初戦が終わったシノンは、エントランスホールに戻ってきた
そして周囲を見回すと、ヨシアキが先に戻っていることに気づいた
まさか先に終わっているとは思わず、シノンは驚いたが、ヨシアキが膝を抱えて座っているのを見て
(初めての銃相手だからって、怖かったのかしら?)
と思いながら、ヨシアキに近づいて
「そんなに初めての銃相手が怖かったの? そんなので決勝戦まで来れると思ってるの? しっかりしなさいよ」
と言いながら、ヨシアキの肩を少し強めに叩いた
そして、シノンの手が離れた直後、ヨシアキがシノンの手を両手で包むように掴んだ
「ちょ、ちょっと!?」
まさか掴まれるとは思わず、シノンは一瞬驚いて、すぐに振り解こうとした
だが、ヨシアキが震えてることに気づいて
「一体、何があったの……?」
と小声で呟いた
もちろんのことだが、ヨシアキがやっていることはハラスメント行為になる
故にシノンの視界には、ハラスメントコードを促すウィンドウが見えている
もし、シノンが空いている手でイエスのボタンを押すか、イエスと言えば、ヨシアキはすぐさま、監獄エリアに送られるだろう
だが、シノンにはそれが出来なかった
ヨシアキの姿が何故か、幼い頃の自分と重なったのだ
まるで、見えない何かに怯えているような
そんな感じだった
理由を聞こうか聞かないか迷っている内に、ヨシアキの姿が消えた
どうやら、次の対戦相手が決まったらしい
(あれじゃあ、次で負けるわね……)
シノンはそう思いながら、次の対戦が始まるまで、他の試合を見ることにした
しかし、シノンにとっては予想外の光景が広がっていた
なんとヨシアキが、圧倒的技量でもって勝っていたのだ
ほとんどの弾を残像が残る程の動きで避けて、避けきれないのは光剣で弾いて肉迫し、あの突きで葬っていた
しかも、鬼気迫る表情で肉迫し相手を一切の仮借なく斬り捨てるので、周囲の観戦者達は
「斬滅姫キター!」
「このGGOに、新たな姫が誕生した!!」
などと騒いでいる
しかし、シノンはそんな声など耳に入っていなかった
この時シノンは、ヨシアキに興味が湧いていた
あれほどの凄まじい技量を持っているのに、一体何に怯えていたのか
それが非常に気になった
シノンはそんなヨシアキと決勝戦で戦いたかったが故に、今まで以上に集中して試合に臨んだ
その甲斐あってか、シノンは順調に試合を勝ち進み、準決勝も勝った
そしてロビーに戻ることなく、シノンはあの暗い場所に送られた
そして、対戦相手として表示されたのは、シノンの予想通りの名前だった
シノンVSヨシアキ
その名前を見た時、シノンはやっぱりと思った
ヨシアキなら、決勝戦まで上がって来るだろうと
そして、待ち時間の間、シノンは愛銃であるウルティマラティオ・ヘカートⅡを抱き締めた
シノンの愛銃
ウルティマラティオ・ヘカートⅡは、対物狙撃ライフルと呼ばれる大口径銃である
シノンもヘカートを手に入れるまでは、対物狙撃ライフルという銃が存在しているのは耳にしていた
だが、手に入れることは無いだろうと思っていた
なにせ、対物狙撃ライフルはサーバーに10丁しか存在しないと聞いていたからだ
以前に
シノンがそんな類のレア武装を手に入れたのは、今から数ヶ月前の事だ
その時シノンは、少しでも接続料を稼ごうと一人でダンジョンに潜っていた
そして、ある程度モンスターを倒して帰っていた途中だった
シノンは不運にも落とし穴にハマり、ダンジョンの最下層まで落ちたのだ
そこまでなら、まだ脱出すれば済むだろう
だが落ちた先には、ダンジョンのボスが居たのだ
普通、ダンジョンのボスとなれば、大規模なパーティーを組んで挑むものだ
だが、シノンは一人で、しかも、弾を消費した状態で遭遇してしまったのだ
普通だったら、ボスに見つからないようにしながら逃げるのを選ぶだろう
だが、シノンは逃げずに挑むことにしたのだ
もはや無謀と呼べる戦いは、幾つかの偶然が重なって、シノンが勝ったのだ
一つ目は、シノンが居た場所に、ボスの攻撃がギリギリで届かなかったのだ
二つ目に、シノンの居た位置からは、ボスの弱点が狙えたのだ
そして三つ目、残っていた弾が全弾、ボスの弱点に命中したことだ
もし、一発でも外していたら、ボスは倒せなかっただろう
しかしシノンは、並外れた集中力でもって、それを成し遂げたのだ
そして、そのボスがドロップしたのが、ヘカートだったねである
シノンは一回、そのヘカートを売ることも考えたが、すぐに辞めた
そして、ヘカートを自身の半身と定めたのだ
それからは、ヘカートを扱えるようにと、STR値を上げていき、狙撃に関するスキルは全て取り、他は切り捨てた
それが甲をそうして、いつしかシノンは《氷の狙撃手》と呼ばれるに至った
シノンはそのヘカートを抱きしめながら、呟くように
「強く……強くなりたい……」
と言った
そのタイミングでカウントがゼロになり、シノンはフィールドへと出た
そして、運命の一戦が幕を上げる