ソードアート・オンライン 黄昏の剣士   作:京勇樹

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奮闘する者達

VR世界に入った全員の視界に見えたのは、嘗て存在し住んでいた鋼鉄浮遊城だった

 

「まさか……二年越しに来ることになるとはな……」

 

と言ったのは、エギルだった

その声音には、様々な感情が入り交じっていた

そして、段々と近づく紅い宮殿を見て

 

「あれが、第百層……」

 

「紅玉宮……」

 

と誰かが、呟いた

そうして中に入ると、その巨大な存在が見えた

高さ約10mに届きそうな、巨人が

それを全員が認識した直後、その巨人が大剣をエギルに突き出した

 

「エギル!!」

 

「エギルさん!」

 

キリトとヨシアキが呼ぶと、大剣を斧で受け止めていたエギルが

 

「こいつが、SAO本来のラスボスか!?」

 

と言った

その間に、他のメンバーは着地

そして、すぐに武器を抜いて

 

「時間が無い!」

 

「一気に行くぞ!!」

 

という二人の言葉で、一気に駆け出した

だがそれに、ボスは即応

もう一本の武器たる槍を、大きく振るった

それを見たヨシアキは

 

「今のは、剣聖流か!!」

 

と即座に看破

そのボスは、ヨシアキが使うユニークスキルたる剣聖流を使っていたのだ

 

「全員、細かく動き回って!」

 

「直線は走るな!!」

 

二人の指示に従い、メンバーはジグザグに走ったり、メンバー同士で交差するように動いた

その甲斐あり、ボスの動きに僅かな隙が出来た

その隙を突いて、エギルが接近

ボスが突き出した槍を、斧を使って反らして

 

「スイッチ!!」

 

と叫んだ

その直後に、ヨシアキとキリトが切り込んだ

二人は、ボスが展開していたバリアーに剣を叩き込み

 

『スイッチ!!』

 

と同時に、叫んだ

すると、リズベットとシリカがそのバリアーを割った

そこでようやく、ボスのHPが大きく減った

それを見た一同は、思わずガッツポーズをした

だが、それは直ぐに覆された

何故ならば、ボスが特殊スキルを発動したのだ

ボスより高い木が生えて、ボスに滴を落とした

その瞬間、ボスのHPが全快したのだ

流石にバリアーは復活しなかったようだが、それでもHPの全快は厄介だった

 

「そんな……」

 

「こんなの……反則気味……」

 

「勝てっこないわよ……」

 

とメンバーが口々に言うと、ボスの猛攻が始まった

一人後衛から支援していたシノンに、ボスはなんと光線を発射

直撃は避けたが、シノンは瓦礫に埋もれた

 

「シノン!!」

 

それに、ヨシアキの意識が反れた

その直後、ヨシアキにボスは大剣を振るった

その一撃を、ヨシアキは防御した

だがヨシアキは、まるでボールのように吹き飛ばされた

 

「つっ! この!」

 

その隙を突いて、キリトは剣を振りかぶった

だが、そのキリトはボスに蹴り飛ばされた

 

「私が!!」

 

その光景に、シリカがボスに駆け出した

だが、ボスが足を踏み鳴らすと、シリカが居た床と天井が動き、シリカは挟まれた

 

「野郎!!」

 

「つあっ!!」

 

それを見たサジ達は、半包囲する陣形で斬りかかった

だが同時に、ボスの額部分の宝石が光った

その瞬間、地面から凄まじい勢いで木の根が出てきて、サジ達に絡み付いた

場所は変わって、少し時は遡る

現実世界のライブ会場

そこは、阿鼻叫喚の地獄と化していた

次々と現れるボスに、プレイヤー達は徐々に追い込まれてきていた

その中で、明日奈と琴音は頭を抱えて震えていた

恐怖に、負けていた

その時、一人でザ・フェイタル・サイスの攻撃を防いでいたユナが

 

「明日奈さん、琴音さん、ごめんなさい! こんなことに巻き込んで!」

 

と謝罪してきた

それを聞いた二人は、視線をユナに向けた

すると、ユナが

 

「でも、あの数値が規定値に届く前に、旧SAOの第百層のボスを倒さないと、この会場の人達が全員死ぬことになる……!」

 

と焦っていた

それを聞いた二人は

 

「そ、そんな……」

 

と呟いて、それぞれ思い人に視線を向けた

そして、オーグマーに手を伸ばした

だが、途中で手が止まり

 

(これを外せば、キリト君は助かる……けど……!)

