須郷は一旦命じるとキリトに視線を向けてから、手を叩いて
「と、そうだ……ペインアブソーバをレベル10からレベル8へ!」
と言いながら、ウィンドウで何かしら操作した
その直後
「グウゥッ!?」
キリトが呻き声を上げた
「キリト……くん!?」
「キリト!」
キリトが呻き声を上げると、アスナは痛みをこらえながら、サジ達はなんとか上半身を起こしながら声を出した
須郷はキリトの様子を見て、金属質な笑い声を上げながら
「痛いかい? でも、まだまだだよ? これからじっくりと痛みを強くしてあげるよ! まあ、レベル0にすると、何らかの障害が発生するらしいけど……そんなの知ったことじゃないね!」
須郷はそう言うと、キリトに歩み寄ってわざと突き刺さっている剣を揺らした
「ギッ……ガァァァ!」
「ヒハハハハハ! いいね、いいね! 最高だね! ガキはガキらしく、地べたに這いつくばってるがいいさ!」
キリトの叫び声を聞いて、須郷は笑いながらそう言うと、黒騎士に対して
「さあ、新たな実験動物を迎えいれるために殺してやれ!」
と命令した
その命令を受けて、黒騎士はゆっくりとサジ達に向けて歩き出した
「ヨシアキ!」
「……ヨシアキ!」
「帰ってくるのじゃ!」
「みんな、あなたを待ってるのよ!」
「ヨシアキさん!」
全員は歩み寄ってくる黒騎士、ヨシアキに対して口々に語り掛けた
その時だった
「ぐっあ……っ!」
突如として、ヨシアキが頭を抱えて唸り始めた
それに気づいて、須郷は剣から手を離すとヨシアキに歩み寄って
「実験動物のくせに逆らうなよ! 言うことを聞け! ご主人様の命令なんだぞ!」
と言いながら、ヨシアキを蹴った
「てめぇ……その汚ぇ足でヨシアキを蹴るんじゃねぇ!」
「……絶対に許さない!」
サジとムッツは怒りを露わに声を上げた
すると、須郷はまるで実験動物を見るような目で二人を見下ろして
「実験動物風情が……黙ってろよ!」
と言って、二人の顔面を蹴った
「ガッ!」
「……グッ!」
「お兄ちゃん! 起きて、お兄ちゃん!」
リーファが涙ながらに呼びかけるが、キリトはピクリとも動かなかった
実を言うと、この時キリトは諦めかけていたのだ
(この程度……なのか……やっぱり俺は、無力なガキなのか……)
キリトが絶望しながらそう思っていた、まさにその時
(諦めるのか?)
という、男の声が頭の中に響いた
(認識するんだ、現実を……この世界では、システムこそが絶対だ……)
(屈するのか? システムに?)
(仕方ないだろ……相手は
(その発言は、あの世界での最後の戦いを侮辱する発言だな)
そこまで来て、キリトは気づいた
その男の声に、聞き覚えがあることに
「まさか……」
そう呟きながら、キリトは僅かに顔を上げた
すると、白衣を着た男の姿が薄く見えた
「立ちたまえ、キリト君……」
白衣の男はそう言うと、その姿を消した
「グッ……オオオォォォ!」
キリトは雄叫びを上げながら、少しずつ立ち上がった
「あぁ? ちっ……運営チームの無能共め……バグがあるじゃないか……」
須郷はそう言うと、立ち上がったキリトに歩み寄って
「ガキは無様に這いつくばってろよ!」
と言いながら、キリトに対して拳を振るった
しかし、その拳をキリトは受け止めた
「なっ!?」
キリトの行動に須郷が驚いていると、キリトは決意の籠もった目で須郷を睨みながら
「システムログイン……ID《ヒースクリフ》パスワード……」
と呟いた
「何をするつもりかは知らないが、ここでは私が神だ!」
と須郷は言いながら、ウィンドウを操作しようとした
だが
「管理者権限発動……ID《オベイロン》の管理者権限をレベル1に変更」
とキリトが言った直後、ウィンドウが消えた
「なっ!? 何が起きたんだ!?」
須郷が驚いているのを無視して、キリトは苦しんでいるヨシアキに視線を向けて
「ID《黒騎士》に対する操作を解除……更に、重力魔法の解除」
と呟いた
その直後、苦しんでいたヨシアキの呻き声が止み、サジ達が立ち上がった
「くそ! 何がどうなってるんだ! オブジェクト《エクスキャリバー》をジェネレート!」
須郷は苛立たし気に虚空に向かって叫ぶが、何も起きなかった
すると、地団駄を踏みながら
「くそ! オブジェクト《エクスキャリバー》をジェネレート! 言うことを聞け! このポンコツが! この僕の……神の命令だぞ!」
須郷は尚も叫ぶが、何も起きなかった
「いや……お前は神なんかじゃないさ……お前は盗んだだけだよ……仮初めの玉座にふんぞり返って威張り散らしてるだけの、泥棒の王様だったのさ」
キリトは哀れそうな表情を浮かべて、須郷を見ながらそう言った
「このガキィ……!」
須郷は怒り心頭といった様子でキリトを睨むが、キリトはサラリと受け流して
