今回も2分割。デュエル開始前なのに文字数約14000字です。
では、どうぞ。
7/7 アテムが穂乃果を呼ぶ時の呼称を、苗字呼びから名前呼びに変更。
●アテムキャンセル
早朝の生徒会室。
そこでは2人の生徒会役員と4人の生徒が向かい合っていた。
「貴女たち、朝から何? 生徒会は今、忙しいの。邪魔よ」
「エリち、そこまで言わんでも……」
生徒会役員の一人、冷たい氷のような目で4人を睨む少女の名は絢瀬絵里。音ノ木坂学院の生徒会長である。
彼女は生真面目な性格として知られ、時に冷たい人物だと思われることもあるが、ここまで辛辣な言葉を発することはない。
そんな彼女をここまでさせる原因は何なのか。答えは目の前に立つ4人のうち、一人の男子生徒にあった。
「邪魔しに――」
『黙って』
「……はい」
彼の名はアテム。今日から音ノ木坂学院に通うことになった唯一の男子生徒であると同時に、公的証明書無し・異世界出身・ヒトデ頭と、三拍子揃った不審人物である。
昨日はコスプレ同然の格好をしていた彼だが、今はスーツ姿という至って普通の格好をしている。……ただし頭髪は除く。この服はどうやら高坂穂乃果の父に借りているらしい。
そして、残る3人は高坂穂乃果・園田海未・南ことり。昨日スクールアイドルを結成するとか言っていたが、今朝はその件でやって来たのかもしれない。
(私としたことが、彼のせいですっかり忘れていたわね)
ちなみに当のアテムは穂乃果たちによって生徒会室の隅に追いやられている。ついでに泣いていた。
(うるさい……)
「で、改めて何しに来たの? 大方の予想はついているけど」
「ならば話は早いです。私たち、スクールアイドルを結成しました! 新入生歓迎会の日にライブをやるので、講堂の使用許可を下さい!」
3人の中央に立つ少女・高坂穂乃果が突き出してきたのは、講堂使用の申請書。そこには穂乃果たち4人の名前と、新入生歓迎会の後に使用するという旨が記入してあった。
講堂は申請書を生徒会に提出し、許可を得られれば部活動に関係なく使用することができる。昨日アイドル部設立を突っぱねたのだが、その穴を突いてきたということか。
「ライブ、ね。昨日今日結成したばかりなのに、まともなライブができるの?」
無理に決まっている。幼少からの経験者である絵里からすれば、彼女たちは素人でしかない。踊りを嘗めないで欲しいと言いたかった。
「でき――」
「できるぜ絢瀬! おれたち4人のダンスで新入生を引き寄せ――」
『彼は踊りません』
「ゑ? だが――」
『絶対に踊らせません』
「うぅ……ぐすっ」
急に立ち上がり寄ってきたアテムを、3人は生徒会室の外へ叩きだした。彼はまたしても泣いていた。……どうして彼を連れてきたのだろう。
「息ピッタリやね」
「……」
絢瀬絵里は生まれて初めて早退したいと思った。
『そこのヒトデ頭の男子生徒! うるさいですよ! 職員室まで来なさい!』
『待ってくれ! 俺は――』
『言い訳する気ね! だったらデュエルで拘束するまで!』
『デュエル……臨むところだぜ!』
『デュエル!!』
「生徒会長、すみません。彼は後で腹パンしておきます」
震える声で言葉を紡ぐ園田海未。
見れば、目の前の3人もうっすらと泣いていた。
●KKA
廃校が告げられた2日後に突如現れた男子生徒。
急遽開かれた全校集会で告げられたその内容にざわつく生徒一同。
――2年に編入だってさ。
――どんな人かな。イケメンかな?
――デュエル強いのかな?
