「この鎗は……」
その鎗を見たヨシアキは、短く呟いた。
その見た目から、かなりの武器だと分かった。
持つと、ズシリと重い。
それが気になったヨシアキは、その鎗の天窓を開いた。
鎗に銘は無い、どうやら無銘の鎗のようだ。しかし、優先度が35と表示されていた
この世界で過ごす内に、ヨシアキはその優先度というのが装備可能なレベルを示していることに気付いた。
そして、今のヨシアキの優先度は、36。
辛うじて、装備可能なレベルだった。
「この鎗は、どうしたの?」
とヨシアキが問い掛けると、リヒトが
「北の高い山の麓の洞窟……その奥のある場所から、少しずつ移動させてきたのさ……」
と返答した。
それを聞きながらヨシアキは、鎗を構えた。
脇に挟むように持ち、一旦祠から出た。
その後、調子を確認するために色々と振り回した。
それを、リヒトとライカの二人は黙って見ていた。ヨシアキの動きに淀みは一切なく、まるで踊っているかのようだった。
「凄い……」
そう呟いたのは、どちらだったか。
だが二人して、ヨシアキの動きに魅いられていた。
そして、ヨシアキが鎗の穂先を地面に向ける形で動きを止めた時だった。
「グルルルルル……」
と一頭の熊が、ヨシアキ達の前に現れた。
しかも、今まで村に来て追い返された熊より巨大で、気性も荒らそうだ。
「大きい……っ」
「こいつ、まさか……」
ライカはその大きさに驚き、リヒトはある一点を見ていた。
その熊の右目だが、大きく傷がある。
「こいつ、多分だけどここらの群れの主だ……」
「まあ、確かに巨大だけど……主?」
その熊から視線を外さずに、ヨシアキはリヒトに問い掛けた。するとリヒトは、その熊の右目を指さし
「聞いたことがあるんだ……あの右目の傷……あれは確か、僕が産まれた頃に与えた傷だって……それで、村の衛士が一人死んだって……」
と言った。
つまりその衛士は、自身の命と引き換えに熊に傷を負わせて、撃退したということだろう。
ヨシアキは、その衛士の勇敢な行為を称賛し、そして、心中で黙祷した。
「さて、どう見てもお腹が空いてる雰囲気……」
ヨシアキがそう呟いている間にも、熊はゆっくりと三人の周りを回った。
もちろん、ヨシアキは常に熊と相対しており、リヒトとライカの二人を背にしている。
でなければ、熊は一気にリヒトとライカに襲い掛かっていただろう。
回っているのは、ヨシアキの隙を探しているのかもしれない。
しかしヨシアキは、最小限の足さばきで常に熊の正面に居るようにした。
ふとその時、熊が後ろ足で立ち上がって
「ガアァァァァァ!!」
と吠えた。
立ち上がった熊の大きさは、優に2mに達するだろうか?
その迫力に、ライカは涙目になりリヒトの腕に抱きついている。
それを察したのか、熊は走り出した。
だが
「させないっ!」
とヨシアキが、鎗を突き出した。
しかし熊は、ヨシアキの一撃をその巨体からは想像してなかった身のこなしで回避し、ヨシアキに対して爪を振るった。
その一撃は、引き戻した鎗で何とか防いだが
(一撃が重いっ! 腕が痺れそうだ!)
咄嗟に後ろに跳んだが、あまりの衝撃に鎗を持っていた両腕が痺れそうになった。
だが何とか鎗を離さず、ヨシアキは熊を睨んだ。
熊もヨシアキを敵と認識したようで、ヨシアキを睨んで唸っている。
埒が明かないと思ったヨシアキは
「二人とも、合図したら伏せて」
と言って、ジリジリと熊に間合いを詰め始めた。
熊は前足を地面に突いて、少し前傾気味になっている。どうやら、警戒しているらしい。
しかし
「今!」
ヨシアキの方が、早かった。
ヨシアキの合図を受けて、リヒトとライカの二人は倒れるように伏せた。その直後、ヨシアキの持っていた鎗が青い光を伴いながら、一閃された。
SS、ワールウィンド
鎗や斧といった長柄の武器で使える、広範囲攻撃用のSSである。
熊も後退して回避しようとしたようだが、無理だった。
ヨシアキの一撃は、熊の両前足に命中。切り口から、血が溢れだし、熊は苦痛から叫び始めた。
その熊に対して、ヨシアキは鎗を突き付けて
「まだやる?」
とだけ問い掛けた。
熊は唸り声を漏らしながら、暫くヨシアキを睨んでいたが、ゆっくりと後退を開始。
藪の中に、姿を消したのだった。