ラブライブ!DM   作:レモンジュース

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 約1ヶ月ぶりの投稿となります、皆様大変お待たせしました。
 投稿前に章分けしてみましたが、今回の話で第2部が終了です。

 それでは、どうぞ!



限界を超える一撃

●VS白夜龍!

 

 

 

 デュエルモンスターズに限らず、あらゆるカードゲームは強力なレアカードを持っているだけで勝てるほど甘くはない。『使い手の技能』や『決闘者とカードの信頼関係』が伴っていなければ、本来の強さを発揮することができないからだ。

 逆に今挙げた2つの要素を心に刻んだ決闘者ならば、カード同士の多彩なコンビネーションによって強力なデッキに勝利することも不可能ではない。決闘者が最も信頼したカードこそが真の切り札となるのだ。

 もっとも、その信念を胸に秘めて数々の戦いを潜り抜けてきたアテムであっても『強力なレアカードの代名詞』として認識しているカードは少なからず存在する。

 

 その中の1つが、《青眼の白龍》と呼ばれるモンスターだ。宝石の如く蒼い瞳も然ることながら、美しく輝く純白の鱗を持つ強靭なドラゴン。

 レベル8・攻撃力3000・守備力2500という高い能力値(ステータス)を誇り、かつて彼が過ごした世界では単体でこれを超えるモンスターはほぼ存在しなかった。あっても特定の召喚条件を満たす必要があるもの、厳しいデメリットを抱えるものばかり。

 また、白き龍を自在に操ったあの決闘者の執念のせいか定かではないが、この世界でも『攻撃力3000』という数値は強さの指標の1つとも言われているらしく、通常モンスターの攻撃力の最大値はなぜか2950であり、アテム以外の誰も疑問に思っていないという。

 

(まさか、こんなモンスターが存在するとはな……)

 

 眼前で咆哮を上げた氷の龍もまた、攻撃力3000のドラゴン。これだけであれば既に召喚された《裁きの龍》や《混沌帝龍 -終焉の使者-》と同じであり、特段気にかける必要はない。しかし、彼を驚かせたのはそれだけではなかった。

 

 

 《青氷の白夜龍(ブルーアイス・ホワイトナイツ・ドラゴン)

 

 

 カード名・外見・レベル・攻守。この世界にここまで《青眼の白龍》とそっくりなモンスターが存在するとは、夢にも思うまい。もしもあの男(・・・)が見ようものなら、『この紛い物がぁああッ!!』などと言って激昂するのではないだろうか。

 

「あら、どうしたのかしらアテムくん。確かにこのドラゴンは一般市場にほとんど流通していないカードだけど、ほぼ絶句するほどの反応が来るとは思わなかったわね」

「ふっ、俺がよく知るカードにあまりにも似ていたからな。青氷(ブルーアイス)、そいつは随分なレアカードのようだが、それ以上に並々ならぬ『想い』が籠められているみたいだな」

 

 アテムの《ブラック・マジシャン》然り、にこの《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》然り、決闘者の誰もが持つ最強の切り札(フェイバリット)は特に強い存在感を放つという。

 このドラゴンも例に漏れず、今まで光属性を主体としていたはずのデッキから水属性のドラゴンが飛び出してきたというのに、これまでで最も強烈にアテムを威圧していた。つまり、それだけ大事にしているカードということだ。

 

「……隠すほどのことでもない、か。青氷(ブルーアイス)は、かつて祖母から貰ったもの。私のデッキとシナジーが強いわけではないけど、特に大切にしているカードよ。

 さぁ、貴方にこのカードが倒せるかしら?」

「言われるまでもない。ようやく見せてくれたお前の全力に、俺も応えてやるぜ! 魔法発動、《強欲で貪欲な壺》!

 デッキトップから10枚のカードを裏側表示のまま除外することで、新たに2枚のカードをドローする!」

 

 手札0であったアテムが引き当て、発動したのは《強欲な壺》と《貪欲な壺》が半分ずつ組み合わさったかのような厳めしい壺のカード。前者は禁止カード、後者は制限カードに指定されているだけあって、非常に豪快な発動条件と効果と言えよう。

 裏側表示のまま除外されたカードを再利用する方法は、数千枚という種類を誇るデュエルモンスターズの中でも、片手で数えられるほどしか存在しない。それが10枚となれば、引きたかったはずのカードが除外されてしまう可能性が高くなる。発動する段階でデッキ枚数が24枚であった彼のデッキならば尚更だ。

 

(彼のデッキはおそらくハイランダー。キーカードが除外される可能性の方が高いはずなのに、どうしてかしらね。彼ならばそんな失敗はしないと思えてしまうわね)

 

 絵里自身、勝ちたいという思いは変わらない。しかし、彼女の全力に応えようとする決闘者が運を天に見放されることなど、あって欲しくないという思いも同時に抱いていた。

 大量のカードを糧として2枚を新たに引いたアテムは、ほくそ笑む。

 

「現在俺のフィールドにモンスターは存在しないが、バトルフェイズに入ることは可能だ! 俺は手札から速攻魔法《造反劇》を発動!

