ソードアート・オンライン 黄昏の剣士   作:京勇樹

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エントリーとトラブルと

ヨシアキは最高速度を維持したまま操縦し、最後は後輪を滑らせるように目的地前で止まった

 

「時間は!?」

 

「締め切り時間まで……後七分! これなら間に合う! 付いて来て!」

 

ヨシアキの問い掛けに対してシノンは答えると、まくし立てるようにそう言った

 

ヨシアキはバギーから飛び降りると、シノンの後に続いて中に入った

 

「ここが総督府。通称《ブリッジ》。あんたが居たゲーム開始地点、《メモリアル・ホール》のちょうど反対側」

 

「なるほど」

 

シノンは走りながら、ヨシアキに説明を始めた

 

「ん? ブリッジって、橋?」

 

「じゃなくて、《艦橋》っていう意味かな? グロッケンが宇宙船だった時代の司令部だから、そう呼ばれてるみたい」

 

「宇宙船……ああ、だから街がやたらと縦長なんだ」

 

シノンの説明を聞いて、ヨシアキは納得したように頷いた

 

「そう。正式名称についてる《SBC》ってのは、《宇宙戦闘巡洋艦(スペース・バトル・クルーザー)》の略称。イベントのエントリーとか、ゲームに関する手続きは全部ここでするの」

 

シノンの説明を聞くうちに、二人はエントランスを駆け抜けた

 

内部はかなり広い円形のホールで、近未来的なディテールの施された円柱が十字に並べられて遥か高く天井まで続いていた

 

そして周囲の壁には大画面のモニターがグルリと設置されており、様々なイベントの告知やら実在する企業のCMまで放映されている

 

その中で一際派手なのが、正面大モニターに映し出されている《第三回バレット・オブ・バレッツ》のPVである

 

だが、二人に見ている余裕はなかった

 

シノンに先導される形で、右奥の一角へと駆けた

 

右奥の壁際には、縦長の機械が大量に並んでおり、形的にはコンビニのATMをヨシアキは彷彿した

 

シノンはヨシアキに隣の一台を指し示すと、早口に

 

「これで大会のエントリーをするの。よくあるタッチパネル式端末だけど、操作は大丈夫?」

 

「ん、やってみる」

 

「私も隣でやってるから、分からなかったら聞いて」

 

ヨシアキの返事にシノンは頷くと、エントリー操作を始めた

 

ヨシアキとして懸念していたのは、全てが英語表記だった場合なのだが、それは杞憂に終わった

 

題名を含めて、全て日本語で書かれていた

 

このゲームの下調べをするためにオフィシャルサイトを見た時、全て英語で書かれていた

 

それを見て、ヨシアキは思わず閉口した

 

閑話休題

 

そして、指先でメニューを辿っていくと《第三回バレット・オブ・バレッツ 予選エントリー》というボタンがあった

 

当然それを押して、画面は名前や職業など各種データの入力フォームへと変わった

 

ヨシアキは内心で文句を言いつつ、プレイヤーネームを登録していった

 

そして、下の方にヨシアキは驚くべき但し書きが有るのを見つけた

 

そこには

 

【以下のフォームには、現実世界におけるプレイヤー本人の氏名、住所を入力してください。空欄や虚偽データでもイベントへの参加は可能ですが、上位入賞プライズを受け取ることは出来ません】

 

と書かれていた

 

これを見て、ヨシアキは一瞬指が止まってしまった

 

ヨシアキの目的は、大会で出来るだけ目立ち、《死銃》と名乗ったプレイヤーにターゲットにしてもらうことである

 

《賞品》という二文字に、ヨシアキは思わず名前を入力しようとしたがなんとか耐えた

 

なぜならば、こういう大会での賞品というのは、普通では手に入らない激レア装備という場合がほとんどである

 

それに反応してしまうのは、MMOプレイヤーとしてのサガである

 

しかし、今回ヨシアキは《GGOというゲームを楽しみに来たわけではなく、謎のプレイヤーたる死銃に接触し、その能力の真贋を見極める》のが第一任務である

 

もし、死銃に何らかの力が有るというのならば、名前を晒すというのは賢明ではない

 

可能性として考えているのは、死銃が運営側のプレイヤーで、全プレイヤーの登録データに自由にアクセス出来るというものだ

 

そして、賞品獲得という誘惑を振り切り、ヨシアキは下部フォームを空欄で完了ボタンを押した

 

