ヨシアキとリヒトが央都セントリに来てから、一ヶ月が経ち、ヨシアキがこの世界に来てからもうすぐで一年。
その頃、現実では
「お待ちしていました! 神代博士!!」
一機のヘリコプターが、海上研究所たるオーシャンタートルに着艦した。
そして、一人の制服を着た自衛隊員がドアを開くと、中から神代凛子を筆頭に四人降りてきた。
自衛隊員に誘導されて、四人がヘリコプターからある程度離れると
「ところで、神代博士。そちらの方々は?」
とその自衛隊員が問い掛けた。
そして凛子は、後ろに居る三人を一瞥してから
「私の助手達よ。右から、マユミ・レイノルズ。キャシー・タカマチ、アイカ・ラングレーよ」
と自衛隊員に教えた。
その後、自衛隊員はその三人と握手してから、腰のスピードカウンターのような機械を掴み
「申し訳ありませんが、念のために本人確認を行います。サングラスや眼鏡を外してください」
と言った。
それを聞いた三人は、掛けていた眼鏡やサングラスを外した。
その後、三人の顔をスキャンし、自衛隊員は端末をジッと見て
「確認出来ました。これより、研究セクションにご案内致します」
と言って、四人の案内を始めた。
中に入ると、凛子が
「中々広いわね……」
と呟くように言った。
「は。日本の最新技術を結集して建造されており、簡易的な
「人工島計画……話には聞いてたけど、実用化したのね?」
「試験も兼ねて、ですが」
凛子の問い掛けに、自衛隊員はそう返答した。
人工島計画。それは、国土が狭いために人の住む地と食料生産地のバランス維持が難しい日本に於いて、それを解決するために考えられたのが、人工島計画だ。
「本研究所内部には、詳細は教えられませんが、食料の生産所もあります」
「ということは、ある程度は自立も可能な訳ね……電力は? 波浪発電だけじゃ、間に合わないと思うんだけど?」
「太陽光発電と風力発電。それと、最新技術の核融合炉です」
自衛隊員のその説明に、凛子は目を見開いた。
「核融合炉ですって!? 実用化したの!?」
「はっ……海上故に地震対策が必要なかったために、採用出来たと聞いています」
自衛隊員はそう言うと、ある隔壁の電子鍵を解錠して、四人を先に通らせた。
凛子は、ここまで通ってきた全隔壁のロックが厳重なことに気付いた。
やはり、最新技術の集まりだからか、技術漏洩を防ぐためだろうか。
そして、中に入ってからしばらく。
「この先に、お待ちです」
と言って、案内してきた自衛隊員は最後の電子鍵を解錠。四人を中に入れて
「菊岡二佐! 神代博士と助手三名をお連れしました!」
と敬礼した。
中に居たのは、着流しを着た菊岡だった。
「ようこそ、ラースへ……神代博士。ようやく、こちらの招集に応じていただけて何よりです」
菊岡はそう言いながら、凛子と握手した。
そう、凛子を呼んでいたのは菊岡だった。
そして菊岡の正体は、総務省の職員ではなく、自衛隊だったのだ。
「君も来たのか、神代君……」
「重村先生!」
そこに現れたのは、白衣を着た重村教授だった。
実は、凛子、須郷、茅場と後一人は重村教授の下で電子科学の研究をしていたのだ。
「さて、こちらへ」
菊岡はそう言って、更に奥に向かった。
そして凛子は、モニターに表示されていた映像を見て驚愕した。
「なに、これは……! まったく、新しい世界!?」
「この世界を僕達は、UW……アンダーワールドと呼んでいる……全く新しいAIを作るために作り出したVR世界さ……」
と菊岡が説明すると、モニター前にあった椅子がクルリと回り
「やっと、重村教室の二大天才の一人が来たみたいっすね」
「比嘉君……貴方も居たのね……」
そこに座っていたのは、茅場と凛子の後輩に当たる
「それで、全く新しいAIっていうのは?」
「……僕達はそれを、人工フラクライトと呼んでいる……」
「人工……フラクライト?」
凛子が首を傾げると、菊岡は
「簡単に言えば、人工の魂だ……既存の構想のAIでは、僕達が求めるAIは作れないと分かった……だから僕達は、人工の魂……人工フラクライトによるAI開発を開始した」
しかし、やはり最初は上手くいかなかった。
そのフラクライトを作るために、最初は大人の脳波を測定し、フラクライトを作り出した。
しかし、大人の脳波というのは自己が確立されており、確固たる自我があった。
そんな自分がフラクライト。つまりは、人工の存在で本物が居る。
そう知るやいなや、自壊を起こしてしまった。
そこで今度は、生後間もない赤ちゃんの脳波を測定し、フラクライトを作り出した。
すると今度は上手くいき、そこから人数を増やした結果、国が出来たという。
「そこに、和人君と明久君が居るんですね」
「なっ!?」
突如聞こえた聞き覚えのある声に、菊岡が驚いて振り替えると、凛子の後ろに居た助手達が
否、変装していた明日奈、琴音、詩乃の三人がウィッグやサングラスを外した。
それを見た菊岡は、驚いた様子で
「……学校のデータベースの写真を使って、確認した筈なんだけどね……」
と声を漏らした。
すると琴音と詩乃が
「忘れた? 明日奈ちゃんと和人の娘さんの特技を」
「彼女に手伝ってもらって、一時的に差し替えたのよ」
と教えた。
それを聞いた菊岡の脳裏に、ユイの姿が思い出された。
すると、比嘉が
「だから言ったじゃないっすか、菊さん……今、あの二人がここ一番のセキュリティのホールだって」
と肩を竦めた。
すると菊岡が
「だが、あの二人を助けるためには、この方法しかなかった」
と反論した。それは、和人と明久の二人が居るという証拠だ。
「二人は、何処に居るんですか」
明日奈がそう問い掛けると、サブモニターに映像が移った。
そこには、頭全体をまるでCTスキャンのような機械に覆われている二人の姿が映っていた。
「今二人は、STLでUWに入っている……損傷した脳組織の修復のためにね……」
と菊岡は、説明を始めた。
二人は致死量を越えて注入されたサクシニルコリンにより、心肺が停止。
そこで、一度は病院に搬送されたが、菊岡の采配により直ぐ様オーシャンタートルに移送された。
心肺停止してから三分以上経過すると、たとえ意識を取り戻しても脳組織に損傷を負っている場合が殆どで、場合によっては日常生活すら出来なくなってしまうのだ。
そして、菊岡の懸念は的中していて、STLをしながら行ったスキャンで、脳組織に損傷があることが判明。
その修復のために、STLを使うことを決めたのだ。
しかし、それでも治るかは賭けになる。
「治すにしても、何時まで時間が掛かるか分からない……だから、ここに直接移送したんだ……六本木のペーパーカンパニーの方の簡易版じゃあ、スペックが足りなかったからね……」
菊岡はそう語るが、三人は半ば聞き流していた。
二人がまだ生きていることに、安心していたのだから。