 お前の青氷(ブルーアイス)のコントロールを貰うぜ!」

 

 発動されたのは、《貪欲な瓶》で戻していた速攻魔法。なるほど、どれだけ攻撃力が高いモンスターを召喚したとしても奪い取られてしまえば逆に自らの首を締めることになる。

 今、絵里の手札はなく場には白夜龍のみ。伏せ(リバース)カードが存在しない以上、この効果が通ればアテムの勝利は確定する。だが――

 

「そうはさせない! 私は、《青氷の白夜龍》の効果発動! 自身を対象とする魔法・罠カードの発動を無効にして破壊する!」

「何ッ!?」

 

 白夜龍の眼前に突如氷雪が吹き荒れ、コントロールを奪わんとする魔法効果を打ち消した。対象に取るカード効果を無効にするという効果は、まるでアテムが持つ『三幻神』がかつて持っていた効果のようではないか。

 

「絵里先輩、凄い……。もしも《アークブレイブドラゴン》の蘇生対象をミカエルにしていたら、アテムくんが勝っていた」

「ええ。いくらライフポイントやデッキが少ないからといって、属性もカテゴリも関係のないモンスターを復活させることなどまずあり得ません」

 

 古今東西、デュエルに限らず戦いというものはたった1つの判断が流れを大きく変えることがある。それがたとえ、ことりたちの言うように普通は絶対にしない行動であっても。

 

「召喚した私自身、驚いているわ。今までの私なら、多少迷うことはあっても青氷(ブルーアイス)を選択しようとは思わなかったもの」

「だろうな。俺だってミカエルを選んでいたはずだ。しかし、そのおかげで《造反劇》は不発に終わってしまった。

 そのドラゴンは絢瀬の婆さんから受け取ったカードだと言っていたが、新たな一歩を踏み出そうとするお前のことを応援しているかのようだな」

「…………そうかも、しれないわね。さて、次の手を見せてみなさい。《強欲で貪欲な壺》で引き当てたもう1枚のカード、何もないとは言わせないわよ?」

 

 絵里の言葉は、ここにいる者の総意だ。彼ほどの決闘者が、カード効果を無効にされてお終いなどとは思えない。まだ何かを仕掛けるはずだと確信にも近い予感を抱いていた。

 アテムとて、あの《青眼の白龍》によく似たモンスターを相手にしては尚更無様な姿を晒すわけにはいかない。

 

「当然だ! 俺はメインフェイズ2へと移行し、手札から魔法カード《命削りの宝札》を発動。手札が3枚になるようにカードをドローする! このカードを発動『する』ターン俺は特殊召喚を行なえず、発動『後』はターンの終わりまで相手が受けるダメージは0となる」

「ここに来て、更にカードをドローですって……!?」

 

 発動後にダメージを受けなくなるデメリットのおかげで、絵里がこのターンで敗北することはない。だが、一気に手札を補充することで反撃の準備を整えることが可能となる。

 

伏せ(リバース)カードを2枚セットして、俺は《クリバンデット》を通常召喚!」

 

 《クリバンデット》

 ☆3 闇属性 悪魔族 ATK1000

 

 発動ターン中の特殊召喚は封じられていても、通常召喚は可能。現れたのは、白夜龍よりも遥かに小さな盗賊悪魔。

 

「アテムせんぱいが引いたモンスターが《メタモルポット》なら良かったけど、生徒会長の墓地に《ADチェンジャー》が存在する以上単純な壁モンスターを出す意味はないね」

「ということは、アテムくんは《クリバンデット》の効果を使うつもりなんだね。

 あれ? でも、《命削りの宝札》は発動したターンのエンドフェイズに手札を全て捨てるデメリットがなかったっけ?」

「……穂乃果、アンタは何回もアテムとデュエルをしてきたはずでしょうに。いい機会だからエンドフェイズの処理について改めて勉強しておきなさい」

 

 ある程度デュエルモンスターズのことを学んでいる穂乃果であっても、未だにあやふやなルールは幾つもある。そんな彼女の疑問が聞こえたのかは定かではないが、アテムは講義を行なうかのようにターンを進行する。

 

「俺はこのままエンドフェイズに移行する。ここで《命削りの宝札》のデメリットと《クリバンデット》の効果があるが、2つの処理はチェーンを組まず好きな順番で処理することが可能。

 よってまずは《命削りの宝札》の『手札を全て捨てる』処理を行なうが、今の俺の手札にカードはない。

 続いて《クリバンデット》の効果を発動だ。召喚したターンに自身を生け贄に捧げることで、デッキトップからカードを5枚めくる。その中から魔法・罠を1枚選んで手札に加え、残りは墓地に送るぜ」

 

 《ネクロ・ガードナー》

 《クリボー》

 《疾走の暗黒騎士ガイア》

 《破壊剣士の伴竜》

 《ワンダー・ワンド》

 

 めくられたカードは、モンスターが4枚と魔法が1枚。当然手札に加えるのは装備魔法《ワンダー・ワンド》だ。

 この処理により、彼の残りデッキ枚数は4枚。絵里のそれを僅かに下回った。

 

「これでセンパイも生徒会長も、デッキ枚数があと僅か。ここまで来てデッキアウトで決着がつくなんて無いと思うけど……。真姫ちゃんはどう思う?」

「私も同意見よ。でも、アテム先輩が伏せた2枚のカードの中に防御札が無ければ次に生徒会長が仕掛けてくる攻撃を防ぎきれない」

「え? …………あっ!」

 

 現在、絵里の場にはモンスターが1体しか存在しない。たった今墓地に送られた《ネクロ・ガードナー》は墓地から自身を除外することで1度だけ相手モンスターの攻撃を無効にする効果を持つため、白夜龍の攻撃を防ぐことは可能。

 だが、花陽はすぐに思い出した。たとえ次のドローカードがなんであっても、絵里の手札には『確実にモンスターが加わってしまう』ことを。

 

「私のターン、ドローッ! このスタンバイフェイズ時、《光の封札剣》の効果で除外されていたカードが手札に戻る!」

「ちっ、《オネスト》の封印が解かれてしまったか……!」

 

