そこは、昇降係の少女が言った通りに、庭園と呼ぶに相応しい階だった。草原が広がり、更には様々な色の花が咲いている。そこには、二人の少女が居た。それぞれ、一本の木の傍。そして、白百合の花畑の真ん中に立っていた。
金色の甲冑と銀色の甲冑を纏った少女達だった。
四人が間違える訳がない。間違いなく、アリスとライカの二人だった。
「……報告は聞いています。あなた方が、このセントラル・カセドラルに侵入した者達ですね……」
「よく、此処まで来れたものです……」
アリスとライカはそう言いながら、視線を四人に向けた。それだけで、四人に凄まじい
その圧から、四人はアリスとライカの二人が、凄腕の剣士だと分かった。だからだろうか、四人は反射的に武器を構えた。しかし、アリスとライカの二人は
「しばし待ってもらえませんか」
「いま、この子に日光浴をさせているところでして」
と四人を制止した。たったそれだけで、リヒトとユージオは動けなかった。たった一回、短剣で刺せば決着は着く。しかし、手加減出来る相手じゃないのは今の圧だけで分かった。だが、重傷を負わせずに無力化するのは至難の技だろう。
《僕に、それが出来るか……?》
リヒトとユージオの二人は、同時にそう思った。その時、キリトとヨシアキの二人が前に出て
「我、修剣士キリト……整合騎士アリスに尋常に勝負を申し込む」
「同じく、修剣士ヨシアキ……整合騎士ライカに剣の勝負を申し込む」
と告げた。
「キリト」
「ヨシアキ」
ユージオとリヒトは、それぞれ相方の名前を呼びながら肩を掴んだ。すると、二人は小声で
「いいか、俺達が二人と戦う」
「二人は、なんとしても、短剣を刺すんだ」
と言って、改めて剣を構えた。今、アリスとライカの二人は剣を持っていない。休憩中だからか、それとも手入れしている最中だからか。理由は分からないが、絶好の機会と言えた。しかし、アリスとライカの二人は慌てる様子はない。威風堂々としている。
「……私達の予想では、例え牢屋を出られても、エルドリエとカイエンの二人に無力化されると思っていました」
「しかし実際は、その二人を越えて、更には神器を携えたデュソルバート殿、ファナティオ殿、エルバード殿達を倒し、この雲上庭園の土を踏んだ……何が、お前達をそこまで駆り立てる?」
「いったいなぜ、人界の平穏を揺るがす挙に及ぶのです? お前達が整合騎士を一人傷つける度に、闇の勢力に対する備えが大きく損なわれてることが、どうして理解出来ないのですか?」
アリスとライカは、ただそう問い掛けてくる。
《君のため、ただそれだけだ》
ユージオとリヒトの二人は、心の中でそう叫んでいた。しかし、例え口にしていても、整合騎士のアリスとライカには何の意味も持たないことは理解していた。
歯を強く食い縛り、僅かに片足を前に出した。
しかし、アリスとライカは首を振り
「やはり……剣で訊くしかないようですね……」
「いいでしょう……それが、お前達の望みならば」
溜め息混じりにそう言って、アリスは木の幹に手を添えて、ライカは白百合の一輪に手を翳した。
剣なんて、何処に?
リヒトとユージオはそう思い、キリトとヨシアキが、まさかと呟いた、その直後だった。
一瞬眩く光った瞬間、アリスの隣にあった小振りな樹とライカの周囲に咲き乱れていた白百合の花畑が消滅。
次の瞬間、アリスの右手には金色の長剣が。ライカの左手には、白銀の長剣が握られていた。
何が起きたのか、ユージオとリヒトには理解出来なかった。樹と花が消えたと思ったら、剣が現れた。
つまり、樹と花が剣に変化したということになるが、アリスとライカは一切式句を言っていなかった。幻術にしろ、超高等の物質転換にせよ、式句を言わずに実行するのは不可能である。
だが、もし、樹と花がアリスとライカの心象のみで姿を変えたのならば、答えはひとつである。
「しまった、やばいぞ……!」
「あの剣、もう完全支配状態だ!」
ユージオとリヒトより先に結論に至っていたヨシアキとキリトがそう言った直後、アリスとライカは音高く剣を抜剣。剣身にソルスの光が反射し、眩く輝いた。
それと同時に、キリトとヨシアキは駆け出した。アリスとライカの剣の能力は未知数だ。その能力を使われる前に、接近する気なのだろう。
僅かに遅れて、ユージオとリヒトも胸元の鎖を握りながら駆け出した。
今、二人の騎士を巡る戦いが始まった。