すると、ヨシアキのエントリーを受け付けたという文章が表示されて、予選エントリー開始が僅か三十分後という表示が出た

 

「終わった?」

 

そのタイミングで、シノンが声を掛けてきた

 

どうやらシノンも間に合ったらしく、ヨシアキはホッとした

 

「うん、なんとかね……本当に、何から何までありがとうね。それに、すごい迷惑かけちゃったし……」

 

ヨシアキの謝罪を聞いて、シノンは微笑みながら

 

「いいのよ、バギーで走るの、ちょっと楽しかったし。それより、予選のブロックはどこ?」

 

「ええっと……Fブロックの三十七だね」

 

シノンの問い掛けを聞いて、ヨシアキは画面を見ながら答えた

 

「あ……そっか。同時に申し込んだから、同じブロックか。私はFブロックの十二番だから……良かった。当たるとしても決勝ね」

 

「良かったって……なんで?」

 

シノンの言葉の意味が分からず、ヨシアキは首を傾げた

 

「予選トーナメントの決勝戦まで行けば、勝ち負けに関わらず本戦のバトルロイヤルには出られるの。だから、私たち二人が本戦に出場出来る可能性も有るわけ。でも、もし決勝戦で当たったら、予選だからって……」

 

シノンはそこで言葉を区切ると、猫を思わせる瞳を煌めかせて

 

「手は抜かないけどね」

 

と宣言した

 

「ああ……なるほどね。もちろん、当たったら全力で戦おう」

 

と同意した

 

そして、ヨシアキは気になった事を聞くことにした

 

「それにしてもこのゲーム、日本語がしっかりしてるね。オフィシャルサイトは英語だけだったのに」

 

ヨシアキの疑問が分かったのか、シノンは頷いてから

 

「ああ……うん。運営の《ザスカー》っていうのはアメリカの企業なんだけど、この日本(JP)サーバーのスタッフには日本人も居るみたいで。でも、ほら、GGOって日本でもアメリカでも、法律的には結構グレーらしくってね」

 

と説明を始めた

 

「ああ……《RMTシステム》だね」

 

ヨシアキの言ったRMTシステムというのは、《通貨還元システム》が正式名称である

 

「そう。ある意味、私営ギャンブルだものね。だから、表向きのホームページとかには最低限の情報しかないの。所在地も載ってないんだから、徹底してるよね。キャラ管理とか、通貨還元用の電子マネーアカウント入力とか、ゲームに関する手続きはほとんど中でしか出来ないの」

 

「何て言うか……本当に凄いゲームだね……」

 

シノンの説明を聞いて、ヨシアキは半ば呆れるようにそう言った

 

「だから、リアル世界とはほぼ切り離されてるんだけど……でも、そのせいで、今の自分と、現実の自分も、まるで別人みたいに……」

 

その時、シノンの瞳に薄暗い影が横切った気がして、ヨシアキは

 

「……どうしたの?」

 

と覗き込むように問い掛けた

 

すると、シノンは首を振って

 

「う、ううん、なんでもない、ごめん。……そろそろ、予選の会場に行かないと。って言っても、ここの地下なんだけどね。準備はいい?」

 

「うん」

 

ヨシアキが頷くと、シノンは「こっち」と言いながら、総督府一階ホールの正面奥へと向かった

 

その壁際にはエレベーターが何台も並んでおり、一番右側の扉横の下降ボタンをシノンが押した

 

すると、すぐに扉が開き、中に二人は中に入った

 

そしてシノンは、【B20F】というボタンを押した

 

どうやら、上下ともにかなり階層が多いらしい

 

リアルな落下感覚と減速感が訪れて、ドアが開いた

 

そして、ドア向こうの光景を見て、ヨシアキは思わず息を詰めた

 

一階ホールと同じ位に広く、半球状のドームだった

 

照明はギリギリまで絞られており、所々に設置されている鉄枠に覆われているアーク灯が申し訳程度に光っている

 

床や柱、壁などは全て黒光りする鋼板か赤茶けた金網だった

 

そして、ドームの壁際には無骨なデザインのテーブルがズラリと並んでおり、天頂部には、巨大な多面式ホロパネルがあった

 

しかし、画面は黒く染まっていて、ただ【BoB3 preliminary】という文字と残り二十八分というカウントダウンだけが深紅色に表示されていた

 

だが、ヨシアキを緊張させていたのは、そういった光景や低く流れているヘビメタ系のBGMでもなかった

 

