「これは……動けんな……」
全身を氷で押さえ込まれたデュソルバートは一度動こうとしたが、ヒビすら入らないことから諦めたらしい。深々とため息を吐いた。
そして、ユージオを見て
「……貴様、先程興味深いことを言ったな……私が、アリス・シンセシス・サーティを連行したと」
と問い掛けた。
「そうだ……今から約10年前……お前は、幼かったアリスを鎖で縛って連れていった……!」
ユージオは怒りを必死に堪えているらしく、デュソルバートに突き付けた剣を小刻みに揺らしながら答えた。しかしデュソルバートは、少し間を置いてから
「……覚えが無いな……本当に私だったのか?」
とユージオに再度問い掛けた。
「その声を、僕が忘れるものか……!」
「ユージオ……思い出せ、アドミニスレーターのシンセサイズの秘儀は、対象の記憶を操作することが出来る……」
「だから、自分達は天界から来たってことにされてる整合騎士が、実は禁忌目録に違反した者か、過去に修剣士学園で優秀な成績を納めていた者ってことを知られる訳にはいかない……だから、都合の悪い記憶は消されてるんだ」
ユージオが怒りで声を震わせると、それをキリトとヨシアキが静止。ユージオはデュソルバートを睨み続けた。
その時
「こちらから、凄まじい音がしたぞ!」
と声が聞こえてきた。どうやら、戦闘の音を聞いて騎士か剣士の誰かが近づいて来ているようだ。
「ユージオ君……残念だろうけど……」
「つっ……!」
リヒトが声を掛けると、ユージオはギリッと歯を鳴らしながら剣を納刀。近くに現れたドアを開けて、中に入った。
「……つっ……くっ……!」
「ユージオ……」
「よく戻ったの……それに、見事な武装完全支配術じゃった……あれならば、ワシが式句を考えたのも無駄ではなかったの」
ユージオが悔しそうにしているところに現れたカーディナルは、そう言うと四枚の羊皮紙を掲げた。
「武装完全……支配術?」
「ユージオやあの騎士が使っていた炎や氷のことじゃ。その武器の秘められた能力を解き放つのじゃ」
ヨシアキが不思議そうに首を傾げると、カーディナルは説明を始めた。
一部の神器と呼ばれる武器には、特別な能力を宿している物がある。それを解き放つのが、武装完全支配術だと言う。今回のは咄嗟に放ったのと、本人のイメージ力が弱かったためにデュソルバートを氷で拘束しただけに留まったらしい。
「ほれ、これがお主らのために考えた式句じゃ……ちゃんと覚えるのじゃぞ」
カーディナルはそう言って、四人に羊皮紙を手渡したのだが
「うげ……」
「おぅ……」
少々頭に自信が無いキリトとヨシアキからしたら、難しい言い方や難しい字ばかりだった。
場面は変わり、現実世界、オーシャンタートル。
「クリア!」
「クリア! 菊岡二佐!」
「よし! 比嘉君! 神代博士! 重村教授!」
先に突入した数人の自衛官が副管制室の安全を確認すると、菊岡が一緒に来た三人を含めた技士達に声を掛けた。呼ばれた技士達は急いでコンソールに駆け寄ると、機器の立ち上げを開始した。
その間に、菊岡は
「各隊、状況報告」
と無線で呼び掛けて、聞いている。少しすると
「なんとか、最悪一歩手前……ということか」
と嘆息した。その間に、副管制室の機能が起動したらしく。
「菊さん!」
と比嘉が菊岡を呼んだ。
「一応こちらの画面では、侵入者は第四層の隔壁を突破しようとしてるみたいっす……この様子では、突破されるのはもう……」
と比嘉が言った直後、オーシャンタートルが大きく揺れた。
「ちっ……爆破突破されたか……第五層各隔壁の充填封鎖は……」
「ダメっす、時間的に間に合わないっす」
菊岡の問い掛けに、比嘉はキーボードを叩いてから答えた。そこに、一人の自衛官が菊岡に近寄り
「菊岡二佐。こちらの損害ですが、死者は無し。しかし、負傷者が多数居ます……」
と報告し、更に書類を手渡した。
それを一読していると、比嘉が
「しかし、こいつらは一体……」
「少なくとも、同じ自衛隊じゃないね……装備がバラバラだ……共通しているのは、弾薬位だ……見たところ、使っているのは9mmパラと5.56mm弾だ……」
比嘉の言葉に、菊岡はそう答えた。どうやら、自衛隊内部でも計画を否定する輩も居るらしい。そこは、組織も一枚岩ではない限りは仕方ないだろう。
「だけど、時間を稼げばこちらが有利っすね。小一時間もすれば、ながとから海兵隊が派遣されますからね」
「いや……恐らく、暫くは動かないはずだ」
比嘉の楽観的な言葉を、菊岡は即座に否定した。
「ながとが離れた直後に、こいつらは侵入してきた……つまり、相手は自衛隊の上層部か防衛庁に独自のチャンネルが有るに違いない……最低でも、一日は動かないはずだ……」
「まる一日……」
菊岡の言葉を聞いて、比嘉は苦い表情を浮かべた。たった一日と言うべきか、それとも一日もと言うべきか。
「侵入者達の目的は、アリスとライカと見るべきだろうね……」
「何処から情報が……ここには、菊さんが厳選した自衛官しか居ないはず……」
「分からない……しかし……推論は後回しだ……今は、僕達に出来ることをやろう」
菊岡のその言葉に、比嘉や凛子、重村教授は頷いた。