ラブライブ!DM   作:レモンジュース

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 今回のデュエルは、ラストターンを書くためのものだったと言っても過言ではありません。
 裁定を確認しつつ書いたのでおそらく大丈夫だとは思いますが、手元に計算機を用意してお読み頂いた方が良いかもしれません。

 それでは、どうぞ!



魔獣と精霊魔導師 最強のパワー決戦!

●究極を超越する力

 

 

 

「私のターン、ドローッ! ……これは良いカードを引いた。魔法カード《終わりの始まり》を発動!」

「ここで闇属性デッキ最高峰のドローカードを引き当てただと!?」

 

 恩恵が大きい反面、墓地に7体以上の闇属性モンスターを必要とする厳しい発動条件を持つドローソース。しかしパラドックスのデッキは闇属性が中心であるだけでなく、前のターンに発動した《モンスターゲート》の効果によって、大量の闇属性・特殊召喚モンスターが墓地へと送られている。

 

「発動コストとして、墓地より5体の闇属性モンスターをゲームから除外する。私が除外するのは、

 

 《幻殻竜》

 《Sin 真紅眼の黒竜》

 《ダーク・アームド・ドラゴン》

 《Sin パラレルギア》

 《Sin 青眼の白龍》

 

 この5体。その後、カードを3枚ドロー!」

 

 大幅に手札を増強したパラドックスに対し、アテムは警戒心を強める。3枚ものカードを新たに呼び込んだこともそうだが、何より彼の墓地には切り札が息を潜めているのだから。

 

「続けて私は、2枚目の《アドバンスドロー》を発動する。レベル10の「ワルツトークン」をリリースし、カードを2枚ドロー!」

「ッ! 戦闘ダメージが発生しない「ワルツトークン」を生け贄にしたということは……!」

 

 このまま「ワルツトークン」を残しておけば、竜破壊の剣士を倒せないまでも壁として役立てることは出来たはず。相手プレイヤーへの直接攻撃が不可能というデメリットを利用するつもりだろうか、とも思えるがおそらくそれはない。

 果敢に攻めるパワー(タイプ)のデッキを使う決闘者である以上、これは新たな攻撃への布石と見て間違いない。

 

「私のフィールドからモンスターが消え去ったことにより、魔法カード《シャッフル・リボーン》を発動出来る。蘇れ、《Sin パラドクス・ドラゴン》!」

 

 《Sin パラドクス・ドラゴン》(Seal)

☆10 闇属性 ドラゴン族 DEF4000

 

「えっ? ここでパラドクス・ドラゴンを特殊召喚しちゃうの? もしかしてプレイングミス?」

 

 穂乃果がごく当たり前の疑問を投げ掛ける。

 《シャッフル・リボーン》の効果によって復活したモンスターの効果は無効となり、エンドフェイズに除外される。

 アテムの場に竜破壊の剣士がいる今は攻撃することも叶わないのだから、「ワルツトークン」を壁にしておいた方が良かったはずではないか。

 

「違うよ、穂乃果ちゃん。

 パラドックスさんの狙いは、「Sin」モンスターを場に呼び出すこと。墓地にはもう『あのモンスター』がいるから、手札の中にはきっと……」

 

 同じ店で働く従業員だからか、ことりはパラドックスの目的をすぐに察することが出来たようだ。アテムもまた、次に何かが起こると勘付いていた。

 

「仕上げといこうか。私は魔法カード《ブラック・ホール》を発動し、互いのフィールド上に存在する全てのモンスターを破壊する!

 この効果は当然対象を取らないため、《破壊剣一閃》の効果も使えまい!」

「しまった……!」

 

 フィールド上空に出現した漆黒の渦に、剣士と竜が纏めて吸い込まれていく。

 竜破壊の剣士は、対ドラゴン族においては絶対的な力を誇る反面、魔法・罠への耐性を一切持たない。故に伏せ(リバース)カードなどで守れない場合、あっさりと倒されてしまうことも少なくないのだ。

 また、『どうして《シャッフル・リボーン》を先に使って自分のモンスターを巻き込んだのか』と疑問に思った者もいたが、流石にここまであからさまなプレイングミスを犯すとは考えられない。

 それを証明するかの如く、突如地下空間が鳴動し始めた。

 

「正しいはずの行為が間違っているように、一見間違っていると思える行為は時に最善となる。それを今ここに見せてやろう。

 「Sin」モンスターが破壊されたことにより、我が身を生け贄としてライフを半分支払うことで、墓地に眠る《Sin トゥルース・ドラゴン》のモンスター効果を発動!」

 

パラドックス LP21900 → LP10950

 

 先のターンは竜破壊の剣士によって封じられていた竜が、墓地より雄叫びを上げる。ゆっくりと這い出る金色(こんじき)は、何者よりも激しい輝きを放つ。

 

「矛盾を超えし暴竜が、今ここに真実の姿を見せる! その身に宿る限りなき罪にて、全てを抹消せよっ!」

 

 

 

 ――レベル12! 《Sin トゥルース・ドラゴン》!!

 

 

 

 《Sin トゥルース・ドラゴン》

 ☆12 闇属性 ドラゴン族 ATK5000

 

「遂に来たか、奴の切り札が……!」

 

 攻撃力・守備力共に5000ポイント。それを超える攻撃力を持つモンスターはこのデュエル中でも何度か出てきたが、元々の数値に限って言えばこの竜が最大だ。

 攻守5000を誇るモンスターはこの世界の何処を探しても他にはドラゴン族5体を素材とした融合モンスター《F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)》しか存在しないと言えば、恐ろしさがよくわかるだろう。

 

(しかし、まさかトゥルース・ドラゴンが自身の効果で現れるとは思わなかったぜ。あの時は《Sin パラドクス・ドラゴン》が破壊された場合に発動できる罠カード《Sin(シン) Paradigm(パラダイム) Shift(シフト)》の効果で特殊召喚されたが、随分と出しやすくなったようだな)

 

 また、以前はプレイヤー自身がモンスターと合体していたのだが、今回はそのような様子は見られない。普通のモンスターとして召喚されただけだ。それでも発せられる威圧感は全く変わらない。

 

「バトルだ! やれ、《Sin トゥルース・ドラゴン》! プレイヤーに直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

 

 真実の竜が放つ暴虐の奔流。この圧倒的な力を直接受けてはひとたまりもない。だが、彼には仲間がいる。信じて選び抜いたカードたちが。

 

「相手モンスターの攻撃宣言時、俺は墓地から《クリボーン》のもう1つの効果発動!

 このカードをゲームから除外することで、墓地の「クリボー」モンスターを任意の数だけ特殊召喚する! 来い、《クリボー》! 《クリボール》!」

 

 《クリボー》&《クリボール》

 ☆1 闇属性 悪魔族 DEF200

 

 2体の小さな悪魔が、主を守るために立ちはだかる。その体格差と攻守の差を見れば、この攻撃を受け切ることはまず不可能。

 

「ならば攻撃対象を《クリボー》に変更!

