「ヨシアキは見つけたみたいね……相変わらず、速い……けど私は、こっち」
シノンは視界の端で、ヨシアキが駆け出したのを見た
ヨシアキは長い髪がはためき、まるで高野を走る馬を彷彿させた
しかしシノンは、そのヨシアキから視線を外して相手
闇風を捉えた
(流石は闇風……速いっ!)
ヨシアキも速かったが、闇風はその名前の通りにまるで風のようだった
しかも、一切止まらずに方向を小まめに変えながら走っている
上げていた遠視スキルにより、闇風を捉えてはいた
しかし、狙いは簡単にはいかなかった
闇風は分かっているのだ、走っている間は安全だと
AGI極振りにより、その走行速度は凄まじい域に入っていた
狙いを定めるのが、容易ではなかった
(どうする……一発わざと外して、足が止まった瞬間に撃つ? いえ、そんなことに貴重な最初の一発を使っていいの?)
とシノンが自問自答していた
その時だった
闇風の進行上のサボテンに、穴が空いたのだ
それを見て、闇風は足を止めて近くに有った岩の陰に身を隠した
サボテンに穴を穿ったのは、死銃の弾だった
死銃がヨシアキを狙い、それをヨシアキが避けた内の一発だった
それがたまたま、闇風の進行上のサボテンに当たったのだ
しかし、それにより闇風は足を止めた
(今だ!)
シノンがそう思った瞬間、シノンの視界に表示されていた照準サークルが一瞬にして点になり、シノンは反射的に引き金を引いた
その直後、シノンと闇風の視線が合った
すると、闇風の口が動いた
その動きから分かるのは
「負けたよ」
と言っていた
その瞬間、闇風の上半身が吹き飛んだ
それを見た直後、シノンは上半身を起こして体の向きを変えた
ヨシアキの援護をするためだ
そして、ジグザグに走っているヨシアキの進行方向にスコープを向けて、見つけた
「見つけたわよ、死銃……」
死銃はボルトを引いては、弾を撃っている
しかしヨシアキには、ボルトアクションライフルの銃撃などは当たらない
ヨシアキは
例え避けられない軌道だろうが、単発の弾丸は弾ける
しかし、ヨシアキの進行を邪魔しているのは間違いない
だからシノンは二脚を立てて、スコープを覗いた
そして死銃を狙った時、死銃がシノンに視線を向けた
それを見たシノンは、引き金に指を添えた
すると、死銃も銃口をシノンに向けた
その直後、シノンと死銃は同時に引き金を引いた
二人の銃から放たれた弾丸は、ほぼ同じ軌道を走っていた
そして、空中で弾丸がぶつかると思われた
しかし弾丸はぶつからず、僅かに掠ったのか軌道が僅かに変わった
それを見たシノンは、反射的に顔を上げた
その直後、ヘカートⅡに装着していたスコープに弾丸が命中
スコープが破壊された
そしてヘカートⅡから放たれた弾丸は、死銃が持っていた銃に直撃
死銃のライフル
サイレント・アサシンの機関部の耐久値は全損し、銃は崩壊した
(ごめんなさい)
それを見たシノンは、何に対してかは分からないが、心中で謝っていた
ALOで武器に耐久値が設定されているように、GGOに於いても銃に耐久値が設定されている
それは、きちんと手順にそって手入れすることにより回復する
そして、その銃全体の耐久値の中でも機関部は高く設定されている
しかし、シノンのヘカートⅡは対物ライフルに分類されている
幾ら耐久値が高いとは言っても、対物ライフルの弾丸の直撃に耐えられる訳がなかったのだ
勿論だが、戦闘によっては銃を構成している部品が壊れることもある
しかし、専用スキルのガンスミスが居れば、銃身や引き金といった部品が作れるのだ
だが、機関部は別だ
GGOの世界は起きた戦争により、文明の大部分が滅びた設定になっている
だから単純な部品は作れるが、銃の根幹を為す機関部は作れない
故に、機関部が壊れたサイレント・アサシンは二度と甦ることはない
サーバーに一丁しかないサイレント・アサシンは、永遠に失われたのだった
(これなら行けるでしょ、ヨシアキ……)
そう思ったシノンは、背中を遺跡に預けながらヨシアキを見た
ヨシアキは銃撃が来ないと察したのか、死銃目掛けて直進していた
死銃は諦めたのか、隠れていた岩の隙間から這い出てきた
(……銃身で戦うつもり?)
