それでは、どうぞ。
●遭遇
数十分後、秋葉原の街を歩く中で早速小さな問題が発生した。
「……目立ってるね、凛ちゃん」
「目立ってるねぇ」
「ふふん、人気急上昇のスクールアイドルなら当然よっ!」
「特権ってやつか。気に入ったぜ!」
そう、非常に目立っているのだ。
制服姿の見目麗しい8人の女子高生が連なって歩くだけでも人目を引くというのに、少女たちの前を歩く女性は16歳の娘を持つとは思えないほど若々しい。これだけでも目立つ要素としては十二分。
だが、しかし。
(我らの方を見る者たち。一瞬惚けた後で顔をしかめているが、一体何故……?)
不可視の状態になってアテムたちを護衛するマハードは、周囲を見渡しつつ訝しむ。神官として恋愛事を避けている彼も、可憐な女性に目を奪われる男性の気持ちが理解できないわけではない。しかし、直後に目を見開き、苦い顔をする理由がわからない。
マハードの気持ちが伝わったのか、穂乃果も同じ疑問を口にした。
「海未ちゃん、こっちを見ている人たちがコロコロ表情を変えてるけど何でかな」
「間違いなくアテムさんが原因でしょうね」
「あ、そうか。今はマハードさんが見えてないけど、周りから見たら男の子が1人だけだもんね」
「その通りです」
嘆息しつつアテムを見やる海未の様子に対し、マハードは一度疑問符を浮かべた後で納得した。普段学院では教師を除き女子しかいないため気にすることはなかったが、街中で男性1人に対して女性9人は非常にバランスが悪い。きっと誰もがアテムを羨んでいるのだろう。
「それもあるけど、アテムくんの変な髪型のせいで目立っているのではないかしら? ねぇ、皆」
…………。
『あっ!』
「ゑ?」
(む?)
絵里が出した答えに対し、数瞬間が空いてからアテム本人を除く全員が同時に声を発した。校則について指摘するべき理事長までもが、だ。
「……そういえば、いつの間にか気にしなくなっていたわね」
「私も、1日中一緒にいることが多いからすっかり慣れちゃった」
「以前秋葉原に来た時、アニメやゲームの凝ったコスプレをしていた人よりも目立っていたのはそういうことだったのね」
理事長に穂乃果、そして真姫の呟きに同意する少女たちの声。しかしアテムにはその態度が全く信じられない。
「バカなッ! 誇り高き王の証である、俺の髪型が変だと!? それにこれは地毛だ! 絢瀬、いくら仲間でも言っていいことと悪いことがあるぜ! そうだろう、マハード!」
「はい。
「ひっ!? あの、マハードさん。前から何度か言ってますけど、姿を消したまま声を出すのはやめてくれません? 心臓に悪いので」
現在、マハードは不可視の状態。そんな彼が大声を、雑踏の中でも響くほどの音量で出せば誰でも驚く。何も知らない通行人は一瞬身体を硬直させた後でそそくさと離れていき、彼女たちの周囲一帯により大きな空間ができてしまった。
「なぁ、アテムくん。それが地毛ってことは遺伝なんやろうけど、やっぱりお父さんも
希に問われ、アテムは幼き日の記憶を探る。しかし、
「……特にそんなことはなかったぜ」
「ふーん、そっかぁ。ほんなら隔世遺伝ってやつなんかな」
「え、納得しちゃうの!?」
友人の思わずツッコミを入れてしまう絵里もロシア人の祖母の血が流れており、妹と揃って金色の髪と蒼い瞳を持つ。それでも、3色ヒトデ頭が遺伝で現れることは常識的に考えてあり得ない。
その後数分間、彼女は大層頭を悩ませたという。
◆
やがて件のスクールアイドルショップの中に入った面々の目に飛び込んできたのは、CDにブロマイド、ポスターなど数多くのアイドルグッズだった。
看板には『世界初のスクールアイドルショップ!』という謳い文句が大きく書かれていただけあって、棚はおろか壁を埋め尽くすほどに豊富な品揃え。『A-RISE』や東京都内のスクールアイドルはもちろんのこと、北海道から沖縄県まで全ての都道府県を網羅している。
花陽もにこも本来の目的を忘れて瞳を輝かせ、店内を物色し始める始末。
「あ、これですね。理事長が言っていた『μ’s』のグッズというのは」