 そして《Sin トゥルース・ドラゴン》が相手モンスターを破壊した場合、相手フィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターを破壊する! 2体復活させたところで無駄だ!」

「無駄じゃないさ! 攻撃対象となった守備力1000以下のモンスター《クリボー》を対象として、速攻魔法《ドロー・マッスル》を発動!

 俺はカードを1枚ドローし、このターン対象モンスターは戦闘(バトル)では破壊されない!」

 

 魔法効果を浴びた《クリボー》が鼻息を荒くし、身体もみるみるうちに膨らんでいく。主人へと攻撃を通すまいと、莫大な質量を持った砲撃を受けても倒れ伏す気配は全く無い。これはまるで、あの時の再現。

 

「……またしても《クリボー》に防がれたか。流石は雑魚モンスターの扱いにかけては天下一品だ。私は伏せ(リバース)カードを1枚セットして、ターンエンド!」

「ふっ。確かに《クリボー》は攻撃力も守備力も低く、貴様が使った《バトルフェーダー》に比べれば防御性能は低いかもしれない。

 だが、こいつは俺と相棒が数千というカードの中から選んでデッキに入れた、勝利への1ピース。いつ何時も俺を支えてくれた大切な仲間だ!」

 

 弱いカードと見下されたとしても、カードには存在する以上役割がある。秘められた力がある。決闘者とカードが心を通わせれば、奇跡は必ず起きるのだ。

 

「俺のターン、ドローッ! 2体の「クリボー」の力を使い、究極の魔導師を召喚する!!」

「ドローカードを確認せずに、アドバンス召喚だと!?」

 

 今ドローしたカードこそ、3000年の時と世界を超えて王を支える忠臣の魂。敵の切り札が現れた今、彼以外に誰が戦うというのか。カードの確認などする必要もない。

 

「数多の術を網羅する精霊魔導師よ! 原初の記憶を解き放ち、今ここに顕現せよ!」

 

 

 

 ――レベル7! 《守護神官マハード》!!

 

 

 

 《守護神官マハード》

 ☆7 光属性 魔法使い族 ATK2500

 

「ついに現れたか、《ブラック・マジシャン》の真の姿!」

「この瞬間、《冥界の宝札》の効果発動! カードを2枚ドローする!」

 

 先ほどまでは黒き魔術師の姿であったマハードが、今度は精霊魔導師本来の姿でフィールドへと現れる。彼は元々ドローされた時に自身を特殊召喚できる能力を持つが、今回は《冥界の宝札》の効果を使うためにアドバンス召喚を選ぶ。

 その甲斐あって引き当てたカード、そして前のターンに《ドロー・マッスル》で手にしたカードを確認すると、アテムの顔に笑みが浮かんだ。

 

「ここで俺は、墓地の罠カード《マグネット・コンバージョン》を除外して効果発動! 《龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)》の効果で除外した《磁石の戦士(マグネット・ウォリアー)α》を特殊召喚する!」

 

 《磁石の戦士α》

 ☆4 地属性 岩石族 DEF1700

 

 分解されていたパーツが組み合わさり、磁石兵が帰還する。フリーチェーンの罠カードをこのタイミングで発動。つまりその目的は、壁モンスターにすることではない。

 

「更に俺は手札から2枚の魔法カードを発動する。まず1枚目、《バウンド・ワンド》!

 このカードは魔法使い族専用の装備魔法! マハードの攻撃力をレベル×100ポイントアップする!」

 

 《守護神官マハード》

 ATK2500 → ATK3200

 

 マハードが持っていた杖が、赤い水晶が先端に取り付けられた杖と交換される。

 彼のレベルは7。よって攻撃力は700ポイントの上昇だが、これだけでは攻撃力5000の《Sin トゥルース・ドラゴン》には遠く及ばない。もちろん、これで終わればの話だが。

 

「2枚目! 《磁石の戦士α》の力を使い、《ミニマム・ガッツ》を発動! 相手モンスター1体の攻撃力をターンの終わりまで0にする!」

 

 《Sin トゥルース・ドラゴン》

 ATK5000 → ATK 0

 

 磁石兵が捨て身の攻撃を挑み、磁力を帯びた剣を竜の胸部に突き立てる。その決死の覚悟は、『これが弱者の意地だ!』と言わんばかりに全ての力を奪い去っていく。

 この2枚の魔法カードが適用された瞬間、『μ’s』のメンバーからは歓声が上がった。

 

「流石はアテムさんとマハードさん、深い絆で結ばれているだけのことはありますね。

 マハードさんは『闇属性』モンスターと戦闘を行なう時、ダメージステップの間攻撃力を2倍にする特殊能力を持っています。よって、攻撃力0となった《Sin トゥルース・ドラゴン》に攻撃を仕掛ければ、6400ポイントの戦闘ダメージを与えられます!」

「それだけやない。《ミニマム・ガッツ》の効果を受けたモンスターが戦闘破壊された時、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージがパラドックスさんを襲う」

 

 戦闘ダメージと効果ダメージの合計は、

 

 

 ――11400ポイント。

 

 

 たとえ10950ポイントものライフであっても一撃で全て吹き飛ばすことが可能だ。

 この追い詰められた状況で、よくもここまでのパワー勝負を挑めるものだと彼女たちは感心と畏怖の念を抱いた。

 

「頼んだぞ、マハード!」

「お任せを!

 邪悪なる竜よ、我が秘奥をその身に受けるがいい! ――魔・導・波(マジック・バースト)!!」

 

 力を失い地に足を着いたトゥルース・ドラゴンへと、光の奔流が放たれる。しかしパラドックスは、今度も必殺の一撃を通さない。

 

「そうはさせん! 罠カード発動、《陰謀の盾》! このカードは発動後、私のモンスター1体の装備カードとなる。対象は当然《Sin トゥルース・ドラゴン》!

