ライカは村人から聞いた洞窟へと向かった。龍でも、飛び越えるのに少々時間が掛かる果ての山脈。しかし、例外的な場所が存在した。
「ここですね……」
その洞窟の前に立ったライカは、風鴇を見て
「風鴇はここに居なさい……もし、ダークテリトリーの住人が来たら、容赦無く攻撃を」
と指示を下し、神聖術で明かりを用意してから中に入った。洞窟の中は思ったより広く、大型の獣も住めそうだと思った。
(帰ったら、騎士長に報告して、ここも警戒してもらうように進言しましょう)
ライカはそう思い入れながら、奥へ奥へと進んだ。その時、不意に広い場所に出たのだが、寒さも感じた。そしてその場所を見たライカは
「……なるほど、氷室の役割も果たしていたのですね」
その場所の隅に、古い木箱を見つけた。恐らくだが、開拓初期の民が食糧の保存場所として利用していたのだろう。それならば、寒さの理由も分かる。とライカは考えながら、更に進んだ。
少しすると、崩落した場所に到着した。見た目も触った感じも、簡単に突破出来るとは思えない。
「……しかし、なにやら……」
言い様の無い違和感を覚えたライカは、軽く周囲を見回した。あの広い場所を抜けた直後は、最初より狭い洞窟が続いた。しかし、今居る近辺は広くなっている。
「崩落させる際に広げた……? しかし、それにしては……」
そう呟きながら、ライカは観察するために壁際に近づいた。その時
「風……?」
風を感じ、振り向いた。反対側の壁、その一ヵ所に岩が見える。
「……まさか」
その岩に手を掛けた。その瞬間に分かった。
「これは、岩ではない!!」
それが偽物と気づいたライカは、それを強く押した。すると、その偽岩の向こう側に通路が見えた。
「ここを通ってきたのか……!」
地面には、真新しい足跡が大量にある。間違いなく、そこを通ってきたようだ。
「使わせるわけにはいかない!」
そう判断したライカは、元の通路に戻り、伽羅の剣を抜いて記憶解放術を解き放った。
「はああぁぁぁぁ!!」
気合いの声と共に、一閃。その洞窟は崩落した。
「これで、簡単には来れない筈……」
だが、暫くすればまた掘ってくる筈だ。そう思ったライカは、広い場所に戻ると、その通路に繋がる入り口も崩落させた。
「これでいい……」
洞窟から出ると、風鴇がすり寄ってきた。
「よく見守ってくれました、風鴇」
誉めながら、ライカは首筋を撫でた。そして風鴇に股がり、村に飛び立った。村の中央広場には村人達が集まり、不安そうにしていた。
ライカは降り立つと、村人達に聞こえるように
「洞窟を調べた結果、確かにダークテリトリー側から掘られた場所を見つけました。しかし、安心してください。その洞窟は崩落させ、埋めました。これで、暫くはダークテリトリーの住人達は来れない筈です」
ライカの説明を聞いて、村人達は安堵した表情を浮かべた。そこに、村長のコーラッドが歩み寄り
「ありがとうございました、整合騎士様……おかげで、我々は安心して住むことが出来ます」
と感謝の言葉を告げた。
「いえ……これが、我々整合騎士の務め……感謝には及びません」
ライカがそう言った時だった。
「姉さん……?」
と少女の声が聞こえて、ライカは声の聞こえた方向を見た。その先には、シスター服を着た一人の少女が居た。ライカやアデルトルートによく似た顔立ち。
(彼女が……私の妹……ライエ・シンフォース)
ライエ・シンフォース。ライカの実の妹とカーディナルから聞いている少女が、そこに居た。
「ライエ……彼女は、整合騎士様だ。失礼なことは……」
「ううん、私には分かる……確かに、ライカ姉さんよ……」
コーラッドが制止するが、ライエはライカに近寄り
「お帰りなさい、姉さん……」
と言って、ライカの手を握った。だが、ライカはいたたまれない気持ちになった。確かに、この体はライカの物に間違いない。しかし、今のライカはライエのことだけでなく家族のことも、この村のことも何一つ覚えていないのだ。
だから、ライカは
「……村長殿の家に伺っても、よろしいか? 大事な話があります」
と切り出した。全てを、話す為に。