 昨今のデュエルモンスターズのゲームスピードは非常に高速化しており、3ターンもあれば決着がつくことも珍しくはない。

 その間に相手を倒すことができれば裏側表示で除外する《光の封札剣》は強力なカードだが、手札に戻ってしまった今はアテム本人がディスアドバンテージを負うこととなった。

 ましてや除外されていたカードはモンスターカード《オネスト》であることはわかりきっている。つまり、真姫が言ったように伏せ(リバース)カード次第でアテムは負けてしまうのだ。

 

「メインフェイズ1に移行し、私は手札から魔法カード《貪欲な壺》を発動! 墓地から、

 

 《ライトロード・ハンター ライコウ》

 《ライトロード・アーク ミカエル》

 《ライトロード・セイント ミネルバ》

 《ライトロード・エンジェル ケルビム》

 《ライトロード・マジシャン ライラ》

 

 この5枚のモンスターをデッキ及びエクストラデッキに戻し、2枚のカードをドローする!」

「ここで《貪欲な壺》だと!?」

 

 数多くの決闘者が多用するドローソースだが、アテムが戦慄したのはドローを行なうから、というだけではない。デッキにモンスターを戻してからドローするということは、【ライトロード】の弱点であるデッキアウトによる敗北が遠のいたからだ。

 新たに2枚のカードを手にした絵里は、目を丸くする。まさか伏せ(リバース)カードを除去するカードを引き当てたのか、と皆が思った。

 しかし――

 

「伏せは破壊できないけど、面白いカードを引けたわ。

 魔法カード《魂の解放》を発動! 互いの墓地からカードを5枚対象として、ゲームから除外する! 対象とするカードは、

 

 《エルフの聖剣士》

 《超戦士の儀式》

 《ブラック・マジシャン》

 《ネクロ・ガードナー》

 《破壊剣士の伴竜》

 

 この5枚よ!」

「ッ! ならば俺はその効果にチェーンして、《ネクロ・ガードナー》を除外して効果発動! 相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする!」

 

 墓地から5枚のカードを対象とする点で《貪欲な壺》と《魂の解放》は同じだが、『5枚全て』をデッキに戻す必要がある前者と違って後者のテキストには『そのカード』と記されている。つまり、対象となったカードが減少したところで、残りのカード全てが除外されてしまう。

 

「マズいわね。アテム先輩のデッキの象徴、《ブラック・マジシャン》が除外されるだなんて」

「それだけやないで。《超戦士の儀式》やアテムくんの墓地に残っていた唯一の光属性モンスター《破壊剣士の伴竜》が除外されたことで、「カオス・ソルジャー」系統の特殊召喚もほぼ封じられた。

 しかも、エリちは《ネクロ・ガードナー》の効果も『使わせた』」

 

 《ネクロ・ガードナー》の効果は、《超電磁タートル》と違いバトルフェイズ以外でも自由なタイミングで発動可能なため、1度だけなら攻撃を防ぐことができる。

 

 

 『次の』攻撃、だけならば。

 

 

「ここで私は、《オネスト》を通常召喚!」

 

 《オネスト》

 ☆4 光属性 天使族 ATK1100

 

 『誠実』の名を持ち、巨大な真白き翼を広げる男性天使。その端正な顔立ちとは裏腹に、光属性モンスターに絶大な力を与えるカードでもある。

 また、これにより絵里の場に2体のモンスターが並んだ。

 

「バトル! まずは《オネスト》でプレイヤーに直接攻撃(ダイレクトアタック)! そしてこの攻撃は……」

「ああ、そうだ。《ネクロ・ガードナー》の効果で強制的に無効となる」

 

 アテムが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべると同時、彼に向かって突進した天使の一撃を闇の戦士が跳ね返す。

 これが《ネクロ・ガードナー》の弱点。相手の攻撃に対して発動しなかった場合、攻撃力0のモンスターの攻撃であっても『必ず防がなければならない』のである。

 

「仮に貴方が伏せていたカードが、攻撃モンスターの攻撃力分のダメージを与える《魔法の筒(マジック・シリンダー)》や、青氷(ブルーアイス)の効果が及ばないミラーフォースのような全体除去、そしてカウンター罠《攻撃の無力化》だったならば、《ネクロ・ガードナー》の効果を使うという選択肢はなかった。

 つまりその2枚のカードは、十中八九攻撃を防ぐためのものではない」

「……」

 

 絵里の問いに対して、アテムは答えない。それを彼女は肯定と受け取り、このデュエルに終止符を打つための攻撃命令を下した。

 

「これで終わりよ! 《青氷の白夜龍(ブルーアイス・ホワイトナイツ・ドラゴン)》で、プレイヤーに直接攻撃(ダイレクトアタック)!!」

 

 周囲の空気が冷え込み、白夜龍の口腔に冷気が充填されていく。残りライフ50のアテムに対して、攻撃力3000の直接攻撃。彼女の思いが強く籠められる攻撃が与えるであろう衝撃は、単純な数値以上に強烈であることは間違いないはずだ。

 

「……お前の読み通り、この2枚の伏せ(リバース)カードはミラーフォースや《魔法の筒》のように攻撃に対して反応するものじゃない。よって俺は3000ポイントのダメージを受けることになるが、ダメージステップに入る前に伏せ(リバース)カードを1枚発動させて貰う」

「このタイミングで、伏せ(リバース)カードですって?」

 

 モンスターを守備表示で蘇生させるつもりか、とも思ったがアテムは『3000ポイントのダメージを受ける』と述べた。つまり、これから発動されるカードはプレイヤーのライフを回復させるものと考えて間違いない。

 

「ところで絢瀬、お前は『μ’s』の意味を知っているか?」

「一応、ね。確かギリシャ神話に出てくる芸術の女神たちのこと…………まさか、そのカードは!?」

 

 ライフ回復、更には女神。デュエルが始まる少し前に希が絵里へと見せたカードのうちの1枚の名は――!