 このカードを装備したモンスターが攻撃表示で存在する限り、1ターンに1度だけ戦闘では破壊されず、私への戦闘(バトル)ダメージも0となる!」

 

 瘴気を放出する盾が、2体の間に立ち塞がる。その大きさは人が両手で構えられる程度の大きさのものだが、信じ難いことにマハードが放つ光を全て受け流してしまった。

 

「くっ、これも通らないのか……! 俺は伏せ(リバース)カードを1枚セットしてターンエンド!」

 

「惜しい! この攻撃が決まればせんぱいの勝ちだったのに~!」

「だけど、あのパラドックスって人本当に強いわね。アテムの攻撃を片っ端から防いでくるなんて、優木あんじゅとのデュエル以来よ」

 

 ターン終了と同時に凛は落胆し、にこが驚嘆する声が発せられる。

 現在のところパラドックスへと与えられたダメージは、たったの900ポイント。だが、それも装備魔法《巨大化》の効果を発揮するためにわざと受けたもの。実質、まともな攻撃を与えられていないと考えても良いだろう。

 

「でも、パラドックスさんのモンスターが戦闘破壊されないといっても、今のフィールドはセンパイの方が有利ですよね」

「確かに花陽さんの言う通りかもしれないわね。パラドックスさんが操るモンスターは基本的に闇属性。攻撃力が大幅に上昇するマハードさんを突破するのは難しいはずよ」

「どの道、後はアテム先輩とパラドックスさんのドロー勝負になってくるでしょうね」

 

 既に2人は自らのデッキを大幅に減らしているため、残り枚数はほとんどない。残されたカードでどのような結末へと向かうのか、滅多に見られないパワー合戦に少女たちの興奮は徐々に高まっていく。

 その熱気を感じ取ったのだろうか。パラドックスは微笑を浮かべ、デッキからカードを引き抜いた。

 

「私のターン、ドロー! 魔法発動、《悪夢再び》! 墓地より守備力0の闇属性モンスター2体、《Sin レインボー・ドラゴン》と《真魔獣 ガーゼット》を手札に戻す!

 続いて2枚目の《闇の誘惑》を発動。カードを2枚ドローし、手札に戻した闇属性モンスター《Sin レインボー・ドラゴン》をゲームから除外する!」

 

 先の《終わりの始まり》と同じく、《モンスターゲート》によって無作為に墓地へと送られたカードを利用する見事な戦術。これでパラドックスの手札は3枚……いや、彼は自らのデッキと手札を見るやいなや、墓地のカード効果を発動させる。

 

「この手札であれば、《陰謀の盾》はもう必要ないだろう。私は、墓地から《シャッフル・リボーン》を除外して効果発動! 《陰謀の盾》をデッキに戻し、カードを1枚ドローする!」

 

 トゥルース・ドラゴンを守護していた盾が消滅し、新たな手札へと変換される。折角の防御手段を投げ捨てた彼のプレイングに、アテムとマハードは大きな警戒心を抱いた。

 

(ファラオ)、彼はおそらく……」

「わかっているさ、マハード。奴はこのターンで決着をつけるつもりだ」

 

 パラドックスのデッキは圧倒的パワーで敵を粉砕する戦術が基本。カード効果による補助も備えていたものの、最後は莫大な攻撃力を以て攻めてくるに違いない。

 しかし除去や無効といったカード効果を使わない限り、マハードと対峙するには攻撃力6400を上回る必要がある。アテムは警戒すると同時に、どうやってこれを超えてくるのかと期待感すら抱いていた。

 

「魔法カード《死者蘇生》を発動! 《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》を復活させ、自身の効果で《ダークエンド・ドラゴン》を特殊召喚!」

 

 《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》

 ☆10 闇属性 ドラゴン族 ATK2800

 

 《ダークエンド・ドラゴン》

 ☆8 闇属性 ドラゴン族 ATK2600

 

 たった1枚の魔法カードから、2体の強力なドラゴンが連鎖的に並ぶ。白き龍を操る好敵手(ライバル)が見れば、プライドを曲げてでも欲するのではないかと思うほどの性能だ。

 

「ふっ。何度も何度もダークエンドばかり。少し芸が無いんじゃないか?」

「《ブラック・マジシャン》や《レベル・スティーラー》を何度も出してきたキミに言われる筋合いはない。ダークエンドの効果発動! 光の神官を闇に誘え!

 ――ダーク・イヴァポレイション!」

 

 アテムの軽口を意に介さず、パラドックスは左手を振るい闇竜の能力を発動させる。これが通ればマハードは倒れ、直接攻撃によって勝負は決する。だが――

 

「読めていた! 罠発動、《スキル・プリズナー》! マハードを対象とするモンスター効果を無効にする!」

 

 これまで3度も使われていれば、対策するのは容易なこと。闇竜の効果は不可視の壁によって阻まれた。もっとも、パラドックスからは動揺した様子は見られない。

 

「やはりモンスターを守るカードを伏せていたか。ならば、当初の予定通りの手を打つとしよう。

 私は、《暗躍のドルイド・ドリュース》を通常召喚! このモンスターが召喚に成功した時、墓地より攻撃力または守備力が0の闇属性・レベル4モンスター1体を守備表示で特殊召喚する! 蘇れ、《幻殻竜》!」

 

 《暗躍のドルイド・ドリュース》

 ☆4 闇属性 魔法使い族 ATK1800

 

 《幻殻竜》

 ☆4 闇属性 幻竜族 DEF 0

 

 仮面を被り、全身をローブで覆った賢者。不気味な雰囲気を醸し出しながら出現した途端、両手に持った杖を床に突き立てて呪文を唱え始める。

 導かれて現れたのは、3体目の《幻殻竜》。これでパラドックスの場に同じレベルのモンスターが2体揃った。

 

「レベル4のモンスターが2体……、まさか!?」

「そのまさかだ。新たな召喚法を身に着けたのは、キミだけではない! 私はレベル4の《暗躍のドルイド・ドリュース》と《幻殻竜》で、オーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

 2体のモンスターが、紫色の球体となって光の渦へと吸い込まれる。その内より出現するのは、人型の上半身と竜の下半身を持つ魔人。

 

「竜を自在に操る女王よ! 今ここに顕現し、その力を(ふる)うがいい! エクシーズ召喚!」

 

 

 

 ――ランク4! 《竜魔人クィーンドラグーン》!!

 

 

 

 《竜魔人 クィーンドラグーン》ORU 2

 ★4 闇属性 ドラゴン族 ATK2200

 

 ランクも攻撃力も平凡な竜魔人。しかし、3体のドラゴンに囲まれているというのに臆しているようには見えない。流石は女王の名を冠するだけのことはある。

 

「クィーンドラグーンの効果発動! 1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ使用することにより、私の墓地からレベル5以上のドラゴン族モンスター1体を蘇らせる。

 ただし、この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、このターン攻撃することは出来ない」

 

 

 

 ――現れよ、レベル8! 魂食神龍(こんじきしんりゅう)ドレイン・ドラゴン!!

