追い付いたキリトが見たのは、満身創痍のシノンとトドメを刺そうとしていた相手。サトライザーだった。
「させるか!!」
キリトは烈迫の気合いと共に剣を一閃し、シノンの首を掴んでいたサトライザーの左腕を肘辺りから切り飛ばした。腕を斬られて激痛が走っている筈なのだが、サトライザーはむしろ笑っている。キリトはシノンを脇に抱えるようにして後退し
「大丈夫か、シノン」
「げほ……キリト、あんたが目覚めたってことは、ヨシアキも……」
「ああ……ヨシアキはもう一人と戦ってる……あいつが、ベクタか」
「ええ……ごめんなさい、足止めが精一杯だったわ……あれは、サトライザーよ」
「サトライザー?」
「ええ……第一回第二回BoB優勝者……銃の性能じゃなく、プレイヤースキルで優勝した……その理由が分かったわ。菊岡さんの話だと、あいつはPMCの代表らしいわ」
PMC
民間軍事企業、つまりは傭兵である。
なるほど。傭兵ならば、銃の扱い方だけでなく戦闘スキルは非常に高いだろうとキリトは納得した。
「シノンはアスナと一緒に行って、アリスとライカと一緒に脱出してくれ」
キリトの言葉を聞いたシノンは、視線を動かして、キリトの意図を察した。
アリスとライカはミニオンの背中に乗せられていたが、アスナは救助し、近寄ってきた四頭の竜。
その内の二頭。雨頼と風鴇に乗せようとしたが、不意に現れたサトライザーの左腕が二頭に伸びて攻撃した。
雨頼と風鴇を守ろうと
その攻撃で四頭は重傷を負い、サトライザーはトドメを刺そうとしたが、それはキリトによって阻まれて、キリトが
そこに、意識が戻ったアリスとライカが近寄り
卵を受け止めていたアスナが、二人に卵を手渡した。
「アリス、ライカ。それは四頭の卵だ。間一髪だったが、何とか助けられた」
キリトの説明を聞いたアリスとライカは、卵を大切そうに抱き締めた。その間もキリトは、サトライザーから視線を外さなかった。
油断出来ない相手だと、察していたからに他ならない。
すると、アスナが二人に
「アリスさん、ライカさん。あいつの狙いは、貴女達を確保して、この世界から離脱すること……」
アスナが言わんとしている事を察した二人は頷いたが、二人は騎士として最後まで一緒に戦いたかった。
しかし強引に戦い、二人が連れ去られたら元も子もない。だから二人は、後ろ髪を引かれる思いだったが、その場から離脱することを選択。
アスナとシノンの二人と一緒に、ワールドエンドオールターに向けて移動をすることにした。
そして、四人が移動を始めようとした時、サトライザーが攻撃しようとしたが
「させるかっ!!」
それは、キリトによって阻止された。その段階になり、サトライザーはようやくキリトが邪魔だと判断したのか、キリトに意識を向けた。
「行け!」
キリトの言葉の直後、アスナとシノンがアリスを伴って飛んでいった。
こうして、アンダーワールドを巡る戦いは最終局面を迎える。
しかしキリトは、サトライザーから今まで感じた事の無い気配を感じ、言い様の無い不安を覚えた。
殺気、怒気、闘気、その何れとも違う気配。不安を覚えながらもキリトは、サトライザーと相対した。するとサトライザーは、小さく笑って
「さあ、お前の魂の味はどんな味かな……?」
と告げた。
なぜ、魂の味などと言ったのか。
これに関しては、サトライザー。ガブリエル・ミラーの事を説明しないといけない。
サトライザーこと、ガブリエル・ミラー。
彼は裕福な家庭に産まれ、幼少時代から何不自由なく育ってきた。しかしガブリエルは、幼いながらも満たされたなかった。何故満たされないのか分からず、ガブリエルは色々な事をしていた。
大きな転機が来たのは、まだ幼い頃になる。
その時ガブリエルは、幼馴染みの少女と家の敷地内の森の中に居た。その少女の名前は、アリス。
そう、UWのアリスと同じ名前の少女だ。
ガブリエルは、その少女を殺害した。
その直後に、アリスから見たことのないモノ。魂が出てきて、ガブリエルはそれを口にした。そして感動した。
初めて満たされたのだ、魂の味に。それ以来、ガブリエルは魂を求めるようになった。
そしてそのアリスの遺体は近くの大きな木のウロに隠した。もちろんアリスが居なくなった為に警察の捜査が入ったが、森が広かった事とウロに隠した事で見つからず、誘拐された、ということになり行方不明で止まった。
しかしそれ以後、ガブリエルは魂を味わえずに大人になり、ある時に父親が経営していた会社。
グロージェン・セキュリティー・カンパニーを受け継ぐ事になり、当時は普通の警備会社だったのを軍事企業に変えた。
その最中に茅場によるSAO事件が始まり、VR技術が大きく発展。ガブリエルはGGOで訓練しながら、魂を求めた。(その最中に大会でシノンと交戦している)
そして今から数週間前、アメリカ中央情報局からある依頼が持ち込まれた。
それが、オーシャンタートルで開発されてるAIの奪取だった。最初は乗り気ではなかったが、話を聞いている内にガブリエルは依頼を引き受ける事にした。
その理由が、真正のAIに進化したとして告げられた二人のAIの名前。
アリスとライカの名前だった。
その名前に、ガブリエルは運命を感じた。
アリスはそのままだが、ライカ。こちらのスペルはlieca。組み換えると、ALICEになる。
その二人ならば、また魂を味わえると考えたガブリエルは自ら部隊を率いてオーシャンタートルに乗り込むことにしたのだ。
そして暗黒神ベクタとしてログインし、自身を暗殺しようと近づいてきた女暗黒騎士を殺し、久しぶりに魂を味わえたガブリエルは感動した。
やはり、魂を味わう事だけが自分を満たすのだと。
そして、自身の肉眼でアリスとライカを見たガブリエルは歓喜した。二人の顔立ちは、初めて魂を味わわせてくれたアリスによく似ていたのだ。
だからガブリエルは、なんとしても二人を手中に納めようとしていた。
この世界を巡る戦いは、終焉に向かう。