死銃は左手に、壊れた銃の銃身を持っていた
しかし、そんな物でまともに戦えるわけがない
例え銃身で叩いたとしても、1ダメージにもならない
その死銃を見たシノンは、死銃が自棄になったのかと思った
しかし、死銃はその銃身の下から何かを抜いた
(クリーニングロッド? ……違う。僅かに反ってる)
クリーニングロッドというのは、銃身の整備に使う道具だ
勿論だが、それで殴ってもダメージにはならない
だがそれは、クリーニングロッドではない
僅かに反っていて、先端が尖っていた
死銃がそれを構えた瞬間、光剣を構えていたヨシアキの背中に緊張が出た
だが、例えそれが武器だろうが、一撃の高さはヨシアキの光剣の方が圧倒的に高い
そう判断したのか、ヨシアキは右手を前に突き出すあの構えをした
今までの予選で、一撃で相手を葬ってきた重撃の構えを
それを見たシノンは、ヨシアキの勝利を確信した
だが次の瞬間、それは裏切られた
ヨシアキが放った一撃を死銃は回避すると、素早い連撃を繰り出した
その攻撃を喰らい、ヨシアキは体勢を崩した
「ヨシアキ!!」
その光景を見て、シノンは思わずヨシアキの名前を呼んでいた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
場所は変わり、現実
御茶ノ水の総合病院
そこの駐車場に、一台の長いリムジンが止まった
すると、運転席から出てきた運転手が後部のドアを開けて
「お嬢様、お客様方、到着しました」
と言った
すると、中から出てきたメンバー
翔子は慣れた様子だったが、他の殆どのメンバーは挙動不審になっていた
「まさか、リムジンに乗るとはな……」
「私、初めて乗りましたぁ」
と言ったのは、桐ケ谷兄妹である
それを聞いたのか、明日奈は内心で
(そっか……キリト君や直葉ちゃん、慣れてないんだ)
と思っていた
他には、雄二、康太、秀吉、優子と続々と出てきた
圭子は時間が遅いので、無理だった
なお、桐ケ谷兄妹と明日奈はエギルの店に泊まっていた
そのエギルはダイシィ・カフェが夜の営業に入るので、その営業に
クラインは菊丘に話があるとかで、ALOにて対談中だ
「……行くよ、話は既に通してある」
翔子はそう言うと、毅然とした態度で歩き出した
その隣には、フィリア
琴音が居る
全員が夜間用のドアから入ると、待機していたらしい警備員が表れて
「こちらをどうぞ」
と一枚のカードキーを差し出した
翔子はそれを受け取ると、エレベーターのスイッチを押した
すると、明日奈が持っていた携帯から
『八階の808号室です!』
と声が聞こえた
「ありがとう、ユイちゃん」
『はい!』
それは、キリトと明日奈の娘
ユイだった
ユイは普段は、キリトの自宅のパソコンに住んでいる
しかし、キリトが構築したプログラムにより、キリトや明日奈の携帯にも行き来出来るようになっている
ユイの言葉を聞いて、翔子は八階のスイッチを押した
そして八階に着くと、ユイが再び
『右に30m行けば、兄さんの居る部屋です!』
と言った
その言葉に従い、全員は歩いた
そして、言われた部屋の前に到着した時
「吉井明久君!?」
と女性の声が聞こえた
すると、翔子の手からカードキーを奪った琴音がドアを開けた
そして全員は、敵を見る