期待と不安に胸が膨らむ少女たち。
だが、
「我が名はアテム!! ATMと書いてアテム! KKA、かしこいかっこいいアテムだ!」
……。
――はぁ? なんだ、コイツ。
全員の心は1つになった。そして、『学院唯一の男子生徒』という非常識は、『3色ヒトデ頭の不審者』という更なる非常識に塗りつぶされるのだった。
ちなみに、
「何あのヒトデ頭! キャラ立ちすぎよ! イラッとくるわね! ……あそこまでなりたくないけど」
とか何とか言っているツインテールの少女がいたとか。
●許可無く勝手にポスターを貼り出してはいけない
「勝手すぎだぜ!」
アテムは激怒した。
彼は今、廊下に貼りだされたポスターの前で涙目になりながら穂乃果に詰め寄っていた。
「アテムさんの言う通りですよ、穂乃果! ライブをすると言っても未だ何一つ出来ていないんですよ! だというのにポスターを作るだなんて、見通しが甘すぎます!」
海未も同じく怒っていた。彼女自身、人前で歌って踊ることには多少の抵抗があるのだ。自分に相談せずにこんなものを貼りだされては、一部の生徒に「へぇ、
「で、でもことりちゃんは良いって言ってくれたよ!」
「南が!? くっ!」
アテムも同じ気持ちのようで、海未は安堵する。
(良かった、アテムさんが私と同じで。おふざけばかりで面倒くさい人ですが、たまにはまともなことも――)
「このポスター、俺が描かれていないじゃないか!」
『…………え?』
「ゑ?」
全く違う気持ちのようだった。
言われてみればポスターに描かれているのは、穂乃果・海未・ことりの3人。アテムは描かれていない。
「アテムさん。実際に歌って踊るのは私たちなんですから、貴方がポスターに載る必要はどこにも無いじゃないですか」
「何!? 俺もお前たちの仲間ならポスターに描いてもらえるんじゃないのか!?」
……相変わらず面倒くさいヒトデだと海未は思った。
「……じゃあ、ポスターに描かれるとして、アテムくんはどこに描かれたいの?」
「中央かつスペース8割で描いて欲しいぜ!」
『却下♪』
「( ゚д゚)」
とりあえず隅っこに描くということで手を打った。
●このやり取りを書くためだけに書き始めたと言っても過言ではない
「ジャンジャジャ~ン! ライブの衣装、考えてみたよ!」
次の休み時間。
微妙にイラッと来る口調でことりは1枚のルーズリーフを広げてきた。そこに描かれていたのはヒラヒラの衣装を着た女の子のイラスト。
「わぁ、可愛い! すごいよことりちゃん!」
「えへへ、ありがとう!」
幼なじみ3人の中でも特に可愛いもの好きであることりが描いただけあって、確かに良くできている。テレビで時折見る本物のアイドルが着ていたものと比べてみても遜色ない。
しかし、少々肌色が多くないだろうか。
「あの、ことり……。このスーッと伸びているものは?」
概ね予想はできているが、聞かずにはいられなかった。
「足よ♪」
そう、足だ。生足だ。
イラストに描かれている女の子は、ミニスカートだったのだ。
「絶対に着ません!」
「どうして? 海未ちゃん似合うよ? 着てみたくない?」
「似合う似合わないの問題ではありません! 制服ならともかく、このような衣装を学院内で着ることが問題だと言っているんです!」
可愛いことは確かだが、海未は思う。自分がこのような格好をしたとして似合うのだろうか。似合うはずがない。2人に比べて女の子らしくないし、何より恥ずかしい。
「アテムさん! 貴方もなんとか言ってください!」
2人は既にこの格好で踊ることに決めてしまっている以上、非常に不本意だが彼に意見を求めるしかない。
『絶対に否定してください』と目で訴えてみるが、果たして彼は気付いてくれるだろうか。
「言われてみれば、男の子の意見も重要だよね。ネット上で多くの人が見るわけだし。どうかな、アテムくん」
2人の女子に迫られても全く動揺しないせず、彼ははっきりと告げた。
「いいんじゃないか。中々似合ってるぜ!」
「くっ!」
味方など、一人もいなかった。
「だよねだよね! アテムくんもそう思うよね! ほら海未ちゃん、アテムくんもこう言ってることだし――」
「だが俺からすればまだ地味すぎるぜ。もっと腕にシルバー巻くとかさ!」
『は?』
突如飛び出した第3の意見。スクールアイドルがシルバー? 彼は一体何を言っているのか。
アテムのファッションセンスは自分たちと根本からずれているらしい。
昨日の格好のせい? いや、それは違うだろう。あの服にシルバー要素など何一つ無かったはずだ。
「お前たちもシルバー巻いて、かっこいいとこ見せて――」
「ねぇ、デュエルしてよ……」
『ゑ?』
恨み、怒り、憎しみ。あらゆる負の感情が篭ったことりの声が、アテムの言葉を遮る。今まで聞いたことのない恐ろしい声に、穂乃果も海未も思わずアテムと同じリアクションをしてしまった。
「アテムくんのファッションセンスには、鉄の意志も鋼の強さも感じられない!!」
教室内にいる他のクラスメイトが目で訴える。
――おい、何とかしてよ。
(無茶言わないでください)
(ことりちゃん怖いよ~)
幼なじみ2人でも無理らしい。だが、無理もない。ことりと1番長い付き合いである穂乃果でさえここまで激怒することりを見たことは無いのだから。
ちなみに、その怒りを直接受けている本人は、
「くっ、なんという
「アテムさん、足震えていますよ」
「『ムチャ』震いだぜ!」
「それを言うなら『武者』震いです」
平常運転だった。
(お、落ち着けアテム。俺の手にはオヤジから貰ったデュエルディスクとカードがあるんだ、必ず勝てる! …………多分!)
