「どうだね、比賀君?」
「間違いなく、彼らのフラクライトが僅かに活性化しました。しかし、決定的には……」
重村教授の問い掛けに、比賀は苦い表情を浮かべながら首を振った。モニターには、明久と和人のフラクライトの様子が表示されているのだが、それぞれ親しい人と出会った時には確かに大きな反応があった。しかし、それも僅か短時間のみで、すぐに戻ってしまった。
確かに明日奈達に解決策は提示したが、それも確実とは言えずに自力で復活してくれるのが、一番好ましい。
菊岡は、努めて平静を保ちながらも色々と考えていた。だから、電話に気付くのが遅れた。
「菊さん、電話っす!」
比賀に言われてから、菊岡は外線で電話が鳴っていることに気付き
「こちらラース本社!」
と出た。念のためにラース本社の方で出たが、菊岡としたら自衛隊から電話が来てほしいと願っていた。だが
『このような時間に、すいません。六本木支社の加藤という者ですが』
電話を掛けてきたのは、六本木にあるスペックダウン版のSTLを設置してあるダミーカンパニーからだった。一瞬落胆した菊岡だったが
「要件はなんだい?」
『それが、こんな時間に外部の女子達がやってきて、STLを使わせてほしいと言ってきたんです。それと、加速倍率? とやらを、確認してほしいとも』
「比賀君! 加速倍率を確認するんだ!!」
「は、はいっす!」
菊岡の指示を聞いて、比賀はUWの加速倍率を確認し、驚いた。
「なっ!? 100倍まで落ちてる!? 何時の間に!?」
何時の間にか、約800倍で固定していた加速倍率が100倍まで低下。更に、少しずつ落ちていく。
それを聞いて、菊岡は
「訪ねてきた女子達というのは、名乗っていなかったか!?」
と相手に問い掛けた。すると、加藤は困惑した様子で
『それがですね、ふざけてるとしか言えないんですが……見た目は日本人なのに、リーファとユウキと名乗っていまして……それを教えれば大丈夫と言われましたが……』
加藤から聞いた名前に、菊岡は驚いた。時間もだが、何故二人が六本木支社の場所を知っていたのか。だが、今はそれどころではない。
リーファこと直葉とユウキこと木綿季の強さは、菊岡はよく知っている。それに、明久と和人の知り合いだ。条件的には、合致する。故に菊岡は、即断し
「構わない! そちらは、彼女達をSTLに案内してやれ! 諸々の設定は、こちらから遠隔で行う!」
そう言って、比賀や席に座っていたスタッフに指示を出した。明久と和人の二人が無事に帰ってくるために、自分に出来ることをする。菊岡は、そう決めた。
少し時は遡り、ALOのある場所。
「あいつら、そんな事に巻き込まれてるのか……」
ユイからの話を聞いて、サジが組んだ両手の上に顎を乗せていた。
ユイから話されたのは、推測混じりだが明久と和人の現状。そして、これから起きるだろうことだった。
「まさか、アメリカ軍がのう……」
「正確には、傭兵かと思われます。ですが、アメリカ軍と自衛隊に繋がりがあるのは確かですが……」
「まあ、組織も余程のことが無い限り、一枚岩じゃないわよね……」
ヒデ達が少し躊躇い気味に話していると、クラインは右拳を左手に、エギルは右手で膝を叩き
「アメリカ軍が相手だから、なんだってんだ! 命懸けなら、あの城で経験済みだ!」
「だな。それに、俺達は散々あいつらに世話になったんだ。だったら、そろそろそのお返しの一つでもしないとな」
と意気込んだ。それを聞き、リズベットも
「そうね……それに、珠には私達から迎えに行きましょうか」
と問い掛け、全員は無言で頷いた。ヨシアキもキリトも、何時も騒動の最前線に居て、終わった後飄々と帰ってくる。待っていた者達の気も知らないで。
ならば、今度は自分達が迎えに行こう。自分達だけじゃ対処しきれないならば、仲間も連れて。
そう考えた一同は行動に移し、ALOプレイヤー達を説得する為に動き出した。
難航した説得だが、ありのままに全力で言葉を発した為に成功。アメリカ側が投入するだろう数万に対し、数百で挑むことになる。