ソードアート・オンライン 黄昏の剣士   作:京勇樹

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戦闘開始と希望

スイルベーンから出発して、二人は飛びながら数回ほど、モンスター戦闘を行った

 

そして、キリトの戦いを見てリーファは呆れた

 

理由はというと、キリトの戦い方があまりにもデタラメだったからだ

 

一般的なプレイヤーは、一撃いれたら距離を取るいわゆる、ヒットアンド・アウェイを意識するものだが、キリトの場合は一撃入れたら更に接近するのだ

 

要するに、ヒットアンドヒットなのである

 

この戦い方はモンスターには有効かもしれないが、対人戦で相手に魔法使いタイプが居たら苦戦は必至なのである

 

リーファの言葉を聞いて、キリトが唸っているととても高い山にさしかかった

 

リーファはそこで着地すると、空の旅は一旦お休みと告げてきた

 

理由はというと、その山は飛行制限高度よりも高いからだそうで、突破する方法は東西南北にある地下道を通るしかないのだ

 

そして地下道を通るために、キリトはユイに教わりながら、初めて魔法を使ったが、詠唱がたどたどしかった為リーファやユイから注意された

 

そして地下道を歩いていると、ユイが近づいてくるプレイヤー集団を感知した

 

その数、12人

 

人数を聞いて、リーファは驚いた

 

それは、この地下道ことルグルー回廊を通るには明らかに多いからだ

 

もし、シルフとケットシーによるキャラバン隊ならば、事前に募集の通達があるはずなのである

 

だが、リーファの記憶では、そういった募集の通達は無かった

 

だったら考えられるのは、何らかの作戦部隊である

 

12名というのは、ALOにおけるフルパーティー二つ分である

 

この人数はもはや、フィールドボスなどに挑む人数である

 

リーファは用心を重ねて、隠蔽魔法を使い自分達の姿を隠した

 

すると、キリトが目を細めながら

 

「なあ、あれはなんだ……?」

 

と言いながら、前方を指差した

 

「え? どれ?」

 

リーファも前方を見つめるが、見えないのでキリトに問い掛けた

 

「ほら、アレだよ……なんていうか、コウモリの羽を生やした火の玉みたいな……」

 

キリトが特徴を告げた途端、リーファは目を見開いて

 

「……クソっ」

 

小さく悪態を吐くと、自身が張った隠蔽魔法を突き破って通路に飛び出した

 

「お、おい!?」

 

リーファの突然の行動に、キリトは大声を上げた

 

「あれは高位のトレーシング・サーチャー魔法よ! 潰さないと!」

 

リーファはそう言うと、両手を高く掲げて呪文を詠唱した

 

呪文の詠唱が終わると、リーファは両手を前に突き出した

 

それと同時に、薄緑色の弾が雨霰と発射された

 

火の玉コウモリはヒラヒラと最初は避けていたが、弾幕の厚さに避けきれず次々と被弾し、消えた

 

消えたのを確認すると、リーファは通路の奥目掛けて駆け出した

 

「リーファ!?」

 

いきなり駆け出したリーファを見て、キリトは驚きながらもリーファを追いかけて走り出した

 

「どうしたんだ!?」

 

キリトが問い掛けると、リーファは走りながら

 

「さっきのトレーシング・サーチャーは火属性だった! つまり、今こっちに近づいてるのは……」

 

「サラマンダーか!」

 

キリトはなぜ、リーファが駆け出したねか察した

 

サラマンダーとシルフは仲が非常に悪い

 

しかも、相手はフルパーティー二つ分の人数である

 

接敵したら、戦闘に入るのは確実である

 

それが分かったキリトは速度を落とさずに、リーファと一緒に走った

 

しばらく走ると、坑道を抜けて広い空間に出た

 

その広い空間はどうやら地底湖らしく、坑道から大きな橋が巨大な門まで架かっている

 

リーファは巨大な門を指差しながら

 

「あの門の向こうが、地下都市のルグルーよ! そこに入ってしまえば、中立域だから戦闘はできない!」

 

「なるほど!」

 

リーファの言葉を聞いて、キリトが返答した時だった

 

二人の頭上を、一つの光が駆け抜けた

 

リーファはそれを見上げると

 

(サラマンダーの魔法? 外した?)