『デュエル!!』
アテム:LP4000
ことり:LP4000
「バトル! 《RR-ライズ・ファルコン》! 全ての敵……というかアテムくんを引き裂けぇ!」
――ブレイブクロー・レボリューションッッッ!
「AIBOOOOOOOOOOO!!」
アテム LP4000 → LP0
「ことりちゃん相変わらず強いなぁ」
「アテムさん、窓の外まで吹き飛びましたね」
(反応薄っ!?)
●窓は開いていたから割れていないよ、念のため
「ひとまず、衣装のことは置いておきましょう。私たちには決めておくべきことが他にもたくさんあるはずです」
「そうだよね。サインとか、街を歩く時の変装とか」
「必要ありません!」
「う~ん、《スワローズ・ネスト》の枚数増やしたほうがいいかなぁ」
「……ねぇ、高坂さん」
「?」
クラスメイトが窓から飛び出し落下していったにも関わらず再開する会話。ことりに至ってはデッキ構築まで始める始末。流石にツッコミを入れずにはいられなかったクラスメイトの一人が穂乃果に話しかける。
「その……。転入生くん、窓から落ちた上に凄い音したけど、だ、大丈夫なの?」
断末魔の叫びを上げ、クッションになるような植木すらない地面に落下した音まで聞こえたのだ。とてもじゃないが無事でいられるとは考えにくい。救急車を呼ぶべきこの状況で、何故この3人は平然としていられるのであろう。
「大丈夫だよ、だって――」
「戻ってきたぜ!」
「ほらね? 真の決闘者はこれくらいじゃケガしないんだって」
無傷でサムズアップしているアテムを指さしながら穂乃果は微笑んだ。
(何なのこの人達……)
「ちなみに、俺はグループ名を決めておくべきだと提案するぜ!」
「あ、確かに!」
「私も忘れていました……」
(しかも聞こえてた!?)
「闇属性多いし《闇の誘惑》やダムドも入れたいなぁ。邪道だけどBFも少し入れようかなぁ」
(南さん、話聞こうよ!)
これから1年、気苦労が増えそうだと感じたクラス一同であった。
●ブックス!を読む時はお静蟹
放課後。
4人は図書室まで赴き、グループ名の案を出し合っていた。しかし、中々思いつかない。全員特徴も性格もバラバラ、今現在同じ部活に所属しているというわけでもない。
案を出し始めて既に1時間。グループ名だけで時間を浪費していては、この先前途多難だと誰もが思い始めていた。
「あ! こういうのはどうかな? 海未ちゃんの海! ことりちゃんは空! 穂乃果は陸!」
「アテムは冥界!」
……。
「……穂乃果、陸海空と言いたいのでしょうけど、アイドル要素0ではありませんか」
「それにアテムくん、冥界だと死んじゃってるよね? アイドルに『死』を連想させる単語はどうかと思うよ?」
『すみませんでした』
とりあえず頭を下げるアテムと穂乃果。アテムの巨大なヒトデ頭が机上の紙や本に当たってかなり邪魔だった。
なお他の利用者は、騒ぐ4人を迷惑に思いながら、最終的に全員が同じ考えに至っていた。
――もうお前ら漫才師になれよ、と。
更に5分後。グループ名は一旦保留にしようかと誰かが提案しようとした時、
「思いついたぜ!」
アテムが勢い良く立ち上がり、嬉々として懐から1枚のカードを裏向きで机に出した。
「嫌な予感しかしませんが一応聞いておきましょう。どうぞ」
少々うんざりしながら、海未は続きを促した。
イラッとするほどニヤつきながらアテムが表にしたカードは、
《孵化》
通常魔法
自分フィールド上のモンスター1体をリリースして発動する。
リリースしたモンスターよりレベルが1つ高い昆虫族モンスター1体をデッキから特殊召喚する。
卵、しかも昆虫のものが描かれた魔法カード。
天使族や魔法使い族ならともかく、まさかの昆虫族関連のカードである。
「穂乃果の『H』! 海未の『U』! ことりの『K』! アテムの『A』! 繋ぎあわせて『HUKA』! 魔法カード《孵化》だぜ!」
昆虫族を1枚もデッキに入れていない彼の懐から何故そんなカードが出てきたのか。全員そんなツッコミをしたくなるのを抑えながら言葉を返した。
