ソードアート・オンライン 黄昏の剣士   作:京勇樹

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装備と急行

ヨシアキがホクホク顔でレーンから出ると、シノンが呆れた表現を浮かべて

 

「あなた、どういう反射神経してるのよ……最後のレーザー、あの距離だと弾道予測線なんて意味無いわよ?」

 

と言うと、ヨシアキはキョトンとした表情を浮かべて

 

「え? ……だってこのゲーム、予測線を予測するってゲームじゃないの?」

 

と言った

 

すると、シノンは目を見開いて

 

「予測線を予測するぅ!?」

 

と驚愕の声を上げた

 

なお、叫んだのはシノンだけではなく、周囲に居た他のプレイヤー達も叫び、ヨシアキは不思議そうに首を傾げた

 

数分後、ヨシアキはシノンの案内で奥のショップエリアに来た

 

そして、シノンから銃の説明を聞いて、ヨシアキは感心した様子で

 

「本当に色んな銃があるんだねぇ……」

 

と呟いた

 

そして、シノンと一緒にショーケースを見ていて、ある物が気になった

 

それはどう見ても、銃とは違う円柱状の物だった

 

「ねえねえ、シノン。これは何かな?」

 

ヨシアキがソレを指差しながら問い掛けると、シノンはああと漏らしてから

 

「それはコーケンよ」

 

と言った

 

「こうけん?」

 

ヨシアキが首を傾げると、シノンはそれを指差しながら

 

「光の剣、と書いて光剣。正式名は《フォトンソード》だけど、みんなレーザーブレードとか、ライトセーバーとか、ビームサーベルとか、適当に呼んでる」

 

「剣!? この世界にも、剣が有ったんだ!?」

 

シノンの説明を聞いて、ヨシアキはショーケースに並んでいるそれを見つめた

 

言われてみたら、それは昔に放映されていたSF映画で銀河系の秩序を守る騎士達が使っていた剣に非常に似ていた

 

「あることはあるけど、実際に使ってる人は居ないわね」

 

「な、なんで?」

 

「そりゃあ、だって……超近距離じゃないと当たらないし、そこまで接近する頃には間違いなく蜂の巣にな……」

 

シノンは途中で言葉を区切ると、唇を僅かに開けたままヨシアキを見つめた

 

そして、ヨシアキは笑みを浮かべて

 

「つまりは、接近出来ればOKって訳だよね?」

 

と言った

 

すると、シノンは呆れた様子で

 

「そりゃ、ヨシアキの回避技術は凄いけど、フルオートの銃相手だと……」

 

と言っている間に、ヨシアキはショーケースに並んでいるフォトンソードの内、蒼い色の物を選んだ

 

そして、ポップアップメニューの【BUY】を選んだ

 

すると、もの凄い勢いでロボット店員が現れて、自身の中から同じ物を吐き出した

 

ヨシアキはそれを空中で掴むと、ロボット店員が提示したスキャナー面に自分の手の平を押し当てた

 

すると、古めかしいレジの音を立ててから、来た時と同じ速度で去った

 

「やっぱり買った……」

 

シノンは呆れながら、ヨシアキを見て

 

「まあ、戦闘スタイルは個人の好き好きだけど……」

 

と溜め息混じりに言うと、ヨシアキは掴み心地を確かめながら

 

「ま、有るってことはさ、ちゃんと使い道も有るわけだよ」

 

と言って、グリップにあったスライド式のスイッチを入れた

 

すると、ブォンという音を立てながら、青白いエネルギー状の刀身が現れた

 

「おぉっ!」

 

ヨシアキは興味深そうに、刀身を色んな角度から見た

 

それはどうやら決まった切断面は無いらしく、円柱状だった

 

ヨシアキは確認を終えると、構えてからSAOから培ったソードスキルを発動した

 

片手直剣用ソードスキル、ホリゾンタル・スクエア

 

ヨシアキがフォトンソードを振るう度に、ブォンという音とエネルギーの残光が残った

 

そして、ソードスキルを放ち終わるとシノンが

 

「アンタ……確か、コンバートしたって言ったわよね。前はどういうゲームをしてたの?」

 