大騒ぎする2人を尻目に、海未は店内の一角を指差して理事長たちを呼ぶ。そこでは金属製の棚を用いて『μ’s』のグッズが並んでいた。スペースは約半畳ほどと、上位のグループには及ばないものの、地方のものに比べればやや広め。棚には『今最も伸びているスクールアイドル!』『多数緊急入荷!』『コンプリートするなら今がチャンス!』『観賞用・保存用・布教用・ぺろぺろ用に4つ購入しよう!』などと書かれた色とりどりのポップが貼られている。CDやブロマイドの他にTシャツにボールペン、消しゴムなど、種類も豊富。
アテムは自身のグッズが置いていないことに憤っていたが、それをフォローする者は誰一人としていない。いや、皆からは見えていないが、マハードだけは何かしらのフォローをしているらしい。
ともかく、これを見る限り『μ’s』は特に店舗が推しているのだと察することができた。
だが、それでも。真姫は一部のポップを剥がしつつ呟く。
「随分と売れているみたいだけど、やっぱり私たちに断りもなくグッズを売って儲けていると考えると、何だか納得できないわね」
「ええ。私もよ、真姫さん。製造や仕入れにお金がかかっていることはわかるけど、プロでもない一般の学生を使って商売をすることは間違っているもの。
一旦売り場から下げて貰って、グッズを販売するにしてもきちんと協議した上で出すべきね」
「それに、こうして見てみるとウチら『μ’s』だけじゃなく地方のスクールアイドルのグッズも無許可で売っとるんやろなぁ」
缶バッジなどに印刷されている写真は全てライブの映像から切り取ったもののようで、現状では盗撮されたものは見当たらない。しかし全国のスクールアイドルを取り扱うに力を入れ、『μ’s』を推している現状を鑑みるに、『そのうち盗撮されるのではないか』という疑念はより膨らんでいく。
「応援してくれるのは嬉しいけど、こればっかりは仕方ない……あれ?」
「どうした、穂乃果」
真姫たちが騒いでいる中、穂乃果は棚の端に目をやった瞬間に小さく驚くような声を上げた。つられてアテムたちも同じ方向を見てみると、そこにはやはり『μ’s』のグッズ、ことりの写真が何枚かクリップに挟まった状態で吊り下げられていた。しかし、被写体である彼女の姿は今まで見たことがないものだった。
「これって、確かメイド服というものですよね?」
膝下まで伸びる紺のワンピース、フリルのついた純白のエプロン、そしてヘッドドレス。料理やジュースを載せた
「でも、私たちもことり先輩も、メイド服なんて着たこと無かったわよね? 写ってる場所も見たことがないし」
衣装担当であることりは可愛らしい服を何着も製作してきたが、メイド服を着た者は1人もおらず、製作中という話も聞いたことがない。ましてや、写真の中の彼女は何処かで働いているようにしか見えない。
極めつけは写り方だ。何らかのポーズを取って笑顔を浮かべていたのなら、記念撮影でもしているように思えただろうが、どの写真を見ても真正面から撮られたものは皆無。単に仕事風景を写しているだけだとしても、勤務中の写真を他店で販売していい理由など、あるはずがない。
今までの流れから、これは本人に無断で撮影されたものなのではないか、そう考えずにはいられなかった。
「……絢瀬さん、私はここの店長と話をしてきます。皆さんは店の外で待っていて下さい」
「は、はいっ! わかりました!」
理事長は暗く冷たい声を発し、額に青筋を浮かべ、拳を強く握りしめつつレジへと向かう。その誰が見ても明らかな怒りようには、流石の絵里も声が上ずっていた。
理事長の本気の怒りがどのようなものか、誰も気にならないと言えば嘘になる。しかし、外で待つように言われた以上、従わざるを得ない。
炎天下の中で待つのは楽ではないが、暫くは大人しくしていよう。そう考えて一同が踵を返したところで――
その男は、現れた。
「なっ!? 貴様は!」
「ちっ。武藤遊戯……いや、今はアテムと名乗っているのだったか。君がこんなところにいるとは思わなかったよ」
店に入ってきた長身の男の風貌は、アテムに負けず劣らず異様であった。金をベースに、前髪の大部分が紫色の頭髪。これだけならば、右の顔に大きく刻まれた赤い
厚手の白い
最後に気になったのは、彼女たちの先頭に立つアテムの驚きよう。今までも彼は未知の召喚法や戦術に驚くことはあったが、今はそれ以上であった。
(アテムさんの普段の会話の中で出てくる『武藤遊戯』という名を知っているということは、もしかすると昔の知り合いということでしょうか……?)