「あの男は正々堂々と戦ったよ……ヒースクリフ……いや、茅場晶彦はな」
と言った
すると、須郷は目を見開いて
「ヒースクリフ……茅場ぁ……! あんたはくたばったんだろ!? なんで死んでまで、僕の邪魔をするんだよ! いつもそうだ……あんたは僕の欲しかった物を掠めとって……!」
と憎々しいと言った様子で呟いた
すると、キリトは首を振って
「あんたの気持ちも分かるよ……俺もヒースクリフに負けて、部下にされたことがあるからな」
と言った
すると、須郷は歯を食いしばって
「貴様ぁ……!」
とキリトを睨んだ
キリトはそんな須郷を無視して、僅かに視線を上に上げて
「オブジェクト《エクスキャリバー》をジェネレート」
と呟くように言った
すると、キリトの前の空間が歪み、そこに黄金の長剣が出現した
キリトはそれを掴むと、不快感を覚えた
ALOをプレイしている幾多のプレイヤーが心の底から欲した剣が、たった一つのコマンドで手元に現れた
キリトは目を瞑ると、エクスキャリバーを無造作に須郷の方に投げた
エクスキャリバーはくるくると回りながら飛んでいき、須郷の前の地面に突き刺さった
須郷は呆然とエクスキャリバーとキリトを交互に見ると、恐る恐るといった様子でエクスキャリバーを掴んだ
キリトはそれを視界の端で確認すると、左足を少し持ち上げて
「決着を付けよう、須郷」
と言って、左足を勢い良く下ろした
すると、キリトから抜け落ちていた剣の塚尻を踏む形になり、ギャリィンという音を立てて、剣は回りながら反動で飛び上がった
それをキリトは、無造作に右手を横に振って掴むと
「泥棒の王様と
と言いながら、剣を須郷に突き付けた
そして、視線を縛られたままのアスナへと向けた
(ごめん……もう少し……もう少しだけ待ってくれ……)
(うん……待ってるよ、キリト君)
キリトはアスナとの視線での会話を終えると、視線を上げて
「システムコマンド……ペインアブソーバをレベル0へ」
と呟いた
「な、なに……?」
キリトの呟きを聞いて、須郷は頬をひきつらせながら後退りした
なにせキリトがしたのは、仮想世界に於いての痛みを無制限に設定したからだ
「逃げるなよ、須郷……あんたに、逃げる権利なんてないんだよ」
キリトはそう言いながら、馴染みの構えをとった
すると須郷は、ゴクリと唾を飲み込むと
「う、うわああぁぁぁぁ!」
と声を上げながら、剣を振りかぶりながらキリトに突撃してきた
だが須郷のその動きは、かの鋼鉄浮遊城のトップランクプレイヤーだったキリトにとっては、欠伸が出るほど遅かった
「ギャアアアァァァ!」
キリトが剣を振り上げた直後、須郷はキリトの背後で絶叫を上げながらうずくまった
なぜならば……
「手が……僕の手があぁぁぁ!」
キリトによって、須郷の右手が手首から斬り飛ばされたからだ
キリトが斬り飛ばした須郷の右手は、エクスキャリバーごとくるくると回りながら少し離れた地面に突き刺さった
キリトは剣を振ると、うずくまって泣き叫んでいる須郷を見下ろした
「こんな奴のせいで……っ!」
目の前で無様に泣き叫んでいる須郷を見て、キリトは憤った
こんな卑劣で矮小な男のせいで、アスナやヨシアキを含む約三百人の旧SAOプレイヤー達は未だに帰れず、しかも実験動物のように扱われた
それを思うと、キリトは目の前の男を切り捨てたいと思い、剣を激しく握った
その時
「キリト……後は俺達にやらせろや」
と言いながら、サジがキリトの肩に手を置いた
「サジ……」
キリトが振り向くと、サジは怒りで歯を食いしばりながら
「こいつだけは……斬り捨てないと気が済まねえんだ!」
と言うと、背負っていた戦斧を抜いた
すると、それに続くように、ヨシアキを支えている藍色の髪の猫妖精のサチと影妖精のフィリア以外のメンバーも全員、武器を抜いた
「おい……立てや、ゲス野郎……!」
サジがそう言いながら迫ると、須郷は逃げようともがいた
だが、サジは襟首を掴んで持ち上げると
「てめぇは!」
サジは須郷の右足を膝から切り捨て
「ワシら!」
猫妖精にして薙刀使いのヒデが、左足を膝から切り捨て
「「私達!」」
「……旧SAOプレイヤーであり!」
ダガー使いの影妖精のムッツが、右腕を肩から切り捨てて
「アインクラッド攻略組であり!」
猫妖精のシリカが左腕を肩から切り捨てて
「「あの世界で生きた人々を!」」
水妖精のアイと風妖精のミナミが胴を切り捨て
「……あまりにも!」
水妖精のショウコが右肩の肩口から左腰まで切り捨て
「舐めないでください!」
そして最後に、火妖精の大剣使い
ミズキが持っていた大剣で、須郷の顔面を突き刺した
「ギャアアアァァァ!」
そこで須郷の叫び声が上がり、数秒すると須郷の姿は粘着質な白い炎になって消えた
こうして、一人の男の邪悪にして凶悪な野望は少年少女達によって潰えたのだった