キリトは、倒れたファナティオが動かないのを確認すると、振り向いて
「ヨシアキ! 無事か!?」
と呼び掛けた。すると、入口付近の柱の裏側からヨシアキがひょっこりと顔を出して
「全員無事だよぉ」
と告げた。実はヨシアキは、ファナティオが剣の能力を使い始めた後に、なんとか動けるようになったユージオやリヒト、更には倒れていた整合騎士達を何とか巻き込まれないようにと、部屋の隅や柱の裏側に移動させたのだ。そしてヨシアキは、キリトに近づいて
「……助けるつもりでしょ?」
とキリトに問い掛けた。するとキリトは、頬を掻いてから懐に手を入れて
「悪いな、ユージオ……アリスは、ユージオが送ることになる」
と立ち上がって、ゆっくりと歩み寄ってきていたユージオに振り向きながら、カーディナルから渡されたあの短剣を取り出した。それを見たユージオは
「仕方ないな、キリトは……うん、僕が何とかするよ」
と苦笑した。それを聞いたキリトは、ファナティオを仰向けにしてから、その胸元に軽く短剣を突き立てた。すると、ファナティオの体が光り輝き、次の瞬間には消え去っていた。すると、四人の頭の中に
『分かった、こちらに任せよ』
とカーディナルの声が聞こえた。ファナティオは無事、カーディナルの居る図書館に送られたようだ。
それを確認した四人は、今居る部屋から、更に上を目指すことにした。
戦った部屋から出て、更に階段を上がっていく。その時、不意に広い場所に出た。その広い場所の奥に、一人の人影があった。
それは、あの脱出した時にデュソルバートと共に弓矢を射ってきていた緑色の鎧を着た整合騎士だった。
その整合騎士は、四人に気付いたようで、背負っていた大剣を抜いて
「私は、エルバード・シンセンス・トゥエニワン……狼藉者達よ、貴様達の蛮行も此処までだ……ここで、斬って捨てる」
と静かに宣言した。それを聞いた四人は、一斉に構えた。その直後、キリトの眼前にエルバードの姿があった。
「つあっ!?」
キリトはエルバードが振り下ろした大剣を、辛うじて防御。しかし、余りの威力にキリトの足下の床にヒビが入った。それが、エルバードの攻撃力の高さを物語っている。キリトは腕の痺れを堪えながらも、反撃しようとした。だが気付けば、エルバードの姿が無い。
「キリト!!」
キリトが驚いていると、リヒトが鎗を頭上に突き出した。その瞬間、激しい金属音が鳴り響いた。そして気付けば、最初の位置にエルバードは戻っていた。
「瞬間移動……?」
「ううん……多分だけど、風を使った超高速移動だ……風の音が聞こえたからね」
キリトの呟きに、ヨシアキは首を振りながらエルバードを睨んだ。すると、エルバードは肩に大剣を担いで
「……よくぞ見抜いた……しかし、捉えられなかったら、意味などない……」
呟くように言った瞬間、また姿を消した。そうして、ユージオの後ろに姿を現した瞬間
「ユージオ、後ろだ!」
とヨシアキが、ユージオに指示を飛ばした。それを受けて、ユージオは右足を軸にして右回転しながら斬撃を放つ。その一撃はエルバードに当たらなかったが、エルバードは攻撃タイミングを逸した。
(偶然か?)
エルバードはそう思いながら、斬りかかってきたユージオの一撃を大剣で受け止め、蹴り飛ばした。そして、大剣を床に突き立てた直後、またもエルバードの姿が消えた。だが
「リヒト! 上!」
とまたも、ヨシアキが指示を飛ばし、即座にリヒトが応えた。リヒトは視線を真上に向けてエルバードを視認。直ぐに鎗を突き出した。またもや攻撃のタイミングを外されたエルバードは、鎗の一撃を回避すると、最初の位置に着地。
ヨシアキを見て、驚愕した。
「目を閉じているだと!?」
なんとヨシアキは、剣は構えているが、目を閉じていたのだ。システム外スキル《聴音》である。聴音を使ったヨシアキは、エルバードの大剣が放っている風の音に意識を集中させて、位置を特定したのだ。
しかし、余りにも大胆不敵な策だった。
目を閉じるということは、目前にエルバードが現れた場合の即応性を捨てているのだ。
しかし、ヨシアキは三人を信頼し、聴音に意識を集中させたのだ。
信頼が編み出した策。それを以て、四人は新たな整合騎士と戦う。