遅くってすいません。仕事が忙しいのと、ちょっと体調不良で寝込んでました
55層主街区に戻った後、アスナ、キリト、ヨシアキの三人はすぐに、血盟騎士団本部に向かい、何があったか全てを話した
その後、アスナは脱退を申し入れ
その場で受理された
そして、55層の転移ゲートに向かう途中だった
「そういえば、ヨシアキ」
キリトがヨシアキに顔を向けた
「なに?」
「そういえば、なんでヨシアキは動けたんだ? 麻痺はまだ終わってなかったはずだろ?」
キリトの質問に、ヨシアキはああと頷いて
「ほら、クラディールがゴドフリーの手から解毒結晶を乱暴に蹴飛ばしたでしょ? その時にたまたま、近くに一個落ちてきたんだ」
「マジかよ」
さすがに、予想外だったらしく、キリトは驚いていた
「うん。で、ずっと隙を伺ってたんだ」
「なるほどね。それが、アスナが現れたタイミングだったのか」
「そう。あの時は間に合ってよかったよ」
ヨシアキは心底安堵した様子で、ため息を吐いた
次にキリトは、視線をアスナに向けて
「それに、アスナもよく間に合ったよ」
と、素直な感想を述べた
アスナはキリト達が小一時間歩いた距離、約五キロをわずか五分足らずで駆け抜けた計算になる
なんでも、キリト達をずっとマップ追跡していて、ゴドフリーの反応が消えた瞬間に駆け出したらしい
確かに、クラディールはもう一人の団員を殺した後、ヨシアキやキリトと喋ったが、それを考えても、アスナは四分強で駆け付けたのだ
システムアシストを超えた速度と言えた
すると、アスナは微笑んで
「愛の成せる業だよ」
と宣言した
それを聞いたキリトは、顔を赤くして視線を逸らした
それを見たヨシアキは、嬉しそうに微笑んでいた
そして、55層の転移ゲート前に到着した時
「一応、念のためにアスナの部屋まで着いていく」
と、キリトが宣言した
予想外だったのか、アスナは固まったがヨシアキが
「そうだね。あんなことがあったんだし」
と、賛同した
アスナは困惑するが
「今日は、アスナと一緒に居たいんだ」
キリトのその言葉に、アスナは顔を赤くしながらも頷いた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
61層 セルムブルグ
アスナの部屋
キリトにとっては二度目のアスナの部屋だが、入ったのは初めてだった
内装は豪奢だが、それでいて居心地のいい暖かさをキリトは感じた
すると、アスナは
「わ、わあー、散らかってるなぁ、最近あんまり帰ってなかったから………」
と棒読み気味に、そこかしこに置いてある小物を手早く片付けていった
「すぐご飯にするね。キリト君は新聞でも見ながら待ってて」
アスナは、顔を赤くしながらキリトに告げた
「う、うん」
キリトは頷くと、装備を解除して適当な椅子に腰掛けた
ヨシアキとは途中で別れた
『今日は疲れたから、ギルドホームで休むね』
と言って、帰っていった
フカフカのソファーに座るとキリトは、テーブルの上の大きな紙片を取った
新聞、とは言え、情報屋を生業とするプレイヤーが適当な与太話を集めて、新聞と称して売っている怪しい代物
を広げた
だが、娯楽の少ないアインクラッドではそれでも貴重なメディアであり、定期購読しているプレイヤーは少なくない
そして、その一面見だしは
【黄昏の剣士と黒の剣士、聖騎士に敗れる!】
というものだった
その下に詳しい試合内容と、キリトがヒースクリフの前で仰向けに倒れてる映像と、ヒースクリフとヨシアキが交差した状態の映像があった
それを見たキリトは
(これで大したことないって、思われればいいんだけど)
と、思っていた
そして、新聞を机に置くと、キッチンの方からいい匂いがしてきた
「キリト君、お待たせ」
と、アスナが鍋を持って現れた
「お、おう」
キリトは緊張気味に返事をしながらも、姿勢を正した
そして
「「いただきます」」
と、夕食を食べ始めた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして、完食後
寝ることになったのだが、キリトは気づいた
(待てよ? ここは一人部屋。つまりは、ベッドは一つ………俺は、どこで寝ればいいんだ?)
