「ふぅ……」
「お疲れ様でした、アシュリー先輩」
ヨシアキはそう言いながら、タオルを長い銀髪が特徴の上位修剣士に手渡した。
名前は、アシュリー・アルスコット。南方辺境伯の長女だそうだ。
「ありがとう、カーバイド」
タオルを受け取ったアシュリーは、そのタオルで汗を拭いた。
アシュリーは貴族の長女だが、ヨシアキに対して普通に接した。家の教育なのかは不明だが、アシュリー曰く
『同じ人間なのだから、下に見る理由が無い』
とのことだった。
その態度に好感を抱いたヨシアキだったが、この学院でキリトと再会。キリトも手掛かりを探すために学院に来たらしい。
知り合いに会えたのは、純粋に嬉しかった。やはり、一年も知り合いに会わないと心細くなるのは事実だった。
そしてヨシアキが驚いたのは、キリトが弟子を取っていたことだった。
キリトはユージオという青年を弟子にし、ヨシアキと同じくアインクラッド流を教えていたのだ。
ユージオはリヒトと同じく、飲み込みが非常に早い青年だった。
鍛えれば、一角の剣士になるのは間違いない。そういう意味では、将来有望な二人だった。
「さて、キリト……互いの状況を報告しようか」
「だな。もしかしたら、手掛かりがあるかもしれないしな」
そこから二人は、互いの状況を報告し始めた。
キリトはルーリッド村という場所に出たらしい。そこには、ギガスシダーと呼ばれる巨大な木があったようだ。
しかしその巨木は、キリトとユージオの二人のソードスキルにより伐採され、二人は剣士の道を選んだらしい。
「そっちは巨大な岩か……」
「うん。それを使った剣を頼んでるんだ。キリトは?」
「俺も、ギガスシダーの枝を使った剣を頼んでる」
どうやら、キリトも剣を頼んでいるらしい。
両方ともに、どんな剣になるか楽しみだった。
その時、キリトが
「なあ、ヨシアキ……あの竜はなんだ?」
と窓の方を指差した。
振り向いてみれば、窓枠に久方ぶりに見る一匹の小さい竜が居て、窓を叩いていた。
「あ! リューク!」
リュークだと気付いたヨシアキは、窓を開けてリュークを中に入れた。
「リューク?」
「そう。剣を頼んだ鍛冶屋のペットで、連絡役なんだって」
キリトが首を傾げると、ヨシアキはそう説明した。そしてヨシアキは、リュークに
「君が来たってことは、剣が完成したってことだよね?」
と問い掛け、リュークはクルルと鳴きながら頷いた。
「それじゃあ、取りに行きますか」
そう言ってヨシアキは、剣を取りに向かった。
そうして、数十分後
「すいません! 剣を取りに来ました!」
「お、来たね!」
剣を取りに向かったヨシアキを出迎えたのは、作業着の上をはだけさせたアリアだった。
以前は分からなかったが、豊かな胸が主張している。
「しかし、もう出来たんですか?」
「そうだよ、待っててね」
ヨシアキの問い掛けに、アリアは答えてから奥に消えた。すると、肩に止まっていたリュークがヨシアキの頭を小突いた。どうやら、ヨシアキの視線がアリアの胸に向いていたことに気付いたようだ。
「痛い痛い、突っつかないで」
ヨシアキが文句を言うが、リュークは構わずにヨシアキの頭を小突いてくる。
主思いの小竜である。
そこに、布に包まれた細長い物を抱いてきたアリアが戻ってきて
「こら、リューク。お客の頭を小突かないの」
とリュークを怒りながら、その包みを机の上に置いた。
そして怒られたリュークは、壁にある装飾の傍に停まって休んだ。どうやら、そこが定位置のようだ。
「まず間違いなく、私の今までの中では最高傑作の一振りになったわ」
アリアはそう言いながら、包みを解いた。中から出てきたのは、かつての愛剣のレイアースに酷似した細身の片手用直剣だった。
「持ってみて」
言われたヨシアキは、その剣を持った。
持った直後はその重さにバランスを崩しそうになったが、すぐにバランスを取って剣を鞘から抜いた。
金属製の鞘の中から、オレンジ色一色の刀身が現れ、窓から入ってきる陽光に煌めいている。
「……いい剣ですね」
「ありがとう」
ヨシアキが心からの称賛を呟くと、アリアは微笑んだ。
そしてアリアは
「その剣、名前はまだ決めてないから。君が決めてね」
と言ってきた。だが、言われて直ぐに思い付く訳がない。
考えていると
「後、料金だけど」
と言われ、ヨシアキは気付いた。今のヨシアキは、お金が大してない。
その事実に冷や汗を流していると
「うん。請求はしないわ」
とアリアは言った。
予想外の言葉にヨシアキが固まっていると、アリアは
「その剣を鍛えるっていう貴重な経験をさせてもらったし、その剣にはウチの紋章がある。だから、君がその剣を使い続ければ、ウチの名前が知れ渡る。言い方が悪いけど、宣伝として使わせてもらうわ。その分を考えて、請求はしない」
と説明。そして蠱惑的な笑みを浮かべ
「よろしくね、未来の大剣士さん?」
とヨシアキを見たのだった。