「今二人は、この世界……UWに居る……過剰注入されたサクシニルコリンによって損傷した脳細胞を治すためにね」
「それは、前にも聞きましたが……」
菊岡の言葉を聞いて、琴音は思わずそう呟いた。しかし、菊岡は
「この中では、既に約一年が経過している」
と告げた。
「一年!?」
「待ってください! まだ、一ヶ月も経ってないんですよ!?」
「……時間の流れが、全然違うの?」
明日奈と琴音は驚くが、詩乃は冷静にそう指摘した。
すると、菊岡は拍手しながら
「その通りだとも……時間の流れを変えることで、二人の脳細胞の治療を行っているんだ……ただ、こっちも予想外が起きたんだ……」
と語った。
「予想外……?」
「それって……」
「本来だったら、こちらからは容易に接触出来る筈だったのに、一切接触が出来ないんだ……どうやら、誰も入ってない期間の間に、UWで何かが起きたらしい……」
菊岡がそう言うと、壁面のモニターに地図が表示された。それが、UWの地図のようだ。
「この円形を四つに分割してあるのが、央都セントリア。その中央に建っているのは、公理教会の総本山。セントラル・カセドラルさ」
「……宗教が、国を……」
明日奈は、その公理教会が国を支配しているということに気付いた。実際、過去に宗教が国を支配したということも無いわけではないが、大抵がロクな結末になっていない。
「恐らくだが、前にこのセントリアに有った管理用コンソールがセントラル・カセドラルの内部に移設されたからだと思われる……」
「管理用コンソールが?」
菊岡の話を聞いて、詩乃が思わずといった様子で呟いた。
「ああ……初期に設置され、内部で何か起きた時にそこまで来てもらって、緊急離脱する……なんだけど、どうやらその位置を変えられたから連絡も出来なくなったらしい……こうなったら、他に誰か送り込むべきなんだが……また予想外のことが起きないとも限らないからね……迂闊に送れないんだ……」
確かに、道理だろう。内部に送り込んで、もし殺されでもしたら、その人物に何が起きるか分からない。
「……それに、予想外はもう1つあってね……前にこのUWは、兵器用AIの為に作ったって説明したよね?」
菊岡のその問い掛けに、三人は頷いた、
「少し前に、その基準を満たす人工フラクライトが2つ出たんだ……その名前を聞いて、僕達は興奮してしまった……アリスとライカ……プロジェクトアリシゼーションの名前に近い名前だ……アリスはそのままだが、ライカ……このスペルは、LIECA。組み換えると、ALICEになる……だから僕達は、その二人の人工フラクライトをライトキューブクラスターに入れて、外に出そうとした……だが、その二人の人工フラクライトが、凍結されていたんだ」
「凍結されていた?」
「そんなこと、出来るの?」
菊岡の話を聞いて、琴音と詩乃は首を傾げた。
その人工フラクライトは、謂わば人工の魂。それの凍結とは、どうやるのかさっぱり分からなかった。
「そんなこと、僕達からは出来ない……しかしUWには、神聖術という魔法が存在する……もしかしたら、それによる干渉かと考えられる」
「ALOとも違う魔法が……」
「その神聖術が、人工フラクライトを凍結させた……?」
琴音がそう言うと、菊岡は頷き
「そうなると、セントリアにあるコンソールを使っての脱出と人工フラクライト達の隔離は出来ない……だから、ダークテリトリーにあるマスターコンソールを使うしかない」
「ダーク……テリトリー……?」
明日奈が首を傾げると、地図が拡大された。
セントリアを中心とした国は、長い長い白い壁に囲まれていて、その壁の向こう側は血を彷彿させる赤い大地が広がっていた。
「この赤い大地が、ダークテリトリー……いわゆる、亜人が住む土地でね……ここに、マスターコンソールが有るんだ」
菊岡はそう言いながら、ダークテリトリーの一ヶ所を指差した。ダークテリトリーの東側の端。そこにある、遺跡跡。そこに有るようだ。
「そこに行って、マスターコンソールに触れば……脱出出来るの?」
という明日奈の言葉に、菊岡は頷いた。
「ここが、一番確実だろう……触れば、こちらからログアウト処理が出来る」
「ここで……」
菊岡の話を聞いた三人は、その位置を覚えた。