 

 

 

 《竜魔人 クィーンドラグーン》

 ORU 2 → 1

 

 《魂食神龍ドレイン・ドラゴン》(Seal)

 ☆8 光属性 ドラゴン族 ATK4000

 

 竜魔人が左手に持つ杖に光球が吸い込まれ、発光とともに1体の竜が地より蘇る。これもまた、《モンスターゲート》の効果によって墓地へと送られていた特殊召喚モンスター。

 両足、そして長大な尾に鋭い刃を備えた暴力的な姿も然ることながら、これでパラドックスの場は5体のドラゴンで埋め尽くされた。『圧巻』というのは、このようなことを言うのだろう。

 

「あれ? 海未ちゃん、あのドラゴンって特殊召喚モンスターだよね? フィールド以外から墓地に送られたんだから、『蘇生制限』を満たせなくって特殊召喚することができないんじゃなかったっけ」

「いえ、紛らわしいですがドレイン・ドラゴンは別です。あのモンスターは自身が『自分のエクシーズモンスターの効果でのみ特殊召喚できる』という召喚条件を持つため、墓地から直接出すことが可能なのです」

「な、なるほど……?」

 

 ややこしいルールに、穂乃果は困惑する。同時に、自分が使わないカードであっても即座に解説出来る幼なじみに対して改めて尊敬の念を抱いた。

 しかし、海未の表情は固い。確かにマハードの効果を適用出来ない光属性のドラゴンが特殊召喚されたものの、竜魔人のデメリットによって攻撃は封じられている。次のターンに墓地から《帝王の轟殻》の効果を発動してドレイン・ドラゴンの属性を変更すればマハードの攻撃で倒せてしまう。

 そう口にしようとした瞬間に聞こえたのは、すぐ近くからの小さな笑い声。『μ’s』の少女たちが視線を向けると、ワンピースの少女は足を組みながら不敵な笑みを浮かべていた。

 

「流石はパラドックス。本当に彼奴(あやつ)は余と同じく、パワー勝負に拘る決闘者のようだ」

「ええ、フィールド上には5体のドラゴン。『あのモンスター』の攻撃力は、恐ろしいことになります」

 

 『あのモンスター』というのが何を指しているのか。答えは既にほとんどの者が知っていた。今から出てくるカードの力は、まさしく『魔獣』と称するに相応しい。

 皆が緊張によって震える中、パラドックスは残った2枚の手札から1枚のカードを抜き出す。

 

「行くぞ、アテム! これこそが、この世界で手にした我が究極の力!

 ――私は、フィールド上のモンスター5体全てをリリースッ!!」

「何ッ!?」

 

 三幻神のように3体のモンスターをリリースしなければならないモンスターも存在するが、今パラドックスが糧としたモンスターの数は彼の切り札《Sin トゥルース・ドラゴン》を含めた5体。

 ドラゴンたちが地に沈む代わりに這い出る異形の悪魔の姿に、アテムとマハードはかつてない戦慄を覚える。

 

「真なる魔獣よ! 罪深き力をもその身に取り込み、万物を蹂躙するがいい!」

 

 

 

 ――降臨せよ、レベル8! 《真魔獣 ガーゼット》!

 

 

 

 《真魔獣 ガーゼット》

 ☆8 闇属性 悪魔族 ATK 0

 

「攻撃力、0……?」

 

 トゥルース・ドラゴンに匹敵する巨躯を誇る巨大な悪魔。その(おぞ)ましい姿とは裏腹に、攻撃力を持っていない。いや、わざわざ自身の切り札をも犠牲にして呼び出したのだ。これで終わりとは思えない。

 

「《真魔獣 ガーゼット》は、自分フィールド上のモンスター全てをリリースした場合のみ特殊召喚可能なモンスター。その攻撃力は、特殊召喚時にリリースしたモンスターの元々の合計値となる!!」

「ッ! 5体全ての合計値だと!?」

 

 かつて《ラーの翼神竜》が持っていた第1の能力とほぼ同じもの。しかし、それを回想する暇など彼にはない。無論、側でデュエルを見守る少女たちにも。

 魔獣の身体の各所から、贄としたドラゴンの一部が次々と見えてくる。より奇怪(グロテスク)な風貌となったことで、小さな悲鳴も漏れ出るほどだ。

 リリースした5体のモンスター、

 

 《Sin トゥルース・ドラゴン》ATK5000

 《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》ATK2800

 《ダークエンド・ドラゴン》ATK2600

 《竜魔人 クィーンドラグーン》ATK2200

 《魂食神龍ドレイン・ドラゴン》ATK4000

 

 これらの合計値、それは――

 

 

 

 《真魔獣 ガーゼット》

 ATK 0 → ATK16600

 

 

 

「う、嘘……。ここで攻撃力16600のモンスターを召喚するなんて……」

「パワー勝負に拘るって言うとったけど、まさかマハードさんの攻撃力を真正面から超えてくるとは、とんでもない人やな」

 

 つい先ほど竜破壊の剣士が叩き出した攻撃力17800には僅かに及ばないが、それでも真っ当な方法では到達し得ない驚異的な数値。

 穂乃果は戦慄し、希は驚嘆するとともに内心では賛辞の言葉を述べずにはいられなかった。

 

「これで終わりだ! やれ、《真魔獣 ガーゼット》! 《守護神官マハード》を叩き潰せッ!!」

 

 ドラゴン5体分の力が籠められた両の拳が、マハードへと迫る。自身の能力で攻撃力を倍加させても、その差は10200ポイント。

 このままでは、アテムは精霊魔導師もろとも吹き飛ばされてしまう。しかし彼は、臆すること無く1枚の伏せ(リバース)カードを発動させた。

 

「まだだ! 罠カード《パワー・フレーム》を発動! 俺のモンスターが、より高い攻撃力を持つモンスターの攻撃対象となった時、その攻撃を無効にする!」

 

 罠カードから放たれる衝撃波が魔獣の拳を弾き返し、後退させる。それと同時にマハードの身体が淡い輝きを放つ。

 

「更に、このカードは攻撃対象となったマハードの装備カードとなり、攻撃を無効にした相手モンスターとの攻撃力の差だけ、マハードの攻撃力をアップさせる!」

 

 《守護神官マハード》

 ATK3200 → ATK16600

 

「攻撃力をガーゼットと同じにしただと!? くっ……、私は伏せ(リバース)カードを1枚セットしてターンエンド!」

 

 通常、《パワー・フレーム》を使ったところで攻撃力が相手モンスターと並ぶだけ。相手モンスターを除去する《聖なるバリア -ミラーフォース-》や《次元幽閉》に比べれば大きく汎用性は劣る。

 しかしマハードは闇属性モンスターとの戦闘時に攻撃力が大幅に上昇する。次に真魔獣と戦闘を行なえば、確実に倒すことが出来るのだ。

 カードを伏せるパラドックスの表情は、非常に険しいものとなっていた。

 

「どうやら貴様が得意とするパワー勝負は俺の勝ちのようだな。俺のターン、ドローッ! このまま最後のバトルだ、マハード!」

「はっ! 今度こそ決めてみせます!」

 

 自ら最後だと宣言するだけあって、アテムとマハードの声音は弾んでいる。勝利を確信する2人を見る真姫も、思わず表情を緩ませる。

 

「《パワー・フレーム》は対闇属性モンスター用に入れたって言っていたけど、ここまでの攻撃力アップは前代未聞ね」

 

 マハードが杖を振り上げ、上空に巨大な魔法陣を形成する。やがて力の充填が終わりを迎える瞬間……、それはダメージステップ。闇の力と対峙する精霊魔導師の攻撃力が倍増する。

 

