真っ暗な教員室の中、パソコンの光が机にうつ伏せになる女性の顔を照らしていた。夜も遅いので部屋の中は静寂につつまれ、彼女寝息だけが聞こえていた。
(せんせー遊ぼー)
初めは子どもが嫌いだった。ワガママだしすぐに泣くし、言う事は聞かないしすごくベタベタしてくるし……毎日が苦労の連続だった。
(俺これ嫌いだから食べたくない!)
(えー!もっと遊びたい‼︎)
なるんじゃなかった……辞めたい。毎日そう思っていた。
(俺がこれ残すとせんせー悲しそうな顔するから頑張って食べるよ!)
(せんせーまた明日遊んでね?)
時間が経つにつれ彼等に変化があり、そして私にも変化が現れた。
(せんせー)
(せんせー!)
(((まことせんせー‼︎)))
ああ、そうか……ちゃんと見てあげればこの子達も答えてくれるのか。あんなに嫌いだったのに、今はとても愛おしく思う。
だから……いつものように………私の名前を呼んでくれ‼︎
(あんたせんせーか?悪いな、子どもを殺すのが楽しくて楽しくてよ。大人は標的にならねーんだわ)
涙を流し立ち尽くす私の横を、男は血で真っ赤になったナイフを手にしながら何事もなかったかのように通り過ぎた。
私はゆっくりと子ども達に歩み寄る。明日も子ども達の笑顔が見れる。楽しい給食の時間がやってくる。お遊戯の時間、お昼寝の時間、またねの時間が来て、おはようの時間………………
「みんな……せんせーと遊ぼう?」
返事は無い
みんな殺されたから
ハッと目を覚ます。作業をしている途中で寝てしまったのだろう。
「なんで今更あの夢を………」
ふと窓の外に目を移すと、外灯とは違う小さな明かりが目に入った。
「やっぱりか……」
予感が的中したとため息をつき先ほどの悪夢も忘れ、真琴は気づかれないように気をつけつつなるべく早く外に向かう事にした。
渚はふと目を覚ます。しかしそこは自分の家ではなく、E組の目の前だった。
(なんでこんなところに⁉︎確か母さんがやけに機嫌が良くて出してくれたご飯を食べたら急に眠くなって……)
「起きたのね渚」
「な……何をしてるの母さん?」
広海の手には火がついた松明が握られていた。
「……こんな場所に堕ちてからアンタは血迷い始めた。私に逆らい始めた。アンタの中で膨らんだ膿を消毒するの………燃やしなさいこの校舎を、アンタ自身で」
「そ、そんな‼︎何言ってんだよ母さん‼︎」
「言う通りにしなさい‼︎誰が育ててやったと思ってんの‼︎どんだけアンタに手間とお金使ったかわかってんの⁉︎その苦労も知らないで、あの女とハゲのバカ教師に洗脳されて逆らう事ばっか身につけて‼︎アンタっていう人間はね、私が全部造り上げてあげたのよ‼︎」
(……違う‼︎でも正しい……なんて言えばいいんだろうこの気持ち)
悩んだ渚は殺せんせーの言葉を思い出し、意を決して広海に言おうと口を開いた。
「…母さん」
ヒュン‼︎
その音と共に広海が持っていた松明の先端が何者かにより切り落とされた。
「キーキーうるせぇよクソババァ。ドラマの時間が来ちゃうじゃねぇか」
「だ、誰よアンタ邪魔しな……キャッ」
鞭を振るう男、男が放つ殺気、渚はこの男が殺せんせーを殺しに来た殺し屋だと瞬時に理解した。
「ったく、邪魔なのはテメーらだ。今期の水曜10時のドラマ…奴は砲台と一緒に教室で女同士のドロドロした感情を勉強するために必ず見る。銃じゃ無理だが、俺の武器なら一瞬で脳天ブチ抜いて殺せるぜ」
「殺すって…え⁉︎何なの、何なのアンタ⁉︎け、警察に……」
「うるせーな……ガキを殺しちゃ賞金がパアだが、ババアの方はブッ殺しても構わねえよな」