信じたくないが、そうとしか考えられない。しかし出合い頭に敵意を向け合う彼等の様子から、知人であっても友人でないことは確かだろう。アテムに至っては、デュエルディスクを取り出していた。
「パラドックス、どうして貴様がここにいる……! 何が目的だ! それに、何故俺の真の名を知っている!」
「質問が多いな。私は野暮用を済ませに来ただけだ、今ここで戦う気はない。今すぐそこを退いて貰おうか」
偽名のような名前で呼ばれた男はアテムを押し退けるように歩を進める。少女たちはその異様な迫力に押され、両脇に逸れて道を開けていく。
そして彼は『μ’s』のコーナー横からメイド服を着たことりの写真を全て無造作に掴み取って、レジへと向かって行く。そこではちょうど理事長が店主らしき40代ほどの男性と話をしているところだった。
様子が気になった結果、穂乃果たちは理事長の言葉を無視して立ち聞きすることになったが、店主はあれこれと言い訳をして誤魔化そうとしているらしい。動きが忙しなく、汗をかいているように見える。彼女たちの立ち位置から理事長の表情は見えないが、口調と後ろ姿から相当怒っていることは容易にわかった。
「店主」
「ひっ!?」
そんな中突然現れた闖入者に、店主は悲鳴を上げて後退った。糾弾されている途中で大柄な男性に重い声で話しかけられれば、その反応も当然と言えるのかもしれないが。
「あら、パラドックスさん。いつも娘がお世話になっております」
「久しぶりだな、南理事長。1ヶ月ぶりだったか」
何度驚かされれば良いのだろう。片や女子校の理事長、片や不審な大男。まるで接点の無さそうな2人が親しげに会話しているではないか。これにはアテムも唖然としていた。
「ところでパラドックスさんは何のために……いえ、聞くまでもありませんでしたね」
「ああ。察しの通り私がここに来たのは、我等が働く喫茶店の従業員である南ことりの盗撮写真の件だ。
……さて、店主よ。これらの写真は全て回収させて貰うぞ」
パラドックスは、そう言って握っていた数枚の写真をレジへと叩きつけた。どうやら本当にことりは喫茶店で働いていたようだ。しかし一同は思う。ことりはともかく、この大男が喫茶店で働くには不釣り合いではないかと。
「回収なんて困りますよ! そ、その写真は仕入れるのに苦労し――」
「ならば仕入れの記録を持って来い。真に不本意だが、仕入れた価格で買い取らせて貰おう。それなら店の損失になることはないはずだ」
「む、無理ですよ! 重要書類を見せるだなんて! 何の権限があってそんなこと――」
「我等の店で働く仲間の写真を無断で撮影された挙句、売り出されている。本来なら警察に通報している。
それを私は妥協してやっているのだ。何を躊躇う必要がある?」
パラドックスの冷静な口調とは逆に、店主は顔を真っ赤に染めて額からは脂汗が溢れている。言葉を詰まらせたところに、今度は理事長から追い打ちがかけられた。
「まさか、『見せられる書類が存在しない』なんて言いませんよね。店主さん?」
背筋が冷えるほどの声音に、店主だけでなく少女たちも震え上がる。その姿を見下ろすパラドックスの口元が歪んだ。
「ほう、図星か。しかしおかしな話だ。南ことりを採用してからまだ3ヶ月。この短期間で、完全に処分してしまったとでも? それが本当ならこの店の経営は非常に杜撰ということになる。
……他所から仕入れたのではなく、貴様等が撮影したものだと言うのなら話は別だが。そうは思わないか、南理事長」
「確かに、仕入れていないのなら記録が無いのも当然ですね。パラドックスさんの言った話が本当であれば、警察を呼ぶことも考えた方が良いかもしれません」
「それ、は……」
最早完全に2人のペースだ。店主は目に見えるほどはっきりと歯を震わせ、目に涙すら溜めている。近くから様子を見ていた店員も、恐怖のあまり一歩も動けずいた。
「最後通告だ。今すぐに写真とデータを全て渡せ。さもなくば、私たちはこの件を然るべき場所に通報する。これがどのような意味を持つか、理解できないとは言わせん」
「それだけではありません。先ほども言ったように音ノ木坂学院に無断で販売していた『μ’s』のグッズも一旦全て売り場から下げて貰いましょう。こちらに関しては後日正式に協議した上で、今後の対応を決めさせていただきます。いいですね?」
2人とも、言外に『拒否権など与えない』と示す。
ここまで来れば、店主も抵抗する意思が完全に消え去っていた。
●地下メイド・デュエル!!