 

と思いながら、内心で首を傾げた

 

その直後、その魔法は二人の進路上に着弾して、土煙が晴れると巨大な壁があった

 

それを見たリーファは思わず、足を止めて

 

「しまった……っ」

 

と呟いた

 

そのタイミングで、キリトが抜剣しながら壁に突撃して壁に向けて、剣を振り下ろした

 

が、剣は金属音を響かせて弾かれた

 

「こいつは……」

 

剣が当たった場所を見て、キリトが呟くと隣に来たリーファが

 

「無駄だよ……それは、土属性の防御魔法。破壊するには、攻撃魔法を大量にぶつけるしかないよ」

 

と、キリトに教えた

 

それを聞いたキリトは、リーファに視線を向けて

 

「そういうのは、もう少し早く教えてほしかったよ……」

 

と呟いた

 

それを聞いたリーファは

 

「言おうとしたら、キミが先に突撃したんでしょ……」

 

と溜め息を吐いた

 

するとキリトは、視線を地底湖に向けて

 

「あの湖に飛び込むってのは?」

 

と問い掛けた

 

問い掛けられたリーファは、首を振って

 

「なし……水中には強力な水棲モンスターが居るって話だし。ウンディーネの支援なしに飛び込むのは、自殺行為」

 

リーファの話を聞いて、キリトは視線を前に向けながら

 

「だったら、ヤるしかないってことか……」

 

と言いながら、剣を構えた

 

リーファも視線を坑道に向けると、坑道内からサラマンダー隊の姿が見えた

 

それを見たリーファも剣を抜いて

 

「そうみたいね……」

 

と呟いてから、剣を構えた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

じっとりと冷たい指先が自身の二の腕を這い回っている感触に、アスナは必死に耐えていた

 

鳥籠の中央の巨大なベッドの上で、緑色のトーガをだらしなく着崩してオベイロンがその長身を横たえている

 

その横にアスナを座らせて、アスナの左手を撫で回している

 

その気になれば、何時でも襲えるという状況を楽しんでいるのだろう

 

その端正な作り物の顔には、いつもよりも粘りついた笑みが浮かんでいた

 

そして、ベッドの近くにはあの黒騎士の姿もある

 

数分前にオベイロンが鳥籠に来るなり、ベッドに横たわるとアスナに隣に来いと言ってきた

 

無論、アスナとしては拒絶しようと思ったし、触ってきた時は危うく殴りそうになった

 

それでも、アスナは嫌悪感を必死に耐えながら唯々諾々と言葉に従った

 

その理由は、感情の起伏が激しいこの男から今以上に自由を奪われるのを恐れたからである

 

なにしろ、オベイロンはアスナが反抗するのを待っているようだ

 

タップリとアスナが嫌がっている様子を満喫した上で、システム的に束縛し実力行使をしようとしているのだろう

 

(今はまだ、籠の中だけでも自由に動けるようにしとかないと……少しでも、脱出の可能性が残ってるなら……)

 

そう思ってはいるが、アスナにも我慢の限界というものはある

 

もし、オベイロンが直接体に触ってきたら、右拳を本気で顔面に叩き込んでやる

 

そう思いながら、アスナが体を石のように固くしていたら、オベイロンは何の反応も無かったからか失望した様子で身を起こして

 

「ヤレヤレ……頑なな女だね、君も」

 

と言いながら、首を振った

 

その声だけは、アスナの記憶にある須郷の声を完全に再現しており、それがまた嫌悪の元になっていた

 

「どうせ、偽物の体じゃないか。何も傷つきゃしないよ。一日中こんな所に居て、退屈するだろう? 少しは楽しもうって気にならないのかねぇ」

 

自分で閉じ込めておいて、なにを。とアスナは思いながらも、あの世界での二年間の経験を思い出して

 

「……あなたにはわからないわ。体が生身か、仮想かなんてことは関係ない。少なくとも、わたしにとってはね」

 