『却下♪』
「ですよねー」
結局、『図書室で騒ぎすぎ。出て行きなさい』という司書の宣告を受け強制退出させられた4人は、グループ名を生徒から募ることになった。こうすれば皆が興味を持ってくれるはず、とは穂乃果の談。
その後はまず練習場所の確保に向かった。しかし、正式な部活ではない彼女たちが部室や空き教室を確保することは不可能だったため、最終的に校舎の屋上を使うことになった。雨を凌ぐこともできず、硬いコンクリートの上で練習というのは決して好条件とは言えないが、無いよりはマシだろう。
続いて歌の練習……といきたかったのだが、
「そういえば、歌は?」
この通り、肝心の歌すら無かった。
「よし! それなら海馬に教えてもらった『海馬コーポレーション社歌(エネコンVer.)』を――」
「穂乃果、すみませんが私はこれから弓道部に顔を出さないといけなくて……」
「そっかぁ。じゃあ続きは後で私の家でやろっか。ことりちゃんと『2人で』先に進めておくね」
「部活頑張ってね、海未ちゃん」
閉まるドア。
遠ざかる足音。
楽しげな声。
「『
アテムはしばらく泣いていた。
●とんだロマンチストだな!
「絶対にイヤです!」
アテムが帰宅すると、顔を真っ赤にした海未が穂乃果に捕まっていた。
「2人は何をしているんだ?」
「うん、えっとね……」
ことりの話を要約すると、こうだ。
なんでも、1年生に歌とピアノが上手な子がいるらしい。彼女ならば作曲もできるだろうということで、明日お願いしに行くのだとか。
そこで歌詞はどうするのかという話になるのだが、中学生の頃にポエムを書いていた海未にまかせてみてはどうかという案が出てきた。
しかし海未は『恥ずかしい』という理由で拒絶。逃亡しようとしたところを穂乃果に捕まった、ということである。
「なるほど。別にいいじゃないか、園田。アレは中々のものだったぜ」
「なぜアテムさんがそれを知っているのですか!?」
絶望に染まった海未の表情。
具体的には『コレクターズパック伝説の決闘者編』を数箱購入して《マスマティシャン》も《ティマイオスの眼》も当たらなかった時の顔である。
「なぜと言われても、穂乃果に昨日読ませてもらったからだぜ」
「ご、ごめんね海未ちゃん。前に家の片付けをしてる時に海未ちゃんのポエムノートがあって……。
すっかり返すの忘れてたんだ」
「……ああ、失くしたと思っていましたが、穂乃果の家にあったのですね。ハハハ……」
「ねえ穂乃果ちゃん。海未ちゃんが『初手でセブンスワンを引いた時のイケてない顔』になってるんだけど」
「すいませんでしたぁ!!」
穂乃果は全力で土下座した。
その横ではアテムがポエムノートを片手に饅頭を頬張っていた。
「うん、やはりこれは素晴らしいじゃないか園田。どこに恥ずかしがる要素があるんだ?」
アテムが手にとっているポエムノートは、海未の記憶では書き始めてから3ヶ月ほど経った時のもので、特にぶっ飛んだ内容だった。常人なら『とんだロマンチストだな!』と言いながら笑いそうな文章のはずなのに、彼は優しく微笑みながらゆったりとページをめくっている。
そこには海未を馬鹿にするような雰囲気は感じられない。むしろ、純粋に褒め称えているようだ。
昨日今日と、ふざけた言動と行動を繰り返している分、デュエルをしていた時のような今の真面目な表情は本物なのだとよくわかる。
「……そのポエム、恥ずかしいとか痛々しいとか思ったりしないんですか?」
「思わないさ。これは当時のお前の思いを書いたものなんだろ? どんな形であれ、自分の心を外に出すことは間違っていない。むしろ誇るべきだ」
「アテムさん……」
これは100%嘘偽りの無い本当の気持ちなのだろう。彼はいつだって全力だ。いや、彼だけではない。
穂乃果のスクールアイドルになって音ノ木坂学院を守ろうという思いは全力で本気のもの。
ことりだって、全力で衣装作りに挑もうとしている。