その後グッズを全て売り場から撤去し、ことりの写真を回収し、最後にカメラやPC内から写真データを全て削除した一同は、再び街中を歩いていた。パラドックスの職場、つまりことりが働いているという喫茶店に向かうためである。しかし美少女8人+美女+ヒトデ頭に大男までもが加わったせいでショップに向かう途中よりも注目を浴びてしまい、ほとんどの者は気が気でない。
パラドックス本人と元々の知人である理事長を除き、萎縮していないのはたった2人。うち片方である穂乃果は、先頭を歩く彼の横に立って積極的に話しかけている。
「パラドックスさん、さっきはことりちゃんのことを助けてくれてありがとうございます!」
「……君は確か、高坂穂乃果だったか。別に礼を言われる覚えはない。仲間の盗撮写真が販売されてしまったのは、対策が不十分だった我等の責任。私はその尻拭いに来ただけだ」
一方のアテムはパラドックスへ多少の敵意を向けつつも、先の店主とのやり取りを見てからは非常に困惑していた。
「理事長、アンタや南はパラドックスのことを随分と信頼しているようだな」
「ええ。パラドックスさんたちは、最初に会った時は圧倒されてしまったけれど、話してみると仲間想いの良い方たちですよ」
「……そうか」
それきりアテムは珍しくデュエル以外のことで考え込んでいるようだった。いや、誰もいない方向を何度も見ていたため、マハードと言葉を発することなく会話をしているのだろう。
いったい、彼等にどのような因縁があるというのだろうか。
「着いたぞ、ここだ」
やがて辿り着いたのは、小さなビル。
『Yliaster』
つい先ほどのスクールアイドルショップとは真逆のシックな装いと、看板に記された店名らしき単語。しかしその読み方や意味についてわかる者はいない。
「イリアステル。我等が昔から使っていた組織の名を流用している。さぁ、入るがいい」
改めて案内された店内で、やはり皆驚かされた。平日であるせいか客入りは
そして、やはりと言うべきか。店員の顔ぶれも異様だった。
「少々お待ち下さい、お嬢様。…………やっと戻ったか、パラドックス」
「思わぬ人物に会ったのでね。南ことりは地下にいるとして、ゾーンはどうした?」
「貴様が出かけてすぐに、『カフェ・ノワール』まで『例のコーヒー豆を仕入れに行く』と言って出て行ったきりだ。大方そこで無駄な時間を過ごしているだろうがな。ちっ、忌々しい」
1人目は黒髪で長身の男性。背筋を伸ばし、執事服を着こなす姿を見るだけならばまともなのだが、客とスタッフへの対応がまるで正反対。左胸のネームプレートには『プラシド』と書かれており、それを見たにこが『もしかして、身体が千切れても注文の品を届けるって噂の伝説的執事、プラシド……!?』などと呟いていた。
「プラシド。この国には『壁に耳あり障子に目あり』という諺もある。勤務中に乱暴な言動は控えよ」
2人目。プラシドを諌めるのはパラドックスに負けず劣らずの高身長で、スキンヘッドの老人。巨体という言葉が似合うほどに大きく、纏う執事服は間違いなく特注サイズ。更に右目だけを覆うまつ毛(?)と腹まで伸びる髭はとてもではないが飲食店に携わる人間に相応しくない。
ネームプレートに『ホセ』と書かれたこの老人、他者に注意する前に自分の毛をなんとかすべきではないだろうか。
