ソードアート・オンライン 黄昏の剣士   作:京勇樹

24 / 201
今回は幕間でござい
ですので、短いです


フェアリィ・ダンス編
幕間


オフホワイトに統一された病室に、ベッドに寝ている少年とイスに座っている一人の少女の姿があった

 

深い青に光っている三個の点

 

それがまるで、星座のように並んで瞬いていた

 

それを見つめているのは、フルダイブ型VRマシン《ナーヴギア》を着けている人物、桐ヶ谷和人の妹

 

桐ヶ谷直葉(きりがやすぐは)である

 

「頑張って、お兄ちゃん……」

 

直葉はそう言いながら、細くなった和人の手を握った

 

和人は元々、身体が平均的な男子よりも小柄で細く、顔も中性的なために、小さい時に直葉と並んで歩いていると姉妹と間違われてしまっていた

 

その手はいまや、骨と皮だけという表現が出来るほど細くなってしまっている

 

彼女の兄、正確には従兄なのだが、SAOに囚われてから既に二年近くが経過している

 

その二年の間に、四千人近くの人が和人が着けているのと同じナーヴギアで脳を焼かれて死んでしまった

 

SAO事件

 

それが、和人が関わっている事件の名前である

 

SAOとは、ソードアート・オンラインの略称である

 

このSAO事件というのは、今から二年前に始まった世界で初めてのVR事件である

 

SAOを実質一人で作った茅場晶彦が起こしたこの事件は、ソードアート・オンラインが正式稼働した日に起きた

 

約一万人の人々が囚われて、ゲームで死んだら、ナーヴギアによって、脳を焼かれて現実でも死ぬ

 

世界で初めてのVRゲームは、文字通りのデスゲームに変わったのだ

 

そして、SAO事件は開始一カ月で二千人もの死者を出した

 

直葉は人が死ぬ度に気が気でなかった

 

次は兄が死んでしまうのでは? そう思う度に胸が締め付けられる思いで、涙が溢れた

 

だが、ある日にSAO事件対策チームの一人である総務省の人から教えられた言葉を聞いて、直葉は泣くのを堪えるようになった

 

それは、兄が攻略組のトップクラスという事実だった

 

兄である和人のレベルと位置座標が、常に最前線に居ると教えられた

 

兄は、あの世界(ソードアート・オンライン)で、必死に生きている

 

そう思うと、直葉は泣いてはいられないと思った

 

兄が頑張っているんだから、自分も頑張ろうと思った

 

そして気づけば、二年の歳月が経っていて自分はもうすぐで高校生になろうとしていた

 

「頑張って、お兄ちゃん……」

 

そう言いながら直葉が、和人の頬を撫でていると

 

「失礼しまーす」

 

という、聞き慣れた声が直葉の耳に入った

 

直葉が振り向くと、そこに居たのは

 

「結華ちゃん、来てくれたんだ」

 

「おう」

 

直葉の親友

 

常村結華(つねむらゆいか)の姿があった

 

常村結華は直葉のクラスメイトで、和人がSAOに囚われて落ち込んでいた時期に励ましてくれた友人である

 

「ほれ、兄貴から見舞いの品だ。それと伝言で『今日は見舞いに行けなくて、すまない』だってさ」

 

結華はそう言いながら、直葉にフルーツが入ったカゴを差し出した

 

「ありがとうね……それと、お兄さんには気にしないでください。って言っておいてくれるかな?」

 

「あいよ」

 

結華はそう返事をすると、直葉の隣に立って眠っている和人を見下ろした

 

結華の兄、常村勇作(つねむらゆうさく)は和人の一つ上で、和人の数少ない友人である

 

和人がSAOに囚われたと聞いて、彼と彼の友人である夏川俊平(なつかわしゅんぺい)が駆けつけて、涙ながらに頭を下げてきたのを直葉は覚えている

 

