首元に注射器を打ち込まれた時、何かが神経へと絡みつく感覚と共に棘だらけ虫が体内を暴れまわっているような激しい痛みに襲われた。
でもそれとは別に、私は安心感を抱いていた。1人きりじゃない、誰かがそばで寄り添ってくれている……まるで両親に守られているような…誰かと一緒にいる……そんな安心感を……………そう思うと次第に呼吸も安定し、激しい痛みも和らいでいった。
息を整えゆっくりと歩み寄るミヤコに、海莉は冷や汗をかきつつ徐々に後退しながら先ほどのミナトの様子を思い出していた。
(あのうねうねしたのが何か分からねーけど今の副会長はヤバイ‼︎でもそんな副会長よりもさっきの津芽の方がヤバかった……何だったんだあれは……話しかけることすら出来ない、近づくことすらもかなわない…)
そんなことを考えているとミナトがゆっくりと横を通り過ぎ、あろうことか異形と化したミヤコに向かって歩き始めた。
「ま、待てよ津芽‼︎」
海莉は恐怖しながらも今のミヤコと戦うことを危険と判断し、彼女に向かっていくミナトを呼び止めた。
「大丈夫、平気だから」
海莉の呼びかけにミナトは振り返り、いつもの笑顔を見せ淡々と答えた。だがその笑顔とは裏腹に、幾多の喧嘩をこなしてきた海莉はミナトが放つ殺気に気づいた。
「……………」
そんなミナトに海莉は何も言うことが出来ず、ミナトはそのままゆっくりとミヤコの元へと歩み始めた。
「ミナト君待ちなさい‼︎」
そんなミナトを後方から呼び止めたのは殺せんせーだった。
「今のミヤコさんと戦うなど無謀すぎます‼︎ここは先生に任せて君はリングの外に出てください」
「勘違いしてますよ殺せんせー、俺の敵はミヤコじゃ無いです。それにその傷じゃ殺せんせーでもあいつを倒すのは難しいはずです」
ミナトは再生しきってない殺せんせーの触手を目に冷静に状況分析をした。殺せんせーもミナトの言う通り、今の自分では彼女と戦うことは厳しいと分かっていた。
(確かに先ほどの戦いで予想以上のダメージを受けてしまった……それでも‼︎私はこの手で生徒達を守ると約束した‼︎)
「ミナト君‼︎あなたの事を心配している生徒達の気持ちを考えなさい‼︎」
ミナトは殺せんせーの声に歩く足を止めると、リングの外から不安な表情でこちらを見る生徒達に目をやった。
その中の1人、最愛の人である速水と目が合うとミナトはいつもと変わらない笑顔を見せた。
「ちゃんと帰ってくるよ♪それにミヤコを殺すことなんてしない……大切な人を、大切な家族を失うのはもう嫌なんだ……」
ミナトは寂しげな表情でそう言うと、ミヤコの目の前を通り過ぎほんのりと笑みを浮かべるジウを睨みつけた。
「なら誰を殺すんだい?」
ミナトの答えを完全に把握しているのか、ジウはにんまりと笑みを浮かんだ。
「俺が殺したいのはお前だけだジウ…………俺の妹に触手を打ち込んだお前だけは……絶対許さない」
ミナトが放つ殺気にその場にいる全員が恐怖する。そんなミナトを見ながらジウは満足気に言った。
「ミヤコ…彼の相手は僕がする……君は手を出さずおとなしく待機してろ」
ミヤコもまたジウが放つ殺気に反論することも出来ず、大人しく従うことしか出来なかった。
「さて、君の殺意に答えて戦ってあげるけど…何かルールはあるかい?」
ジウはミナトに問いかけながら赤ローブを脱ぎ捨てる。露わになったその体格を見るにとても戦闘向きの人間とは思えなかった。
(こいつは研究者、シロと同じように戦いは他者に任せて自分は遠くからフォローする……クソムカつくタイプだけど、親父の部下なら俺が虚刀流を使うことも知ってるんじゃ…………それにさっきのミヤコとの戦いも見てたわけだし、見た目のわりに戦闘向きなのか?)