アスナの言葉を聞いて、オベイロンは喉の奥でクックックと笑いながら

 

「心が汚れるとでも言いたいのかね。どうせこの先、僕が地位を固めるまでは君を外に出すつもりはない。今の内に楽しみ方を学んだほうが、懸命だと思うけどねえ。あのシステムは実に奥が深いよ……知ってた?」

 

オベイロンの言葉を聞いて、アスナは顔を逸らしながら

 

「興味ないわ……それに、何時までもここに居るつもりもない。きっと……助けに来るわ」

 

と言った

 

すると、オベイロンは興味深そうに顔を寄せて

 

「へえ? 誰が? ……ひょっとして彼かな? 英雄キリト君」

 

オベイロンが言ったその名を聞いて、アスナは思わず顔を向けた

 

すると、オベイロンは嫌みったらしいニヤニヤ笑いを大きくしながらアスナから離れた

 

その笑みはまるで、アスナの心を折る弱点を見つけた。と言わんばかりだった

 

「彼……キリガヤ君とか言ったかな? 本名は……先日、会ったよ。向こう(リアル)でね」

 

「…………!!」

 

それを聞いて、アスナは目を見開いた

 

「いやあ、あの貧弱な子供(ガキ)がSAOをクリアした英雄とはとても信じられなかったね! それとも、そういうモノなのかな、筋金入りのゲームマニアってのは?」

 

オベイロンはそう言いながら、嬉々として更に続けた

 

「彼と会ったの、どこだと思う? ……君の病室だよ! 本当の体がある、ね。寝ている君の前で、来月この子と結婚するんだ、と言ってやった時の彼の顔ったら、実に傑作だったね!! 骨を取り上げられた犬だってあんな情けない顔はしないよ? いやぁ、大笑いしそうになったよ!!」

 

オベイロンはクヒッ、クヒッと金属質な笑い声を上げながら体をくの字に曲げた

 

「じゃあ君は、あんな子供(ガキ)が助けに来ると信じているわけだ! 賭けてもいいけどね、あの子供(ガキ)にはもう一回ナーヴギアを被る根性なんてありゃしないよ! 大体、君の居場所がわからないだろ!? そうだ! 彼に結婚式の招待状を送らないとねぇ! きっと来るよ! 君のウェディングドレス姿を見にねぇ! まあ、それくらいのおこぼれくらいは与えてやらないとねぇ! 英雄君にもさぁ!」

 

その言葉を聞いて、アスナはゆっくりとうつむいた

 

オベイロンに背中を向けて、体をベッドの天蓋に掛けられている大きな鏡に預けて、力無く肩を落としてから大きなクッションをギュッと抱きしめた

 

そんなアスナの様子に満足したのか、オベイロンはベッドから離れた

 

「あの時は監視カメラを切っておいたから、しょぼくれた彼を撮影出来なかったのは、惜しかったなぁ……もし撮れてたら、動画を持ってきてやったのに……次の機会があったら、試してみようかなぁ……では、しばらくの別れだ。ティターニア……明後日まで、寂しいだろうけど堪えてくれたまえよ」

 

オベイロンはそう言うと、大声で笑いながら扉に向かった

 

そんなオベイロンを、アスナはすすり泣くフリをしながら鏡を介して見ていた

 

(……キリトくんは……キリトくんは向こうに帰ってる!)

 

それは、アスナがこの世界に囚われてからの最大級の憂慮だった

 

もし、キリトまでも捕まっていて実験に使われているのではないか?

 

そんな考えを、アスナは必死に打ち消しながらも、その暗い考えがアスナの心に闇となって広がっていた

 

だが、その最大級の心配も、オベイロンがきれいに消してくれた

 

オベイロン、須郷は昔から愚かな男だった

 

他人を言葉でこき下ろす衝動を、一切我慢できないのである

 

アスナの両親の前では、うまく猫を被って騙していたようだが、アスナや兄は、須郷の他人に対する毒舌に何度となく辟易させられた

 

それはまさに、今もそうである

 

本当にアスナの心を折りたかったのならば、現実世界でのキリトのことを言うべきではなかったのだ

 

キリトは自分の実験に使っている、と言うべきだったのである

 

(キリトくんは帰っている……ちゃんと、現実世界に帰還できて、わたしを見つけてくれた!)