 

 

 

 

 

「そのまさかだ! 永続罠発動、《女神の加護》! このカードの効果で俺はライフを3000ポイント回復する!」

 

アテム LP50 → LP3050

 

 麗しき女性が現れ、鳥を象った金色の杖を振るう。これによりアテムのライフポイントは大幅に回復し、ある程度の攻撃を耐え切ることが可能となる。

 その様子を、絵里は信じられないと言わんばかりに目を見開いていた。

 

「さぁ、思い切りぶつかってこい。お前の全力の一撃を、俺『たち』が受け止めてやる!」

「貴方だけ、じゃなく……?」

 

 彼女がチラリと横を向くと、アテムの言葉を肯定するかのように穂乃果たちは微笑みを浮かべて頷く。そこには、希も含まれていた。

 

「言うたやろ、エリち。穂乃果ちゃんたちは受け入れてくれるって。

 やりたいことがあるのなら、まずやってみる。本当にやりたいことは、そこから始まるんや」

 

 前へ進もうとする少女の意思にデッキが応え、《女神の加護》という名のカードが全力を受け止めようとしてくれる。

 絵里が長い間抱えていた葛藤が徐々に薄らいでいき――、

 

「…………ええ、その通りね」

 

 靄は完全に取り払われた。デュエルが終わったら、本当の気持ちを皆に伝えよう。

 

「私の全力を受け止めると言うのなら、まずはこの一撃を耐えてみなさい! アテムくん!!」

 

 

 

 ――凍結のブリザード・ストリーム!!

 

 

 

 絶対零度の吹雪が、アテムへと殺到する。あの白き龍と同等の攻撃値に加え、かつてない思いを籠めた凍気を受けた彼の膝は折れ、意識は飛びそうになってしまう。

 

「ぐ、うぅ………ッ!」

 

アテム LP3050 → LP50

 

 だが、彼女の全力を受け止めると言った以上ここで倒れるわけにはいかない。それに、ライフはまだ残っている。諦めるという選択肢は論外だ。

 

「……効いたぜ、お前の全力」

「でも、貴方のライフはこれで再び50ポイント。わかっていると思うけど、私の墓地に《ADチェンジャー》がある以上もう逃げ場はないわ。

 私はバトルを終え、メインフェイズ2へ移行。ここで《オネスト》のモンスター効果を発動し、自身を手札に戻す。更に伏せ(リバース)カードを1枚セットして、ターン終了よ」

 

 絵里の手札と場のカードが1枚ずつ入れ替わり、ターンは移り変わる。

 お互いにライフポイントは風前の灯火、貧弱なバーンカード1枚で決着がつく。加え絵里とアテムのデッキ枚数も残り少なく、それぞれ6枚と4枚。デッキアウトによる決着もあり得ない話ではない……、が実際にはまず起こり得ないだろう。

 

「アテムさんのフィールドに存在する《女神の加護》は、フィールドから離れると同時にプレイヤーへ3000ポイントもの大ダメージを与える強烈なデメリットがあります。つまり《サイクロン》のようなカードを発動するだけで、ライフは0になる」

「エリちのデッキは残り6枚、そのうち半分は魔法・罠を破壊できるケルビムとライラ、そしてライコウ。次のドローで引き当てる確率は丁度50%。だけど今のエリちなら確実に引き当てるはずや」

 

 最も信頼するエースモンスターを除外され、逃げ場もない。次が正真正銘のラストターンという絶体絶命の状況。それでもアテムは、笑みを浮かべていた。

 彼のことをよく知らなければ『勝負を諦めたのか』と考えるかもしれないが、生憎ここにいる者はそんな単純な決断を下しはしない。無論、絵里でさえも。

 手札が1枚しかない状況で勝利を確信できるとも思えず、ならば『強敵と戦うことへの歓び』かと予想する穂乃果たちだが、これも完全に正解とは言えない。

 『あの決闘者』の激闘を思い起こさせる今の状況が、彼の感情をかつてないほどに昂ぶらせているのだ。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 アテムがドローしたカードは、戦局を一変させるものではない。しかし、勝利を呼び込む可能性を秘めていた。

 

「手札から魔法使い族モンスター《マジシャンズ・ヴァルキリア》を通常召喚し、このモンスターに《ワンダー・ワンド》を装備する!」

 

 《マジシャンズ・ヴァルキリア》

 ☆4 光属性 魔法使い族 ATK1600 → ATK2100

 

 《ブラック・マジシャン・ガール》によく似た魔術師の少女が、杖を持ち替えつつ現れる。多少攻撃力を上げたからといってやはり白夜龍には及ばないが、狙いは当然もう1つの効果にある。

 

「更に、《ワンダー・ワンド》を装備モンスターとともに墓地に送ることで効果発動! 新たに2枚のカードをドローする!」

 

 魔術師の少女の魂を糧として、新たなカードを引くためにデッキへと手を伸ばす。通常召喚の権利を既に行使した上、デッキ枚数は残り3枚。ここで逆転のカードを引き当てなければ仮に絵里が次のターン以降に除去カードを引けずともデッキアウトによる敗北は必至。

 

(絢瀬はこのデュエルの中で自らの殻を破り、俺をここまで追い詰めた。ならば俺も……いや、俺『たち』も更なる力を出さねばならない)

 

 それでも彼は、恐れない。対戦相手へと敬意を払い、自分たちの戦いを見守る者たちのためにも。

 

「これが最後のドローだ! 俺は――」

 

 右手が2枚のカードを掴んだ、その瞬間。

 

 

 

 ――手札から、モンスター効果を発動!