壁際やテーブル付近、柱に寄りかかっているプレイヤー達からの雰囲気だった

 

ゲームの中だというのに、陽気に騒いでいる者など居らず、数人で固まって低く囁くように会話をしているか、もしくは一人で黙っているかのどちらかである

 

そして、そのプレイヤー達が間もなく始まるBoB予選の参加者だというのは明らかである

 

そしてもう一つ明らかなのは、ほぼ全員が、骨の髄まで仮想世界に染まりきっているベテランVRMMOプレイヤーだということである

 

しかし、総ダイブ時間を考えたら、この場に居る誰よりも、ヨシアキが一番長いのである

 

しかし、ヨシアキが対モンスター戦に特化しているのに対して、GGOプレイヤー達は、筋金入りの対人戦特化型であるのは明らかである

 

それは、目深に被っているヘルメットや分厚いフードの下からヨシアキに向けられている、執拗なまでに情報を得ようとしている鋭い視線がそれを物語っている

 

その雰囲気になんとか馴れようとしていると、シノンがヨシアキの肩に手を置いて

 

「……どうしたの?」

 

と問い掛けた

 

「ううん……なんでも……」

 

ヨシアキがそう言うと、シノンは軽く頷いてから小声で

 

「まず、控え室に行こう。アンタも、さっき買った戦闘服《ファティーグ》とかの装備替えをしないと」

 

と言って、スタスタとプレイヤー達の間を歩き始めた

 

その足取りに気負いはなく、自然だった

 

シノンが無視されている訳ではなく、むしろ周囲のプレイヤー達はヨシアキよりもシノンに鋭い視線を向けて睨んでいる

 

中には、銃の弾丸をワザと撃って廃莢している者すら居た

 

ヨシアキですら僅かに躊躇うほどのプレッシャーをサラリと受け流すというのは、どれほどの胆力なのだろうか

 

その胆力に驚きながら、ヨシアキはシノンの後に続いた

 

ドームの奥には、金属製の無骨なドアが幾つも並んでいる

 

シノンは緑色のインジケータが点灯している扉を開けて、ヨシアキを中に導き、背後でドアが閉まって内側の操作パネルに触った

 

すると、ガチャンという施錠音がして、インジケータが赤に変わった

 

内部はやや狭いロッカールームだった

 

もちろんのことだが、中には二人以外誰も居なかった

 

そして部屋の中央付近まで進むと、シノンは軽く息を吐いてから

 

「まったく……お調子者ばっかり」

 

と呟いた

 

「お調子者!? あれが!?」

 

先ほどのプレイヤー達を思い出し、ヨシアキは驚愕した

 

すると、シノンは当然といった様子で頷いて

 

「そうよ。試合の三十分も前からメインアームを見せびらかすなんて、対策して下さいって言ってるようなもんじゃない」

 

「ああ……なるほど……」

 

シノンの説明を聞いて、ヨシアキは納得したように頷いた

 

確かに、相手の武装が何なのか分かれば、対策は容易だろう

 

「アンタも、光剣とファイブセブンは、自分の試合直前に装備したほうがいいわ」

 

シノンはそう言うと、ヨシアキに対して背を向けた

 

次の瞬間、シノンが着ていた服が全て消えて、シノンは下着姿になった

 

「し、シノン待って! 忘れられてるみたいだけど、僕は男だよ!?」

 

ヨシアキが顔を真っ赤にしながらそう言うと、シノンは目を見開いて固まった

 

どうやらヨシアキの指摘通り、シノンはヨシアキが男だと忘れていたらしい

 

「え、えっと……」

 

「………………」

 

ヨシアキは冷や汗をダラダラと流しながら、ジリジリと後退をしようとしたが、中央付近に置いてあった長ソファーに足を引っ掛けて転んだ

 

ヨシアキはすぐに上半身を起こすと、手を伸ばして

 

「僕は事前に、僕が男だと説明してたわけで、今回はシノンにも非が有ると思うわけですが、そこはどうでしょうか!?」

 

ヨシアキはほぼ一息でそこまで言うが、シノンは無表情でヨシアキに近づいて無言で右手を上げた

 

「あ、ダメですか……」

 

ヨシアキが諦めた様子で言うと、空気を切り裂く音と共にシノンは右手を振り下ろした

 

「理不尽だー!?」

 

スパーンという音と共に、ヨシアキの叫びが響いた

 

こうして、ヨシアキの予選トーナメントが始まった

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