「まぁまぁ2人とも、喧嘩しないで。厨房のルチアーノがこっち睨んでるよ」
3人目は、これまた高身長の青年。ネームプレートに『アンチノミー』と記された彼の表情と口調は柔和ではあったが、青髪オールバックという髪型のせいで若干損をしているように思われる。
そして4人目。穂乃果たちが釣られて厨房の方へ目を向けると、『ルチアーノ』と呼ばれた赤い髪の少年が無言でプラシドたちを睨んでいた。幸い客たちは会話に花を咲かせているおかげで気付いていないが、人前に出すのは絶対に避けるべき表情である。
「……にしても、濃いスタッフさんたちやなぁ」
「ああ。こいつらからは決闘者特有の殺気を特に強く感じるぜ。その辺を歩く連中とは大違いだ」
「いや、そういう意味やないんやけど」
希が辺りを見回してみると、女性スタッフの存在は確認できるものの、男性スタッフの濃さのせいで霞んでしまう。
また、アテムが敵意を露わにした男とその仲間であれば、彼の言う通りデュエルの腕はかなり立つと考えても良いのかもしれない。
「キミたちには後で最低一品ずつ注文して貰うとして、まずは南ことりに会わせてやろう。……こっちだ」
「この人、サラッとセコいこと言ったにゃ」
凛を含め、数人がほんの少し非難の視線をパラドックスに向ける。確かに入店した以上、何かしら頼まなければならないことはわかる。だが、店員自らが言うと少しだけ損をした気分になった。
再度案内されたのは、店の奥に位置するエレベーター。ビルの規模の割には大きく、11人全員が乗っても少しだけ余裕があった。向かう先は先の話にも出た地下。
ことりは喫茶店で働いているはずなのに、何故地下へと行くのだろうか。一部を除いて怪訝に思う中、小さな音とともに扉が開く。
そこに広がっていた光景は、彼女たちを大いに困惑させた。
「私は、《
1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ使うことで、相手フィールド上に特殊召喚されたモンスターを全て破壊して、その数×500ポイントのダメージを貴方に与えます!」
――迅雷のラプターズ・ブレイクッ!!
《KOTORI》LP1500
Hand:0 Reverse:1
《RR-ブレイズ・ファルコン》
ATK1000
ORU 2 → 1
《CUSTOMER》LP1900
Hand:1 Reverse:1
《始祖の守護者ティラス》ORU 1
ATK2600
「ナイトメア・デーモン・トークン」×3
ATK2000
「やはり使ってきたか! ミナリンスキーちゃんお得意の『
3体のトークンを破壊することで500×3+800×3、つまり合計3900ものダメージを与える必殺コンボ!」
『…………』
「この喫茶店では、抽選によって選ばれた客がスタッフとデュエルできるイベントが売りとなっているのだよ。見ての通り、この時間帯は南ことりの担当だ」
体育館ほどの広さを持つ大部屋の中で、メイド服を着たことりが活き活きとして客らしき青年とデュエルをしている。しかも何故か青年は説明的な台詞回しだ。
「だけど、僕は既に対策済みさ! ティラスはオーバーレイ・ユニットを持つ限り、カード効果では破壊されない!