 

 

 

 デッキがひとりでに輝きを放ち、アテムはドローを行なう前にカードの発動を宣言した。

 

「ッ! また、カードをドローせずに発動を宣言!? それに、この光はいったい……!」

 

 絵里は、以前アテムがカードをドローする前に発動を宣言した事態を目の当たりにしている。これは余程運の良い決闘者なら可能かもしれないが、カードが光りだすという現象は見たことも聞いたこともない。

 

「アテムさん、まさかまたアレをやるつもりですか!?」

 

 一方海未は彼女とは別の意味で驚愕していた。自身、そしてにことのデュエルで引き起こした『あの現象』と同じことを、アテムは行なおうとしているのだから。

 

「我に仕えし忠実なる精霊魔導士よ! 原初の記憶を解き放ち、今ここに蘇れ!!」

 

 

 

 

 

 ――レベル7! 《守護神官マハード》!!

 

 

 

 

 

 《守護神官マハード》

 ☆7 光属性 魔法使い族 ATK2500

 

 そのモンスターは、一言で表せば『異質』だった。

 モンスターカードが場に現れる時、基本的に相手プレイヤーと向かい合うように立つか浮遊するのが常だ。しかし今現れた精霊魔導士は、絵里に背を向け、召喚者であるアテムへと跪いているではないか。

 

(いえ、それよりもあの格好は……)

 

 彼女の脳裏に、アテムと初めて出会った日のことがふと浮かぶ。

 浅黒い肌、黄金の鎧と杖、白い外套。肌の色や装飾は異なるが、彼が当初纏っていた衣服と雰囲気が似通っている。しかも、彼は今『我に仕えし忠実なる精霊魔導士』と述べていた。

 穂乃果たち2年生や希も同じことを思い出していたらしく、『もしかして……』と呟いている。

 

「マハード、俺の呼び掛けに応えてくれて感謝する。俺に力を貸してくれるな?」

 

 アテムは自らのモンスターに、まるで臣下であるかのように問いかける。随分と感情移入しているのだと一同は思ったが――

 

(ファラオ)よ、我が魂は永遠に貴方の下僕(しもべ)。3000年の時を超え、異なる世界に旅立とうとも変わることはありませぬ。

 それどころか、原理は不明ですが魔術の札(デュエルモンスターズ)精霊(カー)として生前の姿を呼び出して頂いた多大なる恩。感謝してもしきれません」

 

『!?』

 

 ソリッド・ヴィジョンであるはずのモンスターが、プレイヤーと対話。穂乃果たちは夢でも見ているのだろうかと自問した。

 立ち上がり、白夜龍を視認した途端に驚愕の表情を浮かべる精霊魔導士の挙動も妙に人間味があり、少女たちを驚かせる。しかも彼の顔立ちは、アテムの切り札である《ブラック・マジシャン》と酷似していた。

 

「この状況、《白き龍》と対峙した時を思い出します。あの時は力及ばず敗北を喫してしまいましたが、此度こそは……!」

「ああ、当然だぜ。世界を超えて創り出された最高の舞台。必ず勝利してみせる!

 行くぜ絢瀬! 俺は手札から魔法カード《一騎加勢》を発動! マハードの攻撃力をターンの終わりまで1500ポイントアップさせる!」

 

 《守護神官マハード》

 ATK2500 → ATK4000

 

 《ワンダー・ワンド》の効果によってドローされたもう1枚のカードが発動され、精霊魔導士の攻撃力は大幅に上昇する。これで、白夜龍の力を上回った。

 

「最後のバトルだ! 行け、マハード! 《青氷の白夜龍》を攻撃せよ!」

「ハッ!」

 

 アテムの指示に応じた魔導士は天高く飛び上がり、杖を掲げる。絵里は召喚成功時にも、魔法カードの発動に対しても伏せていたカードを発動する素振りは見せていない。

 

「この攻撃が通れば、アテムくんの――」

伏せ(リバース)カード、発動ッ!!」

 

 穂乃果が彼の勝利を確信し、呟くと同時。

 絵里は大きく目を見開き、カードの発動を宣言した。

 

「永続罠《DNA移植手術》! このカードが存在する限り、互いのフィールド上に存在する全モンスターの属性を変更する! 私が宣言するのは、『光属性』!!」

 

『なっ……!?』

 

 誰もが、信じられないという感情を隠さずにはいられない。攻撃態勢に入っているマハードでさえ、一瞬その動きを静止してしまうほどに。

 

「《DNA移植手術》ですって!? どうして【ライトロード】にあんなカードが入ってるのよ!」

 

 真姫の狼狽も尤もだ。

 デッキトップから無差別にカードを墓地送りにする効果を多用する【ライトロード】の性質上、魔法・罠の枚数は少なくなりがち。入るとしても《死者蘇生》や《ハーピィの羽根帚》のように1枚で戦局を一変させるものや、《ギャラクシー・サイクロン》のように墓地でも効果を発動できるものばかり。

 そもそも属性を変更するだけのカードなど、コンボを狙うことが前提のデッキでもない限り採用されることはまずあり得ないはずである。

 

「このカードは昨日の夜に妹から貰ったもの。青氷(ブルーアイス)を始めとした光属性以外のモンスターと組み合わせてみてはどうか、とね。

 あの娘の思いを無碍にすることはできないだなんて単純な理由で入れていたけど、本当に不思議よね。私と、祖母と、亜里沙。3人のカードが勝敗を決定付けるのだから」

 

 《DNA移植手術》の効果は、互いの場全てに影響を及ぼす。つまり白夜龍を対象に取ることはなく、その属性は『水』から『光』へと変更された。

 これにより発動可能となるカードが、絵里の手にはある。

 

「私は、青氷(ブルーアイス)を対象として《オネスト》のモンスター効果発動! 『ダメージステップ開始時』から『ダメージ計算前』にこのカードを手札から墓地に送り、対象モンスターの攻撃力をターンの終わりまで、バトルする相手モンスターの攻撃力分アップする!」

 

 白夜龍の氷の翼が、光輝く白き翼へと変質していく。今、マハードの攻撃力は4000ポイント。よって――

 

 《青氷の白夜龍》

 ATK3000 → ATK7000

 

 精霊魔導士が放った光の奔流を上回る質量を持った吹雪が、徐々に押し返していく。どれほど高い魔力(ヘカ)を持とうとも、より高い攻撃力を手にした龍の前では敗れ去るのみ。

 

「これで、私の勝ち――」

 

 

 

 ――それはどうかな?