「激怒してるように見えたけど、意外と冷静に考えてるんだね」
その声にミナトが我に返るとすぐ目の前までジウが迫っていた。考え込んでいたためジウの動きに気づかなかったミナトは距離をとろうと慌てて後ろに飛びのいた。
「なかなか良い反射神経だね♪ところでルールはどうするの?」
ミナトは自分が子ども扱いされていることに苛立ちを覚えると、ジウの顔面めがけ飛び蹴りを放ちニヤリと笑みを浮かべ答えた。
「相手を倒した方の勝ち…それでいいだろ?」
「ミナトの奴いきなり飛び蹴りぶちかましたぞ⁉︎」
リング内の光景に生徒達が驚愕する中、真っ先に声をあげたのは岡島だった。
「やるね〜ミナトwこりゃ1発で勝負ついちゃうんじゃない?」
「そのまま倒しちまえミナト‼︎」
カルマや前原がそう言うと、生徒達はミナトの勝利を確信した。未知数の相手とはいえ戦闘向きではない体格、それに対しミナトは虚刀流の使い手でもあり喧嘩慣れしている人物。生徒達の表情は明るくなっていった。
だが………
「まだだ…まだ終わっていない…」
冷や汗をかく真琴の呟きに、生徒達は半信半疑になりながらもリング内に目を凝らす。そして目の前の光景に再び驚愕するのであった。
ミナトが放った飛び蹴りは確実にジウの顔面を捉えていた。ルール説明もしていない明らかな奇襲、そんな攻撃避けることなど出来ないとミナトは信じきっていた。
「まったく…攻撃するなら先にルールを説明してほしいね」
だがジウは難なくミナトの飛び蹴りを片手で防ぎ、ため息をつき悪態を口にしていた。
「くそったれ‼︎」
ミナトはもう片方の足でジウの体を蹴りつけその反動で再び距離をとろうとするが、その前にジウの足がミナトの鳩尾を捉えていた。
「がはっ‼︎」
ミナトの体は蹴られた衝撃で思いっきり地面に叩きつけられる。そんなミナトをジウは足で踏みつけながら、退屈そうに見下しながら言った。
「ルールは君が言った通りでいい……相手を倒した方の勝ち…実にシンプルで分かりやすいルールだ。でもね……」
ジウはそう言うとミナトを踏みつける足を強めた。
「あっ……がぁ…………」
「時間を決めよう。5分、君と遊ぶのは5分だけだ」
「あそ…ぶ……だ………と…?」
「そうこれはお遊びだ。君の力にほんの少し興味を持った僕がその力を確かめるための遊び、ただそれだけだよ?」
「ふざけやがって………」
ミナトは怒りを露わにしジウの片足を掴むと、ゆっくりと持ち上げようとした。
「驚いたねぇ、結構痛めつけたはずだがまだこれほどの力が残っているとはw」
「……舐めんじゃねぇぞ‼︎」
怒りを爆発させたミナトはジウの片足を持ち上げると、一瞬の隙をつきその場から脱出した。
「なかなかいい動きだけど…それが君の全力かい?」
「うるせーよ…絶対に殺す‼︎」
ミナトは勢いよくジウめがけ走り出し殴りかかるが、片手で受け止められそのまま腹部に蹴りを放たれた。
「威勢だけはいいんだけどねぇ…」
退屈そうに言うとジウはミナトの頭を掴みほんの少し持ち上げる。そしてダメージを受けぐったりとしているミナトの腹部に、ミヤコや海莉以上の蹴りの連撃をぶちかました。
「君はどうしたら自分が本当の力を発揮できるのか分かっていないのかい?」
ジウの問いにミナトは答えることが出来ず、そんな彼の姿を目にジウはがっかりだよと言い残しゴミのように投げ捨てた。
目の前の異様な光景に生徒達は誰1人口を開くことは無く、中には目を背ける者もいた。誰もがミナトの勝利を信じていた、だがそんな望みは無残に崩れ落ちリングの中で倒れているのはミナトの方だった。
殺せんせーや海莉もまた生徒達と同じようにその場から動けずにいた。烏間やイリーナが驚愕する中、真琴は先ほど同様にわなわなと震えていた。
(2学期から彼の観察をしてきた……元の身体能力と合わせ虚刀流を会得した彼に敵うものなどそう多くはいないと思っていたが、予想以上だ……見誤っていた彼の実力を……彼の恐ろしさを………)
「か、烏間止めなくていいの⁉︎このままじゃ津芽が殺されちゃうかもしれないわよ‼︎」
イリーナはミナトの身を心配し、烏間に止めに入るよう頼み込む。烏間もイリーナの言葉によって我に返り、リング内に足を踏み入れようとした。だが白線の内側に入ろうとした時、地面に向かってナイフが投げられ烏間は進む足を止めざるをえなかった。
「彼を殺しはしないよ♪………だからそこでおとなしく見てろ」
その言葉と共に放たれる殺気は烏間が今まで感じたことのないものだった。
「烏間……今は彼の言うことに従うしかない………私達が束になっても敵う相手ではない事を君もわかっているはずだ」
真琴の言葉に烏間は何も出来ない自分に腹が立ち、拳を強く握りしめていた。
倒れたミナトを前に、ジウは腕時計で残り時間を確認していた。
「後1分といったところか……もう少し楽しませてくれると思ったけど、僕の思い過ごしだったみたいだね」
ジウはそのまま動かないミナトに歩み寄り問いかけた。
「人間はどうしたら強くなると思う?僕はこう思うんだ………怒り、憎しみ、そういった負の感情が爆発した時、人は自分の予想をはるかに超えた力を出し切れるようになり強くなると…」
そう言うとジウは1本のナイフを取り出した。
「君にはその才能がある。僕はそう思っているんだよ♪だから試してみようと思うんだ…………君の大切な人が死ねば君はいったいどれ程強くなるのかね‼︎」
ジウはそう言うとリングの外にいる生徒に向けナイフを投げた。
ターゲットとなったのは、速水凛香だった………
都「私触手を生やされたまま放置ですか?」
ジウ「いやー今回は僕がおいしいところ持っていっちゃってごめんね〜♪」
今回はミヤコよりも、ミナトとジウの戦いに焦点を当て書かせてもらいました。ミヤコちゃんのファンの皆さま申し訳ありません…
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