とヨシアキに質問した

 

それは、このショップに来る数分間の間に話した事だった

 

ヨシアキの見た目が《M9000番系》という、とてもレアなアバターだというのが、シノンのおかげで分かった

 

そして、そのアバターになる為には、かなり長い時間の他ゲームでのプレイが必要と言われていることも

 

それを聞いて、ヨシアキは素直に自分がコンバートしたのを教えたのだ

 

「え? ソー……」

 

ソードアート・オンラインと言いそうになり、ヨシアキは慌てて口を噤むと

 

「ALOだよ。知ってるでしょ?」

 

と言った

 

「なるほどね……ファンタジーな世界も馬鹿に出来ないわね……」

 

ヨシアキの説明を聞いて、シノンは何処か感心した様子でそう言うと

 

「それで、残金はどれくらい?」

 

とヨシアキに問い掛けた

 

ヨシアキはウィンドウを開くと、残金を見て

 

「後、二十五万クレジットだね」

 

と答えた

 

あのアンタッチャブルで入手したのは、約四十万クレジット

 

それが二十五万クレジットまで減ったのだから、フォトンソードは十五万クレジットという値段だった

 

「うわっ……フォトンソードって無闇に高いのね……二十五万かぁ……弾薬やらなんやら考えると、結構ギリギリだなぁ……」

 

シノンがそう言うと、ヨシアキは両手を上げて

 

「細かいのは、シノンに任せていいかな?」

 

と言った

 

どうやら、お手上げという意味だったらしい

 

「分かったわ」

 

シノンは端的に返答すると、ブツブツと呟き始めた

 

そんなシノンを見ながら、ヨシアキはシノンに関しての考察を始めた

 

性別が固定されているGGOでは、性別を変えるというのは無理なので、シノンは女性だろう

 

しかし仕草や喋り方から、シノンは自分と同年代なのではないかと、ヨシアキは思った

 

だというのに、銃に関してこれほどの知識があるのは凄いとヨシアキは思った

 

その後、シノンの薦めで《FN・ファイブセブン》という拳銃

 

そして、予備マガジンと厚手の防弾ジャケット、更にはベルト式の《対光学銃防護フィールド発生器》やら、細かい装備を購入

 

気づけば、アンタッチャブルで得た約四十万クレジットはほとんど消えた

 

そして、シノンの指導で装備類はアイテムストレージにしまった

 

そして、ショップの外に出ると

 

「色々とお世話になっちゃったね。ありがとう、シノン」

 

「ううん、私も予選が始まるまで暇だったから」

 

ヨシアキの言葉にシノンがそう返したタイミングで、電子音でチャイムが鳴った

 

すると、シノンは慌てた様子で手首の時計を見た

 

「いけない、確か三時でエントリー締め切りだから……うわ、総督府まで走っても間に合わないかも……」

 

「え? シノンもまだエントリーしてなかったの?」

 

ヨシアキが問い掛けると、シノンは顔を青ざめながら無言で頷いた

 

そして、ヨシアキも買ったばかりの腕時計を見た

 

表示されている時間は、十四時五十分だった

 

「テレポートみたいな移動手段はないの!? 転移アイテムとか!」

 

「走りながら説明する!」

 

シノンはそう言うと、大通りを北に向かって駆け出した

 

ヨシアキも一気に駆け出して、シノンの横に並んだ

 

「……このGGOには、プレイヤーが起こせる瞬間移動現象はたった一つしかないの。死んで、蘇生ポイントに戻る時だけ。グロッケン地区の蘇生ポイントは総督府の近くだけど、街中じゃHPは絶対減らないから、その手は使えない……」

 

歩道を行き交っているNPCやプレイヤー達の間を縫いながら、シノンは全力疾走しつつヨシアキに説明した

 

ヨシアキとしては、追いつくのが精一杯だった

 

ALOやSAOよりも視点が低いので、違和感が拭えないのだ

 

しかし、それよりもシノンの走行スピードが速かった

 

ステータス云々よりも、フルダイブ環境を完全に習熟した身のこなしだった

 

