翌朝、ライカは風鴇を口笛で呼んでから鞍の様子を確かめていた。すると、後ろでそれを見ていたライエが
「改めて見ると……少し怖いわね……」
「大丈夫ですよ。小さい時から世話してきて、きちんと躾はしましたから」
ライエが怯えているが、ライカはちゃんと躾したことを教えながら鞍の確認を終えた。そして、ライエに振り向き
「今から乗せます」
と言って、ライエの両脇に手を入れて鞍に座らせた。その直ぐ後に、ライカは軽く跳躍して鞍に座った。そして、見送りに来た両親にライエは
「じゃあ、央都に行ってきます!」
と言って、それを見たライカは風鴇を飛ばさせた。風鴇の飛行の速さに驚いたライエは
「わわっ!? は、早い!」
と声をあげた。すると、ライカは手綱を握りながら
「一応安全第一に飛びますが、しっかり捕まってください!」
とライエに忠告した。実はライカは、後ろに誰かを乗せて飛ぶのは初めてだったために、少し緊張していた。
騎士長たるベルクーリは、過去に人を乗せて飛んだことがあるらしいが、ライカは話として聞いただけだ。
一応、風の神聖術でライエを囲うように障壁を展開している為に風圧はそれ程ではない筈である。
「わわわっ!?」
「ですから、しっかり掴まってください。流石に、この高さから落ちたらいくら神聖術で守っていても助からない!」
落ちそうになったライエを、ライカは間一髪でなんとか片手で支えた。どうやら、下を見ようと身体を横に傾けたようだ。
「ご、ごめんなさい……こんな高さを飛ぶなんて、初めてだから……」
「まったく……好奇心旺盛なのは構いませんが、それで死なれたらたまりません」
「さあ、ここから更に加速します。しっかり掴まってください」
「わ、分かったわ」
ライカの言葉を聞いたライエは、ライカの腰にしがみつき、それを感じたライカは風鴇を加速させた。そして、村を発ってから数時間後。昼過ぎ辺りに、ライカとライエはセントラル・カセドラルに到着した。
ライカは、風鴇からライエを下ろして
「そこで待っていてください。今、風鴇を厩舎に入れてくるので」
と言って、風鴇を厩舎にまで進ませた。その時、発着場の方で新たに翼の音が聞こえた。戻ってみると、ちょうどアリスが帰ってきたようだ。その後ろには顔立ちがよく似た茶髪のシスター服を着た少女が居る。
「アリスも今帰ったのですね……あ、右目が……」
アリスに声を掛けた時、ライカはアリスの右目が治っていることに気づいた。
「はい……セルカの言葉と、ルーリッドを守ることを決意して外したら……」
ライカの意図を察してか、アリスは説明しながら右目付近に手を当てた。それを聞いたライカは、無意識にまだ眼帯に覆われている右目に手を当てた。
しかし、そこに
「おお、戻っていたか」
と新たな声が聞こえた。振り向けば、通路にカーディナルが居た。
「カーディナル様」
「只今戻りました」
「うむ、よく戻った」
アリスとライカが報告すると、カーディナルは頷いた。そして、二人は
「しかし、何かあったのですか?」
「竜達が、何やら殺気立っているようですが……」
と自分達以外の竜達を見た。中には、唸り声を漏らしている個体も確認出来た。すると、カーディナルは神妙な様子で
「うむ……昨日の夕方頃から、東の大門にダークテリトリー軍が接近……大門に攻撃を開始したのじゃ」
と語り始めた。
「それに対処するために、手空きと解凍した騎士達に竜を使わせて攻撃を開始させたのじゃ……まあ、時間稼ぎが関の山じゃろう……ダークテリトリー軍の方が、数は多い故な」
カーディナルの最後の言葉に、二人は同意するように頷いた。ダークテリトリー軍は、最低でも数万の軍勢が控えているが、それに対して人界軍は漸く千に届く位で、四皇帝の軍を合わせても五千に届かない。
はっきり言って、数の差が圧倒的不利である。
幾ら整合騎士が一騎当千だろうが、勝てるかどうかは運任せになるだろう。
「最悪、その戦いの衰勢……あやつらに任せることになるかもしれん……」
カーディナルの呟きを聞いた二人は、ギリッと拳を握った。