「あなた……何してるの?」
水色の髪の少女、シノンがそう問い掛けると、ヨシアキはゆっくりと振り返った
「えっと……君は?」
「あぁ、ごめんなさい。私はシノンよ。あなたは?」
ヨシアキに問い掛けられて、シノンは謝ってから名乗った
そして、名前を問われたと判断して、ヨシアキは立ち上がると
「僕はヨシアキって言うんだ。よろしくね」
と名乗ってから、握手した
「よろしく。それで、さっきは何であんなことを?」
シノンが問い掛けると、ヨシアキは遠い目をしながら
「ちょっと、ナンパされちゃってね……」
と呟いた
すると、シノンはヨシアキをジッと見てから
「あなた、そんなに可愛いし仕方ないんじゃないかしら? 確かに、名前と口調は変わってるけど」
と言った
シノンとしては悪気は無いのだろうが、その言葉がナイフとなってヨシアキの胸に深々と刺さった
だが、ヨシアキはなんとか耐えると
「えっとね、シノンちゃん……僕ね……」
そう言いながら、ウィンドウを開いてシノンにも見えるように可視化すると
「男なんだよね……」
とシノンに見せた
ウィンドウに記されているのは、男を示す記号だった
「え……? その見た目で、男……え?」
シノンの心の底からの驚いた様子にヨシアキは打ちのめされて、体育座りをすると再び頭をぶつけ始めた
「僕は男、僕は男、僕は男、僕は男……」
「ご、ごめんなさい! 悪気は無かったの!」
自分の言葉が原因と分かったので、シノンは慌ててヨシアキを慰め始めた
数分後、ようやくヨシアキは落ち着いた
「ごめんね、ちょっとトラウマもあって、危うく暗黒面に落ちる所だったよ」
ヨシアキがそう言うと、シノンは首を振って
「いえ、こっちも悪かったわ、ごめんなさいね」
と謝った
「それで、その格好から見ると初心者みたいだけど、どうして
「えっと、ちょっと目的が有って、BOBに出ようと思ってるんだ」
シノンからの問い掛けにヨシアキが答えると、シノンは目を見開いて
「BOBに出るの?」
と問い掛けた
BOB
正式名称は、バレット・オブ・バレッツ
GGOにて定期的に行われる最強プレイヤー決定戦である
「うん」
ヨシアキが頷くと、シノンは少し驚いた様子で
「初心者なのに、なんで今回のBOBなの? 次回でも良いと思うけど……」
と問い掛けた
「さっきも言ったけど、ちょっと目的があってね。今回のBOBに出る必要があるんだ」
ヨシアキがそう言うと、シノンは少し悩んでから
「分かったわ。こうして会ったのも何かの縁だし、手伝ってあげるわ」
と言った
「あ、ありがとうね。シノンちゃん」
「別にいいわ。それより、ちゃん付けはやめてくれないかしら?」
「ああ、ごめんね。それじゃあ、シノンで」
「ええ」
シノンは頷くと、一拍置いてから
「それで、所持金はどの位かしら?」
とヨシアキに問い掛けた
「えっと……千クレジットだね」
ヨシアキがウィンドウを開いて答えると、シノンは唸って
「バリバリの初期資金ね……何なら、お金貸しましょうか?」
とヨシアキに提案した
だが、ヨシアキは首を振って
「うーん……さすがに、其処までお世話になる訳にはいかないかなぁ……」
と言うと、指を鳴らして
「どこか、一攫千金を狙える場所はないかな?」
と問い掛けた
このGGOはアメリカが主体のゲームなので、カジノなども存在しているとヨシアキは情報として知っていた
「一応、有るには有るけど……付いて来て」
「了解」
シノンの先導に従って、ヨシアキは付いて行った
そして数分後、到着したのはかなり大きめの店だった
「ここは?」
「カジノなんかも併設してるオフィシャルショップよ。ここなら、大抵は揃うわ」
ヨシアキが問い掛けると、シノンは簡潔にだが答えた
そして、ヨシアキが興味深い様子で見回していると
「ねぇ、あれはなに?」
とある一角を指差した
「え? ああ……アンタッチャブルね」
「アンタッチャブル?」
そこにあったのは、何故か西部劇を再現したレーンだった
「ええ……あ、ちょうどよく挑戦者が出たわね」
とシノンが言ったタイミングで、一人の男性プレイヤーがそのレーンに入った
「今日こそ攻略してやれ!」
「お前なら出来る!」
周囲に居る男性プレイヤー達がそう言うと、入った男性プレイヤーはサムズアップしながら位置に付いた
そして、三つあるランプが赤から緑に変わった直後、遮断機が上がり、男性プレイヤーは駆け出した
だが、突如としてまるでハニワのような格好をした
その数瞬後、ガンマンが拳銃を撃ち、男性プレイヤーのすぐ傍を通り過ぎた
「今のは?」
「弾道予測線を見て、避けたのよ。このゲームには、弾道予測線っていう弾が来るのを予め教えてくれるサポートシステムがあるの」
「なるほど……」
シノンの説明にヨシアキが頷いていると、男性プレイヤーは走っていたが再び奇妙な格好をして避けた
