にはこのタイミングで発動可能なモンスターは存在しなかったはずだ。

 直前のターンまでならば。

 

混沌帝龍(カオス・エンペラー)の効果で、私は手札から《アークブレイブドラゴン》を墓地に送っていた。

 このカードは墓地に送られた次のターンのスタンバイフェイズに、自分の墓地から《アークブレイブドラゴン》を除くレベル7・8のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚できる!」

「なるほどな。そのドラゴンの効果を使えば、混沌帝龍(カオス・エンペラー)が持つ『自身の効果を発動するターン、他のカード効果を発動できない』というデメリットをカバーできる。

 だが、混沌帝龍(カオス・エンペラー)は自らの効果以外で特殊召喚することは不可能なはずだ」

 

 絵里の墓地にはレベル8の《裁きの龍》も存在するが、このカードも終焉の使者と同じく自身の効果でしか特殊召喚できない。つまり、該当するモンスターはレベル7の《ライトロード・アーク ミカエル》しか存在しないはず。

 

「確かに普段ならミカエルを蘇生させるところだけど、今のライフでは除去効果を使えず、デッキ枚数も心許ない。

 でも、貴方は1つ見落としているわよ。私が混沌帝龍(カオス・エンペラー)の効果で2枚の手札を墓地に送っていたことを」

「ッ! まさか、2枚目のカードも最上級ドラゴン!?」

 

 手札事故が一転、反撃の好機へと変わる。光の支配者を導く大天使を押し退けてでも降臨する龍とは、どれほどのものか。

 全員が、息を呑む。

 

(私はここから、新たな一歩を踏み出す! そのために力を貸してください、お祖母様!)

 

 『勇気』の名を冠する龍が咆哮するとともに、墓地より1体の龍が飛翔する。

 

「氷の世界に君臨する美しき龍よ、今こそ姿を現しなさい!」

 

 

 

 

 

 ――レベル8! 《青氷の白夜龍(ブルーアイス・ホワイトナイツ・ドラゴン)》!

 

 

 

 

 

 《青氷の白夜龍》

 ☆8 水属性 ドラゴン族 ATK3000

 

「ブルーアイス、だと……!?」

 

 太陽の光を浴びてなお溶けることのない絶対零度の鎧を纏った、蒼き氷の龍。その美しさに、アテムを除いた誰もが見惚れていた。

 その龍は、アテムにとって永遠の好敵手が最も信頼する龍とあまりにも酷似していた。名前も、姿も、攻撃力・守備力でさえも。

 

「お祖母様から受け取ったこのカードの力で、私は貴方を倒す!」

「……面白くなってきたじゃないか、絢瀬。いいだろう、俺も全力を尽くしてそのドラゴンを倒すぜ!」

 

 本当の勝負は、ここから。その始まりを告げるかのように冷たき龍の咆哮が轟いた――。

 

 

 

●次回予告という名のネタバレ

 

 

 

 互いにライフポイントは後がない状況で絵里が呼び出したのは、蒼き氷のドラゴン。

 海馬くんの《青眼の白龍》にそっくりなドラゴンと、絵里が繰り出すカードを前に、アテムは絶体絶命。

 2人の熱い攻防は夏の暑さを超え、限界以上の力を引き出す!

 

 次回、『限界を超える一撃』

 

 デュエルスタンバイ!

 




現在の戦況(11ターン目スタンバイフェイズ時)

○アテム(先攻)
LP:50
デッキ:24枚(うち6枚は《月鏡の盾》《死者蘇生》《一騎加勢》《ワンダー・ワンド》《馬の骨の対価》《造反劇》)
手札:1枚
モンスター:なし
魔法・罠ゾーン:なし
フィールド:なし
墓地:《ブラック・マジシャン》ほか

●絵里(後攻)
LP:250
デッキ:6枚(うち1枚はジェイン)
手札:なし
モンスター:
《青氷の白夜龍》ATK3000
魔法・罠ゾーン:なし
フィールド:なし
墓地:ライトロード(ガロス、ルミナス、ライデン、ケルビム、ライコウ、ミカエル、ライラ、ミネルバ、ルミナス、Xミネルバ、エイリン)
墓地:その他(ダメージ・ダイエット、スキル・プリズナー、オネスト、裁きの龍×2、霊廟の守護者、ADチェンジャー、アークブレイブドラゴン)
除外:《光の封札剣》で除外した裏側表示のカード(3ターン経過)


 相手のカードを奪って攻撃+除去+インチキ墓地肥やしをするアテムさん酷いっす。
 今回、小説内で説明するには分かり辛いかもしれないと思うほどにどっちも墓地利用しまくってますね。
 『墓地』でページ内検索してみたところ、本文だけで87回ヒットしました。

 この世界には《青眼の白龍》は存在しませんが、なぜか【ライトロード】で出てくる《青氷の白夜龍》
 絵里のデッキもアテムほどではないものの、相当現実離れしていますね。

 それでは、次回もよろしくお願いします。
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