ここで一緒に寝るという選択肢が出ないあたり、さすがはキリトと言える
アスナは、ここアインクラッドでも五本の指に入る美少女だ
そんな美少女と同じ部屋。しかも、アスナの部屋に居るのだ
本来だったら、全男性プレイヤーにとって夢の状況だろう
しかし、そこはキリト
キリトは、自他(家族)も認める程の対人コミュニケーション能力が低いのである
そんな彼に、一緒に寝るという選択肢など、最初から無いのである
すると、お風呂から上がったらしいアスナが現れて
「なにしてるの、キリト君?」
と気付けば、悶えていたキリトに首を傾げた
「い、いや……なんでもないです……」
キリトは姿勢を正すと、視線をアスナに向けて
「アスナさんや?」
何故か、敬語である
「なに、キリト君?」
「俺は………どこで寝ればいいんでしょうか?」
と、キリトが聞くと、アスナは顔を赤くしながら
「い、一緒に寝てくれないの?」
と、呟くように聞いた
すると、キリトは顔を赤くして固まった
「え、えっと………」
キリトが言葉に詰まっていると
「今日は一緒に居たいって、言ってくれたよね?」
それは確かに、キリトが言った言葉である
キリトはそれを思いだし、男に二言は無いとばかりに、頷いた
そして、部屋に入るとアスナは照明を消して
突如、着ていた服を除装した
下着と透き通るような肌が露出して、キリトは目を奪われた
すると、アスナが
「キリト君も脱いでよ………私だけは、恥ずかしい………」
と、顔を赤くしながら告げた
アスナの言葉に、キリトは頭が真っ白になったが、攻略組としての意地(?)で、必死に頭を回した
(今の状況。アスナのセリフ。アスナの格好から推察できるのは………)
と数瞬考えて、導き出されたのは
「で、出来るのか? SAOで?」
ナニをとは言わない
言ったら、自分もアスナも絶対に固まる
と、キリトは確信していた
「し、知らないの?」
キリトの言葉に、アスナは顔を赤くしたまま、キョトンとしていた
するとキリトは、一も二もなく頷いた
「メ、メニューのかなり深い層に、【倫理コード解除設定】ってのがあるのよ……」
アスナは恥ずかしさからか、赤かった顔を更に赤くしながら告げた
すると、キリトが
「ベータ版の時はなかったぞ、そんなの………」
と呟いてから、視線をアスナに向けて
「えー……知ってるってことは……経験がおありなんで?」
と、聞いてしまった
すると、アスナは
「ないわよ、バカぁ! 同じギルドの友達に聞いたのよ!」
と、恥ずかしそうに怒り、キリトをポカポカと殴りつけた(圏内なので、ダメージはないが、ノックバックは発生中)
キリトは慌てて土下座を敢行し謝り続けて、アスナを宥めるまで数分を要した
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
テーブルの上に置いてあるたった一個の蝋燭に灯っている明かりが、キリトの腕の中で眠っているアスナの肌を控えめに照らしている(え? なにがあったって? 聞くな)
キリトはそんなアスナを、優しく抱きしめた
すると、アスナの瞼が震えて開き微笑んだ
「悪い、起こしちゃったな」
「ん……。ちょっとだけ、夢、見てたの。元の世界の夢……おかしいの」
アスナは笑顔のまま、顔をキリトの胸に擦り付けた(まるで猫のようである)
「夢の中で、アインクラッドのことが、キリト君と会ったことが夢だったらどうしようって思ってとっても怖かった。よかった……夢じゃなくって」
「変な奴だな。帰りたくないのか?」
「帰りたいよ。帰りたいけど……ここで過ごした時間がなくなるのは嫌。ずいぶん……遠くまで来ちゃったけど、わたしにとっては大事な二年間なの……今なら、そう思える」
アスナは首を左右に振りながら言うと、真顔になって、キリトの右手を取り、胸に抱いた
「……ごめんね、キリト君……ほんとなら……ほんとなら、わたしが決着をつけなきゃいけなかったのに……」
気付けば、アスナは涙を流していた
それを見たキリトは、左手でアスナの頭を撫でながら
「いや……クラディールが狙ったのも、そして奴をあそこまで駆り立てたのは俺達だ。だからあれは、俺達の戦いだったんだ」
アスナの瞳を見詰めながら、キリトはハッキリと告げた
するとアスナは、キリトの右手にそっと唇を当てて
「わたしも……背負うから。君が……君達が背負ってるもの、全部一緒に背負うから。約束する。これからは、絶対にわたしが君を守るからね……」
キリトはそれを聴いて決心したのか、アスナの頭を左手で胸元に抱いて
「アスナ……」
と呟き一旦、間を置いて
「俺も……」
呟くように、声が震えていた
「俺も……君を守るよ」