 

 

 

「ッ!?」

 

 絵里が自らの勝利を確信した瞬間、『待った』をかけるかの如くアテムはデュエルディスクへと手をかざす。まさか、ここで新たなカードを発動しようというのか。

 

「マスタールール3になって暫くしてからこの世界に来た俺にとってはあまり馴染みのないが、かつて《オネスト》の効果は『ダメージ計算時』に発動が可能だったらしいな。

 だがルール改訂によって発動タイミングは『ダメージ計算前』までとなり、効果処理が終わった後でも新たにカードを発動できる!」

 

 しかもこのタイミングで発動可能なカードといえば、攻撃力を変動させるカード以外にあり得ない。

 

「絢瀬殿。私と(ファラオ)を上回らんとする貴女たち家族の絆、お見事です。しかし、この戦いだけは負けるわけにはいきませぬ!」

「その通りだぜ、マハード。俺たちの魂は砕けやしない!

 見せてやる、これが俺たちのファイナルカードだ! 罠カード発動、《不屈の闘志》!

 マハードの攻撃力をターンの終わりまで、相手フィールドに存在する最も攻撃力が低いモンスターの数値分アップする!

 今、絢瀬のフィールドに存在するモンスターは攻撃力7000の青氷(ブルーアイス)のみ! よって――」

 

 

 

 《守護神官マハード》

 ATK4000 → ATK11000

 

 

 

「攻撃力、11000……!?」

 

 精霊魔導士の後方に浮かぶ魔法陣がより大きな輝きを放ち、白夜龍の力を根こそぎ吸収していく。

 互いの手札はなく、場と墓地にも発動可能なカードは存在しない。

 眩き膨大な光が屋上はおろか学校全体を包み込み、光の奔流と吹雪は再度逆転した。

 

「行け、マハード! 全力の魔力(ヘカ)を解き放て!!」

 

 

 

 ――魔・導・波(マジック・バースト)!!

 

 

 

絵里 LP250 → LP 0

 

「私の負け、か……」

 

 4000ポイントもの大ダメージをその身に受け、絵里のライフポイントは完全に消失する。

 家族の力を借り受け、持てる力の全てを出しきった上での敗北。だが……いや、『だからこそ』と言うべきか。

 立ち尽くす絵里は、今まで手にしたどの勝利よりも満足気な表情を浮かべていた――。

 

 

 

●9人の女神

 

 

 

「いいデュエルやったよ、エリち」

「希……」

 

 ソリッド・ヴィジョンが映し出すカードたちが消え去ると同時。絵里の側へと駆け寄ってきた希から、労いの言葉がかけられる。

 そんな親友の姿が、バレエの大会で賞をとれなかった時に祖母が声を掛けてくれた時と少しだけ重なった。しかしあの時と違うのは、今彼女の心を満たすものが『悲しみ』ではなく『充足感』だということだ。

 視線を少しだけ先へ向けると、少年の周りを『μ’s』のメンバーが囲っている様子が見える。誰もが笑みを浮かべて彼の健闘を讃えており、その笑顔は何度か視聴した彼女たちのダンスと同じくらいに輝いていた。

 今までであれば、自分もその輪に入りたいという願いから目を背けていただろう。だが、このデュエルで皆が伝えてくれた。恐れず勇気を出して前へ進むことの大切さを。そして、絵里のことを受け入れてくれると。

 愛する家族も、渡してくれたカードで背中を押してくれたのだ。ならばもう迷う必要はどこにもない。

 

「…………ねぇ、貴女たち」

 

 穂乃果たち9人に向けて放たれる小さくも力強い声を合図に、屋上は一瞬にして静まり返る。今聞こえるのは、絵里が一歩進む毎に響く足音だけ。やがて穂乃果の眼前に立つと、90度近く深々と頭を下げて謝罪の言葉まで述べた。

 

「えぇっ!?」

 

 これには流石の穂乃果たちも慌ててしまう。何らかの言葉を投げかけてくるのだろうとはわかっていたが、まさか最敬礼以上の角度で頭を下げるとは思わなかったからだ。一拍置いて、彼女は語り出す。

 祖母の思い出の場所であり、自分が2年以上過ごしてきた音ノ木坂学院を守りたい気持ちに変わりはないこと。

 今までの自分は『生徒会長』としての義務感に囚われるあまり、本当にやりたいことから目を逸らしていたこと。

 かつて絵里が挫折してしまったダンス。それを『やりたい』という理由で始めて、どれだけ辛くとも前に進もうとする穂乃果たちに、僅かながら憧憬の念を抱いたこと。

 そして、このデュエルを通して本当の気持ちに向き合い、『μ’s』に入りたいと決意したことを。

 

「今まで貴女たちの活動を否定してきておいて、都合のいいことを言っているってことは自分でもわかってる。でも、これが私の気持ち! だから――!」

 

