戦端が開かれて、早一時間が経過。人界軍は善戦していたが、最前線を担う部隊はジリジリと後退を余儀なくされていた。
暗黒界軍の数に押され、一人また一人と倒れる兵士達。それを支えるべく、獅子奮迅する整合騎士とアスナ達だった。だが、相手にも知将が居たらしい。
最初に違和感を覚えたのは、デュソルバートだった。
(なんだ……相手の動きに違和感が……)
デュソルバートは違和感を覚えながらも、兵士達の支援をするために矢を次々と放っていた。そして、腰の矢筒に手を持っていった時に、矢が無くなったことに気付いて、一瞬動きが止まった。
その直後
「今だ! 突っ込め!!」
と声が聞こえて最前線に注視すると、ゴブリン達が次々と丸太や槍に縛っていた味方の死骸を投げ捨てて、走りだしていた。
(しまった! 相手の策に気付けなかった!!)
その段階で、デュソルバートは相手の策に気付いた。ゴブリン達は味方の死骸と丸太や槍を使い、即席の案山子を作って、矢避けとして使ったのである。
そうしてデュソルバートの矢が尽きるのを待ち、デュソルバートはまんまとその策に嵌まってしまったのだ。
デュソルバートの使う矢は特別製で、炎の神力に耐えるように熟練の鍛冶職人達により一つ一つ手作りで作られている。
そうなると数を用意する、というのは容易ではなく、今回の戦いに用意出来たのは約二百程であり、予備は後方の補給部隊の陣地にある。
本来だったら矢が切れる前に一度後退し、補給を受ける手筈だったのだが、最前線の支援に集中するあまりに数の把握を怠ってしまっていた。
その隙を突き、ゴブリン達は一気に最前線の兵士達を突破。デュソルバート目掛け走った。ゴブリン達の狙いに気付いたのは、デュソルバート隊に配属されていたウォロだった。
ウォロは目前のゴブリンを切り捨てると、デュソルバート目掛けて走っていたゴブリン達を睨み
「ゴブリン共を止めろぉぉ!! 整合騎士様を守れぇ!!」
ウォロは声を張り上げながら走り、一体のゴブリンをまた切り捨て、さらに走った。ウォロの声でゴブリン達の狙いに気付いた他の兵士達も、デュソルバートを守るべく走り、剣を振るった。
しかし、ゴブリン達の方が数が多い為に完全に止められずに突破され、一体。
平地ゴブリン族の長、コソギがデュソルバートに向かっていた。今さら後退も間に合わず、コソギはデュソルバートを殺せると思って、笑みを浮かべた。
その時、デュソルバートは腰の剣を抜いて矢の代わりにつがえた。
デュソルバートの剣は神器ではないが、それに準じた優先度を誇る業物である。
矢より射程は落ちるだろうが、射ることは出来ると咄嗟に考え
「はあぁぁぁぁぁぁ!!」
烈迫の気合いと共に、剣を放った。デュソルバートの気合いに答えたのか、剣全体を炎が覆ってまるで飛龍のブレスのように一直線に飛んでいき、直線上に居たゴブリン達を消し炭にした。
しかし、それに伴ってデュソルバートは疲弊し片膝を突いた。戦闘が始まってから、ずっと神器の力を解放した状態で矢を放っていたのだから、無理もない。
そこに、傷を負いながらもウォロが駆け寄り
「整合騎士様、ここは我々が引き受けます。一度後退し、補給を!」
と進言した。そこに、新たにアシュリーも駆け寄り
「今後方の部隊から、新たに部隊を投入されました。我々にお任せください!」
と言って、深く踏み込んで一体のゴブリンを腰から両断した。彼女は修剣士学院時代、その速さから疾風の二つ名で呼ばれていた。
その速さは未だに健在で、整合騎士に優るとも劣らない速度で最前線に突入した。その後に、続々と兵士達が突撃。最前線を突破してきたゴブリン達に、次々と斬りかかった。
それを見たデュソルバートは、頷いて立ち上がり
「暫く、頼む……」
と言って、降りてきた飛龍に跨がった。
「は! お任せください!」
ウォロは傷の身を押して立ち上がり、敬礼した。そして、最前線に戻ろうとしたが
「無理するな……軽い傷でもないだろう」
とソルティリーナが、ウォロを止めた。どうやら、援護に来たらしい。
「だが……!」
「安心しろ、後方から神聖術士を何人か連れてきた……治療を受けろ」
そう言われて後方を見ると、確かに何人かの神聖術士が走ってきていた。しかも、その内の一人はカーディナルだった。
「カーディナル様……!」
「安心せい、若いの……腕利きを連れてきたからの……神聖術士隊、威力はこの際構わぬ。手数を重視し、相手を足止めせよ!」
『はっ!』
カーディナルの指示に従い、神聖術士達は詠唱を開始。それを確認したカーディナルは、ウォロに杖を向けて
「今から治療する……少しの間、動くでないぞ」
と言った。流石にカーディナルからの指示には逆らえず、ウォロは不承不承という感じだったが受け入れた。
この時気付かなかったが、ダークテリトリー側に光の柱が降りていた。
まだ、戦いは始まったばかりである。