その声は小さく、頼りない声だったかもしれない
そのことに、キリトは苦笑いを浮かべて
「アスナは……強いな。俺よりずっと強い……」
と呟いた
すると
「そんなことないよ。わたしも、もともと向こうじゃ、いつも誰かの後ろに隠れてるような性格だったんだ。このゲームだって、自分で買ったんじゃないんだよ」
と言いながら、微笑んだ
「お兄ちゃんが買ったんだけどね、急な出張になっちゃって、わたしが初日だけ遊ばせてもらうことになったの。すっごい口惜しそうだったのに、二年も独り占めしちゃって、怒ってるだろうなぁ」
と、なにかを思い出したようにクスクスと笑った
「……早く帰って、謝らないとな」
「うん……がんばらないとね……」
言葉とは裏腹に、アスナは口篭って不安そうに目を伏せると、キリトに擦り寄った
「ね……キリト君。さっき言ったことと矛盾するようだけど……ちょっとだけ、前線から離れたらだめかなぁ」
「え……?」
キリトが驚きながら視線を向けると、アスナは俯いて
「なんだか怖いの……やっと、こうして気持ちが通じ合ったのに、すぐに戦場に出たら、またよくないことが起きそうで……ちょっと、疲れちゃったのかもしれない」
と、語った
その言葉を聞いたキリトは
「そうだな……俺も、疲れたよ……」
と、自分でも驚くほどに、素直に頷いていた
数値的なパラメーターに変化は無くとも、日々の連戦は眼に見えない消耗をプレイヤー達に強いる
それは、今回のような極限状態に至れば尚更だろう
どんなに強い弓だろうと、引き続ければやがて、限界が訪れる
故に、休息が必要な時もあるだろう
キリトは、今まで自分を戦闘へと駆り立てていた危機感にも似た衝動が遠ざかっていくのを感じていた
今は、目の前の少女
アスナとの繋がりを
絆を確かめたいと
そう思っていた
アスナを両腕で抱きしめて、顔をアスナの髪に埋めながらキリトは言葉を紡いだ
「二十二層の南西エリアの、森と湖がいっぱいあるとこ……あそこにな、小さい村があるんだ……モンスターも出ないし、いい所なんだ。ログキャビンがいくつか売りに出てた……二人でそこに引っ越そう。それで………」
「それで?」
言葉に詰まったキリトを、アスナは光に満ちた瞳で見詰めた
すると、キリトは顔を赤くしながら
「……け、結婚しよう」
と、告げた
するとアスナは、嬉しそうに微笑んで
「……はい」
と頷いた
その頬を、一粒の大きな涙が流れた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
SAOにおいて、システム上で規定されているプレイヤー同士の関係は四種類ある
一つ目は無関係の他人
二つ目はフレンド登録である
フレンド登録した者同士ならば、どこに居ようと簡単な文章のメッセージを送ることができ、相手の現在地をマップでサーチすることが可能になる
三つ目はギルドメンバー
フレンド登録の機能に加えて、戦闘時にメンバーとパーティーを組むと戦闘力に僅かながらなボーナスが追加されるのである
ただし、その代償として、入手したコルのうち一定の割合でギルドへの上納金が天引きされてしまう
キリトとアスナの二人は上記の内、フレンド登録とギルドメンバー登録の二つの条件をクリアしていた
しかし、二人ともギルドを一時脱退して代わりに、最後の一つが追加された
それは
結婚である
とは言え、手続きは拍子抜けするほど簡単なのだ
どちらかがプロポーズメッセージを送り、相手が受諾すれば終了である
だが、それによって起きる変化はフレンドやギルドの比ではない
SAOにおける結婚が意味するのは、簡潔に言えば全情報と全アイテムの共有である
お互いに自由に相手のステータス画面を見ることが可能になり、アイテム画面に至っては一つに統合されるのだ
言わば、最大の生命線を相手に差し出す行為であり、裏切りや詐欺の横行するアインクラッドではどんなに仲の良いカップルでも結婚に至るのは極稀なのである
男女比の甚だしい不均衡ももちろん理由に挙げられるが
キリトとアスナが結婚すると聞いたヨシアキ達<黄昏の風>のメンバーや数人は、華やかな結婚式を挙げた(とはいえ、隠れてだが)
ヒデが神父の真似事をして祝福したり、ムッツが映像記録結晶を使って撮影したり、ヨシアキが手料理を振舞ったりしたのだ
その際にミズキとミナミがヨシアキに迫ったが、ヨシアキは二人を軽く投げ飛ばしていた(笑)
余談だが、ショウコもサジに迫り、サジは引きずられていった(その後、サジがひどくヤツレた様子で帰ってきた)
サチは素直に祝福していて、キリトは泣きながら感謝していた
こうして、一組の夫婦が誕生したのだった