BOB本戦が始まってから。早30分
シノンは愛銃、ヘカートⅡのスコープを覗いて一人の男性プレイヤー
シノンが最近まで所属していたスコードロン(ALOでいうギルド。尚、意味は中隊)のリーダー、ダインの背中を狙った
「何時だって
シノンはそう告げると、トリガーを引こうとした
だが、背後に他のプレイヤーの気配を感じて
(バカ! 私こそ、ダインを撃つのに夢中になりすぎて、敵の接近に気づかなかった!)
シノンは心中で己を叱責しながらも、太股にあるMP7に手を伸ばした
シノンのようなスナイパーは、敵に接近されたらその技能を活かせない
出来ることと言えば、予備武装のMP7を弾切れになるまで撃つだけである
せめて、一矢報いてやる。という気概で、シノンは背後に振り向き銃を構えた
そんなシノンの眼前にあったのは、黒い銃口と広げられた掌だった
「待った」
そして、自身を制止したのはヨシアキだった
右手で拳銃を持ち、左手をシノンの眼前で開いていた
シノンはヨシアキが半ばのし掛かるような体勢になりながらも、自分を撃たずにいたことに、怒りを覚え犬歯を剥き出しにしてトリガーを引こうとした
だが、ヨシアキが再び
「少し待って、話を聞いて」
とシノンを制止した
それを聞いて、シノンは思わず
「戦場で話も何もない! 戦場で敵と会ったら、どちらかが死ぬ、それだけでしょ!」
と声を荒げた
すると、ヨシアキは
「攻撃する気なら、こんな距離になる前に攻撃してた!」
と、切迫した様子で告げた
そんなヨシアキを見て、シノンは思わず口をつぐんだ
まるで、この大会よりも大事なことがあると言わんばかりだったからだ
それと悔しかったが、ヨシアキの言葉は真実だった
今のような0距離まで近づく必要はなく、ヨシアキだったらあの鋭い突きで攻撃できた筈である
「つっ………」
シノンが悔しさから言葉を発せずに居ると、ヨシアキが囁くように
「今派手に撃ち合って、銃声を響かせたくないんだ」
と言って、視線を橋のほうへと向けた
「……? どういう意味……?」
訳が分からず、シノンは首を傾げた
すると、ヨシアキは
「あの橋で起きる戦闘を、最後まで見たいんだ。それまで、手出ししないで」
と言った
「……見て、それからどうするの? 改めて撃ち合うなんて、間抜けなこと言わないでよね?」
「状況にもよるけど……僕はここから離れる。シノンを攻撃はしない」
シノンからの問い掛けに対して、ヨシアキはそう言った
するとシノンは、そんなヨシアキを睨みつけて
「私が背中から狙撃するかもよ?」
と言った
するとヨシアキは、肩をすくめて
「それならそれで仕方ないよ。了解して、もう始まるっ」
と言って、シノンから離れて地面にうつ伏せになって双眼鏡を覗き込んだ
そんなヨシアキを見て、シノンは怒りを通り越して呆れた
そして、自身もうつ伏せになるとスコープを覗き込んだ
二人の視線の先では、ダインが緊張した様子で
シノンが知る限り、ダインは決して弱いプレイヤーではない
そのダインがあれほど緊張するとは、一体、相手はどれ程のプレイヤーなんだろうか
とシノンはそこまで考えて、あることが気になり
「そういえばアンタ。一体、どこに隠れてたの? さっきのサテライトには、アンタの名前は表示されてなかったけど………」
とヨシアキに問い掛けた
サテライトというのは、この決勝戦限定で使われるもので、15分に一回、遥か上空
衛星軌道を通りすぎて、直径10キロメートルという広大なフィールドに居るプレイヤーの位置を教えてくるのだ
しかし、約1分前に行われたサテライトでは、シノンから半径1キロメートル圏内には、ヨシアキの名前は無かったはずなのだ
シノンからの問い掛けを聞いて、ヨシアキは双眼鏡を覗きながら
「ん? 川に潜って相手を追いかけてたね」
「はあっ!?」
ヨシアキの説明を聞いて、シノンは思わず驚愕した
確かに、今見ている橋の下には大きな川が通っている
そして、潜れないこともない
しかし、潜れても専用の装備を装備してないと、常にダメージを受けてしまう
それに、装備を着けている間は少しずつ沈んでいってしまう
確かに、ヨシアキの装備はいわゆる軽量級だが、沈んでいってしまうはずだ
それが気になり、シノンは横目で見ながら
「アンタ………装備はどうしたの?」
とヨシアキに問い掛けた
「ん? 一旦全部外して、ウィンドウに仕舞ったんだ。ザ・シード規格共通だよね」
ヨシアキの解答を聞いて、シノンは呆れた
戦場のど真ん中で装備を全部外すという、大胆不敵な行動をする輩を初めて見たからだ
そして、ジト目でヨシアキを見ながら
「アンタのインナー姿を見て、観戦者達は大喜びだったでしょうね」
と言った
すると、ヨシアキは意外だなぁ。という声音で
「確か、映像に映されるのって、戦闘中のプレイヤーだけだよね?」
と言って、ドヤ顔を浮かべた
どうやら、意趣返しだったらしい
ヨシアキの言葉にシノンが渋面を浮かべていると、連続した銃声が鳴り響いた
どうやら、戦闘が始まったようだ
撃っているのは、うつ伏せになっているダインである
そして、ダインが撃っている相手は、白を基調色にした防具を装備している男性プレイヤー
ペイルライダーである
ペイルライダーはダインの銃撃を、跳躍して避けた
そして、ペイルライダーは橋のワイヤーを掴んで片手で登り始めた
それを見て、シノンは
「あいつ。軽業スキルを鍛えてるのね……そうじゃなきゃ、あんな避け方出来ない」
「なるほどね……」
シノンの解説を聞いてる間にも、戦闘は推移していった
ペイルライダーは切れてるワイヤーを掴むと、それを使って空中を舞った
「くそっ!」
ダインは片膝立ちになると、肩当てに構えている撃とうとした
だが、ダインが撃つよりも早く、着地していたペイルライダーが持っていたショットガンを撃った
ショットガンというのは、銃の中では比較的に有効殺傷距離が短いのだ
しかし、GGOに於いて、ショットガンは他の銃にない効果を有している
他の銃より重い音声を響かせながら、ショットガンから弾が放たれた
ショットガンから放たれた散弾は、ダインに直撃
直撃を受けたダインは、大きく体を仰け反らせた
ノックバック
それが、GGOに於けるショットガンの効果である
ショットガンの銃撃を受けた相手プレイヤーは、強制的に
銃撃を受けたダインは必死に反撃しようとしたが、それよりも早く、ペイルライダーは更に銃撃を繰り返した
結果それにより、ダインのHPは消え去り地面に倒れた
ダインの上には、敗北の証のdeadタグが出た
「何も起きなかったわね。あいつ、撃つわよ?」
シノンはそう言うと、ボルトを引いた
実を言えば、この決勝戦が始まる前に、ヨシアキがシノンから聞き出した初めて聞いたプレイヤーの一人が、今ショットガンを撃ったペイルライダーだったのだ
しかし、別に不審な点は何もなかった
ヨシアキも違うと思い、撃っていいと言おうとした時、ペイルライダーが突如倒れた
ここに、SAOから続く闇が蠢く
そして、最悪のPKプレイヤーとの戦いが始まる