「本当に、凄いね……ここ」
「色々な設備があるね……」
「下手に触らないでくださいっすよ、セキュリティが発動しかねないっすから」
興味深そうに周囲を見ていた明日奈達だったが、比嘉に言われて不用意に触らないように心掛けた。
その時、曲がり角から一体のロボットが姿を現して、三人は驚きで固まった。
「あー、大丈夫っすよ。そいつは、イチエモンっすから」
「イチエモン?」
比嘉の言葉を聞いて、凛子は首を傾げた。
すると比嘉は
「はいっす。人工フラクライトをUWからこちらに呼んだ時の為の体の試作機っす。バランサーのデータ取りの為に四機製作して、データ取りが終わった後は警備に使ってるっす」
と説明した。確かに、肩には03という数字が書かれてある。
「……ネーミングしたの、比嘉君?」
「……聞かないでほしいっす」
凛子の憐れみ混じりの視線に、比嘉は耐えられないといった表情で目を反らした。
どうやら、ネーミングセンスは残念らしい。
「……そこも変わらないわね……」
「お願いですから、思い出さないでほしいっす……だから作っても、先輩達にネーミングを任せてたんすから……」
どうやら、学生時代かららしい。
昔を思い出したからか、凛子は懐かしそうな笑みを浮かべている。
「けど、あれが一番目ってことは、二番目もあるの?」
と琴音が問い掛けると、比嘉は
「あ、ニエモンっすね。あるっすよ」
と言って、端末を取り出した。
そうして見せられたのは、イチエモンよりもより人間的な見た目になったロボットだった。
イチエモンは、頭が四角く目も大きな光学レンズが取り付けられていただけだった。
しかしニエモンは、頭は人間のような楕円形になり、目も複眼式に変更。
肩もアーマー染みた形状から丸みを帯びている。
胴体はずんぐりとした見た目から細身のものになっていた。
「このニエモンは、ようやく試作機が一機完成したばかりで、テスト待ちっす」
比嘉の説明を聞きながら、凛子が
「もしかして、ネットに繋げることが出来るの? 頭にアンテナがあるけど」
と問い掛けた。
「その通りっす。万が一機体が損傷して動けなくなった時の為にネット接続されてて、緊急時に避難出来るっす」
「そこまでして、生み出した人工フラクライトを何に使うんですか?」
比嘉の説明を聞いて、明日奈がそう問い掛けた。
すると、菊岡が現れて
「無人兵器のためのAIさ」
と告げた。
「今自衛隊は、その装備の殆どをアメリカ軍と共通したのを使っている……けれど、それは非常にハイリスクなんだよ……なにせ、以前に戦闘機を導入した時なんかは、FCS関係が丸々抜かれていたことがあった……それだけでなく、何時アメリカ軍が敵になるか分からない……それらを受けて、自衛隊は極秘裏に新兵器の開発とそれに伴う無人兵器用のAIの開発を決定した……」
「つまり菊岡さんは、総務省の役人ではなく……」
詩乃がそこまで言うと、菊岡は敬礼しながら
「陸上自衛隊、菊岡誠二郎二等陸佐であります。プロジェクト・アリシゼーションの責任者だ」
と名乗った。
「陸上自衛隊……」
「和人君の推測が当たってたのね……」
実は和人は、以前から菊岡がただの総務省の役人ではないと推測しており、その推測は見事的中していたのだ。
「さて、君たちには部屋を用意したよ。後、この中に居る時はこれを持っていてくれ」
菊岡はそう言いながら、凛子達に一枚ずつカードとネームプレートを手渡した。
「神代博士のIDカードは、よほどの機密ブロック以外は出入り出来るが、明日奈君達のは共通ブロックにしか出入り出来ないから気をつけてくれ」
「わかりました」
本来は不法浸入に等しいことをした明日奈達は、捕らえられて牢屋や個室に閉じ込められても文句は言えない。
しかし菊岡は、それをせずに空いていた部屋を明日奈達に振り分けて、ゲストIDを発行したようだ。
「まあ、知人を牢屋とかに入れたくはないからね……こっちだ。あ、比嘉君。重村先生が呼んでいたよ」
「む、なんすかね……」
そこで比嘉と別れて、四人は菊岡の後に続いた。
「……一応君達には、彼等の現状を教えておこうと思ってね……」
ある隔壁の前に到着すると、菊岡はそう説明してから隔壁を開けた。中に入ると、そこには病人服を着た二人が巨大な機械。
STLに頭を覆われる形で横たわっていた。
そして明日奈達は、和人と明久の現状を知った。