するとシノンは、腕時計を見てから

 

「……総督府は、あそこ。市街の北の端だから、まだ三キロはある。エントリー操作に五分は掛かるから、あと三分以内に到着しないと……!」

 

と大きな建物を指差した

 

直線距離では三キロ程で、間に合うには十分な距離である

 

だが、街中を行き交っているNPCやプレイヤー達を避けながらとなると非常に厳しい時間だった

 

もし今回のBOBのエントリーにヨシアキが間に合わなかったら、それは菊丘の事前の下調べが不足していたと、諦められる

 

しかし、シノンはヨシアキの面倒を見てなければ、余裕で間に合っていたのだ

 

ヨシアキは罪悪感を覚えながら、シノンの顔を見た

 

シノンは必死な表情を浮かべながら

 

「……お願い……おねがい、間に合って……!」

 

と声を漏らしていた

 

シノンにとって、これから始まるBOBは単なるゲームでは収まらないのだろう

 

それだけの理由が、彼女にはあるようだ

 

そう思ったヨシアキは、周囲を素早く見回した

 

残り約三分で総督府まで行く手段がないか、ヨシアキは探した

 

そして、一つの看板がヨシアキの目に入った

 

街角の一角、車道の一部が駐車スペースのように広がっていて、そこに派手な原色の小型車両が三台止まっていた

 

そして看板には【RentーAーBuggy!】という文字

 

その意味は、ヨシアキですら分かった

 

「シノン、こっち!」

 

「えっ!?」

 

ヨシアキがシノンの手を掴むと、シノンは驚いた表情を浮かべた

 

ヨシアキが向かった先には、先ほどの《レンタバギー》のコーナーだった

 

並んでいるマシンは全て、前に一つ、後ろに二つのタイヤが付いた、所謂三輪バギーだった

 

ヨシアキは一番手前に止まっていた赤いバギーのリアステップにシノンを強引に乗せると、ヨシアキは前のシートに座った

 

そして、メーターパネルの下にあった掌紋スキャナーに右手を叩きつけると、あの古めかしいレジ音がして、エンジンが始動した

 

三輪バギーの運転や構造は、幸いなことにヨシアキが現実で乗っているバイクと全く一緒だった

 

しかも、操作はマニュアルらしい

 

ヨシアキはグリップを握ると、躊躇わずにスロットルを一気に煽った

 

内燃機関が低く吠えて、バギーは前輪を浮かべながら弾かれるように車道へと出た

 

「きゃっ……!」

 

可愛らしい悲鳴を上げながら、シノンはその細い腕をヨシアキの腹部へと回した

 

「しっかり捕まっててね!」

 

今更かもしれないがヨシアキはそう言うと、路面を焦がすような右ターンを決めて車線に乗ると、アクセルを全開にした

 

そして、滑るようなシフトアップで、スピードメーターはあっという間に百キロを超えた

 

現実世界で最早骨董品と呼べるバイクに乗っていたのが、まさか役立つとは思っていなかった

 

車道を走っている未来的な車を、左右にバギーを蛇行させてかわしながら、滑らかにシフト操作をしていると

 

「な……なんで!? このバギー、運転がメチャクチャ難しくって、男のプレイヤーでもまともに走れる人、ほとんど居ないのに……!」

 

とシノンは驚きの声を上げた

 

ヨシアキは心中で

 

(僕が男って、忘れられてるよね、これ……)

 

と泣きながら

 

「まあ、こういうレーシングゲームもやったしね!」

 

と言いながら、ヨシアキは車線変更してきたバスをバギーをターンするように避けた

 

すると、不意にシノンが笑い出して

 

「あはは……凄い、気持ちいい!」

 

とヨシアキの嬉しそうに笑い出した

 

「ねえ、もっと……もっと飛ばして!」

 

「OK! 振り落とされないでよ!」

 

シノンの願いを聞いて、ヨシアキはさらにギアをトップに入れた

 

ふと気づけば、スピードメーターは二百キロを示していた

 

そこから総督府まで僅か数十秒だったが、シノンの軽やかな笑い声は、ヨシアキの記憶に深く刻み込まれた

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