それは、東の大門の防衛の任に就いていた下位整合騎士からの報告から始まった。
「報告! 東の大門の前に、未だかつて無い程の暗黒界人が集まり、攻撃を開始! 東の大門の陥落は、最早時間の問題です!」
その報告を受けて、ベルクーリはすぐに動いた。
再編成し再訓練していた人界守備軍とカーディナルによって目覚めた二人の整合騎士を連れて、東の大門前の要塞に入り、まずは内部に巣くっていた魔物を殲滅。その後、要塞の再利用のために整備した。
とはいえ、長年放置していたためにあらゆる所が壊れていたり、錆び付いていたために、整備は必要最低限のみにし、急いで陣地を形成した。
「この様子じゃあ、暗黒界軍の総大将はシャスターじゃなさそうだな……」
シャスターというのは、暗黒界十公の一人で暗黒騎士の纏め役の男性騎士で、ベルクーリの長年の知り合いでもある。暗黒界人と知り合いというのも可笑しい話かもしれないが、お互いに何度も戦い、実力も考えも知っているために、信頼している。
「はい……こちらの神聖術師が放った偵察からの報告では、相手の総大将らしきは金髪の男で、きらびやかな衣装を纏っているようです」
ベルクーリの言葉に報告するのは、公私共にベルクーリの副官を勤めるファナティオだ。そのファナティオの手には、羊皮紙が握られている。
どうやら、カーディナル指揮下の神聖術師部隊からの報告のようだ。
「っつーことはだ、そいつがアスナの嬢ちゃん達が言ってた外から来た敵ってことか……戦力差は分かるか?」
「暗黒界軍側は、最低でも万は届きますが……こちらは、頑張っても漸く二千というところです……」
ファナティオからの報告を受けて、ベルクーリは頭を掻いた。戦力差は明らかであり、その差は埋められない。
「人界守備軍の編成を後回しにしたツケがここに来たか……」
「は……四帝国からの人員も中々集まらず、良い人員は四帝国に持っていかれてましたから……」
ベルクーリの苦悶の言葉に、ファナティオは同意した。人界守備軍の人員は、東西南北の四帝国から送られる人員を基にしており、その四帝国が人員を送るのを渋ればそれだけ編成は進まない。
最近ではカーディナルの呼び掛けにより、自ら人界守備軍に志願してきた衛士のおかげで、漸く編成が進んだのだ。
特に神聖術師部隊は、カーディナルという最高峰の術師の存在があり、刺激されたのか数多く来る。
「それで、東の大門はあとどれくらい保ちそうだ……?」
「今のままならば……保って、一月かと」
「一月か……その間に、出来る限り訓練を施すぞ」
「ハッ!」
場所は変わり、訓練所。
「違う! そうではない! 攻撃する時は、常に次を意識しろ! 防御にしても、次撃に繋ぐにしてもだ! そうでなければ、戦闘は生き残れないぞ!!」
『はい!!』
志願してきた衛士達に対し、ソルティリーナが訓練を施していた。最初は衛士達にバカにされていたリーナだったが、その剣の腕と複数対1でその衛士達を負かしたことで認められ、衛士達の訓練教官だけでなく、今では隊長の一人に任じられてアシュリーと一緒に会議に出席している。
アシュリーだが、リーナと共に訓練教官をしつつ工作隊に的確な指示により信頼を得て、隊長の一人になっている。
そして、要塞の宿舎として解放されている一角にて
「キリト君……」
アスナが、植物人間状態のキリトの手を握っていた。アスナや知り合いが握る度に、何らかの反応は返ってくるが、大きな反応は無い。本当に復帰するのか分からず、アスナは不安になったが、直ぐに首を振り
(ダメ……私が不安になる訳にはいかない……キリト君やヨシアキ君は、二年間も頑張ってきた……だったら、この程度で私達が不安になる訳にはいかない……信じて進むしかない……)
と自身を鼓舞すると、立ち上がった。すると、様子を見守っていたアリスが
「もう少し一緒に居てもいいのでは? 貴女の話が真実ならば、貴女とキリトは……親密な関係なのでしょう?」
「確かに……けれど、私にもやることがある。だったら、それをやらないと」
アリスの問い掛けに、アスナは気丈に答えて部屋から出た。それを見送ったアリスは、小さく
「なぜ……貴女達は、そんなに強くあれるのですか……」
と呟くと、部屋から退室した。
人界と暗黒界の命運を賭けた戦いの幕開けは近い。