なんでも、和人が中学に入ってから引きこもりがちになって自宅でMMORPGにのめり込んでいってるのを知って、なんとかしようとした矢先にSAO事件に巻き込まれたからだ

 

もう少し早く、自分達が動くか、適度に友人として接していれば、こんなことにならなかったのではないか? と、後悔したらしい

 

それを聞いた和人と直葉の母親、桐ヶ谷翠(きりがやみどり)は、彼等に対して

 

「今回のことは、あなた達のせいではないわ。少し、運が悪かっただけ……」

 

と、涙を滲ませながら語った

 

それから彼等はこの二年間、暇さえあれば、ほぼ毎日お見舞いに来てくれて、直葉を励ましてくれた

 

直葉としては、もう二人の兄のような頼りがいのある人物である

 

閑話休題

 

直葉の隣に立って、和人を見ていた結華が

 

「早く帰ってくるといいな……」

 

と、直葉に優しく囁いてきた

 

「うん……」

 

直葉はそんな結華に感謝しながら、和人の顔を見つめた

 

それから数秒間、二人は無言でいると

 

「さってと……」

 

と、結華はドアに向いて

 

「そんじゃあ、あたしは裕也の所に行ってくるな」

 

と、片手を上げながら告げた

 

裕也というのは、本名を防人裕也(さきもりゆうや)と言い、同じ病院に入院している同い年の少年である

 

結華と裕也は付き合っており、出会いは結華が和人の見舞いに来た時に裕也が苦しそうにしていたのを見つけたのが始まりらしい

 

その後、何回も会って話し合っていく内に裕也が生きることに絶望しかけていることに結華が気づき根気よく支え続けて、今は生きようとしているとのことだ

 

「私も後で行くね?」

 

「おう、そうしてくれ。そうすれば、裕也も喜ぶから」

 

そう言いながら、結華がドアに近づくと、結華が触れるより早くドアが開き

 

「あら、今日も来てくれたのね」

 

和人と直葉の母親の翠が立っていた

 

「どうも、翠さん。兄貴からのお見舞いの品を渡しておきましたから」

 

「あら、いつもありがとうね。お兄さんにも御礼を言っといてくれるかしら?」

 

結華の言葉と直葉の持っているカゴを見て、微笑みながら礼を述べた

 

すると結華は、頭を下げながら

 

「はい、言っておきますね。それでは」

 

そう言ってから、翠とすれ違うように病室を出ていった

 

すると翠は、ベッド横の小さい机に置いてある花瓶に持っていたコスモスの花束を生けながら

 

「良い子よね、あの子」

 

と呟いた

 

翠の呟きを聞いた直葉は頷いて

 

「うん……結華ちゃん、優しいから」

 

と言った

 

それから、ふと思い出して

 

「そういえば、母さん、よく来られたね。校了前なんでしょ?」

 

と翠に聞くと、翠はニッと笑って

 

「押し付けて抜け出してきたわ。いつもあんまり来られないけど、今日くらいはね」と言ってのけた

 

直葉は心中で、押し付けられた人物に黙祷を祈りながら

 

「そうだね……今日はお兄ちゃんの……誕生日だもんね」

 

と、和人の顔を見ながら言った

 

直葉の言葉を聞いて、翠は和人を見下ろしながら

 

「和人も……もう十六歳なんだね……」

 

翠はそう言いながら、肩辺りまで伸びた和人の髪を顔から払った

 

そのまま数秒間、二人揃って黙っていると翠がポツリと

 

「……今でも、昨日の出来事みたいに思い出すわ。私と峰嵩(みねたか)さんが居間で映画を見てたら、和人がいきなり後ろから『本当の両親のことを教えてほしい』って言い出した時のこと」

 

そう言いながら、当時を思い出して翠は淡い苦笑を浮かべた

 

「あの時は、本当にびっくりした。和人はまだ十歳だったのよ? 直葉が高校に上がるまで……ってことはまだ七年も秘密にしておくつもりが、この子ったら自分で住基ネットの抹消記録に気づいちゃって」

