「終わった……んだよな?」
と声を漏らしたのは、サジだった
その声に、キリトとヨシアキが
「ああ……」
「その筈だよ……」
と呟くように答えた
そこに
『いや、まだ終わっていない』
と声が聞こえた
「今の声は……」
「ヒースクリフ……?」
と二人が頭上を見上げると、二本の大剣がゆっくりと降りてきていた
その二本の大剣は、ヨシアキとキリトの前で止まった
すると、再び
『君たちには、まだやることがあるだろう?』
と声が聞こえた
その頃、現実
「つっ……もう、持たない!?」
ザ・フェイタルサイスの攻撃を防ぎ続けていたユナだったが、持っていた楯の耐久値が限界だった
その直後、ユナが持っていた楯が砕け散った
「きゃあ!?」
楯が砕け散った衝撃で、ユナは吹き飛ばされて倒れた
顔を上げると、こちらに迫ってザ・フェイタルサイスが鎌を振り上げていた
「もう、ダメ……!」
ユナはそう言いながら、顔を逸らした
だが、中々斬られない
それを不思議に思い、ユナはゆっくりと視線を戻した
するとザ・フェイタルサイスが、上体を震わせながら消滅した
「え……?」
とユナが呆然としていると、ユナの前に二つの背中が見えた
黒とオレンジ色の背中
キリトとヨシアキである
二人はユナの前に着地すると、まず一度ユナを見て、微笑みを浮かべた
そして二人は、それぞれ手に持っていた大剣を無造作に振った
その直後、他のプレイヤー達に迫っていたボスモンスター達が一気に消えた
しかし、すぐに代わりと言わんばかりに新しいボスモンスター達が現れた
それを一瞥すると、二人はまた大剣を振った
そうしたら、また数体のボスモンスターが消えた
そこまで見たユナは、背後に視線を向けた
その先では、キリトとヨシアキの体がダイブした状態のままだった
その時、驚くべき事が起きた
ユナの頭上にランク3という表示が出たのだ
それは、ユナもプレイヤーとして登録されていたという証拠
実はこのオーディナル・スケールだが、茅場がSAOのシステムを開発する前に作って廃案にしたシステムを、重村教授が独自に改修して完成させたゲームなのである
そしてこのゲームでは、ランク1のプレイヤーには不死属性が与えられるようになっていたのだ
重村教授はそのシステムにより、自身の娘たる悠那を甦らせるつもりだったのだ
しかし、その根幹システムに使われていたSAO第100層のボスは敗北した
姿を現した二人は、無造作に剣を振り続けた
そうして数十秒後、現れていたボスは全て消滅
スクリーンに表示されていた数値も、下がり始めた
それを、スタジアム
ではなく、旧アーガス社のサーバールームから見ていた重村教授は
「なぜだ……」
と言葉を漏らした
そして、膝を突いて
「何故なんだ、悠那……!」
と涙を流した
その時
『ありがとう、お父さん』
と声が聞こえた
驚いた重村教授が視線を向けると、その先には半透明の娘
悠那の姿があった
その姿を見た重村教授は、思わず一歩踏み出した
すると、悠那が
『お守り、大事に着けててくれて……ありがとう』
と言って、姿を消した
それと同時に、重村教授の左手手首に着けられていたお守り
ミサンガが、外れて落ちた
それは、悠那がSAOに囚われる前に作って、父たる重村教授に送った物だった
それを重村教授は、娘の思い出の品として大事に残していたのだ
それを聞いた重村教授は、両膝を突いて涙を流した
そこに、数人の黒服を連れた菊岡が到着
重村教授を指差して
「捕縛し、連行しろ」
と命令した
それを聞いた黒服達は、重村教授に歩み寄って捕縛したのだった
そして場所は戻り、スタジアム
「ありがとう、黒の剣士、黄昏の剣士……それに、皆も……おかげで、お父さんを殺人者にしないで済んだよ」
とユナは、微笑みながら言った
その直後、ユナの姿が薄く消え始めた
それを見た全員が驚いていると、ユナは
「私は、第100層ボスのAIを間借りしてたんだ……お父さんの計画が成功してたら、完全に自立してたんだろうけどね……」
と言った
つまり、第100層ボスを倒させるという行為は、自身の消滅をさせたということに繋がる
それを気にして、明久と和人達は何も言えなかった
すると、ユナは
「気にしないで……私は、既に一度死んでる……それなのに、夢だった大勢の観客の前で歌えたんだから……悔いは無いよ」
と言った
そして、ある方向を見た
その先には、弱々しく階段を登ってきたエイジの姿があった
それを視認したユナは
「約束を覚えていてくれて、ありがとう……」
と言った
それはどうやら、エイジに聞こえたらしい
エイジは、涙を流して座り込んだ
そうしてユナは、琴音と明日奈に歩みより
「二人から奪った記憶……返しますね……」
と言って、オーグマーに光の球を吸い込ませた
その直後、明日奈と琴音に軽い電気が走った
すると二人は、今まで忘れていた記憶
SAOの記憶を思い出した
それを確認したユナは、笑みを浮かべて最後に
「どうか、私の事を忘れないでね……」
と言って、姿を消した
こうして、SAO帰還者を巻き込んだ事件は幕を下ろした
この翌日、オーグマーの開発責任者にしてオーディナル・スケールの責任者だった重村教授は、大学と責任者の立場から辞任
その姿を消したのだった
そして数日後、改定されたSAO事件全録の巻末には、ある一文が加筆されていた
それは
《ここに名を記した者達以外に、名を記されなかった多くのプレイヤー達が居て、そのプレイヤー達によって多くの攻略組プレイヤー達が支えられたことを、忘れてはならない》
だった
それから、更に数日後
「どういうつもりだい、菊岡君……私がしたことを罪に問わないでくれるのは、ありがたいが……何をさせるつもりだ?」
ある施設の廊下を、菊岡と重村元教授が歩いていた
すると、菊岡は
「教授の手掛けたAI技術……とても興味深い物でした……通常の物とは違う設計思想……とても素晴らしい物でした」
と賞賛しながら、突き当たりのドアのコンソールの操作を始めた
「ひいてはその技術……我々と供に、是非活かしてほしい」
菊岡がそう言った直後、ドアが開いた
それにより、重村元教授は眩しさを感じて、反射的に腕を掲げた
そして慣れたらしく、腕を下ろしながら中に入った
すると、中で見た物に驚いた重村元教授は、驚きで目を見開きながら
「き、菊岡君! これは一体!?」
と菊岡に問い掛けた
すると菊岡は、ニヤリと笑みを浮かべて
「ようこそ……ラースへ」
と言いながら、重村元教授に手を差し伸べたのだった