更に罠発動、《リフレクト・ネイチャー》! このターン、ミナリンスキーちゃんが発動したライフポイントにダメージを与える効果は、全てキミに跳ね返る!」
「シュークリームよりも甘いですよ、お客様! 私は墓地から罠カード《RR-レディネス》を除外して効果発動! このターン、私が受ける全てのダメージは0になります!」
紅蓮の如き真紅の隼が稲妻状の光線を放ち、3体の悪魔を葬り去る。純白の天使にも同様の攻撃が降り注ぐが、左手に持つ盾がそれを防いだ。
次いで青年が発動した罠カードによって爆炎と呪いがことりへと反射されるが、彼女が発動した罠効果によって両脇へと逸れてしまう。結果的に、ことり自身が呼び出した3体のトークンを破壊しただけという、やや損をした状態だ。
「バトルです! ブレイズ・ファルコンはオーバーレイ・ユニットを持つ時、相手プレイヤーに
隼が天使を飛び越えて攻撃を行わんと飛翔する。一方の青年は攻撃に怯む様子をほとんど見せない。
「
「ではありません! 私は罠カード《
「な、なんだって!?」
しかし、その安心も束の間。ことりが発動した罠カードによって、青年の表情は一変する。
「このカードの効果により、互いのフィールド上に存在する全ての効果モンスターの攻守は反転します!」
《RR-ブレイズ・ファルコン》
ATK1000 → ATK2000
DEF2000 → DEF1000
《始祖の守護者ティラス》
ATK2600 → ATK1700
DEF1700 → DEF2600
1000ポイントで足りないのならば、倍の数値で攻めるまで。
ランクの割に攻撃力が非常に低かった紅蓮の隼が、その翼をより一層燃え上がらせる。
「これで、フィニッシュです! ブレイジング・アサルトッ!!」
『守護者』の役目を果たせず狼狽するエクシーズモンスターを無視しつつ、紅蓮の炎が青年を襲った。反転した世界の中では、ライフポイントが半分近く残っていたとしても耐え切ることができず――
「ぐぁあああああっ!!」
《CUSTOMER》LP1900 → LP 0
悲痛な叫びを上げながら、青年は後方へと吹き飛ばされていく。
同時に、見物していた数人の観客から歓声が上がるのだった。
「ふぅ……」
そしてデュエルの終了とともにモンスターたちの姿は掻き消え、特有の緊張感はほぼ霧散する。
ことりは乱れたロングスカートを整え、デッキとデュエルディスクを仕舞うと、地上へ続く扉――アテムたちが入ってきた場所へと振り返り、
「…………ゑ?」
弛緩しきっていた彼女の表情は一瞬にして硬直してしまう。
無表情のパラドックスと、労いの言葉をかけてくる母。これは今まで通りだったが、今日に限っては違っていた。
声を上げて感嘆するアテムは除外するとして、残る穂乃果たちは生暖かい目をことりに向けており――
9人の間に、やや気まずい空気が流れるのであった。
●オマケ
一方その頃。『Yliaster』から少し離れた場所に位置するとある喫茶店の中では、2人の決闘者が対峙していた。
片方は蟹のような頭髪の男。もう片方は中学生……、下手をすれば小学生にも見える長い金髪の少女だ。
「余は《
《LOUIS》LP1600
Hand:1 Reverse:0
《銀河眼の光波竜》
ATK3000
ORU 2 → 1
《Z-ONE》LP1200
Hand:1 Reverse:1
《ジェット・ウォリアー》
ATK2100
Field:《スターライト・ジャンクション》
「甘い! 私は手札から《エフェクト・ヴェーラー》を墓地に送ることで、モンスター効果発動!
「むぅ。そなたはいつも都合良くヴェーラーを握っておるな」
少女が操る光の竜が放った、相手の力を奪わんとする能力。しかしそれは、男の手札より現れた中性的な顔立ちの少女によって封じ込められる。この発動に成功すれば残りライフ1200を削り切れたために、悔しさも
「ならば仕方ない、バトルだ! 余は《銀河眼の光波竜》で《ジェット・ウォリアー》を攻撃!」
――殲滅のサイファーストリームッ!!
2体のモンスターの攻撃力の差は900ポイント。この一撃で勝負が決することはできないが、男のライフを風前の灯火にまで追い込むことができる。
「……その攻撃を待っていましたよ。罠カード発動、《
音速の戦士を覆い尽くさんとした光の奔流は、突如出現した不可視の壁によって阻まれる。しかし
「更に攻撃を無効にした
そしてこの時、本来の素材指定は無視される!」
「ぐぬぬ……。ゾーンの墓地にはレベル5のチューナーモンスター《クイック・シンクロン》が存在する。ということは……!」
2体のモンスターのレベル合計は10。通常のシンクロ召喚には苦労する大型のシンクロモンスターだ。加えて彼は言った。『本来の素材指定を無視』したシンクロ召喚を行なうと。
すなわち、厳しい召喚条件を持つシンクロモンスターをレベルを合わせるだけで呼び出せるということを意味する。
「行きますよ! 私はレベル5の《ジェット・ウォリアー》に、レベル5の《クイック・シンクロン》をチューニング!」
真紅のマフラーを首に巻く小さなガンマンが、5つの光輪となりて音速の戦士を包み込む。本来は特定のシンクロモンスターの素材にしか使用できないこのモンスターも、今この時においてはその誓約から解放される。
「集いし力が拳に宿り、鋼を砕く意志と化す! シンクロ召喚ッ!」
――現れよ、レベル10! 《スターダスト・ウォリアー》!!