なら、自分は? 皆が期待してくれているというのに、ここで応えなくてどうするのか。
「……わかりました、引き受けましょう。ただし、練習メニューは私が考えますからね!」
やってみせよう。まずは新入生歓迎会のファーストライブ。
この『4人』なら、きっと――。
●ビリ×ビリ
翌日、いよいよ練習が始まった。
歌詞は海未がなんと一晩で仕上げてきた。穂乃果とことりは、自分たちから頼んだとはいえ、無理をさせてしまったのではないかと考えた。しかし海未曰く、『本気でやると決めた以上、やるべきことはすぐに終わらせるのは当然のこと』らしい。
内容に関しては問題ない。むしろ良すぎたくらいだ。それはもうアテムが感涙してしまうほどに。
後は作曲を例の1年女子に依頼するだけなのだが、それまで何もしないわけにはいかない。
ライブをする以上、歌って踊り続けるだけの体力が必須。弓道部の海未はともかく、穂乃果とことりは帰宅部。まともな体力など持ち合わせていない。
そこで、毎日神社を使って体力作りをすることになった。案の定初日からバテている2人であったが、諦めずに積み重ねていけばきっと大丈夫なはずだ。
余談だが、その神社では副会長の東條希が巫女のアルバイトをしていた。アテムと妙に気が合うらしく、練習をしている間2人で楽しそうに談笑(主にデュエル関連)をしており、その後の穂乃果たちは少々機嫌が悪かった。
登校すると4人はすぐに1年生の教室に向かい、件の少女に作曲を依頼した。
しかし、
「お断りします!」
答えはノー。穂乃果とアテムは信じられないといった表情を浮かべていたが、これが当然の反応だろう。『廃校を阻止しようためにスクールアイドルになる』という人達の手伝いという普通ではない内容を聞いて、簡単に了承する人などまずいない。
結局、彼女は教室へと戻っていってしまった。
「どうして断られたんだろう。『お断りします!』なんて海未ちゃんみたい」
「あれが普通の反応です。むしろ私たちの方が変なんです」
しかし、作曲をしてくれそうな人から断られてしまってはこの先に進むことはできない。この中で誰一人作曲に関する知識を持つ者がいない以上、もはや八方塞がりである。
「でも、海未ちゃんみたいってことはもっとお願いしてみれば頷いてくれるんじゃないかな?」
「南の言う通りだぜ、園田。その歌詞を見せてやれば、感動でむせび泣くに違いないぜ!」
いやいや流石にそこまでは、と言葉を返そうとしたところ、屋上のドアが開かれる。
現れたのは、
「貴女たち、ちょっといいかしら」
「お前は……、絢瀬!」
生徒会長・絢瀬絵里だった。
「アテムくん、一応私は貴方の先輩にあたるのだから、もう少し言葉遣いに気をつけるべきではないかしら」
「悪いな、俺はずっとこういう話し方だったからな。直せと言われてもそれは無理って話だ」
「……はぁ。まったく、昨日から問題行動ばかり起こしているしやっぱり貴方を音ノ木坂に入れたのは間違い――」
「生徒会長、そんなことより私たちに何か言いたくてここに来たんじゃないんですか?」
少しばかり苛立ちを含んだ穂乃果の声が、絵里の言葉を遮る。海未とことりも声を出さないものの似たような表情だった。
「……まぁいいわ。私が言いたいのは――」
――貴女たちがやっていることは『逆効果』でしかない。
「それだけよ」
冷たく言い放す絵里。廃校を阻止したくてスクールアイドルになったというのに、逆効果とはどういうことなのか。
「おい絢瀬、なぜそんなことを言うんだ。穂乃果たちは廃校を阻止するためにスクールアイドルになる決意をしたんだ。お前はそんなこいつらの努力を否定するのか?」
自分たちは未だちっぽけな存在。だが、それでも廃校を阻止するために努力する彼女たちを否定するかのような絵里の言葉を受け入れられるなど、アテムにはできなかった。
「一度やると決めた以上、努力するのは当然のことよ。
でもね、スクールアイドルが今までなかったこの学校で、やってみたけどダメだったら皆どう思うかしら?