そして、再び走り出すと、ガンマンは僅かコンマ五秒程で弾をリロードした
「うわぁ、インチキ臭い早さ……」
ヨシアキがそう零すと、シノンも頷いて
「まったくよ……でも、5Mと10Mを超えると更に早くなるのよね」
と言った
二人が話している間に、男性プレイヤーは弾を受けて、ゲームオーバーとなっていた
そして、ガンマンは拳銃を指でクルクルと回しながらスラング混じりの英語で罵っていた
「5M超えると千クレジット貰えて、10M超えると千五百貰えるの。それと、あのガンマンに触れば……あの上に表示されてる金額が全額貰えるわ」
シノンはそう言いながら、ガンマンの背後の壁を指差した
そこに表示されてる金額は、約四十万クレジットだった
「一応忠告しとくけど、辞めといたほうがいいわよ?」
シノンはそう忠告するが、ヨシアキはニッと笑みを浮かべて
「行ってきまーす」
と言って、アンタッチャブルに向かっていった
シノンはヨシアキの表情から止めても無駄と分かったのか、深々と溜め息を漏らした
そしてヨシアキは、レーンの入り口にある手形の部分に自分の右手を当てた
すると、チャリーンという効果音がして、ヨシアキの所持金から五百クレジット減った
その直後、入り口の遮断機が上がったので、ヨシアキは入った
すると
「おい、今度はかわいこちゃんが挑戦するみたいだぜ!」
「本当にクリア出来るのか?」
等々、ヤジを飛ばした
ちなみに、ヨシアキは心中で
(また女の子に間違われた……)
と落ち込んでいた
そんな時でも、始まりのカウントダウンは進んでいき、ヨシアキの意識からは周囲のヤジは消えた
そして、ゼロになったと同時にヨシアキは飛び出した
だが、ガンマンも同時に左手が動き、握られている拳銃
頭、右肩、左足
そう認識した瞬間、ヨシアキは右足を少し大きく踏み出し、右半身になり、更には少し前傾姿勢を取った
その直後、三発の銃弾が間髪入れずにヨシアキのすぐ傍を通り過ぎた
通り過ぎた瞬間には、素早く体勢を整えて、左足を前に出した
尚、ヨシアキはVRMMOにて銃と対峙したのは始めてである
だが、ALOやSAOには弓や毒液、そして魔法という遠距離攻撃を有するモンスターは数多く存在した
そしてもちろんの事だが、そういったモンスターからの攻撃を避けるための方法は存在していた
それは、相手の《目》を見ることである
目を見ることにより、相手の攻撃の軌道を読み、防御なり避けるなりするのである
そして、今ヨシアキはガンマンの目だけを見ていた
(えっと、横一列か……)
ヨシアキがガンマンの目を見て攻撃の軌道を読んだ直後、胸部横一列に赤い線が走った
その直後、ヨシアキは上半身を大きく後ろに逸らし、スライディングの要領で滑った
その直後、三発の弾丸がヨシアキの頭上を飛んでいき、その瞬間には、ヨシアキは右手で床を叩いて立ち上がった
そして、ガンマンが一瞬にしてリロードしたタイミングで五メートルラインを超えたらしく、ガンマンの目が不規則に動いた
(頭、右肩……左足右胸、左手、左肩……)
そこからは、まるで踊るようにヨシアキはガンマンの銃撃を避けた
この時ヨシアキは気づいていなかったが、周囲の野次馬達は完全に黙っていた
見た目的には、華奢な美少女が踊っているかのようだ
だが、それらの動きは全て、ガンマンの銃撃を回避しているのだから、見た目では相手を判断出来ない証拠である
そして気づけば、10Mと15Mも超えていた
あと5M
そこからは、まるでマシンガンのようにガンマンは連射したが、それすらヨシアキは避けた
残り、約2M
そこまで来たら、もはや目と鼻の先で、ガンマンのリロードも間に合わない
(後は、一気に駆けて、触れば……!)
ヨシアキがそう思った直後、ガンマンが笑った気がして、ヨシアキは一気に直上に跳んだ
その直後、ヨシアキが先ほどまで居た場所に、《ノーリロードで》六発のレーザーが発射された
(流石に、インチキ過ぎる!)
ヨシアキは心中で企画者を罵りながら、空中三回転一回捻りをすると、右足を伸ばして、踵落としをガンマンの肩に叩き込んだ
そして、着地した直後
「オーマイガー!」
とガンマンは耳障りに叫ぶと、両手両膝を突いた
すると、ガンマンの背後の壁が崩れて、物凄い勢いでコインが雪崩のように押し寄せた
それを見てヨシアキが固まっていると、雪崩てきたコインはヨシアキの足下で消えていった
それに連動して、ガンマンの頭上に表示されていた金額が凄い勢いで減っていき、数十秒して0になった
すると、レーンの出口側の遮断機が上がり、ガンマンが立ち上がって、指先で拳銃を回しながら、再びスラング混じりで罵倒を始めた
とはいえ、最後のノーリロード含めて12連射を見て挑戦するプレイヤーが現れるのかは甚だ疑問だが
そしてヨシアキは、ホクホクとレーンから出たのだった