 

(その代わりに、会場に居る他の人達全員が死ぬことに……!)

 

と二人は、葛藤に苛まれた

そこに

 

『ダメです!』

 

とユイの声が、聞こえた

そして、二人で視界にユイが現れて

 

『今パパとお兄さんは、この会場の人達と……何よりも、ママとフィリアさんを助けようと必死に頑張っています! その思いと行為を、無駄にしちゃダメです!』

 

と告げた

その直後、二人の脳裏にある光景が走った

それは、失われていたかの世界での記憶の一部

見えたのは、ほんの僅かだった

だがそれが、二人に死の恐怖と戦う勇気を与えた

そして、重要なことを思い出させた

 

「ユナさん!」

 

「貴女が死んだのは、モンスターと戦おうとしたからよ!」

 

それは、ユナの死因

ユナが死んだのは、今から約二年と少し前

旧アインクラッドの攻略が、70層に到達した辺りのことだった

その頃ユナは、魔法要素が極力排除されていたSAOで、唯一の広範囲支援スキル

旋律を使えるプレイヤーだった

出現条件は不明だったが、その旋律はかなり広い範囲のプレイヤー達に様々なバフを与えることが出きるスキルだった

死んだユナは、それを使えるプレイヤーとして一時期名を知られていた程だ

そのユナが死んだのは、ある中層の主街区ではないが、広く城壁がある街で起きたイベントが原因だった

条件不明のイベント

通称、攻城戦

これは、城壁がある主街区以外で起きるイベントで、大量のモンスターが、その街に進攻してくるのだ

もしモンスターに街を占拠されたら、その街はダンジョンになり、ダンジョンボスを倒すまで使えなくなってしまう

それを良しとしなかった駐留プレイヤー達は、防衛戦を開始した

だが、プレイヤーに対してモンスターが多く、劣勢を強いられた

そしてその街に、ユナも居た

ユナはその劣勢を少しでも覆そうと、旋律で防衛に参加していたプレイヤー達の支援をしていた

だがそれでも、時間が足らなかった

その街に居たエイジ(当時ノーチラス)は、街に居たプレイヤー達だけでは防衛は難しいと判断し、血盟騎士団を通じて、攻略組に応援を要請していた

理由は様々だが、攻略組の到着には時間が掛かる

それまで、プレイヤー達が持つかは賭けだった

そんな中、ユナは自分が

正確には、旋律が異様にモンスターのヘイトを集めることに気が付いたのだ

だからユナは、覚悟を決めた

旋律を使いながら、城壁外へと出て、モンスターを誘引すると

それに気が付いたエイジは、ユナを引き留めた

死んでしまうと

だがユナは、それでも外に出て旋律を発動

モンスターを誘引しながら、少しずつ離れていった

その命が、尽きるまで

エイジは助けたかったが、死の恐怖で体がすくんで動けなかった

ユナという犠牲を出しながらも、攻城戦は攻略組の到着により成功

その後、旋律はモンスターを誘引するという情報が広められ、使う者は現れなくなった

そしてエイジは、ユナを守れなかったことをずっと後悔し続けた

そうしてSAOがクリアされた後、ユナの父親であり、オーグマーの開発責任者たる重村保教授と出会い、この計画を立案し、実行に移したのだ

旧SAOプレイヤー達からユナに関する記憶を奪い、ユナを甦らせるために

ユナの死因を教えた後、明日奈と琴音は顔を見合わせて

 

「行こう、琴音ちゃん! 皆の所に!」

 

「うん! 行こう!!」

 

と言って、着席

目を閉じて

 

「リンク・スタート!!」

 

仲間達と、愛しい人達が奮闘する紅き宮殿に向かった


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