 『受け入れてくれる』とカードで語ってくれたものの、どうしても不安を拭いきることができない。しかし絵里の言葉を遮るように、目の前に右手が差し伸べられる。頭を上げると、2人の視線は当然一直線上に繋がった。

 

「絵里先輩。さっきもアテムくんが言いましたが、私たちは貴女を拒むなんてこと絶対にしません。

 いえ、むしろこっちからお願いしたいです! 昨日指導して頂いた時から、『μ’s』に入って欲しいとずっと思ってました! だよね、皆!」

 

 先と同じく、嘘偽りのない穂乃果の瞳。残りの者へと問いかける彼女の視線を追うと、例外なく微笑みを浮かべていた。

 

「……ありがとう、高坂さん」

 

 伸ばされた手を握り、微笑みを返す。そこにはもう、憂いや悩みなどというものは存在しない。今ここに絢瀬絵里という新たなメンバーが加わり――

 

「そしてウチも入れて、9人や」

「えっ、希先輩?」

 

 絵里の横に並び立つ、もう1人の少女。希は懐から2枚のカード、《ミューズの天使》と《女神の加護》を取り出して告げる。

 

「占いで出てたんよ。このグループは9人の少女が集った時こそが本当の始まりやって。それに、家でカードを整理している時に見つけたのがこの2枚のカード」

「……9人の歌の女神、『μ’s』。なるほど、希先輩が名付け親だったというわけですか。決定直後にことりがアテムさんを折檻したため、誰がつけてくれたかを考えることはありませんでしたが」

「へ、変なこと聞こえたような気がするけど、そういうことや。まぁ、アテムくんがデッキに《女神の加護》を入れていたことは予想外やったけどな」

 

 心から嬉しそうに、希は笑う。彼女は……いや、彼女以外にもこう考えている者もいるのかもしれない。9人の女神を引き寄せ、運命を導く切欠を創り上げたのは、他ならぬアテムという少年()であったのではないかと。

 

「希……。まったく、呆れるわ…………あら、もうこんな時間」

 

 絵里の言葉に重なるように、始業を告げるチャイムが校内に響き渡る。普段なら余裕を持って既に自らの教室に入って1限目の準備をしているはずが、今日に限ってはこれから授業であるということすら頭から抜け落ちていた。未だ練習着のままの穂乃果たち7人に至っては、早く着替えなくては、と大慌てだ。

 

「私たちは着替えてから教室に向かいますので、申し訳ありませんが少しだけ遅れると先生に伝えて頂けないでしょうか」

「あ、当然私もよ!」

 

 荷物を纏めつつ、海未とにこがそれぞれアテムと絵里、そして希に依頼する。真姫たち1年生は口頭で頼むことはできないため、凛がデュエルディスクを用いてクラスメイトに連絡していた。

 

「任せておけ、園田!」

「ふふっ。生徒会長と副会長が揃ってギリギリに入室するなんて、皆驚くかもしれへんなぁ」

「もう、ふざけてないで早く行きましょう。2度目のチャイムが鳴ってしまうわ」

「絢瀬殿の仰る通りです。こうしている間にも、時間は刻一刻と過ぎていくのですから」

 

 海未とにこの言葉に応じたのは、4人(・・)

 

『…………』

 

「おや、皆さん急に止まってしまいましたが、どうしたのでしょうか」

「まるで《六芒星の呪縛》の効果を受けたみたいだぜ」

 

 具体的に言えばアテム、希、絵里、そして――

 

 

 

 

 

 ――浅黒い肌の青年、マハードである。

 

 

 

 

 

『どういうこと!?!?』

 

 随分と遅い9人の少女のツッコミが木霊する。デュエルの決着という余韻に浸り、新たなメンバー加入の喜びのあまり、気付くのがすっかり遅れてしまった。

 アテムの左腕にデュエルディスクは装着されているが展開はされておらず、デッキも彼のベルトに差し込まれたデッキホルダーの中だ。デュエルが終われば当然姿を消すはずのモンスターが、なぜかアテムの隣を浮遊し、言葉を発していた。

 

「なるほど。皆さんは私がディアハ……いえ、デュエルが終わった後も実体を保っていることに驚かれているようですね。

 しかし私は魔術の札(デュエルモンスターズ)精霊(カー)であると同時に、生前は王墓警護隊長も務めていた身。どういうわけか、この世界では消費する(バー)も極端に少なく、(ファラオ)に負担がかかることもない。然らばいつ何時もこうして(ファラオ)の元に控えるのは当然のこと」

 

『それっておかしくないかな!?』

 

 またもや響くツッコミの調和(ハーモニー)

 『精霊(カー)』とか『生前』とか『(バー)』とかおかしな単語が含まれているが、そんなことはどうでもいいのだ。

 当然、と言いながら会話していることが問題なのである。

 

「ちなみに、姿を消すこともできます。このように」

 

 途端に見えなくなるマハード。アテムは瞳を輝かせて感心している様子。

 

『できるなら最初からやって!』

 

 これで3度目の総ツッコミ。どうやら『μ’s』の結束は早くも完璧らしい。

 それぞれ自らの頭を掴んで悩む彼女たちに目もくれず、再度実体化したマハードとアテムの会話は続く。

 

「ところでマハード。あの『戦いの儀』から随分経つが、やはり俺は冥界に戻るべきなのだろうか……」

「神官としてはすぐにでも、と申し上げるべきなのでしょう。しかし(ファラオ)、貴方はこの世界で新たな友と出会い、1人の人間として学校生活を送り、一丸となって1つの目標へと進んでおられます。そのような機会、王宮に戻ればもう訪れませぬ。

 ならばこの地で『やりたいこと』を存分に堪能してからでも遅くはないでしょう」

「うん、そうだな☆ これからもよろしく頼むぜ、マハード!」

「御意」

 