 《守護神官マハード》

 ATK16600 → ATK33200

 

「おぉ~! 攻撃力33200、せんぱい凄いにゃ~!」

「こんな攻撃力、今まで見たことないです……!」

 

 残る2人の1年生も、瞳を輝かせて魔法陣から光が放たれる様子を見上げている。ここまで高い攻撃力を今後も目にする機会があるかどうか。いや、まずあり得ないだろう。

 

「ふふん、あのパラドックスって人がどんな顔をしてるのかしらねぇ~?」

「にこさん、失礼よ」

 

 きっと、自らの敗北にショックを受けているのだろう。その顔を拝んでやろうと、にこは嫌らしい笑みを浮かべ、パラドックスの方へと視線を向ける。絵里はそんな彼女を窘めつつも同じ方向を見つめて、

 

『ッ!?』

 

 逆に自分たちが絶句してしまった。何故なら彼は目を伏せるでもなく、苦々しげに唇を噛むのでもなく――

 

 

 

 ――笑みを浮かべていたのだから。

 

 

 

「パラドックスさんは、この喫茶店でナンバー1を誇るパワー決闘者。だからきっと前のターンに伏せたのは、ほぼ確実にモンスターを戦闘破壊できるあのカード」

 

 ことりも、自分が戦っているわけではないのにどのタイミングで使うのだろうかと身構えていた罠カード。もしもパラドックスが伏せているカードが本当に『アレ』であったのなら、彼女自身を含めて全員が更なる衝撃に襲われるに違いない。

 そして、悪い予感というものは当たりやすいものだ。

 

「『力』ではなく『技』で対戦相手を翻弄するキミが、ここまでの攻撃力を叩き出して来るとは正直驚いたよ。だが、最後に勝つのは私だ! ダメージ計算前、伏せ(リバース)カード発動! 罠カード《不屈の闘志》!

 私のフィールドにモンスターが1体しか存在しない時、そのモンスターの攻撃力を相手フィールドで最も攻撃力の低いモンスターの攻撃力分アップする!」

「……ッ!」

 

 現在、互いの場に存在するモンスターは1体ずつ。《不屈の闘志》の効力が最も発揮される状況にあり、戦闘を行なう相手モンスターの攻撃力を対象となった自分のモンスターに加えることを意味する。

 

 《真魔獣 ガーゼット》

 ATK16600 → ATK49800

 

「うっわぁ~。パラドックスさんってば最後の最後でえげつないわね。攻撃力49800なんて、機械族デッキでも普通出ないわよ」

「うむ。余のデッキのモンスターでも攻撃力10000を超えることはたまにあるが、50000近い数値を見たのは初めてだ」

 

 マハードが放った光の奔流を、徐々に巨大な拳が押し返していく。優香とルイは、魔獣の反撃によって勝負は決すると確信しているようだ。穂乃果たちは言い返そうとしたものの、アテムの場に伏せ(リバース)カードもないこの状況ではどうすることも出来ない。

 

「これこそ我が最後の全力! キミの下僕のおかげで得た、前人未踏の力を受けてみよ! これで終わりだッ!!」

 

 パラドックスが高らかに勝利宣言を発した、その瞬間。

 

 

 

 

 

 ――そいつはどうかな?

 

 

 

 

 

 押し戻されていた光の奔流が、また少しずつ勢いを取り戻していく。

 

「な、なんだ!? 何が起きている!?」

 

 重ねて述べるが、今アテムの場には伏せ(リバース)カードが存在しない。パラドックスの罠カードをカウンターすることは出来ないはずである。

 存在するのは、せいぜい『1枚の手札』だけ。

 

「ッ!? まさか、ドローしたカードは……!」

 

 精霊魔導師《守護神官マハード》の属性は《ブラック・マジシャン》とは真逆の『光属性』。

 伏せ(リバース)カードがなく攻撃力を10000ポイント以上逆転された状態でも、手札から発動して更なる逆転を可能にするカードが1枚だけある。

 

「そのまさかだ。今回のデュエルは本当に驚かされてばかりだった。今の貴様は、間違いなくあの時とは違う。自らのデッキと戦術に誇りを持つ真の決闘者だ。

 だからこそ俺たちは、最後まで貴様の舞台で戦おう。その上で、勝利を収めてみせる! さぁ行くぜ、パラドックス! 俺は手札から――」

 

 

 

 ――《オネスト》のモンスター効果を発動ッ!!

 

 

 

 天使の加護を受け、マハードの背に大きな純白の翼が出現する。それに伴い魔法陣の数と面積が次第に増加していく。

 

「このモンスターを手札から墓地に送ることで、光属性のマハードの攻撃力はバトルする相手モンスターの攻撃力分アップする!

 だが、その前に攻撃力は倍となる前の数値に一旦戻る!」

 

 ATK33200 → ATK16600

 

「そしてマハードの攻撃力が、《オネスト》の効果により《真魔獣 ガーゼット》の数値分、つまり49800ポイントアップする!」

 

 ATK16600 → ATK66400

 

 既にこの時点で、精霊魔導師の攻撃力は魔獣を倒しつつパラドックスのライフを0に出来る数値となった。しかしアテムは『倍となる前の数値に一旦戻る』と言った。

 

「なぁ海未ちゃん。ウチ、めっちゃ嫌な予感がするんやけど」

「奇遇ですね、希先輩。私も身体の震えが止まりません」

 

 つまり、それは――

 

「最後にマハード自身の効果が再び適用され、攻撃力は倍となる!!」

 

 66400の2倍。小学生でもわかる単純な計算であるにも関わらず、少女たちは咄嗟に答えを出せずにいた。今目の前で起こっている出来事が、あまりにも信じ難かったからだ。

 数学、というよりも算数が苦手な穂乃果も指折り数えて必死に計算する。

 

「2×4が8で、2×6が12になって繰り上がって、また2×6が12になって……………………こ、攻撃力、」

 

 そして、11人の少女の声が重なった。

 

 

 

 

 

『じゅうさんまんにせんはっぴゃく!?!?』

 

 

 

 

 

 《守護神官マハード》ATK132800

 

 

 

 桁違い、という表現すらも生易しい。しかしこれは現実。デュエルディスクが故障したというわけではない。

 流石のパラドックスも、口を半開きにして呆けてしまっていた。

 

「行け、マハード! 究極を遥かに超越した一撃を叩き込め!」

 

 

 

 ――限・界・超・越・魔・導・砲・撃(リミット・オーバー・マジック・バースト)!!