 

直葉にとって、その話は初めて聞いた

 

しかし、和人なら有り得ると思い、笑いながら

 

「まったくお兄ちゃんらしいね、それ……」

 

と、翠に同意した

 

「あんまり驚いたんで、シラを切り損ねてね。それが和人の作戦だったみたいで、峰嵩さんなんか、後で『してやられた!』って、悔しがってたわ」

 

ただ、和人のドヤ顔があまりにもムカついたから、一発殴ったけど

 

と、翠はボヤいた

 

確かに、その頃からだった

 

和人と直葉の会話が減り始めたのは

 

和人は翠の姉夫婦の一人息子である

 

その姉夫婦は、和人が一歳にも満たないころに事故にあい他界

 

和人も大怪我を負ったものの、一命を取り留め、その和人を翠が引き取ったのである

 

その事実を直葉が知ったのは、二年前の冬だった

 

和人がSAOに囚われてしばらくした後だった

 

その頃の直葉は、事件で大きなショックを受けていて、その話を翠から聞いた時は翠に当たり散らした

 

二年経った今でも、心の中に自分だけが知らなかったという疎外感が残っている

 

だが、最近になってようやく当時の両親の気持ちを理解できるようになってきていた

 

直葉が高校になってから教えるという本来の予定を早めたのは、和人が生きてる間に真実を教えておこう、という両親の苦渋の決断だったのだ

 

このSAO事件は、発生してから僅か一カ月の間に二千人という凄まじい数の死者が出た

 

あの状況だったら、両親は否が応でも和人の死を覚悟しなければいけなかっただろう

 

最悪の事態になってしまった場合、直葉だけが知らなかったということを後悔しないように、っと両親は考えたのだと、直葉は予想している

 

ぶつかり合う幾つもの感情を抱えたまま、直葉はほぼ毎日和人の病室に訪れて、懸命に考え続けた

 

和人が実の兄じゃなかったことで、なにが失われるのか?

 

やがて出た答えは……何も失われない。だった

 

失うモノなど何もなく、真実を知る前も、知った後も、自分は和人の生存と帰還を第一に祈っているのだから

 

それから翠と直葉は他愛ない会話をしてから、病室を後にした

 

それから二ヶ月後、桐ヶ谷家に病院から和人の意識が戻ったという連絡が来て、直葉と翠、そして峰嵩は和人の病室に駆け込んだのだった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「おい……これはどこの映像だ……?」

 

ある一室に集まっていた数人の少年少女のうち、逆立った赤い髪が特徴の大柄な少年が映像を見せてきた少年に問い掛けた

 

「……某MMORPG攻略サイトにアップされていた映像だが……どう思う?」

 

「どうもこうもあるか!! これは間違く、あいつの動きじゃねーか!!」

 

その少年からの問い掛けに、赤髪の少年は声を荒げながら机を叩いた

 

それを見ていた少女達は、信じられないと言わんばかりに固まっている

 

「あいつはまだ目覚めてない……だが、この映像の動きは間違いなく、あいつのだ……」

 

と赤髪の少年が唸っていると、先ほどの少年が

 

「……それでなんだが、このゲームは   社が管理しているゲームだ」

 

「なに……?」

 

その少年からの言葉を聞いて、赤髪の少年は疑いの眼差しを向けた

 

「……アーガス社が倒産した後、サーバーを管理していたのは   社でこのゲームの管理も   社だ」

 

「偶然か……?」

 

赤髪の少年はしばらく唸ると、顔を上げて

 

「俺達も入るぞ! お前ら、     はまだあるな!?」

 

赤髪の少年が問い掛けると、全員頷いた

 

「行くぞ、あいつを探しに!」

 

「「「「「うん!(はい)(うむ)」」」」」

 

こうして、少年少女達は動きだす

 

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