 語尾を弾ませながら拳を握り締めるアテムと、再び跪くマハード。改めて物騒な単語が聞こえた気がしたが、もうツッコミを入れる気力は彼女たちに残されていない。

 と、ここで。

 

 

 

 

 

 ――2度目のチャイムが、無慈悲に響き渡った。

 

 

 

 

 

『ゑ?』

 

 結局この日は全員揃って大幅に遅刻し、揃って理事長から説教を受けることとなったという。

 その際、不法侵入を犯した不審な格好の青年が警備員に連行されたのはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 数日後、オープンキャンパス当日。

 雲1つない青空の下、9人の少女が舞い踊る。

 ライブにやって来た中学生や保護者の数は、周囲を埋め尽くすほどとは言えないが、他の部の紹介に比べれば多い方だった。スクールアイドルとしては新参でありながら着々と順位を上げて注目を浴びていたことも原因だろうが、1番の理由は『最も多くの人が集まるように』生徒会と教職員がタイムスケジュールを調整したことであろう。

 

「せっかくの大舞台なのだから、より注目して貰わないと損じゃない。亜里沙もきっと喜ぶわ」

「娘の晴れ舞台、大々的に盛り上げたいじゃない。唐沢さん、しっかり映してちょうだいね」

 

 とは、絵里と理事長の談。職権乱用+姉馬鹿+親馬鹿である。

 

「これ、外部に漏れたらマズいでしょ」

「確かに問題かもしれませんが、唐沢殿は追加の部費を喜々として受け取っておりませんでしたか?」

【その通りだ。貴様に文句を言う筋合いはない】

 

 とは、撮影担当となった唐沢とマハード、そして白パカの談。紛うことなき賄賂である。

 ちなみに3人の後ろではアテムが膝を抱えて蹲っている。例のごとく踊ろうとしてつまみ出されたためだ。それでもいつものように縛り上げられなかったのは、マハードが必死になって止めたおかげであった。

 

 それはともかく、観客の反応は上々であった。

 ダンス経験者の絵里による指導によって技術が大幅に向上した、というのも勿論理由の1つ。だが、それ以上に楽しく笑顔で踊る女神が見る者全てに活力を与えているからだ。

 

 

 

 

 

「ふむ。これなら、アンケートでも十二分な成果を上げることができるでしょうね」

 

 そんな彼女たちのダンスを、遥か遠くから見つめる男たちがいた。

 蟹のような頭髪の青年、青髪オールバックの青年、全体的にモノクロの衣服を纏う長身の男、そして2mを優に超え、大人2人分もの肩幅の大男。

 道行く者が誰しも振り返る4人組であるが、彼等の周囲には人っ子一人いない。これほどの距離からはっきりと少女たちの動きや表情を視認できる視力は尋常でないことは明らか。

 

「ふん、そうでなくては困る。南ことりが2週間前から顔を出さなくなったおかげで、彼女目当ての客が来店しなかったのだからな」

 

 安心するような声に対し、大男がぶっきらぼうに吐き捨てる。

 

「まぁまぁ、ことりさんが来なくて寂しかったからってそんな言い方…………痛っ、暴力反対!」

 

 青髪の男性の茶化す言葉は、頭上から振り下ろされた手刀によって阻まれた。振るった本人としては半分程度の力だが、槌の如き腕から放たれる一撃は常人の本気に匹敵する。

 

「2人とも落ち着け。客が減ったと言っても、我等や飲食が目当ての客も多くいたのだから、落ちた売上は微々たるものだ。それに、彼女はオープンキャンパスが終わればまた顔を出すと言っていたのだ。すぐに取り返せるだろう」

 

 モノクロの男は視線を動かさず、ただ一点を見つめ続ける。しかし彼が見つめる先は正確には少女たちではなく、たった1人の少年のみ。

 

(名も無きファラオ……いや、アテム。あの時は敗北してしまったが、次は勝たせて貰うぞ)

 

 その闘気に反応したらしいヒトデ頭の少年が勢い良く顔を上げて周囲を見渡すが、距離が離れすぎていることに加え、『μ’s』のメンバーや観客が発する熱気のせいか対象を補足できずにいた。

 

「貴方も落ち着いて下さい。戦意を剥き出しにしなくとも、直に戦う機会は訪れます。

 我等がこの世界に来てから1年近く。アテムと縁のあることりくんが私たちと行動を共にし、先月には貴方と同じイベントに参加しているのです。

 我等の道は徐々に近づき、交差しつつある。そうは思いませんか?」

 

 3人を見渡す蟹頭の青年は、まるで確信を持っているかのように語る。彼等の中では最も背が低く小柄でありながら、不思議と納得させるだけの圧力が言葉の中に籠められていた。

 

「おや、そろそろ終わりのようですね。私はこれから最新パックを買いに行ってきます。夕方からの店は頼み――」

 

『は た ら け』

 

 

 

 やがて曲が終わり、万雷の拍手が鳴り止んだ時。男たちは忽然と姿を消していた。

 

 

 

 邂逅の時は、近い――。

 




 マハードの攻撃力が、現在作中での最大攻撃力という謎展開。どういうことなの。
 しかし、自身の効果が使えなかったためたったの11000までしか上がらなかったので、今後はもっと高い攻撃力を発揮できるような構成を作りたいものです。

 絵里のデュエルが終わり、これでデッキが全く判明していないのは希だけとなりました。
 彼女のデッキはどうなっているのか、デュエルの時まで暫くお待ち下さい。

 最後に出てきた謎の4人組。いったい何アステルなんだ……。

 それでは、2年目に突入した「ラブライブ!DM」を今後ともよろしくお願いします。
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