全員が目を開くと見えたのは、まるでどこかの研究所のような白い壁が印象的な廊下だった
「どこだ、ここ……」
キリトが呟くと、ユイがキリトの目線の高さまで飛んできて
「位置座標的には、世界樹の幹の中です」
と説明した
すると、リーファが驚愕した様子で
「世界樹の中!? ここが!?」
と声を上げた
すると、戦斧使いがキリトに近づいて
「よぉ、キリト……久しぶりだな」
と声を掛けた
「まさか……サジ……なのか?」
キリトが恐る恐ると聞くと、戦斧使いこと、サジは頷いて
「ああ、黄昏の風ギルドリーダー代行。サジだ」
と名乗った
すると、リーファが近寄ってきて
「ねぇ、お兄……キリトくん。この人たちは?」
と問い掛けた
すると、サジが
「俺達はキリトと同じ、SAO
と告げた
すると、リーファは目を見開いて
「お兄ちゃんと同じSAO生還者!?」
と驚愕した
SAO
これはネット用語が元で、今から約2ヶ月前まで続いたデスゲーム
ソードアート・オンラインから無事に帰還した人たちを指す言葉である
なお、帰還した約六千人の個人情報は総務省のSAO対策チームによって厳重に秘匿されているので、誰がSAO生還者かは知らされていない
とはいえ、リーファのよう身内やツユカのような友人関係からは知られているが、本人のことを考えて簡単に口外はしない
閑話休題
「それで、なんでALOに来たんだ?」
キリトが問い掛けると、サジは神妙な面持ちで
「いいか、キリト……落ち着いて聞け……ヨシアキは生きてるんだ」
「な、なんだと!?」
サジの言葉を聞いて、キリトは目を丸くして驚愕した
「目覚めた後、俺達はあのバカに文句を言おうと思ってな。同じ病院のアイツの病室に向かったんだ……そしたら、アイツ……まだ目覚めてなかったんだ」
サジの説明を聞いて、キリトは息を呑んだ
サジの話の通りなら、ヨシアキはアスナと同じ状況である
「なんで生きてるのかは分からなかったが、俺達はヨシアキが起きない理由の調査を始めたんだ……そしたら、ヨシアキを含めて約三百人が目覚めてないことが分かった……」
そこまでは、キリトもSAO対策チームの菊岡から聞いた
その内の一人がアスナだ
「そして、調査していく内に旧SAOサーバーの管理、維持を行っていたのがレクトだと知った。しかも、そのレクトに対してアメリカのとある軍需企業が莫大な金額を融資していることも分かった」
「軍需企業?」
サジの説明を聞いて、キリトは片眉を上げた
「ああ……それを知った俺達は、何かあると考えて
「なるほどな……」
サジの説明を聞き終えて、キリトは黙考を始めた
アスナの命を握っているという発言をした須郷に、高々日本の一企業に融資するアメリカの軍需企業
何もないと考えるほうが、無理がある
「それに、俺達として決定的になっのが……これだ」
サジはそう言いながら、ポシェットから一個のクリスタルを取り出した
「なんだそれ?」
「
サジはそう言いながら、結晶をタップした
そこに映ったのは、漆黒の鎧を纏ったアバターだった
「黒騎士?」
「よく見てろよ……」
キリトが眉をひそめていると、サジはキリトに見やすいようにした
すると、黒騎士は左手に片手直剣、右手に槍を構えた
「この構えは……っ!」
キリトが驚きで目を細めた直後、黒騎士は近づいてきたサラマンダーのプレイヤーを左手の片手直剣で切ってから、独楽のように回って、右手の槍で相手を突き刺した
その動きを見て、キリトは目を見開き
「この動きは、ヨシアキの!」
と声を上げた
そこで映像は途切れて、サジは結晶をしまい込んで
「俺達はこの黒騎士がヨシアキだと確信して、ALOにログインしたんだ」
「なるほどな……」
サジの話を聞いて、キリトが納得していると
「キリトくん……ヨシアキさんって?」
とリーファが問い掛けた
「俺達と同じ、SAOプレイヤーの一人だよ……今まで、死んだって思ってたんだがな……」
サジが答えた直後、ユイがフワリと浮かび上がって
「ママ……ママのIDです!」
「どこだ!?」
ユイの言葉を聞いて、キリトが問い掛けるとユイは廊下の先を指差して
「この先です!」
と言うと、我先にと飛び始めた