 

 

 

 発生する戦闘ダメージは83000ポイント、初期ライフの20倍以上。

 天井に吊るされた光源を遥かに凌ぐ莫大な光が、地下空間を埋め尽くす。それは魔獣を、《Sin World》を、パラドックスを飲み込み、ビル全てを震撼させるのだった。

 

パラドックス LP10950 → LP 0

 

 

 

●自信を持って

 

 

 

『…………』

 

 濛々と煙が立ち込める中、少女たちは誰一人としてその場を動くことが出来ずにいた。むしろ、10万を超える攻撃力を目の当たりにしたこの状況下で平然としていられる決闘者の方が珍しいだろう。

 デュエル中もブラックコーヒーを啜っていたルイでさえ目と口を開けたまま固まっており、右手に握っていたはずのカップが消えている。床に落としてしまっているようだが、陶器やガラスではなかったことと、ほとんど中身が入っていなかったことが不幸中の幸いか。

 

「う、ぐっ……。10950のライフを……、7回以上消し飛ばす攻撃を放つとは、随分と派手に、やってくれたな。キミは私を殺す気、か……」

 

 2,3分という時間が経過し、煙が晴れた先。

 パラドックスが地に倒れ伏して息を切らしており、その周囲は真っ黒に焼け焦げていた。よく見れば、一部が罅割れている。

 

「お互い様、だ。貴様が《不屈の闘志》を使わなければ、俺も《オネスト》の効果を使うことは……、なかった。おかげで俺の魔力(ヘカ)はほぼ(から)だぜ」

「それだけでは……、ありません。(ファラオ)が私の力を制御していなければ、本当に貴君の命を奪ってしまうところでした」

 

 また、攻撃を放ったアテムとマハードまでもが片膝をついて息を切らしていた。目に見える爪痕が物語っているように、今の一撃は本当に決闘者の命を奪いかねないものであったらしい。

 しかしそれでも完全に無事とはいかなかったようで、パラドックスは今にも気を失ってしまいそうであった。

 

 これほどの攻撃を繰り出したマハードの攻撃力に戦慄すれば良いのか。

 直撃を避けるために力を抑えたアテムの手腕を褒めれば良いのか。

 はたまた、未だ会話を交わす余力を残しているパラドックスの精神力を称えれば良いのか。

 

 いったいどのような言葉をかけるべきかと手を(こまね)く中、

 

「ね、ねぇ皆! 喉乾いたよね! 冷めちゃってるけど、紅茶飲みますか?」

 

 ことりがポットを持ち、精一杯の笑顔を見せた。少女たちは呆気にとられながらも彼女に従い、温くなった紅茶を喉に流し込む。

 3人の男性陣にもカップを手渡すだけでなく、ルイが取り落とした容器を回収し、床を掃除することも忘れない。

 その手際の良さに空気が和らぎ、(みな)は少しずつ平常心を取り戻す。基本的に飲食の必要がないマハードも、今回ばかりは喉を潤したいと欲していた。

 

「ありがとうございます、ことり。おかげで落ち着きました」

「細かい気配りが出来ることりちゃんは、本当に凄いよっ!」

「ううん。さっきも言ったけど、私には海未ちゃんや穂乃果ちゃんと違って何もない。皆を支えることしか出来ないから」

 

 先ほどは突然にデュエルが始まってしまったせいで流れてしまったが、ことりは幼なじみと自分自身を比較して、劣等感を抱いていたのだ。

 海未と穂乃果が賞賛しても首を横に振っていることから、相当に根深い問題のようである。

 

「? どうした、ことりは何か悩んでおったのか?」

 

 事情を知らないルイが、首を傾げて疑問を投げかける。上目遣いで行なうその仕草には、庇護欲を掻き立てられる者もいた。

 絵里が掻い摘んで先ほど交わされた遣り取りを説明すると、終わった直後に彼女と優香は揃って小さく溜息をついた。

 

「幼なじみ2人に付いていっているだけで自分には何もない、か。『隣の芝生は青い』というのは、このことを言うのだな」

「南、アンタねぇ。この喫茶店で働き始めてたった3ヶ月で『伝説のメイド』なんて呼ばれてるミナリンスキーがそれ言っちゃうの?」

 

 前者は呆れるように、後者は若干怒るように言葉を紡ぐ。彼女たちが発する雰囲気に残る女性陣は気圧されてしまう。

 

「確かに、自分自身に無いものを持っている友を羨む気持ちは十二分に理解できる。しかしこの3ヶ月、余が見てきた限りではそなたの働きぶりに非の打ち所は全く無い。あまり言いたくはないが、嫌味に聞こえてもおかしくはないぞ」

「それとも何? 誰かに似たようなことでも言われた? もしそうなら、そいつの目は節穴ね」

「そんなことは、ないけど……」

 

 2人の少女が放つ言葉には、遠慮する様子は見られない。背を丸くすることりの落胆具合は、皆にアルバイトをしていたことが発覚した時以上だ。穂乃果や海未でさえ、ここまで強く幼なじみに詰め寄った記憶はない。

 

「だったらもっと自信持ちなさい、南。今のアンタは秋葉原で人気No.1のメイド。それで『何もない』なんて言うのは他のスタッフに対しても失礼だし、努力し続けたアンタ自身に対する裏切りだと知りなさいっ!」

「それに、だ。そなたは周囲に気を配る術に長けておる。これを才能と言わず何と言うのだ。ことりの友は、今までに1度でも『何もない』などと漏らしたことはあったか?

 むしろ、他の者がそなたの才能を羨んでいるかもしれぬぞ」

 

 同じメイドである優香と、大学1年生にして喫茶店のオーナーを務めるルイの言葉には、確かな重みがある。

 そしてルイの目配せに答えるように、絵里がことりへと言葉をかける。

 

「ええ、天元さんの言う通りですね。私も以前は『生徒会長として生徒や学院のために頑張らなくては』と気を張り詰めすぎていましたが、ことりさんのように細かい気配りをすることは出来ませんから」

 

 同じ気持ちなのだろう、他のメンバーも頷いた。

 

「自分が完璧だと思っている人なんて、ほとんどいない。あの『A-RISE』だって、頂点に立つ者としての『誇り』と『責任』を持ちながら努力しているから、No.1スクールアイドルの地位を守り続けているのでしょうね」

 

 アテムも普段から自信たっぷりの態度を取っているが、勉学はからっきしな上、得意とするデュエルでも度々敗北することがある。しかし次に勝つために自分自身と向き合い、努力を重ねるのだ。

 

「確かに、そうかもしれません。ことりが私や穂乃果を羨んでいるように、私も2人を羨ましく思い、努力せねばと思う時が多々あります」

「そうやって少しずつ成長して、高みを目指す人たちを見てまた努力する。同じチームの仲間というのは、最大の好敵手(ライバル)であるのかもしれないわね」

 

 また、出会ったばかりで特に親しいわけでもないパラドックスや2人の少女に対しても、『羨ましい』という感情を穂乃果と海未は抱いていた。

 パラドックスは、隠し撮りをされていたことりを助け、デュエルの実力も信頼されている。

 ルイと優香は、『μ’s』のメンバー以上にはっきりとした物言いでことりを諭していた。

 自分たちの知らない親友の一面を知っている、というのは少々悔しい。

 