殺し屋はそう言うと鞭を振るい広海が手にしていた携帯を弾き落とした。そして次に広海を狙い鞭を振るった。
「母さん‼︎」
渚がそう言って広海を助けるために駆け出すよりも早く、真琴が彼女の前に立ち鞭を掴んで止めた。
「な⁉︎俺の鞭が止められただと⁉︎」
「アンタは……あの時の……」
真琴は広海の無事を確認すると、笑みを浮かべて言った。
「たまにこの辺は悪ふざけをする若者が遊び場にしています。夜間は近づかない事をオススメしますよ」
「邪魔すんじゃねぇ‼︎」
そう言って殺し屋が鞭を振り上げると共に真琴も飛び上がり殺し屋に飛び膝蹴りをぶちかました。
「生徒を殺してはいけない……なら親ならいいだろうというバカな考えは捨てろ」
倒れる殺し屋に真琴は冷たく言い放つと渚達の元へ戻ってきた。
「渚君のお母さん、確かにあなたは苦労して彼を育てた。でも分かってあげてください彼にも彼の人生がある事を。そして聞いてあげて下さい彼の言葉を」
「……母さん、僕は今このクラスで全力で挑戦しています。卒業までに結果を出して、成功したら髪を切ります。育ててくれたお金も全部返します。それでも許してもらえないのなら」
広海はハッキリと自分の意思を述べる渚に目を奪われながらも、後ろから近づく鞭の男に気づいた。
「渚‼︎」
「……母さんからも卒業します」
渚はそう言うとくるりと振り返り、殺し屋の目の前でクラップスタナーを放った。気を失い倒れる殺し屋を目に渚は思った。
(産んで育ててくれただけですっごい感謝してる。贅沢かもしれないけど、ただ我が子が生まれてそこそこ無事に育っただけで喜んでくれたら全てが丸く収まるのに)
「な…何なのこいつ……何したのよ渚‼︎」
「E組で教えている護身術の一種です。渚君は授業を真剣に聞いているので一番の成績ですよ」
そう言っていつの間にか鎮火作業をしていた殺せんせーは殺し屋を鞭で縛り、顔にバツ印を浮かべて言った。
「渚君、まだまだ麻痺が浅いですね〜。その技まだ完璧とは言えませんよ」
「う……これからも頑張ります」
「それに泉先生」
「どうした?」
「渚君のお母さんを守るためとはいえ、飛び膝蹴りをぶちかますのはやりすぎです」
「す…すまない……」
やたらと顔がでかい先生に息子と女教師が怒られている不思議な光景を目に、放心状態となっていた広海は殺せんせーに呼ばれ我に返った。
「さてお母さん、確かに渚君はまだまだ未熟です。だけど温かく見守ってあげて下さい。決してあなたを裏切ってるわけじゃない、誰もが通る巣立ちの準備を始めただけです」
(離れていく……私から……渚…が…)
その言葉と共に広海の緊張が解けていき意識を失った。
「母さん‼︎」
「どうやら気を失ってしまったみたいですね。先生がお母さんの車で送りましょう。泉先生はその殺し屋を」
「ああ、彼はこちらで対処しておく」
広海の車でE組を後にする渚と殺せんせーを見送ったあと真琴は教室に戻り、自分のパソコンを操作しながら考え込んでいた。
(生徒達の成長する姿はいつ見ても良いものだな)
そして真琴はパソコンの画面に表示された、幼稚園教諭だった頃の写真に目を通した。
(今日ハッキリと分かった。私に殺し屋は向いていない……私は先生をやっている自分が好きだ)
三日月が浮かぶ夜空を見上げる。
かつての生徒達の事を思い出し、真琴は優しい笑顔を浮かべていた。
殺「にゅやっ‼︎先生の出番少なくないですか?」
泉「申し訳ないと思っているが、自分が多く登場するのも嬉しいものだな」
殺「にゅやー‼︎もっと私の出番を増やして‼︎」
まぁ、それはおいおいということで…………そう言えば主人公、今回登場してない…
湊「おいコラ‼︎」