「アドミニスレータを倒す……けど、禁忌目録は? 禁忌目録の効果は強大なんでしょ?」
ヨシアキのその問い掛けに、カーディナルは頷いて
「その通りじゃ……昔、母親……ワシのではなく、アドミニスレータのじゃが……その母親に言われた禁忌目録は、今でもワシを縛っておる」
と肯定した。そしてカーディナルは紅茶を一口飲むと、ゆっくりと下ろしたのだが
「例えばじゃが……ワシは、これ以上ティーカップを下ろすことは出来ぬ」
と言った。その意味が最初は分からなかったが、よく見れば、ティーカップは机から僅かに離れた高さを維持していて、カタカタと震えている。
「母親からの教育で、ティーカップはソーサーの上に置くという禁忌目録が、今も生きておる」
カーディナルはそう言うと、ティーカップをソーサーの上に置いてから、机にゆっくりと置いた。
そして、指を立てて
「じゃがの、何事にも抜け道はある……」
と告げて、ティーカップの淵を軽くなぞった後に、軽く叩いた。
そして、キリトに
「御主には、これが何に見える?」
と問い掛けた。
「え? そりゃ、ティーカップ……あ、コーンスープだ! いや、助かった。今朝から、何も食ってないから腹が減ってて……」
「違うでしょ!」
キリトが手を伸ばし掛けたが、そこにヨシアキのツッコミが入った。そして、ヨシアキが
「スープカップですね……」
とカーディナルが望んでいるだろう答を告げた。その答に、カーディナルは満足そうに頷いてから
「その通りじゃ……そして、このスープカップならば、机の上に直接置ける」
と言って、ソーサーの上から机の上に直接置いた。
つまりは、ティーカップじゃなければ置けるということだ。
「つまり、やり方は幾らでもある……ということか」
キリトがそう言うと、カーディナルは頷いた。
「中には、意志の力で禁忌目録の強制力をはね除けた例もある……その場合、右目に激痛と共に何らかの文字が走ることが観測できた」
「右目の痛みと文字……」
「それって……」
カーディナルの説明に覚えがあったのか、キリトとヨシアキは顔を見合わせた。それは、四人が捕まることになった要因。人を斬った際の時のことだ。
ヨシアキとキリトは忌避感こそあれど、躊躇いはなかった。しかし、リヒトとユージオの二人は禁忌目録で人を斬るなという制限があった。しかし二人は、意志の力でその禁忌目録に反して刃を振り下ろした。
その時にだが、リヒトとユージオの右目が異様なことになっていたのだ。あの時はそれぞれ尋常じゃない事態だった為に、それほど考える余裕はなかった。
しかしそれが、禁忌目録に抗った結果なのだとしたら?
「そして、これはワシが長年見てきたことじゃが……整合騎士というのは、何らかの形で禁忌目録に抵触し、反した者達だ……それをアドミニスレータは、観測術式で発見し、セントラルカセドラルに連行し、そしてシンセサイズの秘儀で整合騎士に仕立てあげた……そうして、約300年の時を掛けて32人にまで増やした」
32人。数で聞いたら、大した人数ではないように思えるだろう。しかし、相手は全員が何らかの技を修めた手練れ揃い。苦戦は必至だろう。
「どうやら、苦戦を考えているようじゃが、そんな御主達に一つ朗報を教えておこう。整合騎士達じゃが、長く生きていると、時々アドミニスレータにとって不都合なことを知ってしまうこともある……そんな整合騎士を、元老長チュデルキンという男が時々調整することがある。更には、各方面の守備に数人が常駐しておる……その結果、セントラルカセドラルに居るのは、約1ヶ月半数と言ったところじゃ」
二人の表情に気付いたカーディナルは、そう説明すると新しく用意した紅茶を飲んだ。
その時、数冊の本を抱えたリヒトとユージオの二人が戻ってきた。どうやら、読みたい本を見つけたらしい。そんな二人とヨシアキ達を、カーディナルは見てから
「さてと……取り敢えず、今日はもう休むがいい……あちらに、湯あみが出来る部屋がある。そこで体を洗ってこい。その間、こちらで夕食の準備をしよう」
と言って、ある方向を杖で示した。確かに、その方向にはドアが一つある。どうやら、そこが浴室らしい。
「確かに……かなり疲れたからな……」
「ゆっくり入ろうか……」
二人はそう言って立ち上がると、それぞれの相方に近寄って話し掛けると、浴室に入っていった。それを見送ると、カーディナルは
「ようやく、悲願が叶う……」
と呟いて、天井を見上げた。