好敵手(ライバル)、か……。ねぇ、穂乃果ちゃんも私のことを好敵手(ライバル)だって思うことは、ある?」

「もっちろん! というか、ことりちゃんが『μ’s』の中だけじゃなくてアルバイトでも頼りにされてたんだって知っちゃったから、私の方が自信無くしちゃったかも……、なんてねっ」

 

 ことりの問いに、穂乃果は間髪入れずに返答した。順に海未たちへ聞いてみても、大きな差異はない。そして、未だ一歩も動けずにいるアテムも。

 

「当たり前だぜ、南。お前はこの俺を何度も破る実力を持つ決闘者。それに、仲間を支える優しさまで持っているんだ。好敵手(ライバル)として認めない理由など、どこを探してもありはしないさ」

 

 誰一人として、ことりを否定する者はいない。彼女が皆を支えようとする取り組み、デュエルの実力をずっと羨んでいた。それどころか、もっと早くアルバイトのことを教えてくれれば冷やかしに来たのに、と軽口を叩く者もいる始末。

 

「皆……」

 

 ことりは、自分の悩みが小さなことであったのではないかと思い始めていた。今まで、周りの人を支えることしか出来ないと思って行動してきたが、似たような悩みを皆が抱えている。心に秘めていた思いを遠慮せずに吐露していれば良かったのかもしれない。

 

「多少は安心出来たようだな、南ことりよ」

「……まだ、完璧とは言えません。でも、ここにいる皆のおかげで少し気が楽になったと、思います」

 

 83000ポイントの戦闘ダメージを受け、満身創痍のパラドックス。常人であれば気を失っていてもおかしくはない身でありながら微笑を浮かべる彼もまた、ことりを支える者の1人。上の階で今も働くスタッフも、彼女の味方だ。

 多少ぎこちなくはあるものの、今のことりならば悩みを解決出来る時は遠くないだろう。

 そして話が一段落ついたところで、真姫は先ほどから懸念していたことを口にした。

 

「ところで、壊れたデュエルフィールドはどうするの?」

 

『あっ』

 

 彼女の言う通りである。アテムが力を制御したといっても、非常に強力なフィールを持つ決闘者が放った一撃はソリッド・ヴィジョン外にも爪痕を残してしまった。

 幸いもう使い物にならないほどの惨状にまでは至っていないが、多少罅割れた床は危ないだろうし、焦げ跡も見逃す訳にはいかない。

 

「ちょ、ちょっとアテム。どうするのよこれ、アンタにお金払えるの? もしくは自力で修理――」

「無理だな」

「いやいやセンパイ、その即答は無責任にも程がありませんか!?」

 

 10万オーバーの攻撃力を叩き出した(ファラオ)でも、出来ることと出来ないことがある。焦げ跡を多少目立たないようにすることは可能かもしれないが、流石に壊れたものを修繕することは不可能なのだ。

 もしかすると、連帯責任として『μ’s』メンバーないし音ノ木坂学院が修理費用を支払わなければならないのかもしれない。皆が大きな不安に駆り立てられたところで、ルイが声を発した。

 

「うむ。ここは余が一肌脱ぐとしよう」

「えっ!? ルイさま、ここで脱ぐんですか!? お美しい肌を晒すんですか!?」

「優香ちゃん、ちょっと黙って。あと涎も拭いてね」

 

 またしても危ない発言をする優香に対し、ことりは即座にツッコミを入れる。その空気はデュエル開始前よりも重く、いつもの調子を取り戻しつつあった。明日明後日には、アテムを吹き飛ばす飛距離も普段と同程度になっているかもしれない。

 だが、それにしても『一肌脱ぐ』とはいったいどういうことなのだろう。海未が問うと、ルイは右手の人差し指を唇に当て、ウィンクした。

 

「あとで元通りに修復しておくが、方法については企業秘密だ。ああ、ついでに今日そなたらが注文した分の料金も余が支払っておこう」

「そ、そんな……! 悪いですよ!」

 

 全員分の会計を肩代わりした上に、ほぼアテムのせいで小破したフィールドを修復するとなると相当な金額が必要なはず。出会ったばかりの人にそこまでさせるのは申し訳が立たない。

 

「天元ルイ。俺の攻撃が原因であったことを承知で言うが、本当にいいのか?」

「気にするでない。面白いものを見せて貰った礼だ、これくらいは年上のおねーさんに任せておくのだ♪」

 

『は、はぁ……』

 

 その口ぶりからは、無理をしているようには思えない。しかし、小学生程度にしか見えない大学生が年上ぶる姿は非常にアンバランスだった。

 

「天元がこう言っているのだ。彼女の厚意に甘えて、キミたちはもう帰るといい。時間も既に18時近いのだからな」

 

 パラドックスに言われ、一同は自らの腕時計やスマートフォンを確認する。長いこと地下にいたことで気が付かなかったが、もう夕陽が沈みかけている頃だ。

 皆、渋々といった様子で彼の提案を承諾した。

 

「私のシフトはまだ2時間位残ってるから帰れないけど、外までお見送りさせて頂きますね」

「ありがとう、ことりちゃん。あと、帰る前に店長さんに挨拶をしておきたいんだけど大丈夫かな?」

「俺も、一言謝っておくべきだろうな」

 

 穂乃果は、幼なじみがお世話になっている人と1度話をしてみたいと。

 アテムは、決闘者にとって神聖な戦いの舞台(デュエルフィールド)を傷つけてしまったことを謝罪したいと。

 そう考えて確認を取ってみたのだが、店長をよく知る4人は揃って首を横に振った。

 

「気持ちはわかるが、やめておくべきだと余は思うぞ。あやつは客から話しかけられればすぐにサボる男だからな」

「姿を眩ませることも日常茶飯事、私たちがどれだけ苦労させられていることか」

「どうせ今頃はアンチノミーさんたちが目を光らせているだろうし、さっさと帰ったほうがいいかもしれないわよ。ねぇ、南」

「うん。それに……」

 

 ことりが凛とアテムを交互に見つめるが、その時間は一瞬。疲労していたせいか、両者が気付くことはなかった。

 それにしても、スタッフが監視していなければ日常的にサボるような人物が店長とは。いくら親公認とはいえ、このような店で働いていて良いのだろうか。不安を抱かずにはいられない一同であった。

 

 

 

●新たな戦いへ

 

 

 

 その後、ことりを除いた『μ’s』メンバーとアテム、そして実体化を解除したマハードは、後ろ髪を引かれながらも店を後にした。

 ことりが抱えていた悩み、デュエルの内容、喫茶店で出会った男や少女たちについての話題で盛り上がる中、アテムとマハードは心中で互いにだけ聞こえる会話をする。

 

「((ファラオ)よ、お気付きになりましたか?)」

「(ああ。店を出る直前、厨房の辺りから発せられた途方も無い力。間違いなく、そいつが『ゾーン』と呼ばれていた店長だ)」

 