 

アスナは何度も、その事実を噛み締めた

 

そうする度に、アスナの心の中の炎は強く、大きくなっていった

 

帰還していて、見つけてくれたのならば、キリトがただ状況を黙視しているだけなわけがない

 

絶対にこの世界のことを知り、自分の所にやってくる

 

だから、自分もただ囚われているわけにはいかない

 

出来る事を一つだけでもいいから見つけだし、躊躇わずに実行するのだ

 

アスナは鏡に顔をくっつけて悲嘆に暮れるフリをしながら、鏡をジッと見つめていた

 

鏡の向こうでは、ドアに辿り着いたオベイロンがチラッと振り向いて、アスナの様子を確認している

 

そして、ドアの脇には小さい金属製のプレートがあり、十二個の小さなボタンが並んでいる

 

そのボタンを正しい順番で押すことにより、ドアが開閉する仕組みらしい

 

何もそんな面倒な仕組みにせずに、管理者属性を有する者だけがドアを開けられるようにすればいいのだが、そこにはどうやら、オベイロンなりの美学があるらしい

 

それは、この世界にシステム臭のするモノを持ち込むのが嫌いのようだ

 

この世界では、自分は妖精王であり、囚われの王妃を虐げているつもりらしい

 

そこもまた、この男の愚かしさであり、キズなのだ

 

そして、アスナの様子を見て満足そうに頷くと、オベイロンはボタンを押し始めた

 

そして、アスナはオベイロンが押しているボタンの順番を一つずつ確実に覚えていった

 

本来だったら、この距離では遠近エフェクトが効いて、満足に見えない

 

だが、鏡を介して見ることによって、そのエフェクトは効かなくなる

 

アスナはその事を随時前に、偶然知ったのだ

 

それ以来、自然と鏡に顔を向けるチャンスを待っていたのだ

 

そして、そのチャンスは来た

 

まさか、アスナが脱出する気とは気づいてないオベイロンは、ボタンをゆっくりと押している

 

その速度はアスナにとってはありがたいもので、アスナはオベイロンが押している手順を見逃すまいと、瞬きもせずに見ていた

 

そして、ボタンを押し終わるとドアを押し開き、振り向いた

 

そして、アスナの姿を再び確認すると籠から出て太い枝を歩いていった

 

そのオベイロンの後を漆黒の騎士も付いて行ったが、籠から出ると一旦振り向いて、アスナに向けて手を伸ばした

 

それを鏡越しに見たアスナは、僅かに眉を上げた

 

だが、漆黒の騎士はすぐに手を下ろすと、オベイロンを追って消えた

 

(あの動きはなんだったの……)

 

アスナはそう思いながら、ベッドに寝転がった

 

(やっぱり、あの黒騎士はわたしの知ってる人なの?)

 

アスナはそう思うと、黒騎士の装備を思い出し始めた

 

(確か……右腰に片手用直剣、背中に槍……太腿に投剣)

 

そこまで思い出した直後、アスナは思わず飛び起きた

 

「待って……そんな……」

 

それらの装備を一度に使っていたのを、アスナは一人だけ知っている

 

「ありえない……」

 

アスナの脳裏によぎったのは、オレンジ色の装備で身を固めた一人の少年

 

「ありえない……だって、彼は……」

 

アスナはそこで一旦区切ると、手で口元を抑えた

 

「彼は……あの日あの時に……死んだはず……」

 

そう言うが、どうしても、その人物しか思い浮かばなかった

 

「生きてたの……?」そう呟くが、今のアスナには確認のしようがなかった

 

(もし……もし、彼が生きてたなら、お礼を言いたい……あの時、助けてくれたから、今がある……)

 

アスナはそう思うと、再びベッドに身を横たえた

 

「本当に、彼なのかわからないけど、待ってて……絶対に助けてあげるから……そして、須郷さんには……相応の報いを受けさせるから……」

 

アスナはそう言うと、時を待つことにして眠った

 

 

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