例えば、今度の新入生歓迎会で良い反応を得られなかった、とかね」
『っ!』
「一応言っておくけど、私だって音ノ木坂学院が好きだし、無くなってほしくない。でもね、だからこそ貴女たちのように軽い考えで行動してほしくないの」
それじゃあ失礼するわね、そう言って絵里は踵を返す。はっきりとは言わなかったが、『私は貴女たちを絶対に認めない。今すぐ活動を止めろ』と暗に語っているようなものだった。
「あはは。逆効果かぁ」
「穂乃果……」
「穂乃果ちゃん……」
絵里が出て行ってから、4人はすぐに言葉が出なかった。精々1、2分程度だが、体感時間は倍以上。それほど彼女の言葉が堪えたのだ。
やっとのことで声を発した穂乃果も、少し覇気がなかった。
確かに、未だグループ名すら決まらず、作曲を断られた現状ではスクールアイドルなどと呼べない、ただの仲良しグループだ。このまま曲ができなければ失敗は確定。
やはり、自分たちは軽いのだろうか。
「あんなの相手にする必要はないぜ」
『え?』
あれだけキツい言葉を受けたにも関わらず、アテムは珍しく涙一粒零さずにそんなことを言い放った。
「お前たちは今何がしたいんだ? 音ノ木坂学院を守るためにスクールアイドルになるんだろ? 無謀なことだってのは誰だってわかることさ。だがな、俺はあの時言ったはずだ。
諦めずに戦い続ければ、必ず廃校を阻止できると。
周りにどうこう言われた程度で揺らぐようじゃ廃校阻止だなんて夢のまた夢だぜ!」
「アテムくん……。うん、そうだよね!」
(私は決めたはずだ。『やるったらやる!』って。こんなところで諦めたくない!)
別に今はライブ前日というわけではない。時間はまだ残されているのだ。
4人で目を合わせ、微笑み合う。そうだ、ここには志を同じくする仲間がいるのだ。皆の力を合わせれば、できないことなんて無い。
新たな決意を胸に、穂乃果は走りだした。向かう場所は掲示板。正確にはグループ名募集の箱だ。
確信があったわけではない。だが、そこに行けば何かがあるかもしれないと、直感が告げていた。
「入ってたよ、グループ名! しかも2枚!」
先に教室に戻った3人に遅れて教室に入ってきた穂乃果は、大喜びで両手に持った2枚の紙を差し出してきた。
「意外と早かったですね」
「それに2枚ってことは少なくとも2人が興味を持ってくれたってことだよね!」
淡々としながらも口元が緩んでいる海未と、反対に喜びをそのまま表現することり。
「それじゃあ、まず1枚目! シンプルな4つ折りの方から!」
駆け寄る3人に囲まれながら、穂乃果はゆっくりと紙を開いた。誰かが息を呑む音が聞こえる。
「1つ目の候補は――」
『アテムとユカイな仲間たち☆』
――ビリッッッ!!
無言で破り捨てた。
「!? やめろ! そんなことしちゃいけない!」
なんかもう色々と台無しだった。
「ねぇアテムくん、この流れでおふざけはどうかと思うよ。さっきまでのワクワク返して」
「最低ですね」
「また引き裂くよ♪」
話を聞いてみると、どうやら昨日練習場所探しをしている際、『お花を摘んてくるぜ!』と言って席を外した時にこっそりと入れてきたそうだ。
「紙はもう1枚あるけど……、アテムくん、入れたのはさっきの1枚だけだよね?」
穂乃果が若干の怒気を孕んだ声で問う。アテムは紙片をかき集めながら何度も頷いた。
「これはおそらく本物でしょう。アテムさんがふざけてルーズリーフに書いたものと違って可愛らしい便箋に書かれているようですし」
『真剣に考えたのに……』と呟く声を無視しつつ、海未とことりに見つめられながらは穂乃果は紙を開く。
そこに書かれていたのは――
――μ’s
「何て書いてあるんだろう? 『ユーズ』?」
「いえ、これはおそらく『ミューズ』と読むのでしょう」
「石鹸?」
「何!? 石鹸といったら『キレイキ○イ』ではないのか!?」
「アテムくん、次ふざけたら本当に引き裂くよ?」
「……ごめん」
海未曰く、『
「いいと思うよ。私は好きだな」
「私もそう思います。穂乃果は?」
海未に話を振られ、穂乃果はそっと目を閉じる。アテムも含め3人が怪訝に思うと、彼女は手にした紙を天井へと掲げ、叫んだ。
「もちろん賛成! 今日から私達は、『μ’s』だ!」
「……そういえば、かしこいかっこいいアテムの知識では『μ’s』という女神は確か9人だったはず…………はっ! そうか、これは俺にもスクールアイドルになって踊ってほしいという――」