 気になるのは、まだ顔を合わせていないにも関わらず『何処かで出会ったかもしれない』という確信にも近い心境に至ったということ。

 

「(あの気配は遊星によく似ていた。まさか、彼もこの世界に来ていたというのか?)」

「(ですが、店長でありながら職務怠慢というのは気になりますね)」

 

 2人は思う。仮に『店長=不動遊星』であることが事実ならば、是が非でも手合わせしてみたいと。また他のスタッフや、小さくも強大な力を秘めた少女とも。

 

「アテムくん、顔色悪そうだけど大丈夫?」

 

 思案に耽っていると、横合いから穂乃果が声をかけてきた。他の者も、心配そうにアテムを見つめている。

 

「大丈夫……、とは言えないな。さっきのデュエルで魔力(ヘカ)を消費しすぎてしまったからな」

 

 決闘者は、デュエルの中で知らず知らずのうちに体内の魔力(ヘカ)を消費しているが、その量は微々たるもの。規模にもよるが食事や睡眠によって次の日には完全回復する。

 しかし、今回ばかりは話が別だ。パラドックスから受けたダメージも然ることながら、互いに呼び出したモンスターの攻撃力は普段であれば決してあり得ない数値ばかり。最終的にはマハードの攻撃力を10万以上にするために多大な魔力(ヘカ)を消費してしまった。

 そのため魔力(ヘカ)の消費を少しでも抑えるためにマハードは実体化を解除しており、激しいデュエルも2,3日の間は出来そうもない。

 

(悔しいが、我慢するしかないか)

 

 幸い、もうすぐ夏季休暇。1ヶ月以上もの休みがあれば喫茶店に赴く機会は何度もある。夏休みの宿題という恐るべき敵が襲い掛かってくるという話も耳にしたが、多分なんとかなるだろう。

 

 

 

「あっ! あそこにいるのはチヨダ・ヒーロー『乙女(メイデン)』! 私、サイン貰ってきます!」

「え、かよちん!?」

 

 

 

 いつの間にやら、メイド服を模したヒーロースーツを身に纏う黒髪の少女に向かって花陽が突撃していた。

 歩きスマホを取り締まっていたその少女は、持っていたビラを取り落とす。赤いバイザーで瞳を隠していても尚、声色からは困惑していることが伺えた。

 

「にこっちは、花陽ちゃんみたいに突撃せえへんの?」

「私はアイドルとデュエルモンスターズに絞ってるからね。ご当地ヒーローは管轄外なのよ」

「それよりも、花陽さんを止めたほうがいいんじゃないかしら」

 

 夕焼けに染まる秋葉原。花陽が発する熱気は、夏の暑さをも凌ぐほどだったという。

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。『Yliaster』の地下ではルイと優香、そしてパラドックスが未だ焼け焦げ罅割れたデュエルフィールドの中にいた。

 一気に人口密度が減ったことで静寂に包まれているものの、2人の決闘者が残した破壊の爪痕が、戦いの激しさを物語っている。

 ルイはその中でも最も損傷が激しい場所へと、手袋で包まれた右手で触れて小さく呟いた。

 

 

 

「――Construction(構成)

 

 

 

 なんということだろう。彼女の周囲がほんの一瞬淡い光に包まれたかと思いきや、罅と焼け跡は完全に消えていた。

 事情を知らない者が見れば、ソリッド・ヴィジョンによる演出だと疑っていたことだろう。しかし関係者しかいないのだから誤魔化す必要もなく、これは紛れも無い現実。

 

「まったく、流石は『地球外』の技術と超能力を使うだけのことはある。相変わらずキミたちのそれは我々の想像を超えている」

「何を言う、パラドックス。『異世界の遥か未来』からやって来たそなたらの科学力、そしてデュエルモンスターズが秘めた不思議な力と起源には余も母上も驚かされてばかりだ。

 1年以上早くこの世界に来てくれていたら、『BO団』の作戦ももっとスムーズに進められただろう。今更言っても無意味であることは承知しているがな」

「アンチノミーさんは修正テープのようなバイクで爆走。ゾーンさんは自分の世界にいた英雄に憧れすぎて全身整形しちゃうし、アポリアさんに至っては状況によって3人に分裂。ついでにバイクと合体。

 万が一敵に回っていたら、間違いなく『23区ヒーロー』より厄介だったでしょうね」

 

 そして交わされる会話と、中に含まれる不可解な単語。やがて数分後、フィールド全体が完成したてのように元の姿を取り戻した。

 

「さて、余はそろそろ帰るとしよう。行くぞ、優香。

 あのアテムという男は随分とやつれておった。ノワールに戻ったら、見舞いの『ギャラクシーアイズ・マウンテン』を持って、彼と高坂穂乃果が暮らす家に向かう」

「はい、ルイさま!」

 

 用は済んだとばかりにルイは歩き出し、彼女の後ろを優香は忠犬の如く付き従う。更に後ろを歩くのは、今にも倒れてしまいかねないパラドックス。おそらく、彼はもう今日はホールで働くことなど出来そうもない。最も小柄な少女が大男よりも堂々としている、改めて奇妙な光景だ。

 

「ほう……。隙あらば風間を我が物にしようとするキミが、他の男を見舞うとはな。ようやく鞍替えする気にでもなったのか?」

「愚問だな。余が愛する男は晃太郎だけ、他の男に(うつつ)を抜かすなど到底あり得ぬ」

「ちなみにルイさまが最も愛する女の子は、あたしよ!」

「……家族(ファミリー)として、だがな」

 

 この少女の欲望は本当にブレない。ルイは咳払いをしつつ、話を続ける。

 

「デュエルモンスターズは、人種・思想・言語・惑星・次元を超え、誰とでも心を通わせることの出来る素晴らしいゲームだ。時には何の力を持たぬ地球人が、知略を巡らせ我等を凌駕することもある。

 いつの日か、デュエルを通じて純血種(ピュアブリード)混血種(ハイブリッド)、地球人、そしてそなたら異世界からの来訪者が手を取り合う社会を作ってみせる。そのためならば、余はどんな努力も惜しまぬ」

「我等の世界ではキング・オブ・デュエリストと称されたアテムや、彼と共に成長を続ける『μ’s』と接触することもそのステップの1つだということか」

然様(さよう)

 

 いつの間にか、少女の右手には数枚のカードが握られている。それは何れも、瞳に銀河を宿すドラゴン。

 

「くっくっくっ。楽しみだよ、『μ’s』諸君」

 

 

 

 長い一日は、まだ終わらない。

 

 

 




 攻撃力132800、カイザーやドン・サウザンドもびっくりの攻撃を受けたパラドックスですが、闇のゲームもしくはリアル・ソリッド・ヴィジョンではなくて本当に良かった。
 いやー、アテムさん容赦ないなー。

 それでは、ロリと変態が高坂家に強襲する次回もよろしくお願いします。
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