《スターダスト・ウォリアー》
☆10 風属性 戦士族 ATK3000
龍の如き頭部と双翼を持ちながら、歴戦の戦士が持つような豪腕を振るう白き戦士。
攻撃力は光の竜と同じだが、真正面からぶつかろうと言う意志はそのモンスターにも使い手にもない。
「この瞬間、フィールド魔法《スターライト・ジャンクション》の効果発動! 相手ターンで私のエクストラデッキからシンクロモンスターを特殊召喚した場合、フィールドのカード1枚を持ち主のデッキに戻す!
私はこれにより、キミの光波竜をエクストラデッキに戻す!」
青年の場に展開された
やがて光が晴れた場所には、白き戦士以外のモンスターは存在しなかった。
「追い詰めたつもりが、余の方がピンチに陥ってしまったというわけか。
余は
「その力強い瞳、どうやらまだデュエルは続きそうですね。いいでしょう、本当の勝負はこれからです!
私のターン、ドロー!」
巨大な竜を操る小さな少女と、小さな力を束ねて戦う大柄な男。
正反対の力を駆使して戦う2人のデュエルはいよいよ大詰め、観客の盛り上がりも頂点に達しようとしていた。
しかし、その一方。彼等のショーを悔しげに眺める少女がいた。
「うぅ~! あたしのルイさまが、年齢とか色々詐称してるゾーンさんと楽しそうにデュエルするなんてぇ~!」
勝気な印象を抱かせる金色の瞳。膝まで伸びる赤い長髪を黄色いリボンで1つに結び、ややジャギーの入った前髪は一層活発そうにも見える。
しかし彼女が纏う服は、逆に淑やかな印象を与えるロングスカートのメイド服。服の上からもはっきりとわかる大きな乳房も相まって、基本的には中和されているのだが……。
「あのバカップルはオフィスで大人の休憩中だし、ルイさまはサボり店長とのデュエルに夢中で構ってくれないし、今日はとことんツイてないぃ~。
これが放置プレイってやつなんですねっ……! はぁっ、はぁっ……!」
顔と言動のせいで台無しである。客が全てデュエルに夢中になっていることが不幸中の幸いか。
「あ、そうだ。今年の夏コムは『NTR』に挑戦してみようかしら。
あたしからルイさまを寝取ろうとする蟹頭の不審者。しかし、2人の絆パワーが最終的に粉砕! 玉砕! 大喝采!
よし、イけるわ! うへへへへ……」
――Prrrr
「あの、
鳴り続ける電話、陶酔する少女、白熱するデュエル。三方を忙しなく見やる黒髪の少女の呟きは、終ぞデュエルが決着するまで耳に届くことがなかったという。
~イリアステルの従業員(現在判明分)~
・ゾーン(サボり魔)
・パラドックス
・アンチノミー
・アポリア(分離可能)
・南ことり
現状、5人中4人が異世界人。
こんなところで働くことを容認する理事長の懐は広い。
違法販売していたショップへの制裁は、警察を実際に出すのも憚られたので、パラドックスさんに頑張って貰いました。
アニメでも本来なら店長か副店長が行くべきだったんですけどね。
尺の都合とはいえ撮影された本人をメイド服のまま向かわせたり、女子高生を保護者の承諾なしに勤務させる店は普通じゃない。
尚、戸籍偽造しながら店舗経営している未来組はもっと問題がある模様。
オマケで出てきた少女たちは、主にアキバを舞台としたとあるゲームに出てくるキャラです。
未来組の活動を支えた方たちであり、一応使用デッキと対戦カードは決まってますが、本格的に出すかどうかは今後次第。
次回にはおそらくデュエルに入ることができるかと。
それでは、次回もよろしくお願いします。