『それはない』
「……しょんぼりだぜ」
この後滅茶苦茶引き裂かれた。
●アニメ『遊戯王』に出演した声優の初期と後期の声を聴き比べるのは楽しい
放課後、4人は音楽室へと向かっていた。1年生の赤毛少女に改めて作曲を依頼するためである。
クラスメイトの女子の話では、彼女、西木野真姫は普段一人でいることが多く、基本的には図書館で勉強しているか音楽室でピアノを弾いているらしい。入学して早々居場所が特定されるというのもおかしな話だが、入学時の成績優秀者リストに名前が載り、ピアノと歌が上手く、おまけに容姿端麗とあれば、納得できなくもない。
「ところでアテムさん、あの娘は貴方のことを思いっきり睨んでいましたが何をしたのですか?」
「いや、初対面だし何もしていないはずだが」
どうもその1年女子・小泉花陽はアテムに対して並々ならぬ敵意を持っているらしい。傍に立っていた穂乃果たちに対しては羨望の眼差しを向けていたために余計わかりやすかった。
「あ、もしかしてこれのせいじゃないかな? 箱の下に折りたたんで置いてあったよ」
そう言って穂乃果が取り出したのは、先ほど破り捨てたものとは別のルーズリーフ。そこには『ライブ会場で俺とデュエル☆』と書かれていた。
「バカな!? それは確かにポスターと一緒に貼り付けてあったはずだ!」
「アテムさん……」
「まだ引き裂かれ足りないのかな?」
2人……いや、穂乃果を含めた3人の視線がアテムを突き刺す。先ほど正真正銘のダイレクトアタックを受けた後に視線の攻撃は少々堪えた。
「……ちょっとお花を摘んでくるぜ!」
耐え切れなくなったのか、アテムは見え見えの嘘を吐いて廊下を逆走していった。
『逃げるんか』
音楽室の前に立つと、中からピアノの音色と歌声が聞こえてきた。穂乃果や花陽が絶賛していた通り、音楽に対する深い知識を持ち合わせていない彼女たちでさえも引き込むような綺麗な演奏に、3人共一瞬だが意識が飛んでいた。
「すごいですね……」
「うん、ちょっぴりウルっと来ちゃったよ」
「でしょ? 私、やっぱりあの娘に作曲してもらいたいな」
海未もことりも同じ気持ちだった。先ほど断られたとはいえ、ここまで素晴らしい才能を持っているのだから、是非とも協力を仰ぎたい。本来なら穂乃果一人で十分だが、3人で来て正解だったかもしれない。心に来る演奏を聞かせてもらった上に、作曲を依頼したいのは全員共通の想いなのだから。
◆
やがて演奏が終わると、3人は思い切り拍手をしながら音楽室に飛び込んだ。真姫の方は、誰もいないと思っていたところにいきなり拍手をされたことで思わず『ウェェ!』と奇声を上げて仰け反ってしまった。
「……コホン。さっき断ったのに、先輩方もしつこいですね。私の気持ちは変わりませんよ」
プチ醜態を晒してしまったことに赤面しながらも、真姫ははっきりと告げた。その言葉の裏には『出て行ってくれないか』という本音がありありと込められていた。
だが、今の演奏を聞いて『はい、そうですか』と引き下がるような彼女たちではない。
「そこを何とか! 私、西木野さんの歌とピアノの凄さに感動してるの! 屋上でも言ったけど、こんないい演奏があれば生徒を集めることだって絶対にできるよ!」
「穂乃果だけではありません。私やことりも、貴女の演奏を聞いて心から感動したのです」
「西木野さん、お願いします!」
幼い頃からピアノを引き続けている真姫にとって、賞賛されて悪い気はしない。だが、どれだけ上手い演奏ができたところで『生徒を集める』なんて夢物語を現実のものにすることなど出来るとは思えなかった。
「私、普段聴くのはジャズとかクラシックばかりで、アイドルソングなんて薄っぺらい曲は聴かないんです。それに、私がピアノを弾くのはあくまで勉強の息抜き。貴女たちみたいに遊んでいる暇なんてないんです」
「む、私は本気で――」
遊んでいると言われたのが気に食わなかったのか、『穂乃果』と呼ばれている上級生が、何かしら反論をしようとする。だが、
「皆! 俺はとんでもない間違いに気付いてしまったぜ!」
彼女の言葉は、突如現れたヒトデ頭によって遮られた。そういえば何か足りないと思っていたが、この男の存在を忘れていた。全校集会であれ程の存在感を放っていたというのに。
目の前の3人はそれぞれ呆れ顔で、額に青筋を立てている。……友人では無かったのだろうか。