キリトが駆け出すと、それに続いてリーファやサジ達も駆け出した
そして、少し走るとユイは壁に手を突いた
その直後、ユイが触れた壁が自動ドアのように開いた
ユイが飛び込むと、キリト達も後に続いて光の扉をくぐった
そして、光が途絶えて見えたのは沈んでいく太陽と自分達が足場にしている世界樹の太い枝だった
見えたのはそれだけで、世界樹の上に存在するという都は無かった……
「何も……無い?」
リーファが呆然としていると、キリトは拳を握り締めて
「騙したってのか……許されないぞ……こんなの……っ!」
と憤った
「パパ、この先です!」
ユイが枝の先を指し示して飛び始めると、キリト達は後に続いて歩き出した
そして、少し歩くと先に巨大な鳥籠が見えた
その鳥籠が見えたと同時に、ユイが光り輝き、プライベートピクシーの姿から等身大の少女の姿へと変わった
「ママ!」
ユイは鳥籠に駆け寄ると、右腕を横に振るった
すると、鳥籠のドアはメキャッという音を立てて弾け飛んだ
「ユイ……ちゃん? ユイちゃん!」
アスナは最初、ユイの姿を見て驚いた様子だったが、すぐに目尻に涙を浮かべると駆け寄って、飛び込んできたユイを抱き締めた
「ユイちゃん……ユイちゃん!」
「ママ……ママ!」
アスナとユイがお互いを抱きしめながら名前を呼び合っていると、キリトが穏やかな笑みを浮かべながらゆっくりと歩み寄り
「アスナ……」
と、愛しい人の名を呼んだ
アスナはユイを抱き締めたまま立ち上がると、キリトを見ながら
「待ってた……信じて待ってたよ、キリトくん……」
と言い、キリトはアスナを抱きしめながら
「ああ……随分と、待たせてしまった……ごめんな、アスナ……」
と謝った
すると、アスナは首を振って
「ううん……キリトくんなら、絶対に来てくれるって信じてたよ……」
と言った
それはまさしく、感動の再会だった
その感動の再会を邪魔すまいと、サジ達とリーファは鳥籠の入り口付近で黙って待っていた
少しすると落ち着いたのか、アスナは目許を吹いて
「それで……そっちの人達は?」
とキリトに問い掛けた
キリトはああ……と言うと、まずリーファを指し示して
「まず、俺の妹のリーファだ……
と説明した
すると、リーファは静かに歩み寄って
「はじめまして、アスナさん……会えて嬉しいです」
と頭を下げた
「こちらこそ、はじめまして……キリトくんを案内してくれて、ありがとうね」
アスナが謝辞を述べると、リーファは両手を振りながら
「いえ、そんな……」
と言った
二人の挨拶が終わると、キリトはサジ達を指し示して
「そして、黄昏の風だ……」
と言った
キリトの説明を聞くと、アスナはハッとした様子で
「そうだ! 聞いて、キリトくん! ヨシアキさんが、生きてるの!」
「なんで、アスナが知って……」
まさか知ってるとは思わず、キリトは驚いた
「早くここからログアウトして、須郷さんのしていることを外の人達に知らせないといけないの!」
「須郷だと! あいつが犯人なのか!?」
アスナが告げた名前を聞いて、キリトは驚いた
その直後だった
「キャアァァ!」
とユイが悲鳴を上げた
「ユイ!?」
「ユイちゃん!?」
キリトとアスナが驚いていると、ユイは頭を抱えて
「パパ、ママ……気をつけてください……何か、良くないものが……」
と言った直後、光となって消えた
「ユイちゃん!?」
「クソッ! 一体何が!?」
アスナが驚きキリトが毒づいた直後、景色が変わり、キリト達は何らかの力によって地面に押しつぶされた
「ぐっ……一体、何だ……!?」
「ぐおぉ……!」
「動けん……!」
「……一体、なにが!?」
キリト達が呻いていると、コツコツという靴音が響き
「どうだい、この重力魔法のお味は? 今度のアップデートで実装予定なんだが、強過ぎたかな?」
という声が聞こえた
全員が声のした方に顔を向けると、妖精王オベイロンこと、須郷がいやらしい笑みを浮かべていた
「妖精王……オベイロン!?」
リーファが驚いていると、アスナが須郷を睨みつけて
「須郷さん……諦めなさい! あなたのやっていることは、すぐに知られるわ! あなたがやっているのは、許されないのよ!」
と叫んだ
「あれが……須郷だって!?」
「須郷っていやぁ……」
「……レクトのVR研究部門の責任者だ!」
アスナの言葉を聞いて、キリト、サジ、ムッツの三人は驚いた
すると、須郷は首を振りながら
「ヤレヤレ……興醒めだなぁ……この姿の時は……妖精王オベイロン閣下と……そう呼べ!」
と言いながら、近くに居たキリトの顔を蹴った
「ぐっ……!?」
「キリトくん!」
ペインアブソーバーによって実際に痛いわけではないが、鈍い衝撃がキリトを襲った
「それに、誰が僕を許さないというんだい? 神であるこの僕をさ!?」
須郷がそう言うと、サジが須郷を睨みつけて
「俺達が許さない……っ! ヨシアキやアスナだけじゃねぇ……目覚めてない三百人のSAOプレイヤーに何をしやがった!?」
サジが怒鳴るように聞くと、須郷は金属質的な笑い声をあげて
「なに、簡単な話さ……彼らには僕の実験に協力してもらったのさ……彼らの協力のおかげで、洗脳の研究は実に捗ったよ!」
須郷の説明を聞いて、サジ達は息を呑んだ
すると、須郷は何かを考えるような表情を浮かべて
「そういえば、君たちの他に変なプログラムが有ったなぁ……どうやら、逃げられたようだがね……それにしても、ここまで侵入されるなんて、運営チームの怠慢だねぇ……」
と呟いた
その須郷の呟きを聞いて、キリトとアスナは安堵した
どうやら、ユイは無事らしい
今は恐らく、キリトのナーヴギアに避難しているのだろう
「しかし、この状況は嬉しいねぇ……君たち、ナーヴギアでログインしているのだろう? おかげで、実験台がまた増えるねぇ」
須郷がそう言うと、リーファがなんとか上半身を起こして
「残念でした……あたしはナーヴギアじゃないわ……今ログアウトして、あなたのやっていることを警察に通報すれば……っ!」
と言うと、左手を動かした
その時、須郷がリーファを見ながら
「させないよ!」
と言って、左手を高速で動かして何らかの操作を行った
すると、メニュー表を表示させたリーファが
「そんな……ログアウトが無い!?」
と驚愕した
すると、須郷は耳障りな笑い声を上げて
「今、この場に居る君たちのログアウト機能は封印させてもらったよ! さあ、楽しい余興の始まりだぁ!」
須郷はそう言うと、狂気的な笑みを浮かべて
「今この場の全てのログは記録中だ! 君たち名誉に思いたまえ! 僕の偉大な実験の糧になれるのだからね!」
と言った
そして、須郷がアスナに向かって手を伸ばすとアスナの両手を何処からか伸びてきた鎖が縛って宙に吊り上げた
「くっ……!?」
アスナが何とか鎖を外そうともがいたタイミングで、須郷は次に両手を上から下へと振り下ろした
その直後、キリト達全員を更なる重さが襲った
「ぐっ……がっ!?」
「クソッたれがぁ……!?」
「あっ……ぐっ!?」
突っ伏しているキリト達は何とか起き上がろうともがき、アスナはうめき声を漏らした
すると、そんなアスナに須郷は歩み寄って胸元のリボンを解きながらアスナの顔を舐めまわした
「ヒャハハハハハ! 甘い! 甘いよ! わざわざ病室に機材を運び込んで、調べた甲斐があったよ!」
「キリト……くん!」
須郷の所業に、アスナは不快感を堪えながらキリトの名を呼んだ
「須郷……! 貴様……貴様あぁぁぁ!!」
「ぶっ殺してやる……この外道がぁぁ!」
「この……動いて……動いてよ!」
「アスナが……アスナが!」
「アスナさん……っ!」
キリトやサジ達は声を出しながら、須郷を睨みつけた
すると、須郷は倒れているキリト達に近寄って
「うるさいなぁ……少しは静かにしろっ!」
と言うと、キリトの背中の剣を掴んで、キリトの背中に突き刺した
「ぐぅっ!?」
「キリトくん!」
続いて須郷は、サジ達に視線を向けて
「お前達には……こいつにしよう」
と言いながら、ウィンドウを操作した
すると、須郷の背後に光が集まり、黒騎士が現れた
「ヨシアキ……? ヨシアキ!」
「ヨシアキ、ワシらじゃ!」
「……ヨシアキ!」
サジ達が声を掛けるが、黒騎士は何の反応も示さなかった
すると、須郷が
「さあ、黒騎士! お前の剣で、そいつらを殺せ!」
と命令を下した