「『お花を摘む』というのは、女性がトイレに行く時に使う表現であって、男性がトイレに行く時は『キジを撃つ』って言うらしいぜ!」
しかも、もの凄くどうでもいい話題だった。
(なんなの、この人……)
「さっき廊下で理事長に教えてもらったぜ!」
「っ! ことりちゃん、しっかりして!」
理事長の名前が出た途端、3人のうちの一人が両手を床につけて「お母さん……」と呟いている。理事長の娘が音ノ木坂学院に通っているとは聞いていたが、彼女がそうなのだろうか。
「……ふんっ。やっぱり遊んでいるじゃないですか。やっぱり貴女たちに付き合う必要は――」
「おい、デュエルしろよ」
「――え?」
何の脈絡もなく申し込まれるデュエルに、一瞬思考が停止する。他の先輩も同じようで、一様に目を丸くしていた。
「お前は俺たちのことを『遊んでいる』と言っていたが、俺には感じるぜ。お前のカバンに入っているデッキの鼓動をな。しかも、片手間ではなく本気でカードを愛して使い続けているという思いも伝わってくるぜ」
「はぁ? 何それ意味分かんない。……確かに貴方の言う通り、デッキは持っていますよ。でも、それこそただの息抜き。頭の体操に使う程度よ」
「だったら尚更俺とデュエルしてもらうぜ、西木野。お前が勝ったら俺たちは今後一切作曲を頼みに来ないと誓おう」
「……逆に私が負けたら、作曲をしてくれとでも? いいわよ、受けてあげる。どうせ断ったところでまたしつこく頼み込んでくるだろうしね。
それより、貴女たちはそれでいいんですか? このヒトデ頭が勝手に話を進めてますけど」
いつの間にか2人だけで会話を進めてしまっていた。他の3人はどう思っているのか。
「私はいいと思うよ。さっきは私たちの活動を『遊び』だって言われて少しむっとしちゃったけど、逆に息抜き程度でやってる演奏で人を感動させることなんて出来るはずないよ。西木野さん、本当は真剣に音楽に取り組みたいと思っているんじゃないのかな?」
「そ、それは……」
感動させようなどと思って弾いていたわけではない。しかし、この先輩の言葉を否定することができない。誰かに聴かせるつもりはなくとも、良い演奏をしようと心がけてはいたのだから。
「それに、アテムさんはデュエルが互いの全てをさらけ出すと言っていました。このデュエルで教えていただけませんか、貴女のことを」
「海未ちゃんもデュエルでアテムくんに全部をさらけ出しちゃったもんね♪」
「っ! ことりっ!」
何やらまた茶番が始まりそうだったので、真姫はさっさと終わらせてやろうと思い、カバンの中からデッキとデュエルディスクを取り出した。
「へぇ、随分と手入れされているんだな」
「そういう貴方のディスクは所々塗装が剥がれているじゃない。そんなディスクで大丈夫なの?」
「大丈夫だ、大した問題じゃないさ。これは穂乃果のオヤジの手作りでね。あの人のデュエルに賭ける情熱が注ぎ込まれているのさ
このディスクとかしこいかっこいいアテムのデュエルタクティクスでお前に勝利してみせるぜ!」
互いに軽口を叩きながら、デッキをデュエルディスクに差し込み、オートシャッフルを行う。
そして、左手を水平に保って初期手札5枚を引き、見つめ合うことで準備は完了する。
「でもアテムくん、昨日私にボコボコにされて吹き飛んで――」
「黙れ! これ以上の追い打ちは俺の
そんなことよりデュエル開始の宣言をしろ、園田!!」
「わ、私ですか!? ……デュ、デュエル開始ィ!」
『デュエル!』
アテム:LP4000
真姫 :LP4000
●次回予告という名のネタバレ
真姫が操るモンスターの圧倒的パワーの前に、アテムのカードは次々と破壊されていく。何が片手間よ、滅茶苦茶強いじゃない!
アテムは言う。真姫は何かをごまかしていると。彼女は一体何を隠しているの? アテム、このデュエルで聞き出してあげて、真姫の本当の気持ちを!
次回、『音女が奏でる
デュエルスタンバイ!
初手セブンスワン とは
デュエル開始時の5枚の中に、《RUM-七皇の剣》がある状態のこと。
このカードは通常のドローフェイズにドローしなければ効果を発動できないため、初手に持っていると基本的にそのデュエル中使用不可となる。
要するに、かなりイケてない状態である。
ブックス!のコストにしてしまおう!
後半は、少し手直ししてから投稿します。しばしお待ちを。